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2013年7月13日 (土)

吉田元所長の訃報

金曜の昼休み、宝塚市役所の市税収納課の窓口に火炎瓶が投げ込まれたというニュースを耳にしました。火は1階に燃え広がり、5人の方が病院に搬送されていました。不幸中の幸いにも皆さん軽傷だったようですが、ポリタンクからガソリンが事務室にまかれるなど大惨事になる恐れもあった卑劣な犯行でした。市税の滞納処分を受けたことが犯行理由と伝えられていたため、私自身の現在の職務が同じ徴税吏員という仕事であり、このニュースを他人事ではない驚きで受けとめていました。

兵庫県宝塚市の市役所放火事件で、現住建造物等放火容疑で現行犯逮捕された高橋昭治容疑者(63)=同市山本南3=が「火炎瓶2本とポリタンク2個をバッグに入れて市役所に行った」と供述していることが12日、県警宝塚署への取材でわかった。昨年末に税金滞納で預金口座を差し押さえられたとも説明しており、同署は市役所の対応に不満を抱いての計画的な犯行とみて調べている。同署によると、同容疑者が乗ってきた車にはガソリンを入れる専用容器が積まれており、あらかじめ車内で火炎瓶やポリタンクにガソリンを詰め替え、市役所を訪れたとみている。同容疑者は「ライターで火炎瓶に火を付けた」とも供述。市役所内から100円ライター1個が見つかった。

同容疑者は1995年に同市内で自宅マンションを購入後、一度も固定資産税を払っていないと説明。昨年末に税金未納で預金口座を差し押さえられたと話し、動機について「何度も督促状を受け取り、腹が立った」と供述している。口座の残高は約200万円。以前は日雇いでごみ処理関係の仕事などをしていたが、昨年末からは仕事をしていなかったという。同市によると、2003年以降、同容疑者は税金相談で数回市役所を訪れ、担当者が未納分の分割払いを催促すると、大声で怒鳴り散らすこともあった。昨年10月に訪れたのが最後だった。

事件当日は同容疑者が面談を希望。担当者と相談中に口論となり、「おれの人生めちゃめちゃや。おれの答えはこれや」と激高。かばんから火炎瓶を取りだし、窓口のカウンター越しに投げ込んだ。前後してガソリンが入ったポリタンクもカウンター内にぶちまけた。宝塚市消防本部によると、約2200平方メートルが焼け、当時市役所にいた職員と来庁者600人以上が外に避難。市職員ら男女5人が搬送され、軽傷を負った。同容疑者が住んでいたマンションの住人は「周囲との親交はあまりなく、どことなく怖いイメージだった」と語る。7、8年前に仕事道具を保管するためのプレハブ小屋をマンション敷地内に勝手に設置し、住民とトラブルになったこともあったという。撤去を求める住民に「何が悪いんや」などと激高したという。マンション管理会社によると、同容疑者が管理費などを滞納したことはなかったという。【日本経済新聞2013年7月13日

まったく財産がなく、生活困窮に至るような場合、滞納処分の執行停止という判断もあり得ます。そもそも納税の意思を誠実に示していただきながら、納められない現状について相談を重ねている方々に対しては、どこの自治体でも機械的に差押を執行するようなことはないはずです。上記のような事案は不動産や預金という財産があり、分納相談も拒むようでは差し押さえられても仕方ないケースです。逆に差押を執行しないようであれば、徴税吏員としての職務怠慢の指摘を受けかねません。

したがって、今回の犯行動機は、どう見ても容疑者の筋違いな逆恨みに過ぎません。私どもの自治体においても、差押処分を受けた方から担当者が罵詈雑言を浴びせかけられるケースは決して珍しい話ではありません。しかし、そのような脅し文句にひるみ、差押処分をためらうような職員は皆無です。圧倒多数である納税者の皆さん、誠実な相談に応じられている方々との公平性のためにも、不当な言葉の暴力に屈することは許されません。

私自身をはじめ、職員一人ひとり、そのような心構えで日々の職務に励んでいるつもりです。中には脅迫罪に問えるような恫喝によって、身の危険を感じる時もありましたが、これまで幸いにも大事には至っていません。今回、宝塚市の事件を目の当たりにし、現実的なリスクとして覚悟しなければならない職務であることを改めて認識する機会となっていました。それでも前述したような心構えが後退することなく、今後も粛々と徴税吏員としての職務に全力を注いでいくことに変わりありません。

さて、身の危険という職務の過酷さで言えば、類を見ない想像を絶する局面で奮闘された方の訃報に接しました。福島第一原子力発電所の所長だった吉田昌郎さんが7月9日にお亡くなりになりました。原発事故による被曝と食道がんとの因果関係はないという見方がされていますが、不眠不休で事故対応に追われた肉体的、精神的な負担は相当なものだったはずです。その意味で、吉田元所長も原発事故による犠牲者の一人に数えられるのではないでしょうか。

2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故当時に、同原発所長を務めていた吉田昌郎(よしだ・まさお)さんが9日午前11時32分、食道がんのため、東京都内の病院で亡くなった。東電が同日発表した。58歳だった。告別式は未定という。吉田さんは1979年に東電に入社してから一貫して原子力畑を歩み、2010年6月に同原発所長に就任。事故発生後は原子炉の冷却や、炉内の圧力を下げるベントという作業などについて陣頭指揮を執っていたが、11年11月に食道がんが見つかり、翌月に所長を退いた。事故以降の被曝量は70ミリ・シーベルトで、東電は「医師の判断では、事故による被曝と食道がんとの因果関係はない」と説明する。吉田さんは12年7月に脳出血で緊急手術を受け、病院や自宅で療養していた。【読売新聞2013年7月9日

吉田元所長の訃報が流れた直後、ブックマークしている元外務官僚の天木直人さんのブログで「吉田昌郎元福島第一原発所長に国民栄誉賞を」という記事を目にしていました。下記のような報道内容を踏まえ、「事故当時に吉田さんが福島第一原発にいたことを感謝しないといけない」という論調のものでした。その記事を投稿したとたん「英雄視するなどとはとんでもないことだ」「彼は真実を語っていない」という批判の声が寄せられたため、天木さんは新たな記事で「国民栄誉賞などと言い出したのは軽卒だったかも知れない」と詫びられていました。

事故が起きているのは本店ではなく現場だ-。9日、食道がんのため58歳で亡くなった東京電力福島第1原発の元所長、吉田昌郎(まさお)氏。東日本大震災による爆発事故から病気療養で退任するまでの約250日間、所長として事故収束の陣頭指揮を取り、大惨事に身をなげうった。頭でっかちの技術屋ではなく、厚い人望で作業員をまとめ上げる現場に強い男だった。吉田氏は2011年3月の事故時、現場に介入してくる首相官邸と東電本店に対し、現場の判断を貫き通した。東電が公開した社内テレビ会議の映像などからは、さまざまな思いで事故と対峙し苦悩する姿があった。

「これから海水注入中断を指示するが、絶対に注水をやめるな」。同年3月12日、水素爆発した1号機への海水注入をめぐり、「首相の了解がない」と中断を求めた本店に反し、小声で作業員にこう伝え、自らの判断で事態の悪化を防いだ。「やってられんわ。そんな危険なこと作業員にさせられるか」。原子炉格納容器が水素爆発するのを防ぐため窒素ガス注入を指示する本店幹部に大声で食ってかかったことも二度三度ではない。そんな過酷な現場に向かっていく部下や協力会社の作業員には「感謝」を超えた特別な思いがあった。「放射能がある現場に何回も行ってくれた同僚たちがいる。私は見てただけ。部下は地獄の中の菩薩だった」。昨年8月、福島市で開かれたシンポジウムにビデオ出演し、こう語っている。

事故から約2週間、不眠不休で陣頭指揮にあたっていた吉田氏。休養で東京にいったん戻る際、現場に残り作業にあたる所員に、目に涙を浮かべながらこう言って去るシーンがテレビ会議映像にある。「私は肉体的にもかなりガタがきている状態になっています。非常にじくじたる思いですけれども。またここに戻ってきて、皆さんと一緒に仕事をしたいと思います。本当に申し訳ないんだけど…」歯に衣着せぬ率直な物言いは、社内で「自信過剰」とみられることもあったが、部下や作業員を常に気遣い、下請け業者からの信頼は厚かった。【ZAKZAK2013年7月10日】 

私自身、吉田元所長をはじめ、身の危険が極めて大きい福島第一原発で任務を果たされてきた皆さんに心から感謝しています。とりわけ迷走した官邸や東電本店の指示に惑わされることなく、最善を尽くした吉田元所長の功績に対しては大半の方が評価されているはずです。その一方で、取り返しの付かない原発事故の教訓を失念しているような動きが強まっているため、次のような視点や問題意識で吉田元所長絡みの報道が語られることも充分理解できました。

どうも釈然としない。テレビ各局は食道がんで急逝した吉田昌郎・元東京電力福島第1原発所長(58)を英雄のように報じている。10日も朝から大々的に取り上げていたが、どの局も「彼がいなかったら大惨事だった」などと持ち上げた。このスタンスに違和感があるのだ。「本店の命令を無視して原子炉への海水注入を続けたことが日本の危機を救った」「各界から悼む声が上がっている」――。ワイドショーで繰り返し流された吉田氏の姿は、国民を放射能汚染から守ったヒーローのようだった。もちろん、原発事故直後、吉田氏が「死の恐怖」と対峙(たいじ)しながら不眠不休で現場の陣頭指揮に尽力したことは事実だろう。とはいえ、公務中に殉職して「2階級特進」した警察官のように扱うのは明らかに変だ。

「吉田氏の事故当時の肩書は『執行役員』。経営幹部なら、事故を起こした責任は免れない。しかも、東電が08年に想定外の津波の可能性を把握した際、彼は対策を先送りした原子力設備管理部の部長だった。原子炉への海水注入をめぐって本店幹部とケンカするほどの反骨心を持っていたのなら、事故前に安全対策に万全を期すよう大ゲンカしてほしかった。強く主張していれば、事故は防げた可能性があるのです。だから、事故後の対応は、自らの失態を必死に挽回しようとしただけとも言える。それなのにテレビは『被害を最小限に食い止めた』などとヨイショしている。事故から2年半近くなっても、約15万人が故郷に帰れない現実をどう考えているのでしょうか」(経済誌記者)

ジャーナリストの横田一氏がこう言う。「原発の事故原因が津波なのか地震なのか、いまだに分からない中で、吉田氏には国会などのオープンな場で事故当時の様子を語って欲しかった。原発の安全性を語る上で、彼が知り得たことは重大な意味を持つ。なし崩しに進められようとしている原発の再稼働を左右する重要なキーマンだったと言ってもいい。メディアは吉田氏の一面を取り上げて大騒ぎするのではなく、あらためて、原発が抱える問題や東電の隠蔽体質も含めて報じるべきでしょう」原発事故当時、国や東電の言い分をタレ流し続けていたテレビの体質は今もまったく変わっていない。 【日刊ゲンダイ2013年7月11日】 

複数のニュースの内容をそのまま掲げましたので、たいへん長い記事となっていますが、もう少し続けさせていただきます。私自身の原発に対する考え方は「原発の話、インデックス」のとおり脱原発社会を一刻も早く実現すべきというものです。このまま再稼働を一切認めず、一気に原発ゼロ社会が実現できれば何よりな話だと思っています。ただ原発の問題に限らず、理想的な姿を描く中で、その目指すべきゴールに向かってどのような判断を地道に重ねていくのか、現実の場面での選択肢一つ一つを熟考していく大切さも認識している立場です。

そのような意味で、安全性を判断する新たな規制基準に沿った原発の再稼働申請の問題をとらえた際、次のとおり考えています。公正な審査から結論が得られるものと信じていますが、「やはり原発は必要」という政治的な枠組みのもとでは、また以前と同じ轍を踏むような懸念も拭えません。穿った見方だと批判されてしまうのかも知れませんが、将来的に原発ゼロを目指す中で再稼働の是非が判断されていく場合との信頼度は大きく違ってくるように感じています。

最後に時節柄、どうしても参院選挙の話に繋げざるを得ません。昨年、全国各地で開いた意見聴取会、パブリックコメント、討論型世論調査、それぞれで原発ゼロを望む声が多数を占めました。現時点でも将来的な原発ゼロを望む声のほうが多数であることに変わりありません。それにもかかわらず、唯一、原発ゼロの方向性を明確にしていない自民党に国民からの支持が集中しています。郵政民営化や政権交代の是非のような大きな争点となっていませんので、やむを得ない現状ですが、たいへん残念で歯がゆい思いを強めています。

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コメント

オレは、事故を招いた責任者のひとりであろうが、仕事として当然であろうが、命がけで事故の収束に尽力したんやったら、ヒーローやと思うけどね。自衛隊員と同じくな。
まあ持ち上げんのも、コキおろすんのも、マスコミはんの仕事やさかい、世間がどういうかは知らん。
暑い日が続くのう。電気無しには過ごせん。事故は怖い。よう考えなあかんね。

投稿: K | 2013年7月14日 (日) 20時33分

Kさん、コメントありがとうございました。

マスコミによって独自で多様な情報を発信できる社会が健全だろうと思っています。何かに遠慮して、伝えたいことが伝えられなくなるようでは問題です。このブログも賛否が分かれるようなテーマについて、これからも自分なりの言葉で発信していくつもりです。ぜひ、これからもよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2013年7月14日 (日) 22時08分

はじめまして、そして突然書き込み失礼いたします。
私は現役の徴税吏員です。県税に来る前は市税の固定資産税賦課関係の仕事をしていました。
今回の宝塚市役所放火事件は極めて悪質な事件です。
納税の慫慂にも応ぜず、納税もせず、そのうえで生活資金ではない預金を差し押さえられたことを逆恨みして、ガソリンを購入し、それを使い放火した点からもまさに極悪非道な所業だと思います。
 私も現役の徴税吏員として、多々いわれのない言葉と罵声を浴びせられることがあります。それでも税金の公平性を守るためにも頑張っています。
 社内を含めて、あまり理解を避けることの少ない職場ですが、最前線でがん抜釘する宝塚市の税務職員に頑張れといいたいです。

投稿: 一徴税吏員 | 2013年7月15日 (月) 17時26分

一徴税吏員さん、はじめまして。コメントありがとうございました。

ご指摘のとおり宝塚市の事件は同じ徴税吏員として非常に憤りを覚えるものです。宝塚市の職員の皆さんが負った衝撃の大きさは計り知れませんが、これからも粛々と職務に励んでいっていただければと願っています。

投稿: OTSU | 2013年7月15日 (月) 21時29分

久しぶりの書き込みです。
宝塚市の事件は衝撃でした。私も少し前まで徴税吏員でしたので・・・
過去、罵声を浴びつつ木刀を振り回されたり、首根っこを掴まれたりしたことはありましたが(汗)
今の職場では、税職場ほどの恐怖感?はありませんが、それでも時々あります(レベルが違いますが)

今週末の参院選、どのような結果になるのでしょう。(あらかた予想はつきますが)
組合役員をやっている間は選挙事務をしていませんでしたが、役員退任後初めて、数年ぶりに事務を務めます。その事務経費も貴重な税から支出されているわけですが・・・

投稿: Hama | 2013年7月16日 (火) 21時03分

Hamaさん、別な記事ですがWontBeLongさん、コメントありがとうございました。

今回、新規記事は早めに投稿できそうです。ぜひ、これからもよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2013年7月20日 (土) 00時19分

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