社会保障・税番号制度
10月末までがクールビズ期間ですが、ここ数日で急に気温が下がっています。薄着のまま過ごしてしまい、カゼをひきやすい季節の変わり目ですので注意しなければなりません。徴税吏員の職務の話では滞納繰越分と合わせ、現年度分についても目配りが必要な時期を迎えています。組合の活動では様々な点で多忙な季節となり、来月上旬には定期大会も予定されています。定期大会までが組合役員の任期となるため、例年通り新しい執行部体制に向けて悩ましい日々が続きそうです。
さて、前回の記事は「言葉の難しさ、言葉の大切さ」でした。不特定多数の皆さんに発信しているブログの場では言葉の選び方が大切であることを綴らせていただきました。同時に書き込む内容そのものにも一定の責任を負わなければなりません。ただ一個人の責任による運営ですので、これまで思い違いや事実誤認となる内容を掲げていた時もあったかも知れません。それでもブログに綴る内容は可能な限り資料等を確認し、うろ覚えな知識のままで投稿しないように努めています。
その意味で、ブログに向かい合うことは自己啓発の一つの機会になり得ています。今回、社会保障・税番号制度について取り上げますが、マイナンバー法と記したほうが通りやすいのかも知れません。今年5月24日に「行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」をはじめ、番号関連4法案が参議院で可決・成立し、5月31日には公布されていました。自治体の業務に大きな影響を与える法律だったため、このブログの記事で取り上げることで、自分自身の頭の中を整理してみようと考えていました。
前述したとおり生半可な知識では扱えないため、夏以降、投稿するタイミングを見計らってきました。9月末に私どもの市職員向けに「社会保障・税番号制度の導入が地方公共団体へ与える影響について」という説明会が開かれました。私も出席し、内閣官房社会保障改革担当室の方から直接お話を伺える機会を得られていました。制度の詳細はリンク先の内閣官房のサイトで確認いただければと思っていますが、このブログでも概要や課題について少し触れていきます。
また、先週木曜夜には東京自治研究センターも社会保障・税番号制度に関する学習会を催していました。あいにく別な会議と重なり、私自身は足を運べませんでしたが、資料だけは出席した方から入手することができました。「社会保障・税番号制度を巡る課題」という演題で、講師はNPO法人情報公開クリアリングハウス理事長の三木由希子さんでした。その資料を通し、内閣府の担当者による説明会では強調されていなかった課題や問題点についても押さえることができました。
まず社会保障・税番号制度、番号制度と略していきますが、番号制度の導入趣旨は複数の機関に存在する個人の情報を同一人であるということの確認を行なうための基盤とし、社会保障・税制度の効率性・透明性を高めることを目的としています。国民にとって利便性の高い公平・公正な社会を実現するための社会基盤(インフラ)に位置付け、番号制度を通して、より正確な所得把握が可能となり、社会保障や税の給付と負担の公平性がはかられる効果を期待しています。
各種手当の申請時に必要とされる添付書類が不要となる国民側の利便性、住民に提供するサービスの受給判定に要する業務コストの軽減化などの利点も掲げられています。社会保障と税分野以外で、大災害時の被災者支援でも番号制度が活用されます。逆に言えば、番号制度の活用は社会保障、税、防災に関する事務に限られています。その3分野を担う行政機関が、それぞれの個人情報を共通の番号で管理し、これ以外の目的で民間事業者等が番号を収集することは禁止されています。
番号制度は2016年1月からスタートし、氏名、住所、生年月日、性別、個人番号、本人の写真が表示された個人番号カードの交付も始まります。各市長村が住民票に11桁の住民票コードを記載した時、12桁の個人番号を付番する流れとなります。個人番号カードの有効期間は10年間とされ、容姿の変動が大きい20歳未満は5年間となる予定です。個人番号カードが発行された際、それまで利用した住基カードは廃止され、2枚持つことはありません。なお、13桁の法人番号の付番等は国税庁が所管します。
各市町村は番号制度の開始までに必要な条例等の改正、情報保護評価の準備・実施、システムの設計・開発などを急がなければなりません。決して3年先という時間のある話ではなく、内閣官房の資料のスケジュール(想定例)では今年度から各市町村の行なうべき事項が数多く示されていました。一方で、あくまでも番号の共通化であり、情報の一元化ではなく、情報連携が制度の基本です。その軸となるコアシステムの運用・管理は、来年4月に設立される地方公共団体情報システム機構が担います。住民基本台帳ネットワークを管理していた地方自治情報センターが衣替えし、新たな名称の機構になるそうです。
実は説明会に出席するまで住基ネットとの関係性を充分把握できていませんでした。かなり前に「メリットがない住基ネット」という記事を投稿していました。番号制度の導入が決まり、ますます住基ネットの存在価値が疑問視されるように思えていました。しかし、実際は住基ネットを土台にして新たな番号制度が構築されていくように感じ取っています。内閣官房のサイトで「なぜ住民票コードをそのまま使わないのですか?」という質問があり、「住民票コード」はもともと今回のような利用を想定しておらず、運用の大幅な改変が必要になることや、パブリックコメントの多数意見が「新しい番号の利用」だったこと、等が主な理由と答えています。
国民総背番号制に対する根強い批判や情報漏洩のリスクが問題視される中、一歩一歩、進めてきたという見方が成り立つのかも知れません。確かに今回、住基ネット導入の際には沸き上がっていた反対の声があまり聞こえてきません。世間を騒然とさせるような決定的な情報漏洩などの事故がなく、住基ネットへの参加を見合わせていた杉並区や国立市なども接続し、現在、接続していない自治体は福島県の矢祭町のみとなっています。このあたりの変化について、相互リンクしている「地方公務員拾遺物語 別館」の記事「それは半世紀をかけて世に出てきた。」の中で興味深く語られていました。
続いて、課題や問題点を紹介します。これまで住基ネットで大きな情報漏洩はありませんでしたが、今後も絶対起こらないと言い切れるのかどうかという懸念があります。個人情報の質や範囲が広まったため、事故や犯罪に利用された際のリスクや影響が高まっています。韓国では2008年からの4年間で1億2千万人分の個人情報が流出していました。番号を使って勝手に買い物をしたり、番号を通知することで公的機関の職員と信用させ、金をだまし取ったりする詐欺事件の多発に繋がっていました。
次に費用対効果の面でも疑問が残されています。民間の利用を制限しているため、金融機関は個人番号を共有しません。これまでと同様、口座に資産を隠していても把握できないため、ほとんど税収増には繋がらないものと見られています。したがって、より正確な所得把握が可能という謳い文句ですが、あくまでも申告に基づく名寄せに対する効果に限られるようです。ちなみにイギリスは共通番号制度(国民IDカード制)の廃止を決めています。その理由は、高額な運用コストに見合ったメリットがない、プライバシー侵害への懸念などが上げられています。
最後に、番号制度に対する評価も個々人で枝分かれしていくものと思います。しかし、すでに法律は成立し、導入に向けて具体的に動き出している最中です。一自治体の職員の立場としては制度の万全なスタートに向け、担当する業務の中で精一杯努力していくつもりです。組合の役割としては諸準備に携わる職員の態勢が充分なものかどうか点検し、労使交渉を通して必要な措置を求めていくことになります。
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コメント
情報漏洩などはシステム的な問題もあるかもしれませんが、扱うのは人間です。
人的に情報漏洩することも多々あるので、取り扱う自治体職員の情報管理スキルの向上も不可欠ですね。
きめ細かいしっかりとした人材育成にも取り組んで欲しいものです。
投稿: 普段は見るだけ | 2013年10月 6日 (日) 09時52分
普段は見るだけさん、コメントありがとうございました。
どれほどシステム面での対策を講じても、ご指摘のとおり人的なミスや不正利用などから情報漏洩のリスクが生じかねません。したがって、職員一人ひとりのスキルや意識の向上が今まで以上に重視されていくことを肝に銘じています。
投稿: OTSU | 2013年10月 6日 (日) 18時52分
>職員一人ひとりのスキルや意識の向上が今まで以上に重視されていくことを肝に銘じています
社会保障・税番号制度は基本的に賛成なので、
ほんとうにしっかりと高い危機意識をもって取り組んで欲しいものです。
ただ、実態として以下のような言葉が出るようでは不安で一杯です。
http://www.yomiuri.co.jp/net/news0/national/20131006-OYT1T00223.htm
Xpではないですが同じく期限切れのWin2000を晒せば以下のようになる例もある訳で
http://www.youtube.com/watch?v=nMyuC1JrNlI
いつも公務員の人って危機意識が壊滅的に薄いなと思わされることが数多くおこります。
なんとか意識改革を徹底的にやってもらいたいものです。
投稿: 大丈夫ですか? | 2013年10月 6日 (日) 22時50分
大丈夫ですか?さん、コメントありがとうございました。
一つの団体でも一人でも不信感を招く行為があると公務員全体の批判に繋がりがちです。そのため「危機意識が壊滅的に薄い」などと思われないよう公務に携わるすべての職員が努力していかなければならないものと改めて考えています。
投稿: OTSU | 2013年10月12日 (土) 00時51分