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2015年1月11日 (日)

東京ブラックアウト

年末年始は暦通り9連休だったため、ゆっくり過ごせました。以前、休日診療を所管する健康課という職場に在籍した時、当番で年末に出勤したことがありました。1月から住民記録システムを大幅に更新した際、稼働直前の年末年始休暇中に出勤したこともありました。それ以外、ほぼ毎年、暦通りに休める年末年始を過ごせています。年末年始も働いていた方々には恐縮なところですが、長い休みの間、部屋の中に積み上がっていた書籍の大半を読み終えることができました。

その中で原発関連の書籍が3冊含まれていました。1冊は昨年12月10日に発売された『美味しんぼ』第111集でした。昨年10月に「原発事故後の福島」という記事を投稿し、「福島の真実」の上巻にあたる『美味しんぼ』第110集に触れていました。そのような経緯もあり、第111集の発売を待ち望んでいました。当初予定された時期から大幅に延期され、ようやく昨年末の発売に至っていました。すぐに購入していましたが、書店の袋から出したのは年末休みに入ってからでした。

鼻血論争の影響から発売が延期されていたようですが、連載時のセリフの一部を「原発内での外部被ばくが原因ではありませんね」という表現に変えるなど風評被害に配慮した出版となっています。一方で、主人公らが福島の取材後に鼻血を出した記述はそのまま残した上、福島第一原発周辺の地元住民の健康調査報告などを巻末の資料に掲げるような対応を加えています。つまり客観的な事実や数字を淡々と示しながら、読み手がどのように判断するのかどうかという作者や出版社側の姿勢を感じ取ることができました。

主人公の「安全なものと危険なものを見極めるためにも、福島の真実を知ることが必要なんです」という言葉に尽きますが、万が一、危険なものを「安全」と見なしてしまった場合、取り返しのつかない事態に繋がります。加えて、情報に対する信頼が失墜し、それこそ福島の食材は危険だとひとくくりに敬遠されてしまいます。だからこそ真実を的確に把握していくことが重要であり、同時に伝え方の信頼性を高めていくことが、結果的に風評被害をなくす近道であるように考えています。

そのような意味合いから続いて紹介する『いちえふ』も福島の現状を淡々と知ることができるコミックスでした。「いちえふ(1F)」とは福島第一原子力発電所の通称で、現場の作業員や地元の皆さんは「フクイチ」ではなく「いちえふ」と呼んでいるそうです。その「いちえふ」で働く作業員が描いたルポルタージュであり、作者がその目で見てきた福島第一原発の日常を垣間見ることができます。脚色や誇張もなく、それこそ淡々と「いちえふ」の現実が描かれていました。作者が初めて「いちえふ」で働いた日の印象は「普通じゃん」というものでした。

全面マスクや防護服の装備に毎回着替えなくてはならず、たいへんな危険と隣り合わせで夏の暑さも含めて過酷な労働環境ですが、「普通の男達が普通に笑い合いながら働いている」職場に驚かれたそうです。外からの想像とのギャップに気付かされ、いかに悪いイメージが先行しているかという見方を示されています。多層下請けの雇用であり、寮費や食費が天引きされるため、手取り月額14,560円という話も描かれていました。そのようなエピソードも含め、あまり悲観的な書かれ方はしていません。告発型のルポではなく、あくまでも福島第一原発で働いていた時の日常を淡々と書き残されていました。

最後に紹介する3冊目の書籍は今回の記事タイトルに掲げた『東京ブラックアウト』です。前作の『原発ホワイトアウト』に続き、霞が関の現役キャリア官僚である「若杉冽」というペンネームの作者が現状を憂い、小説という形で政府や電力会社などを告発した内容です。やはり当ブログで以前「原発ホワイトアウト」という記事を投稿していたため、『東京ブラックアウト』も発売した直後に購入していました。読み始めると止まらなくなる恐れがあったため、この本は意識的に年末年始の休みまで袋から出さずに取っておきました。

案の定、前作と同様、ストーリーも含めて非常に面白く、ほぼ一気に読み終えていました。各章の最初に新聞報道の記事内容を掲げ、現実に起こっている出来事を対比させながら物語を進行させています。筑紫電力の仙内原発や大泉総一郎元首相など実在する団体や人物が容易に想像できるため、今回もフィクションと現実との境目を判断することが難しい小説だと言えます。仮に小説の体裁を取っているだけで書かれている内容の大半が真実だった場合、暗澹たる思いに陥ることになります。この書籍は原発を必要だと思われている方にこそ、一度、読んで欲しいものと願いながら、あまり「ネタばれ」にならないよう印象に残った点を中心に紹介させていただきます。

福島第一原発の事故以降、原発の「安全神話」は崩れています。今後、原発を稼働させるためには厳格な安全基準をクリアしていかなければなりません。その小説に描かれている話は原発を巡る「利権構造」を維持するため、万全な安全対策や避難計画が確立できなくても「再稼働ありき」で突き進む関係者たちの理不尽な姿です。避難計画を巡って、ある登場人物は「いくらシナリオをつくったって、絶対に現実はその通りにはならない…とすれば、所詮、シナリオづくりは再稼働の言い訳であり、納得感を醸成するためのプロセスに過ぎないっ」と本音を漏らしています。

前作『原発ホワイトアウト』の「終章」では、雪が舞う中、新崎原発でメルトダウンが進行します。続編となる『東京ブラックアウト』はその影響によって壊滅した関東平野、遷都を余儀なくされた東京の風景まで描かれています。もちろんフィクションであり、作者の想像で描かれた世界ですが、再び重大な原発事故が発生した場合、絵空事だとは切り捨てられない緻密な記述の仕方でした。新崎原発から3キロの特別養護老人ホームには避難指示から24時間たっても迎えのバスもスタッフも現れず、要支援者避難計画が機能しない混乱ぶりなども描かれていました。

最も気になった記述があります。福島の原発事故を話題にした会話の場面があり、関東平野に高濃度の放射性プルームが到達した3月15日、「あのときに東京に雨が降っていたならば、東京も飯舘村と同じように帰還困難区域となり、住民が退避せざるを得なくなっていたはずだ。なんという幸運だろうか…。」という記述が目を引きました。たいへんな苦難を強いられている福島の皆さんには申し訳ない言葉かも知れませんが、気象条件の「幸運」に救われていた話は決してフィクションではないことを思い返す機会となっていました。

私自身、「原発の話、インデックス」のとおり数多く原発に関する記事を投稿する中で、将来的には原発ゼロをめざすべきものと訴えてきています。理想とすべきゴールを描きながらも、物事を実際に改めていくためには現状からスタートする地道な一歩一歩の積み重ねが大事だと考えています。さらに原発を即時廃止と訴えた場合、原発は必要だと考えている方々との議論がかみ合わなくなる懸念も抱いています。また、本当に原発ゼロを実現するのであれば、原発を必要と考えられている方々との対話が欠かせないものと認識しています。

そのような意味合いで考えた時、連合の中では両者の立場からの意見交換を行なうことができます。これまで各産別の立場を尊重し、それぞれの「答え」の正しさを主張し合うような議論が不足してきたものと思っています。今後、もう一歩踏み込んだ意見交換ができるような機会を自分の周囲から少しずつ広げていければと考えています。そもそも『東京ブラックアウト』に登場するような人物はフィクションであり、原発を必要だと考えている大多数の皆さんは利権とは関係なく、純粋にエネルギー問題を憂慮する中から判断されているはずです。最後に、川内原発が再稼働できるかどうかの局面を迎えていますが、決して「再稼働ありき」ではない検証が尽くされていることを強く願っています。

審査の合格を最初に果たした九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)の今年度内の再稼働が困難となったことが10日、原子力規制委員会関係者への取材で分かった。認可手続きに必要な書類の提出が大幅に遅れているためで、再稼働は4月以降になる。合格のめどが立った昨年3月から1年を経過することが確実で、事業者側の新規制基準適合への苦悩が浮き彫りになった。2基で約4万ページに上る認可書類の膨大な量がネックとなっている。規制委関係者によると、原子力規制庁と九電の約100人がほぼ毎日、朝から晩まで資料を付き合わせて非公開の会合を重ねており、会議終了は午後11時を回ることもあるという。規制委関係者は「1つを直すと関係箇所を全て直さなくてはならず、なかなか完成しない」と話す。

川内原発は平成25年7月から始まった新基準の適合性審査で、大きな課題となっていた基準地震動と基準津波をいち早くクリア。昨年3月には審査を集中的に行う「優先原発」に選ばれ、合格のめどが立った。事実上の合格証となる「審査書」は昨年9月に確定している。その後、機器の詳細な設計図などを確認する「工事計画」と運転管理体制を確認する「保安規定変更」の認可審査に移行したが、この認可書類の作成に九電は手間取っている。九電は当初、同月末までの補正申請を目標にしていたが、規制庁の指摘や訂正が相次いでいるため、昨年末までの提出目標も断念した。工事計画などが認可されれば、機器の設置状況や性能を規制委が現場で確認する「使用前検査」を実施するが、1~2カ月かかる見通しだ。

規制委の田中俊一委員長は昨年12月末に川内原発を視察した際、「(安全対策に)前向きに取り組んでいる。安全のレベルは極めて高くなっていると思う」と述べ、規制委の審査に自信を見せている。ただ、認可審査の遅れが地元の情勢に微妙な変化を与える。4月12日には鹿児島県議会議員選挙が控えており、再稼働の是非が選挙で争点となってくる。地元住民らが川内原発の再稼働差し止めを求めた仮処分申請についても、鹿児島地裁が近く決定を出すとみられ、司法の判断が再稼働に影響する可能性も否定できない。(原子力取材班)【産経新聞2015年1月1日

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