特定秘密保護法案
木曜の深夜、賃金改定交渉が決着しました。月例給の改定率が△0.2%となる東京都人事委員会勧告に準拠した内容で労使合意しています。2年前、正規職員の賃金表を都表に移行していたため、自主的な交渉の幅は限られています。一方で、市当局から今期の交渉を通し、再任用職員の賃金水準も東京都に合わせたいという提案が示されていました。自治労都本部統一の重点指標から外れ、私どもの組合の独自課題でもあるため、その課題は週を超えた継続協議としています。
前回記事「定期大会の話、インデックスⅡ」のコメント欄では再任用職員のことが取り上げられていましたので、継続している協議課題の詳細を綴ることも良い機会だったかも知れません。それでも記事タイトルに掲げた特定秘密保護法案に関しても、いずれかのタイミングで取り上げようと考えていた題材の一つでした。与党側は野党との修正協議に入り、法案の成否に向けて大詰めの段階を迎えています。このところマスコミでも連日取り上げられ、11月21日夜には全国6か所で反対集会が開かれます。
ところで、このようなテーマが当ブログで扱われることに対し、違和感を持たれる方も多いはずです。政治的な運動を公務員の組合が取り組むこと自体に疑問を抱かれる方の多さも、このブログを長く続けている中で感じ取ってきました。しかしながら「平和の話、インデックス」の中で記したとおり政治的な運動も労働組合の本務と主客逆転させない範囲で取り組むという私自身の「答え」があり、取り組むのであれば組合員の皆さんをはじめ、不特定多数の方々に向けた主張の発信が欠かせないものと考えていました。
賛否が分かれる政治的な問題をネット上に掲げるリスクも承知していますが、そもそも狭い範囲でしか理解を得られないような内向きな運動方針に過ぎないのであれば、即刻見直しが必要だろうと思っています。特定秘密保護法案に対しても自治労や平和フォーラムの呼びかけに応じ、21日夜の反対集会には組合役員を中心に参加する予定です。大事な考え方として組合員の皆さんに対し、反対運動の押し付けは論外であり、「なぜ、組合は反対しているのか」という情報発信を重視しています。
また、これまで様々なテーマの題材をブログで扱うことで自分自身の頭の中を整理する機会にも繋がっていました。そのため、ここ数週間、特定秘密保護法案の問題に取りかかるタイミングを見計らっていました。今回、その題材を書き進めるため、パソコンに向かった訳ですが、いつものことながら前置きの文章が長くなりました。特定秘密保護法案のことに関心を持たれ、読み始めていた方にはたいへん申し訳ありません。「一期一会」という思いも大切にしているため、このブログの位置付けについて改めて説明を加えさせていただいていました。
ようやく本題です。まず特定秘密保護法が必要とされている背景や経緯について調べてみました。11月7日に国家安全保障会議(日本版NSC)設置法案が衆議院で可決されていますが、この法案との絡みで特定秘密保護法案が第185回国会に提出されていました。すでに安全保障会議という組織がありましたが、縦割りの弊害を排し、より首相官邸を中心に外交や安全保障政策を推進するため、国家安全保障会議(日本版NSC)の設置が企図されてきました。
ちなみにアメリカは世界大戦で肥大化した米軍を政治のコントロール下に置くためにも、1947年にNSCを創設したという経緯があるそうです。そのアメリカからは2006年、第1次安倍内閣の時に米国NSCとの継続的協議を行なえる組織を設けるように要請されていました。それ以降、民主党政権時も含め、日本版NSCの必要性は必ずしも否定されてきませんでした。一方で、同盟国や友好国との外交や防衛に関わる秘密情報の共有を促進するためには、特定の情報について当面秘匿しておくことが求められていました。
そのため、日本版NSC設置にあたり、外交や安全保障上の重大な秘密情報の漏えいを厳格に防ぐため、特定秘密保護法が必要とされてきた背景を見て取れます。特定秘密保護法案の第9条には外国の政府又は国際機関に対しては「当該特定秘密を提供することができる」という文面があります。要するに日本版NSCと米国NSCとの連携を大前提に特定秘密保護法案が組み立てられていることは間違いないようです。
続いて、特定秘密保護法案の問題点ですが、最初に申し添えたい点があります。安倍首相をはじめ、法案の成立をめざしている方々が極端な情報統制国家を目論んでいるものとは考えていません。優先順位や思想性の違いがあっても「国益のため」「国民のため」と信じ、日本版NSCや特定秘密保護法の必要性を考えているはずです。しかし、特に例示するまでもなく、正しいと信じていた「答え」が結果的に誤りだったという現実や歴史は数え切れません。
特定秘密保護法案の問題に繋がる話ですが、だからこそ、国民にとって都合の悪い情報でも可能な限り明らかにし、国の行く末を国民全体で見定められる仕組みが望まれています。それが民主主義の基本であり、一部の政治家に委ねる間接民主主義であっても、情報が隠されたり、為政者に都合良く改ざんされてしまっては大きな問題です。その政治家を評価し、引き続き委ねられるかどうか判断するための情報に瑕疵があることになります。
そのため、「国民の知る権利」や「報道の自由」が重視されている訳であり、単に興味本位のため、すべて情報はオープンにすべきという話ではありません。場合によって当面秘密にしなければならない情報があり得ることも否定しません。しかし、未来永劫「特定秘密」では政策決定の緊張感も欠け、恣意的な秘密指定の可能性が排除できなくなります。いずれにしても今回の法案では特定秘密の定義が曖昧であり、それこそ為政者にとって都合の悪い情報は「特定秘密」とされてしまう恐れが拭えません。
日本のマスコミにとどまらず、ニューヨーク・タイムズ(電子版)の社説でも「日本の反自由主義的秘密法」というタイトルを掲げ、①日本政府が準備している秘密法は国民の知る権利を土台から壊す②何が秘密なのかのガイドラインがなく、政府は不都合な情報を何でも秘密にできる③公務員が秘密を漏らすと禁錮10年の刑になる可能性があるため、公開より秘密にするインセンティブが働く④不当な取材をした記者も最高5年の懲役⑤日本の新聞は、記者と公務員の間のコミュニケーションが著しく低下すると危惧している⑥世論はこの法律に懐疑的というような問題点を列挙していました。
そもそもパブリックコメントを求めた段階で8割が反対し、マスコミ、弁護士、研究者らの大半が法案に疑義を投げかけています。さらに重要法案にもかかわらず、臨時国会の特別委員会での審議が80時間程度にとどまり、拙速に決められようとしています。それに対し、政府与党側は強行採決のイメージをやわらげるため、日本維新の会、みんなの党との修正協議に入っています。その協議を通し、秘密の範囲や指定の妥当性を監視する第三者機関を設置することなどが調整されています。
民主党は部分修正では問題点が解消できないとして、対案を提示する方針を決めています。民主党内の議論で「ただ反対するだけでは責任ある対応ではない」というような意見が示されていたことを耳にしています。しかし、問題のある法案は問題であり、圧倒的に時間が不足している中、対案提示という手法は今一つ中途半端な印象を抱いています。今回の法案の場合、率直に廃案を訴え、仕切り直しを求めたほうがスッキリしているように思えます。この法案を巡り、まだまだ書きしるしたいことがありますが、たいへん長い記事になっていますので、また機会があれば補足させていただくつもりです。
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コメント
漏れたら困る情報なんか、昔からあるやんか。せやから役人には守秘義務があるんやろ?それの国家版、なんかな。
いやー、実はオレよう解らん。
けどまあ、あってもええと思うけどな。何せ今竹島やら尖閣諸島やら色々あるし、新型護衛艦の情報も向こうではニュースになったりするからな。
大事な情報を守ることが、余計な争いを防ぐ手段としては重要やろ。手出しさせへん事が、犠牲者を作らんですむ一番の方法やと思うんやけど、どうなんやろね。
投稿: K | 2013年11月18日 (月) 19時08分
労組は、労使交渉を非公開にしたがる傾向があるようですがなぜでしょうか?
自分たちの要求が正当であるとの自信があるなら積極的に公開した方が理解も得られやすいと思うのですが。
投稿: でもどり | 2013年11月21日 (木) 01時37分
寒くなってきましたねえ
>OTSU氏
質問をさせていただきます。
最近韓国政府が推進している「安重根」の石碑です。
この「安重根」に対して、OTSU氏や平和運動に関わる
方々はどのように考えておられますか。
犯罪者ですか? 平和に命を捧げた英雄ですか?
ヘイトスピーチやヘイトクライムに対しては私もOTSU氏も
反対の立場だと思います。
沖縄の米軍基地前で自称市民活動家の方々が激しく
ヘイトスピーチやヘイトクライムを行っていますが
これに対して声明を出したり行動はされないのですか?
それとも良いヘイトスピーチと悪いヘイトスピーチが
組合や平和活動されてる方々にはあるのですか?
本文にある特定秘密法案ですが、菅直人政権の時に
尖閣沖海上で中国船が日本船に衝突させる事件がありました。
当時の政権は映像を隠すことにしました。国民の知る権利を
侵害していました。また、後日に映像が流出した際に
政権は機密保持に関する法整備の必要性を言及していました。
しかし、どちらの件に関してもOTSU氏はコメントがなかった
ように思うのですが、私の見落としならすみません。
当時、情報を秘匿したり、法整備の言及について反対の
コメントがなかったのに今回反対するのはなぜでしょう?
投稿: nagi | 2013年11月22日 (金) 17時13分
>政治的な運動も労働組合の本務と主客逆転させない範囲で取り組むという私自身の「答え」があり
と、言っておられますが
政治活動を行うということは、以前に日教組のドン輿石さんが
教育に中立はないと言った通り
組合活動にも政治的中立はないということですよね。
中立でないということは、組合の利権、あるいは組合組織に擬態した思想活動に
添った政策を実現させるために活動するということですよね。
組合の必要性を、一般企業、公務員、思想的に中立(あまりないでしょうが)、非中立などなど
個別に考えないと、組合の一般的な必要性を認めると、一方で到底看過できない利権や思想活動
も認めたことにされてしまうような、煙に巻かれるようないかがわしさを感じずにはおれません。
投稿: kjk | 2013年11月22日 (金) 19時52分
Kさん、でもどりさん、nagiさん、kjkさん、コメントありがとうございました。
nagiさんからご指名での質問がありました。「安重根」に対する評価は国によって大きく異なっています。日本人である私の立場ではテロリストとなります。米軍の家族はもちろん、個人を罵倒するヘイトスピーチや危害を及ぼすような行為は一切認められません。声明を出すかどうか、また、このブログで取り上げているかどうか、そのような点で物事を評価されていくことについて、悩ましさや難しさを以前申し上げています。今回の記事では、為政者にとって都合の悪い情報が恣意的に「特定秘密」にされてしまう恐れを危惧しています。その意味で、映像は政府の責任で完全に公開しても良かったように思っています。
kjkさんのご指摘ですが、組合員の皆さんと確認した範囲内で組合活動を進めています。その中で具体的な方針を定めていますので、ご指摘のような問題意識とかみ合わないような印象を受けています。なお、お願いがあります。匿名での投稿とは言え、その意見内容にある程度責任を持っていただくためにも、繰り返し投稿される場合はハンドルネームを固定されるようご協力ください。
投稿: OTSU | 2013年11月23日 (土) 17時15分
私は特定秘密保護法は必要悪だと思っています。
なぜなら、一方で国家行政に対する情報公開法があって、行政の完全透明化の流れがあるなか、公務員が透明化を免れようとして保存期限を過ぎた文書は意図的に廃棄されるなどされている実態があります。残された文書は、請求があれば開示されるということになりますから、役所としては死活問題。ただの走り書きのメモでさえも公開対象になっているのです。地公体においても同じような基準でしょう。
これでは、その時代に、なにが企図されていたかの事実関係が「歴史」として残らないようになってしまいます。
なんでもかんでも公開がいいのかという問いには、NO!と言えます。ただし、特定秘密保護法案の中で議論するべき問題であったかということについては、少々疑問を覚えます。情報公開法の範疇で議論しても良かったはずです。
隠しすぎず、透明性を確保するというのが「ちょうどいい塩梅」ですが、そこまで役所が「自制」が効くのかという点では、そうはならないだろうとも思います。
なので、「必要悪である」ということを私は思うのです。
投稿: でりしゃすぱんだ | 2014年1月15日 (水) 10時35分