さようなら原発5万人集会
先日、名無しさん(ハンドルネーム)から「読売新聞をとっている自治労幹部も珍しい・・それくらい自治労御用達は朝日新聞と思っておりました」というコメントが寄せられました。自治労に所属している一単組の役員に過ぎず、「自治労幹部」という見られ方にも少し違和感がありましたが、それよりも「最近、朝日新聞が自治労御用達という見方は、あまり耳にしていませんでした」とお答えしたところでした。
政治的な立場を「右か左か」で分けた時、読売新聞は右で、朝日新聞は左という見方がありました。名無しさんの指摘は、左に位置する自治労の組合役員が右の読売新聞を購読していることへの疑問だったようです。そのような色分けが今でも適切なのかどうか分かりませんが、「ブックマークしているブログ」で記したような動機からも、発行部数トップの読売新聞を注目していました。つまり日頃から幅広い主張や情報に接することで、少しでも柔軟な思考回路が保てればと願っているからでした。
自分自身の立場や役職から得られる情報は、黙っていても容易に入手できますが、決して多面的な見方まで保障したものではありません。そのため、多種多様な情報や考え方に触れていくためのアンテナが重要だと思っています。と言うような難しい説明を加えましたが、実は高校時代の3年間、アルバイトで読売新聞の朝刊を配達していました。その販売所のスタッフが中心となった草野球チームに所属していた縁もあり、ずっと読売新聞だったという理由のほうが、より正しい答えだと言えました。
本題と異なる話が長く続いたように思われたかも知れませんが、つい最近、その読売新聞や朝日新聞などマスメディアの基本姿勢の差異を改めて知らされる機会を得ました。先週の月曜、祝日である敬老の日に「さようなら原発5万人集会」が明治公園で開かれました。目標の5万人を大きく上回る約6万人が主催者発表の参加者数でした。参加団体それぞれの報告数が切り上げながら集約されていきがちなため、一般的に主催者発表の人数は実数より多くなりがちでした。
それでも警視庁が発表した2万7千人は、逆に控え目すぎる印象を抱いていました。私も当日の参加者の一人でしたが、千駄ヶ谷駅で電車を降りてから会場まで人、人、人で埋め尽くされた中を向かう雰囲気を味わいました。私どもの組合のメンバーは何とか会場内に入れましたが、立錐の余地もないという言葉がピッタリ当てはまる参加者の多さを体感してきました。自治労全体では4500人だったようですが、労働組合など団体とは無関係な参加者が非常に多い集会だったことも間違いありません。
これほど大規模な集会は珍しくなっていたため、メディアからの注目も高く、その日のニュース番組の大半で取り上げられていました。参加者の数は主催者と警視庁の発表、それぞれを報告する番組が多かったのではないでしょうか。中には警視庁発表の2万7千人のみを伝える番組もありましたが、深い意図があったのかどうかは分かりません。ただ翌朝、組合事務所に届いている読売、朝日、毎日新聞の各紙面に目を通した際、それぞれの社の方針を反映した思惑を感じ取らざるを得ませんでした。
この集会を朝日新聞と毎日新聞は写真とともに一面で取り上げていました。一方で、読売新聞は社会面の小さなベタ記事扱いにとどめていました。久しぶりに新聞社の違いによって、伝え方に大きな差が出る事例に触れた機会となり得ました。このような取り上げ方の差異について、思い過ごしな面もあるのかも知れません。しかしながら、やはり脱原発の方向性に消極的な場合、「さようなら原発5万人集会」を大きく取り上げたくないという意思が働くのだろうと想像してしまいます。
このような事例に接したため、冒頭で紹介した名無しさんのコメントを思い出しながら、今回の記事に繋げていました。原発に依存しない社会をめざしたいという思いは、その集会に参加された皆さん一人ひとりに共通した願いだろうと考えています。言うまでもなく、原発事故は二度と起こさないという強い決意も同様であるはずです。ただ一気に全原発の停止をめざすのかどうか、この点に関しては個々人での温度差があるように見ていました。
野田首相は原発政策を「脱原発と推進という二項対立でとらえるのは不毛だ」と述べてきました。先日の国連の場で「原子力発電の安全性を世界最高水準に高める」と野田首相が強調したことで、読売新聞の社説では「原発の安全性を高め、引き続き活用する方向性に軸足を置いたものだ。具体的な展望のない、菅前首相の脱原発路線と一線を画した」と記し、現実的かつ妥当な判断だと評価していました。
「二項対立は不毛」という前提がある中で、脱原発路線を捨て去ったと決め付ける読売新聞の論調は勇み足のように感じています。野田内閣も「原発の新増設はできない」という基本的な方針は言い切っていたはずです。その上で、ただちに原発すべてを停めることが困難だと考えるのであれば、「安全性を世界最高水準に高める」という言葉は適切なものだろうと思います。
このように書き進めると、誤解を招きがちなことも覚悟しています。それでも端的な思いとして、近い将来、脱原発社会を実現させるためには拙速に結果を求めず、代替電力の確保などを緻密に計画していくことが欠かせないものと考えています。稼動中の原発の安全対策に万全を期すことは当然ですが、定期点検で停止中の原発の運転再開に向けても地元の意思を尊重しながら慎重に判断しなければなりません。
停止中の原発の再稼動を一切認めないという声も上がりがちですが、そのようなスローガンは原発の即時廃止と同じ意味合いとなります。1年ほど運転した後、原発は必ず停止し、定期点検に入らなければなりません。現実的に対応できるのであれば、来年中に脱原発社会が築けることに反対する立場ではありません。しかし、あまりにも拙速な目標を現時点で立てることは結果的に高いハードルを掲げることに繋がり、脱原発への風向きが変わってしまうような懸念を抱いていました。
この集会に向けた記者会見が9月6日に開かれました。その時の声明の中には「停止している原発は、再稼働させない」という一文が掲げられていました。そのため、上記のような心配をしていましたが、基本的な集会趣旨の呼びかけの中にはその一文は外されていました。「新規原発建設計画の中止」「浜岡からはじまる既存原発の計画的廃止」「もっとも危険なプルトニウムを利用するもんじゅ、再処理工場の廃棄」 の3点のみが強調されていたため、少しホッとしていました。
最後に、大江健三郎さんや俳優の山本太郎さんらが登壇した集会そのものは午後1時30分に始まり、1時間ほどで終わりました。デモに出発できる自治労の順番は最後のほうだったため、会場から出られる時間が相当遅くなることを覚悟していました。とは言え、5時を回るとは思わず、人込みの中、ひたすら待ち続ける時間は本当に長く感じました。代々木公園までのデモ行進は1時間弱でしたが、参加された組合員の皆さん、たいへんお疲れ様でした。
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