今回の記事タイトルをご覧になり、「また批判の話か」と思われた方も多いのではないでしょうか。当初、新規記事のタイトルは別なものでした。実は1か月ぐらい前から、そのタイトルでの投稿を考えていましたが、直近記事のコメント欄での議論の流れなどを踏まえ、ずっと別な題材の内容に変わっていました。また、よくあるパターンですが、本題に入るまでの前置きの文章が長くなりすぎてしまい、そのタイトルを途中で差し替えた時もありました。
もったいぶる訳ではありませんが、論点が拡散しそうですので、今回、そのタイトル名は伏せておきます。次回以降の記事で必ず明らかにできるものと思いますのでご容赦ください。と言う訳で、今回も前回記事「職務の話、インデックス」のコメント欄の流れを踏まえた話に繋げてみます。ちなみにインデックス(索引)代わりの記事の投稿を続けてきましたので、今回も「公務員批判の話、インデックス」が望ましかったのかも知れません。しかし、公務員批判というカテゴリーで過去の記事を分類した場合、かなりの数のバックナンバーを見つけることができます。
そもそも公務員への風当りが強まっている中、批判を受けている側の言い分もネット上に発信していくことの必要性を感じ、このブログ「公務員のためいき」の開設に至っていました。したがって、今から「公務員批判」をキーワードに以前の記事を検索していくのは相当な労力と時間を要する作業でした。そのため、ハナからインデックス・シリーズ(?)はあきらめ、タイトルに「少しだけ」を付ける運びとなっていました。それでも最近の記事「退職手当削減と人事院勧告」の最後に掲げた3件の記事だけは、この場でも改めて紹介させていただきます。
木を見て、森全体が批判されがちで、さらに「公務員は…」という属性批判の多さに悩み、やるせない思いを抱えている方が増えているはずです。懸命に自分の職務に励み、誇りを持っている職員であればあるほど、そのような悩みや思いを強めているのではないでしょうか。他人事のように述べていますが、このブログを長く続けている中で、そのような悩ましさに直面した事例は枚挙にいとまがありません。
一方で、このブログのコメント欄を通し、「公務員は…」という批判を受けがちな現状に真正面から向かい合うことができ、「それでは、どうしたら良いのか」という自問自答を繰り返してきました。完璧な「正解」を見出すことは難しいようですが、自分なりに模索した「答え」を上記3件の記事の中で綴っていました。今回の記事は、そのような総論的な話を焼き直すものではありません。最近、誠に残念なニュースに触れた後、目に留まった雑誌の記事がありました。今回、それらの紹介を中心に書き進めてみるつもりです。
東日本大震災で被災した岩手県陸前高田市に応援派遣されていた盛岡市の男性職員
(35)が7月下旬に自殺していたことが24日、分かった。男性は「希望して被災地に行ったが、役に立てず申し訳ない」という趣旨の遺書を残していた。岩手県は支援業務が自殺の要因の一つになったとみて、被災した沿岸部の全12市町村に職員の心のケアなどを徹底するよう通知した。陸前高田市などによると、男性はことし4月、技師として盛岡市道路管理課から陸前高田市水産課に派遣された。
任期は1年間で、漁港復旧などの業務に従事していた。県が6月に男性と面談した際は、特に変わった様子などは見られなかったという。男性は遠野市内で7月22日、路上に止めた車内で死亡しているのが見つかり、遺書も車内にあった。県警は現場の状況などから自殺とみている。県によると、沿岸部の被災自治体で、県職員や他の市町村職員の応援派遣を受けているのは10市町村で計239人(1日現在)。派遣先は陸前高田市と大槌町がそれぞれ55人で最も多い。
【2012年8月25日河北新報】
被災地の公務員にうつ病が急増していることは耳にしていましたが、応援派遣の職員が「役に立てず申し訳ない」という遺書を残し、自殺された報道に接した時は驚きました。率直な見方として、派遣の期間は限られ、戻る場所があるのにもかかわらず、自らの命を絶たなければならないほど追い込まれた心情に胸が痛みました。『AERA』最新号に「香山リカが見た被災地公務員の苦悩 誰からも評価されない」という記事が掲載され、この自殺の話が冒頭に触れられていました。
やはり他地域から漁港の復旧のために派遣された職員の言葉が紹介されていました。「前向きな仕事だから、やりがいはあるんです。でも、限られた派遣期間内で結果を出さなければならないし、自分には何もできない、役に立たないという焦りがひどい。いまは民間の寮にいるんだけど、入浴時間までに帰れないから風呂なしの日も多いし。自分らのように内陸部から派遣されている人間は、もともと沿岸にいる人たちとの“温度差”にも気を使うね…」という言葉でした。
どこまで自殺された職員の事情と重なり合うのか分かりませんが、応援派遣された大半の職員の置かれた現状をよく表した言葉だろうと思います。この取材内容の後に精神科医である香山リカさんの「被災地で働く公務員のこころのケア事業」を通した報告が綴られていました。その記事のリードには「東日本大震災から1年半。被災者の心の傷は癒えることがないが、中でも支援にあたる公務員が極度のストレス状態にある。公務員のケアにあたってきた香山リカさんが現状をルポする」と記されていました。ネット上で当該の記事は見当たらないようですが、同じケア事業の内容を掲げたサイトを見つけることができました。
東日本大震災により、大きな被害をこうむった地域の公務員たちが疲弊している。うつ病や深刻なPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症する人たちが増えているのだ。精神科医の香山リカさんは、全日本自治団体労働組合(自治労)の依頼を受け、昨年の暮れから臨床心理士らとチームを組み、被災地の公務員のメ
ンタルケアを行っている。
私たちが訪れたのは岩手県の宮古市・大船渡市・宮城県の気仙沼市・名取市・福島県のいわき市・南相馬市などです。公務員といっても、市町村の役場に務める方から学校の教職員や保健師など幅広いのですが、皆さんの話を聞くうちに問題の深刻さがわかりました。各自治体で、精神面の不調により、休職する人や退職する人たちが増え続けているんです」(香山リカさん)
自治労の資料によれば、宮城県内の公務員は、定年前退職数は'10年度が約330人。しかし震災後の'11年度には100人増の約430人になっている。
退職者のなかには、心が壊れてしまった人も多いのだ。自治体職員たちの危機的状況は震災から1年半たった今も続いている。それどころか、実はこれからがさ
らに危険なのだと、香山さんは指摘する。
「震災発生から半年から1年は、皆が団結し、力を合わせて復興に向かう高揚した時期です。これを『ハネムーン期』と呼びますが、その時期を過ぎ、少しほっとして、色んな緊張がほぐれてきた1年から3年後くらいにかけて、支援者の間に、さまざまな精神疾患が現れるのです。実際、'01年9月11日のアメリカ
同時多発テロでも、2年から3年後にかけて、PTSDを発症した支援者たちがたくさんいました。それと同様のことが、今、東北の公務員たちの間で起こっているのです」(同)
住む場所や家族を失った怒りや悲しみは、市町村の役場の職員たちに向けられることも多かったという。自治労のアンケート調査で「被災住民から理不尽なクレームを受けた」と答えた職員は42.4%、「暴言や暴力を受けた」と答えた者も34.0%いた。
「こうしたストレスは、彼らの精神的な失調の原因にもなっていると思います。自衛隊員をケアしている精神科医の話では、自衛隊員は精神的な障害が比較的少ないそうです。それは、活躍がマスコミに取り上げられる機会も多く、被災者からも感謝されているからではないかといいます。"認められた"という思いが、
後遺症の発症を軽減しているということだと思います。逆に自治体職員は感謝されるどころか、罵倒され続けているわけですから、彼らのストレスはたまる一方です」【2012年9月3日Yahoo!ニュース】
それでも改めて読み比べた時、『AERA』の記事のほうが被災地公務員の生々しい言葉が紹介されているため、深刻な実態や苦悩がヒシヒシと伝わってきていました。ネット上に公開されていない内容の引用は極力控えるべきものですが、いくつか原文のまま、それらの言葉を並べさせていただきます。
震災が起きる瞬間まではパソコンで書類を作る業務だった。それが次の日には遺体安置所でご遺体の衣類の洗浄していました。その後は土葬の手伝いをして、また掘り起こして火葬にして…
実は私のところの家族も行方不明になったんです。でも、避難所で寝泊まりしろ、と指示が出て。本当は早く安置所回りして見つけてやりたかった。
支援物資が来ると、まずは住民優先ですからね。市庁舎に寝泊まりしている職員は、賞味期限の切れたパンやおにぎりを、それも1個だけ、という日が続いた。
役場のテレビで自宅が津波に流される映像を見た。あ、オレん家だと思ったけれど、住民や部下のことを思ったら帰るわけにもいかなかった。
復興も進まないし、住民もだんだんイライラしてくるのはわかるんです。でも、何時間も怒鳴られ続けたり、土下座しろと言われたりしていると、だんだんこっちまでまいってくるんだよね。
医者になんか通っているところを見られたら、また地元の人たちから何と思われるか。やっぱり公務員は甘いんだ、自分たちは仕事も失ったのにあいつらは税金で高い給料をもらって、と思われるよ。もう少し自分でがんばってみるから。
うつ状態に陥っていることが考えられたため、香山さんが医療機関の受診を勧めた際、返ってきたのが最後に紹介した上記の言葉でした。このような思いで仕事を続けながら、周囲からの評価があまりにも低く、それどころか一方的な批判や非難が寄せられていました。最も過酷な任務だったはずの自衛隊員の精神的な障害の少なさが明らかになっていますが、「認められた」という思いが発症を軽減しているそうです。その対比で考えると、被災地公務員のストレスは癒させることなく、倍加する残念な現状だと言えます。
航空自衛隊松島基地では長淵剛さんの慰労ライブが開かれました。香山さんのルポでは、何も長淵剛に来てもらいたいとか思っている訳ではなく、せめて「大変ですね。お疲れさま」という程度の感謝の声があれば、被災地公務員の疲れやストレスも半減するのではないかと書かれています。もちろん、被災地公務員の方々へ感謝の言葉を発している住民の皆さんが大勢いらっしゃり、このルポに記された内容がすべてではないだろうと思っています。
とは言え、被災地公務員の心のケアが深刻な問題となっている事実はその通りであり、さらに輪をかけた話が報告されていました。いくつかの自治体では職員の上司となる首長までが同じような姿勢で部下を抑圧する姿も見受けられていました。香山さんが取材で聞き取った職員の言葉をそのまま紹介します。
まだトップが「がんばってくれてるね」と認めてくれれば、ちょっとは救われるんだけど、住民に向かって、「まだまだ職員にはやらせなきゃ」とか、「残業代はカットします」とか、なんだか公務員叩きみたいなことを強調しようとするんだよね。パフォーマンスっていうのかな。
この言葉を受け、香山さんは「身内に厳しくし、“ミニ橋下路線”を狙うことで有権者の支持を得ようとしているのだろうか。しかし、そんなことをしても下で働く人たちのモチベーションが下がるだけで、復興への道は遠のくばかりだ」という感想を添えていました。香山さんは結びの言葉として、被災地の公務員が健康な状態でなければ、結果的には復興が遅れ、誰にとってもメリットはないとし、被災地にまで及ぶ「公務員叩き」を憂いていました。
最初に申し上げたとおり今回の記事は、目に留まった雑誌の内容の紹介を中心に書き進めてきました。お読みいただいた皆さんの中からは、いつものように様々な感想や意見が示されるのだろうと思っています。「たいへんなのは公務員だから当たり前」「つぶれる職員は、すぐ辞めさせて新人を補充すべき」「自治労の調査で、香山リカのルポなんて話半分で聞けば良い」「橋下市長批判に繋げるのは強引だ」などという声も寄せられるのかも知れません。
それはそれで、それぞれの考え方ですので、いつも幅広い視点や立場からのコメントを受けとめていく場としています。また、話が広がり、記事本文のテーマから大きく離れたコメントが寄せられたとしても特に強く自制を求めていません。「改めてコメント欄について」で綴ったとおりの方針で、他のブログに比べて非常に「自由な場」として続けています。その一方で、しつこいほどコメント欄における「お願い」は繰り返し呼びかけてきました。要するに「誹謗中傷の類いはもちろん、他者を意図的に不愉快にさせるコメントは控えていただきたい」という1点に集約できる話ですので、ぜひ、ご理解ご協力くださるようよろしくお願いします。
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