『ブラック企業』を読み終えて
昨日の土曜、好天のもと三多摩メーデーが開かれました。毎年、全体の参加者数は万単位、私どもの組合としてはご家族も含めて百人単位で集まる盛況ぶりです。今回、各市のマスコットキャラクター、いわゆる「ゆるキャラ」が一堂に会するイベントも催されました。私どもの市のキャラクターは子ウサギの「くるりん」です。もともと「くるりん」は市内循環の市民バスのキャラクターでしたが、半年ほど前、公募によって市の公式キャラクターに決まりました。
3月に市民マラソンの会場でテビューした後、着ぐるみの「くるりん」は大勢の方が集まる場所で子どもたちからの人気を集めていました。メーデーでのイベント参加にあたり、組合ニュースで「くるりん」に入る方を募集しました。すると女性組合員4人の方に名乗りを上げていただきました。当日、予想していた以上に「くるりん、かわいい」という声が寄せられる中、たいへん暑いところ交替で「くるりん」になり切っていただきました。
一般的なブログであれば、このような内容だけで一つの記事にまとめているはずです。週末に週1回だけ更新している当ブログは、どうしても個人的に取り上げたい話題やコメント欄で宿題となっている内容などを詰め込むため、いつも長々とした記事になりがちでした。いろいろな見られ方もあろうかと思いますが、気ままに自由に書き進めていけるブログだからこそ、週1回の更新が途絶えずに長続きできているものと考えています。
さて、前回記事「改憲の動きに一言二言」に対しては、多くの方からコメントをお寄せいただきました。やはりコメント欄の返信に位置付く記事内容よりも、幅広い題材を扱っていくほうが多くの方からご意見を伺えるようです。 私自身がコメント欄から距離を置く中、とことん物事の正否を追求したい方々にとって当ブログは物足りない場となっているはずです。また、話題を転換していくことで「議論から逃げている」という不本意な見られ方もされてしまうのかも知れません。
しかし、平和の問題に関して言えば、昨年夏の「平和の話、インデックス」をはじめ、その後に投稿している「荒地よりもお花畑」「荒地よりもお花畑 Part2」「現実の場面での選択肢として」の中で私自身の考え方を詳しく綴っています。さらに平和フォーラムについても、私自身が語れる言葉で見解を示していました。このような内容は組合の機関紙等を通しても発信しているものであり、若手組合員から疑問が投げかけられれば私なりの考え方を補足しています。
とは言え、精力的にコメント投稿されているnagiさんの疑念が氷解していないことも認識しています。そのため、「出入り自由な場として」のコメント欄で、私から「時間の上でも、気持ちの上でも、力量面でも応えられるタイミングを見計らい、いつの日か記事本文を通し、nagiさんからの問いかけにじっくり挑戦してみるつもりです」とお答えしていました。さらに書き漏らした点として、翌日、次のような私自身のコメントをnagiさんあてに付け加えていました。
nagiさんから「絶対平和主義者の方々、どうぞOTSU氏を応援するために反論してください」というコメントも寄せられていました。確かに私自身の発想に近い方々からのご意見も伺えれば、それはそれで心強いことです。しかしながら自分自身がコメント欄から距離を置いている中、「他力本願」的な応援を個人的には願えるものではありません。加えて、このような場での議論に対しても、個々人でとらえ方や評価に差異があるはずです。そのような現状を踏まえた際、nagiさんの問いかけに誰も答えないから、要するに「答えられない」という見方は早計だろうと思っています。そのように見られていないのかも知れませんが、念のため、補足させていただきました。
また、あまり「絶対平和主義者」という言葉は好きではありませんが、このような心構えだけは強調できます。いわゆる右や左に関わらず、自分とは異なる主義主張をされている方々を蔑むような発想や行為は慎むべきものと考えています。蔑みが憎しみとなり、暴力に繋がるような関係性は論外であり、人と人、組織と組織、国と国、あらゆる場面において、まずは他者の立場やモノの見方を慮れるようになりたいものと願っています。そのような青くさい発想があり、このブログの場でも実践できることを常々切望していました。
前述したとおり本題に入る前の内容が長くなりました(苦笑)。記事タイトルの差し替えも頭の中をかすめましたが、天皇賞をリアルタイムでテレビ観戦できるノンビリした日曜日でもあり、予定した題材をそのまま書き進めさせていただきます。実は、かなり前に今野晴貴さんの『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』を読み終えていました。このブログで一度取り上げたいものと考えていましたが、投稿のタイミングを逃したまま延び延びとなっていました。
最近、ブラック企業という言葉が注目されるようになっています。今野さんの著書の影響も大きいようですが、少し前までブラック企業とは、ごく一部のマイナーな会社のことを指していました。それが今野さんの著書によれば、具体的な会社名をすぐ想像できる大手有名企業の中でも「ブラック」ぶりが蔓延しているようになっていました。今野さんは中央大学法学部に在学中に若者の労働相談を受け付けるNPO法人「POSSE(ポッセ)」を立ち上げていました。
今回紹介する今野さんの著書は1,500件を超える過酷な相談内容をもとに綴られていました。当初、企業側に明確な違法行為がある事案でも「自分が悪いのではないか」と不安がる相談者も多かったそうです。最近では「ブラック企業」という言葉の広がりによって、確実に違法な企業への目線は厳しくなっていると記されていました。その著書のカバーに書かれた文章は次のようなものでした。
違法な労働条件で若者を働かせ、人格が崩壊するまで使いつぶす「ブラック企業」。もはや正社員めざしてシューカツを勝ち抜いても油断はできない。若者の鬱病、医療費や生活保護の増大、少子化、消費者の安全崩壊、教育・介護サービスの低下―。「日本劣化」の原因はここにある。
現在、就活生の最大の恐怖としてブラック企業があります。100社以上エントリーシートを出すのが当たり前となっている就職活動の中で、運悪くブラック企業に勤めてしまうケースを想像しがちです。しかし、今野さんの著書で報告されている事例として、20社も出さずに希望した超大手優良企業に採用された就活エリートだった方のケースが記されていました。固有名詞は示されていませんでしたが、グローバルな事業展開している有名なアパレル企業における事例でした。
卒業式前の3月1日から研修が始まり、まるで「宗教みたい」と言われるほどマナーや挨拶の仕方など、姿勢、表情、手の挙げ方まで事細かく叩き込まれたそうです。研修から食堂までの廊下は一列で歩く、宿舎では必ずその会社のシャツを着て過ごす、企業理念や会社の基本方針などの暗記を求められ、グループで暗記できない者がいれば、連帯責任で覚えるまで全員寝ることが許されないなど、驚くような事例が列記されていました。そのため、研修中から同期は減り続けていくそうです。
店舗に配属されてからも、店舗運営マニュアルの暗記や半年間で店長になることを求められるなど、明らかに「ふるい落とし」を目的とした人材育成がはかられていました。要するに大量採用した正社員を極めて劣悪な条件で働かせ、鬱病から離職に追いこみ、平然と「使い捨て」にする企業であることが問題提起されていました。この企業の他にも複数の実例が紹介され、「ブラック企業の見分け方」や「入ってしまった後の対処法」なども記されていました。
そして、日本社会そのものがブラック企業の被害を受けている点を今野さんは指摘されていました。若者の鬱病、医療費や生活保護の増大、少子化、消費者の安全崩壊など、「日本劣化」の要因の一つはブラック企業にあることを訴えられています。解決策として、労働組合やNPOに相談することを上げられ、ブラック企業は労使関係の解体の問題であるとも述べられていました。
確かに「労働」を経営者からの一方的な目線のみで規定される際、ブラック企業が生み出されるように思えています。とりわけ経営者自身が並々ならぬ努力や苦労を重ね、現在のカリスマ的な地位をつかんでいた場合、社員にも同じような行動や発想を求めがちな傾向があることも見過ごせません。加えて、過度な競争主義の弊害がブラック企業を生み出す背景にあることも否めないのではないでしょうか。
このような主張を地方公務員の組合委員長が訴えること自体に対し、何か懐疑的な意見が寄せられるのかも知れません。しかし、いつもお願いしていることですが、誰が何を訴えているのかという発信者の属性は関係なく、そこに書かれている内容そのものがどのように評価されるのかどうかが大事な点です。ぜひ、そのような関係性について改めてご理解くださるようお願いします。たいへん長い内容となっていますが、最後に、最近注目を集めた次のニュースを紹介させていただきます。
カジュアル衣料「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、全世界で働く役員と幹部候補の正社員について、賃金体系を統一する制度を導入する。新興国採用の人材にも先進国並みの待遇を約束して優秀な人材を確保し、海外での事業展開を拡大する。同社の賃金は、仕事内容や成果に応じて19段階に分かれている。上位7段階までの執行役員と上級部長の計約50人に統一賃金を今年導入しており、部長級や店長級など、上位8~14段階の約1000人にも今後広げる。13か国・地域の「ユニクロ」事業が対象で、海外採用者は約300人が該当する。15~19段階の約4000人(海外採用約1800人)の正社員は当面、賃金体系は統一しない。【読売新聞2013年4月23日】
読売新聞の前に朝日新聞が大きく取り上げた報道でしたが、この話を耳にしたため、今回の記事を投稿する後押しともなっていました。今野さんの著書の中で報告された事例がユニクロだと記されていた訳ではありませんが、この件での柳井正会長兼社長の言葉は賛否が大きく分かれるように思っています。「仕事を通じて付加価値をつけられないと、低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円のほうになっていくのは仕方がない」とし、付加価値をつけられなかった人が退職する、場合によっては鬱病になったりすることも仕方ないと語られていました。最後の最後に、次の記事も紹介させていただきます。
年収300万円どころか、年収100万円が当たり前という地獄の時代が幕開けだ。「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長がブチ上げた「世界同一賃金制度」。これによって、サラリーマンの「給料」と「働き方」、「人生設計」までが、ガラリと変わらざるを得ない。柳井会長は23日付の朝日新聞で「将来は年収1億円か100万円に分かれて、中間層は減っていく」と言い切った。「新興国での優秀な人材確保」はタテマエで、本当の狙いは別にある。
「長期的には、“賃金のフラット化”によって国内社員の賃金水準は、新興国並みに引き下げられる可能性もあります」と言うのは、「ずっと『安月給』の人の思考法」の著者で経済ジャーナリストの木暮太一氏だ。こう続ける。「ユニクロはフリース、ヒートテックなど次々とヒット商品を飛ばしてきました。その一方で生産性をあげるために社員教育を徹底し、マニュアル化を進めてきました。利益追求のために必要な企業努力です。しかし、代替の利く仕事は結果的に『労働の価値』の低下を招きます。労働者の報酬が減ってしまうのは当然の帰結なのです。実はこうした経済的な矛盾が日本企業のあちこちで起きています」
小泉・竹中路線以降、この国では「競争」と「グローバル化」が声高に叫ばれ、外食、電機、自動車、量販店、IT企業……あらゆる業界で効率化が進んだ。賃金は年々下がり、非正規雇用の若者は使い捨てられてきた。弱肉強食の競争社会で富を得るのは、一握りの「勝ち組」のみ。彼らとて「寝てない自慢」だけが喜びで、多くが家庭不和を抱えている。真の幸福とは程遠い暮らしが、「世界同一賃金」でエスカレートしていく。「ユニクロに追随する企業は次々出てくると思います。まずは電機や自動車の生産ラインなどで“派遣社員を途上国と同レベルにする”という動きが表れるのではないか。そうなったら次はホワイトカラーです。IT企業のプログラマーなど、人種が関係ない仕事は『同一賃金に』ということになる。このトレンドは競争が激しい業界ほど顕著になります」(小暮氏)
世界中で同じ仕事、同一賃金ならば、時を構わず海外に異動させられる。歯向かえば容赦なく首を切られる。いつ自分のポストが見ず知らずの新興国の人々に奪われても、おかしくないのだ。世のサラリーマンは食うのがやっとの地獄の暮らしに唯々諾々と従わざるを得ない。行き着く先は日本企業の総ブラック化だ。すでに書店には「年収150万円で僕らは自由に生きていく」という、生涯低年収を前提にした本も並んでいる。はたして年収100万円時代を乗り切る知恵などあるのか。 【日刊ゲンダイ2013年4月24日】
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