給与削減と公務員制度改革
国家公務員の給与削減に向けた法案の3党合意がはかられ、木曜日には給与削減特例法案が衆議院を通過しました。内容は次の報道のとおりですが、月内に成立する見通しです。3党合意した際のニュース紹介が冒頭に置かれているとおり今回の記事内容に関しては、先週末に投稿することも考えていました。ただ旬な話題としては大阪市の職員アンケートの問題だろうと判断し、「再び、橋下市長VS大阪市の組合」という記事を先に投稿していました。
民主、自民、公明3党の政調会長が17日、国会内で会談し、国家公務員の給与削減について、人事院勧告(人勧)に基づく0・23%の引き下げを昨年4月に遡って実施し、2012、13年度の2年間はこの人勧分を含めて平均7・8%引き下げることで合意した。削減で生じる約5880億円は復興財源に充てられる。自公両党が国会に提出している議員立法の一部を修正し、今月中の成立と4月からの引き下げ実施を目指す。民主党が給与削減とセットで審議入りを求めていた、国家公務員に労働基本権を付与する国家公務員制度改革関連法案については、3党の合意文で「審議入りと合意形成に向けて環境整備を図る」とするにとどめ、民主党が大幅に譲歩した形だ。 【読売新聞2012年2月17日】
自律的労使関係制度(人事院勧告制度の廃止と協約締結権の回復)を先取る意味合いからの労使合意だったのにもかかわらず、今回、その点に曖昧さが残る遺憾な経過をたどっていました。さらに連合会長も「寝耳に水」だった見られ方もあり、連合と民主党との信頼関係を大きく損ねる事態に至っていました。そのような中、民主党の輿石幹事長が連合本部を訪問し、古賀会長らに対し、この間の対応について謝罪していました。さらに関連4法案の成立に向けて全力を尽くす決意を明らかにしたことで、連合として三党合意を受けとめざるを得ないものと判断したようでした。
ここで本論から外れますが、少し注釈を加えさせていただきます。このブログの記事の中で、解説が必要と思われる用語には、なるべく別なサイトへのリンクをはっています。下線のある言葉をクリックいただければ、その用語の意味が分かるページを閲覧できるように努めていました。一方で、自治労や連合など頻繁に出てくる言葉に対しては、右サイドバーに「用語解説リンク」を設け、当該記事の中でのリンク先の紹介は省いていました。
公務労協(公務公共サービス労働組合協議会)という言葉も耳慣れないものの一つだろうと思っていますが、普段は「用語解説リンク」に委ね、その都度リンクをはっていませんでした。ちなみに連合に所属している私どもの組合の縦系列を簡単に表現した場合、連合>公務労協>公務員連絡会>自治労>自治労都本部>私どもの市職員労働組合、もう一つは連合>連合東京>連合三多摩>連合地区協議会>私どもの組合というような関係性があります。
自治労の位置に日教組や国公連合などが当てはまる訳ですが、今回の国家公務員給与削減交渉の当事者は国公連合でした。日頃から公務員関係の諸課題では、公務労協や公務員連絡会が中心となって政府との交渉に当たっていました。そのような関係性があるため、3党合意の動きがあった直後の2月19日、公務労協として下記のとおり「給与の臨時特例に関する法律案」及び「国家公務員制度改革関連4法案」等に係る3党(民主、自民、公明)協議の経過と決着等に対する声明を出していました。
2月16日夕刻に開催された政府・民主党三役会議は、これまで民主、自民、公明の三党の政調会長会談、同実務者会議において協議されてきた「国家公務員の給与の臨時特例に関する法律案」(以下、「臨時特例法案」という。)及び「国家公務員制度改革関連4法案」(以下、「関連4法案」という。)の取扱いについて、自民党及び公明党との協議を継続することとされた。そして、これに際し民主党は、翌2月17日、輿石幹事長が連合を訪問、古賀会長等と会談し、「関連4法案」の成立に向けて民主党が全力を尽くす決意が明らかにされた。
2010年参議院議員選挙以降、ネジレ国会における政治の混迷を踏まえた、3党間のこの問題に関する協議は、政調会長会談が2011年12月1日・15日、2012年1月5日に行われ、その委任を受けた実務者会議が2011年12月2日、2012年1月25日・30日・2月1日と、第179臨時国会の終盤以降、断続的に実施されてきた。これらの協議を踏まえ、2月9日の実務者会議において「成案が得られなかった事項」をはじめとする国家公務員の給与削減と「関連4法案」の取扱いについて、2月17日の3党政調会長会談において合意した。
具体的には、①人事院勧告を実施、さらに7.8%まで国家公務員の給与削減を深堀りするため、自民党・公明党共同提出の「一般職の国家公務員の給与の改定及び臨時特例等に関する法律案」を基本とする、②地方公務員の給与については、地方公務員法及び「臨時特例法案」の趣旨を踏まえ、各地方公共団体での対応のあり方について、国会審議を通じて合意を得る、③「関連4法案」については、審議入りと合意形成に向けての環境整備を図る、等となっている。
なお、一部マスコミ報道が「自公案丸のみ」としていることは、明らかな事実関係の誤認であることを指摘する。一方、第180通常国会開会直後の1月25日の3党実務者会議において、民主党が提起した「2011年度人事院勧告の実施」は、連合をはじめ労使合意当事者である我々に一切の相談も事前告知もないまま行われたことは厳然たる事実であり、政党間協議という性格上、極めて機密性の高い問題ということは否定しないが、それが我々との信頼関係に優先するということはあり得ないことを厳しく喚起し、今後、このようなことが断じてないことを強く求めるものである。
また、政府と関係組合との労使交渉及びその合意は、最も尊重されなければならないことは当然のことである。なお、昨年5月、当時の菅政権との間において、政府自らが自律的労使関係制度(人事院勧告制度の廃止と協約締結権の回復)を先取ることを表明した交渉において、民主党及び政府との信頼関係のもと、東日本大震災の復旧・復興の財源に充当するため苦渋の判断と決断を持って対応した国家公務員の給与削減に係る労使合意を踏まえれば、今般の3党政調会長合意は、極めて残念である。
しかし、第180通常国会が、政権争いという政局に埋没した野党側の対応により、政府・与党の政権運営が過去に例のない難渋を極めているもとでの判断である。民主党を中心とする政権が、国民が安心して暮らすことのできる社会を実現し国民から信頼される政権として機能するため、そして何より遅れている東日本大震災の復旧・復興の財源として一刻も早く措置することを最優先として、三党政調会長合意を受けとめるものである。
公務労協は、連合とともに組織の総力を傾注し、「関連4法案」の今国会における成立と、「地方公務員の労働関係に関する法律案」等の早期国会提出と成立に向け、とくに公務員の労働基本権の回復は、60年余の公務労働運動の悲願であるとともに、政権交代という千載一遇の機会において、そして、すでに人事院勧告による給与決定システムが機能し得ない現状のもと、向後の公務員給与決定システムに係る展望を確保するという観点から、何としても達成しなければならない至上命題として持てる力のすべてを注ぐものである。
少し迷いましたが、声明の全文を転載しました。もともとホームページ上に掲げられている内容であり、公務労協としての見方や考え方を正確に伝えるためには、そのほうが適当だろうと判断しました。また、このような文章を普段見慣れていない方々にとって、どのように映るのかという興味もあったからでした。当該の国家公務員の皆さんからは「弱腰」と批判されるのかも知れませんが、現在の政治状況の中で私自身も、連合や公務労協の受けとめ方はやむを得ないものと見ています。
しかしながら最終的な結果としても、公務員制度改革関連法案が流れるような場合は非常に大きな問題だろうと考えています。60余年の悲願の歴史をたどってみると、終戦直後は公務員も労働組合法などの適用対象でした。それが1948年のマッカーサー書簡(公務員のストライキを禁止)を契機に公務員の労働基本権の制約が進み始めました。それ以降、現在に至るまで公務員には争議権や協約締結権が認められず、警察と消防職員には団結権も否定されています。そのため、公務員法では「労働組合」ではなく、「職員団体」と呼ばれていました。
とは言え、間違いなく公務員も勤労者であり、憲法第28条(勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。)によって、労働基本権は保障されていると解釈されていました。あくまでも一部制約があるという見方でした。合わせて、ILO(国際労働機構)は151号条約で、公務員の団結権、団体交渉権、争議権、市民的権利を定めました。2002年11月のILO理事会では、日本政府に対して「公務労働者に労働基本権を付与すべき」という勧告も採択していました。それに対し、日本政府は条約の批准を見送り、このような国際的な要請にも応えない姿勢に終始してきました。
ようやく数年前から公務員組合側と政府との協議の場で、労働基本権回復が具体的な課題として取り上げられるようになっていました。つまり自公連立政権当時の行革相も「労働基本権の見直しは不可欠」との考え方を表明していました。それにもかかわらず、現在の自民党の茂木敏充政調会長からは「(公務員は)労働協約権が手に入り、好き放題できる」という決め付けた批判を繰り返し、改革法案の審議入りに応じない構えを見せ続けていました。
ここで、公務員制度改革関連法案が成立すると、どのような変化があるのか簡単に紹介していきます。法改正後、人事院(人事委員会)による勧告制度は廃止されます。「職員団体」から「労働組合」に位置付けられ、労使交渉によって賃金・労働条件を決定する協約締結権が付与されます。これまでも書面協定を結ぶことは可能でしたが、法的拘束力はなく、労使双方に道義的な義務を課しているに過ぎませんでした。そのため、労使交渉や労使合意なく、首長が条例案を議会に提出し、あるいは締結した文書協定の内容を反故にしても法令上は責任を問われることがありませんでした。
改正後は、正当な理由なく交渉を拒否した場合は不当労働行為として救済申し立ての対象となり、交渉不調や一方的に交渉が打ち切られれば、斡旋、調停、仲裁手続きを労働委員会に委ねることが可能となります。残念ながら争議権の付与は今後の検討課題となっていますが、民間法制に大きく近付く法改正であることは間違いありません。なお、現時点で地方公務員の労働関係に関する法案の提出の見通しは立っていませんが、国家公務員の改正内容に沿った中味が予定され、早ければ2013年度から地方公務員にも導入される計画だと聞いていました。
このような経緯がある中、公務員組合にとって公務員制度改革関連法案の行方は重大な関心事でした。決して「好き放題」できるからというような理由で望んでいる訳ではなく、憲法からも国際的にも当たり前な姿に近付けて欲しいという願いに過ぎませんでした。仮に争議権まで回復できたとしても、このような社会情勢の中で、無鉄砲に行使するような発想は公務員組合の役員、誰も持っていないはずです。
そもそも給与削減の問題と公務員制度改革が絡められている点も不合理な話でした。それでも連合系の組合である国公連合と民主党政権との協力関係があったからこそ、大義名分を重視しながら、たいへん厳しい提案内容の合意に至っていたものと思っています。僭越な言い方となって恐縮ですが、復興財源という意味合いなどを踏まえれば、連合系の組合も含めて交渉決裂だった場合、それはそれで難しい事態に陥っていたようにも感じていました。このような苦汁の選択を組合側が強いられながら、このまま約束が不履行であれば、それこそ連合や公務労協は重大な決断を下すのだろうと思っています。
最後に、下記の報道を耳にした時、「何だかなぁ」という失望感が広がっていました。「言うだけ番長」と揶揄されたことに腹を立て、産経新聞の記者を会見から締め出した民主党の前原政調会長ですが、本当に自分の立場や発言の重さを理解できていない方だと改めて痛感しています。その時の情勢を踏まえ、労使交渉の結果として指摘されているような可能性があり得ることを完全に否定できませんが、「今、あなたが、そこで話すことですか」という質問を投げかけさせていただきます。
民主党の前原誠司政調会長は22日、大阪市内で講演し、国家公務員給与を12年度から2年間、平均7.8%削減することについて「これだけひどい財政状況を考えれば、2年間でまた元に戻すことができるはずがない。国民が許さない」と述べ、14年度以降も給与削減を続けるべきだとの認識を示した。【毎日新聞2012年2月22日】
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