春闘の話、インデックス
昨年夏に「自治労の話、2012年夏」を投稿し、記事本文の中にインデックス(索引)代わりに関連した内容のバックナンバーを並べていました。以前から時々、試みていた手法でしたが、昨年8月以降「平和の話、インデックス」「職務の話、インデックス」「原発の話、インデックス」「定期大会の話、インデックス」「年末の話、インデックス」「旗びらきの話、インデックス」という記事タイトルの投稿を続け、バックナンバーをカテゴリー別に整理する「○○の話、インデックス」というパターンを定着させていました。
今回の記事では時節柄、春闘に関するバックナンバーを並べてみようと考えました。Googleで「公務員のためいき 春闘」と検索するだけで、記事タイトルに春闘という言葉が入った記事をいくつか見つけられました。それだけでは物足りなさを感じたため、タイトルに春闘という言葉が付いていなくても、春闘期に投稿し、春闘に触れた内容の記事も探してみました。すると次のとおり思ったより多くの記事を掲げることができました。手作業でのザーッとした検索でしたので他に漏れている記事もあるかも知れませんが、それなりのインデックス代わりになり得たものと思っています。
- 2006年2月20日 公務員組合の春闘
- 2006年3月16日 私鉄総連書記長らの発言
- 2007年2月25日 忙しさが加速する春闘期
- 2007年3月17日 春闘の柱に格差是正
- 2008年2月 2日 内需拡大に向けた春闘へ
- 2008年2月10日 ストライキ批准投票
- 2008年3月15日 追い風と逆風が交錯した春闘
- 2009年2月28日 季節は春闘、多忙な日々
- 2010年2月28日 鳩山首相の軽率な発言
- 2010年3月 7日 定期昇給の話
- 2011年2月27日 公務員の人件費
- 2011年3月 6日 連合の3.5中央集会
- 2012年2月26日 給与削減と公務員制度改革
さて、連合の2013春季生活闘争の闘争開始宣言では「働くすべての労働者の先頭に立ち、傷んだ雇用と労働条件の復元に全力で取り組み、デフレ脱却の突破口をきりひらく」と真っ先に記されています。まさしく今年のキーワードは「デフレ脱却」であり、非正規も含めた「すべての労働者」が春闘の成果を実感できるかどうか、連合や既存の労働組合の真価が問われていくものと受けとめています。
デフレ脱却は安倍政権が全力を注いでいる課題です。2月12日にはデフレ脱却に向けた経済界との意見交換会を官邸で開き、経団連の米倉弘昌会長ら経済3団体のトップに安倍首相が直接「労働者の賃金引き上げ」の協力を求めていました。このような動きに対し、雇用重視を訴えていた民主党は地団駄を踏んでいる、安倍首相の本当の狙いは民主党と連合の分断などという見られ方もされているようです。
安倍首相が賃金の引き上げを要請した話題は当ブログのコメント欄でも触れられていましたが、過去にも福田首相が経済団体に同様な要請を行なっていました。この話は上記に紹介した2008年3月15日の記事「追い風と逆風が交錯した春闘」の中で取り上げていました。そのため、私自身としては特に驚くことも、違和感を持つようなこともありませんでした。安倍首相が様々な思惑を抱いたパフォーマンスだったとしても、デフレ脱却のためには内需拡大が必要であり、賃金引き上げは欠かせないものと考えているからでした。
話が少し横道にそれますが、「モノの言い方、モノの見方」について「Part2」まで綴ってきました。二つの記事を通し、物事を性急に「○」か「×」か、二者択一ばかりで判断するような見方の危うさを問題提起してきたつもりです。念のため、誤解を受けないように繰り返しますが、場面によっては迅速に「○」か「×」か判断しなければなりません。賛否両論の激しい議論が平行線をたどった際、多数決なのか、トップの決断なのか、手法の選択も含めて最終的な結論を出さなければならない局面が無数にあることも当たり前だと思っています。
私が強調したかった点は、物事には必ず表と裏があり、見る角度によって「○」か「×」か評価が変わる可能性です。だからこそ、日頃から物事を多面的に見ようとする心構えが重要であり、多様な視点から寄せられる幅広い意見に耳を傾けることも、より良い結論を導き出すためには欠かせない手間隙だと考えています。よく「決められない政治」という批判的な言葉を耳にしますが、議論を尽くすこと自体が否定的にとらえられがちな風潮を危惧しています。
最も問題視すべきなのは誤った政治判断を強行することであり、その判断にブレーキをかけられるような議論であれば本来は歓迎すべきことだろうと考えています。今回の記事タイトルの内容から離れ気味となっていますが、もう少し付け加えれば「○」か「×」かを敵か味方かに置き換えてみます。敵だと見なせば、その敵の言葉や行動をすべて批判的に見てしまいがちです。一方で、味方だと見なせば、問題ある発言や行動も支持しがちな傾向があるように感じています。
つまり短絡的に敵か味方か判断してしまうと、理性的な評価から離れがちな傾向があることを懸念しています。「あいつ(あそこ)は○○だから、××だ」というような決め付けた属性批判に繋がりがちであり、評価すべき点や批判すべき点が混在していることを見落としてしまうように思えています。ちなみに人物評価が極端に枝分かれする事例として、阿久根市の竹原前市長や大阪市の橋下市長のことが思い浮かびます。このあたりを掘り下げていくと際限がなさそうですので、機会があれば別な記事本文の題材として扱ってみるつもりです。
ここで、安倍首相の話に戻ります。賃金引き上げの要請を自民党の安倍首相の行動だからと言って、先ほど述べたとおり批判するようなことは考えていません。その上で、問題視しなければならない点を最近の記事「地方公務員の給与削減問題」の中で訴えていました。デフレ脱却をめざす安倍政権の経済政策に照らした時、地方公務員給与の「削減要請」は真っ向から矛盾しています。さらに生活保護支給額が一部の低所得者層の収入を上回っているという理由から、保護費の引き下げを決めたことも問題視しなければなりません。
生活保護の基準額は他の多くの生活支援制度の目安にもなっているため、引き下げは受給者だけでなく、様々な制度の利用者の生活にも影響を及ぼします。このようなマイナスの波及効果は地方公務員の給与削減問題と同様であり、当事者以外にも広がった消費の冷え込みに繋がる恐れがあります。そもそも低所得者層の収入が生活保護基準以下になってしまったことのほうを問題視すべきであり、デフレ脱却を最大の目標としている現時点ではチグハグな政策判断だと言わざるを得ません。
気ままに書き進めてきたため、論点が拡散した内容になってしまったようです。いずれにしても春闘期、民間産別の労働組合は実質的な賃金改善を求め、連日交渉を重ねているはずです。たいへん残念で悩ましいことに私どもの組合をはじめ、地方公務員の組合は平均7.8%の給与削減を押しとどめられるかどうかが最大の焦点となっています。また、連合の闘争開始宣言に掲げられた柱の一つである非正規労働者の待遇改善も喫緊の課題です。
大勢の非常勤職員の皆さんを直接組織化している私どもの組合にとって日常的に力を注いでいる課題ですが、一足飛びな成果を見出せない現状でもあります。常勤職員に関しては「守り」の交渉を強いられがちですが、非常勤職員の問題は積極的な「攻め」の姿勢をよりいっそう打ち出したいものと考えています。最後に、デフレ脱却のためには非正規雇用者の賃金引き上げを優先しなければならないと主張しているフリージャーナリストの前屋毅さんの記事(「賃上げ」騒ぎはデフレ脱却につながらない) を紹介し、取りとめのない記事内容の結びとさせていただきます。
■だいじょうぶか?米倉会長
違和感がある・・・。2月19日、公明党の山口那津男代表らが経団連(日本経済団体連合会)の米倉弘昌会長らと政策対話を行った。報道によれば、井上義久公明党幹事長が「国民生活を向上させるために可処分所得を増やし、労働分配率を高めていくことが大事だ」と述べて、「デフレ脱却のために賃上げが必要との考えを示した」(msn産経ニュース)そうだ。これに対して米倉会長は、「デフレから脱却すればそういうことになる」と応えたという。
デフレ脱却の施策として賃上げを求められたのに「デフレが終われば賃上げする」と、なんともとんちんかんな答えをしたことになる。その前から安倍晋三首相も賃上げを求める発言をしているので、井上幹事長の言わんとするところを米倉会長が理解できなかったはずはない。
わかって、とんちんかんな答えをしたのだ。ことあるごとにデフレ脱却を政府に求める発言をしていながら、自ら協力するつもりは米倉会長にはないらしい。自分では何もしないで、ただ欲しい、欲しいと騒ぐ駄々っ子とかわりがない。こういう人が日本を代表する経済団体の長をしているのだから、日本経済がふらふらしているのも無理はない。
違和感をおぼえざるをえない米倉会長の発言、といわざるをえない。しかし、ほんとうの違和感は別のところにある。
■ずれてる論点
2月5日、安倍首相は経済財政諮問会議の場で、「業績が改善している企業には、賃金の引き上げを通じて所得の増加につながるよう協力をお願いしていく」と述べて、賃金引き上げを求めた。これに応えるように2月7日、政府の経済成長戦略を策定する産業競争力会議のメンバーでもある新浪剛史が社長を務めるローソンは、「デフレ脱却を目指して!」と銘打って、消費意欲の高い世代(20代後半~40代)の社員の年収を平均3%アップすると発表した。
ローソンでは「新浪社長のもともとの持論に基づく」として安倍首相の要請に応えたわけではないと説明するものの、絶妙すぎるタイミングで、「出来レース」と受け取られても仕方ないだろう。さらに2月8日の衆議院予算委員会で、ローソンの例をあげて「3ヶ月前に考えられたか。われわれの政策が経済を変えていく」と安倍首相が胸をはってみせたのだから、シナリオ臭くなる。
問題なのは、ローソンの「賃上げ」が正社員だけを対象にしているということだ。正社員とアルバイトなど非正規雇用者とを合わせると、ローソングループでは約20万人が働いている。しかし今回の「賃上げ」の対象となるのは、約3300人の正社員だけである。約18万5000人の非正規雇用者は対象外なのだ。賃金を上げることで消費を活発化させてデフレ脱却につなげるには、3000人の社員を対象にするより18万人の非正規雇用者を対象にするほうが効果が大きいことは誰が考えてもわかる。そこを無視して、「デフレ脱却のための賃上げ」と誇れるのだろうか。「われわれの政策の成果」と胸をはるにいたっては、あきれるしかない。
ローソンにつづいて作業服店チェーンのワークマンも賃金を引き上げることが2月19日になって明らかになったが、こちらも対象は正社員である。とんちんかんな米倉会長発言となった公明党と経団連の政策対話でも、前提になっているのは「正社員の賃上げ」で、「非正規雇用者の賃上げ」はふくまれていない。それでデフレ脱却が狙いというのは、論点がずれすぎているというしかない。
■ここを無視してデフレ脱却にはつながらない
労働力調査によれば、非農林業雇用をのぞいた雇用における全雇用に占める非正規雇用者の比率は、2012年で35.1%となっている。1990年が20%なので、急速に増えてきているわけだ。
その背景には、企業が人件費を削減するために正社員を減らし、その分だけ非正規雇用を増やしたことがある。それに拍車をかけたのが、小泉純一郎政権による人材派遣の規制緩和だった。
そして収入の少ない非正規雇用者が激増し、デフレ傾向にも拍車がかかってきたのだ。だからこそ、「賃上げによるデフレ脱却」を謳うのであれば、非正規雇用者の賃上げこそ優先させなければならない。そこを改善しなければ、ほんとうの消費拡大につながっていくはずがない。
そこを無視し、正社員だけ賃上げして「デフレ脱却のための賃上げ」と叫んでいるのは、どうにも納得できない。違和感をおぼえざるをえないのだ。
| 固定リンク
| コメント (39)
| トラックバック (0)
最近のコメント