国家公務員給与削減へ
前回と前々回の記事で国家公務員給与の削減問題を取り上げてきました。地方公務員に影響を及ぼす可能性がある問題ですが、差し当たっては国家公務員の組合やその組合員の方々が判断しなければならないものでした。そのため、事実関係の報告を中心にした記事の作成に心がけてきました。削減問題が一定の決着をはかったことを受け、今回の記事もニュースや公務労協の情報などをもとに綴らせていただきます。
東日本大震災の復興財源を確保するため、菅政権と連合系の公務員労働組合連絡会(連絡会)は23日、国家公務員給与の削減幅について合意した。課長以上の幹部を10%▽課長補佐・係長を8%▽係員を5%それぞれ削減する。ボーナスは一律10%減らす。給与法の改正後に適用し、2013年度末まで実施する。
菅政権は当初一律10%減で3千億~4千億円の確保を目指したが、削減幅で譲歩した。片山善博総務相と連絡会が同日協議し合意した。政権は労働基本権を拡大する国家公務員制度改革関連法案とともに、給与法改正案を6月3日に閣議決定したい考え。法案が成立すれば人事院勧告を経ない削減は初めて。 全労連系の日本国家公務員労働組合連合会は削減に反発し交渉が続いている。【asahi.com2011年5月23日】
連合系の産業別組合が公務労協(公務公共サービス労働組合協議会)に結集しています。その下部組織として、公務員労働組合連絡会と国営関連部会があります。今回、総務省との削減問題の交渉は、自治労、日教組、国公連合などが結集する公務員連絡会が担っていました。その上で、国家公務員の皆さんが直接的な当事者となるため、国家公務員の組合の連合組織である国公連合が前面に出て、精力的な交渉が重ねられました。
国公連合に属する全財務の公式ブログを拝見すると緊急職場集会などを通し、短期間の中で組合員の皆さんとの丁寧な情報共有や合意形成に努められていたことが垣間見れていました。同時に組合員から「10%…」「こんなやり方、ありなのか…?」「突然そんなこと言われても…」というような率直な戸惑いの声も掲げられていました。最終的に上記の報道内容のとおりの決着に至った訳ですが、全財務労働組合中央執行委員長の「片山総務大臣との交渉を終えて」の中の次のような一文が厳しい情勢に対する認識を表していました。
私たち全財務をはじめとする労働組合は、組合員の生活改善、労働条件の維持改善を最大目的に掲げる組織であり、したがって、給与削減について反対の立場にあることは当然であります。一方で、昨年の参議院選挙の各党マニフェストや人勧深堀論にも見られるように、与野党を問わず国会での公務員人件費への厳しい攻撃、東日本大震災を受けた世論の動向などを踏まえた時、「給与削減絶対反対」を貫くことは戦術上可能ではあるものの、こうしたある意味強力な権限を有する政府・与党等との力関係を含めた情勢を考慮した場合、政府による一方的な給与削減の強行にとどまらず、1割削減以上の更なる人件費削減の攻撃に晒される懸念が強くあったことも事実です。
その一方で、別な役員から“ここからは個人的意見ですが、この度の給与カットは組合員の生活(私自身の生活も含め)を鑑みると、「とてつもない」厳しい内容になったことは言うまでもありません。しかし一方で、この交渉で得たものがあることも事実です。中でも、労使の合意でこの課題を決着させたこと、そして政府の責任で自律的労使関係の導入に係る法案を成立させるという約束を得たことは、「とてつもない」大きな収穫だと思っています。”という前向きな感想も示されていました。ここで、今回の総務省交渉で確認した事項について、改めて整理してみます。
- 一般職の国家公務員のボーナスについて一律10%、俸給について役職段階に応じて5%(係員)、8%(係長・課長補佐)、10%(課長以上の管理職及び指定職)を特例法案の成立後、施行から2013年度末までの間、特例的に削減する。
- 労働基本権付与の法案と特例法案を同時に提出し、同時に成立をはかる。
- 定員への配慮とし、新しい純減計画を作成する状況にはない。総人件費2割削減の見直しに向け、与党の政策責任者に伝える。
- 勤務をすれば手当が出るのが原則であり、超過勤務予算を確保し、不払い残業の解消に努める。
- 国が財政措置を一方的に決定し、財政面から地方を追い込むというのはふさわしくなく、地方公務員をはじめ、独立行政法人や国営企業等の給与が主体的、自主的に決められるよう注視していく。
なお、公務員連絡会として“今回の措置は、人事院勧告制度の下で、勧告を経ずに給与を引き下げるという極めて異例な措置であるが、労働基本権の付与と自律的労使関係制度の確立を先取りする形であり、労使交渉で決着することが不可欠であったこと、政府との間で真摯で誠実な交渉を行ったことを踏まえ、今後、労働基本権が付与され、労使交渉によって公務員労働者の適切な賃金・労働条件を自律的に決定することを強く確信し、今回の給与引下げ措置を受け入れることとしたものである。”という見解を添えていました。
一方、全労連系の国公労連は「人事院勧告に基づかない給与削減は憲法違反だ」と断固反対の立場で、6月1日から3日まで総務省前で抗議の座り込み行動に取り組む予定です。それはそれで当該の組合の判断となる話ですが、省庁間で所属組合が異なるため、必ずしも「労使交渉によって決定」という原則には至らない悩ましい現状でした。このような点については、「EU労働法政策雑記帳」の記事「国家公務員の月給10~5%削減 震災財源で政労合意」のコメント欄でも話題になっていました。
いずれにしても今後、地方公務員は本当に影響を受けないのかどうか、まだまだ未知数な要素があります。石原都知事は「国がやるなら都庁もやる」と発言していました。さらに民間への波及の恐れもあり、経済への悪影響も懸念されがちです。ちなみに前回記事のコメント欄でも紹介しましたが、「週刊ポスト」2011年6月3日号の『公務員の給与カットに「ザマアミロ」というしっぺ返し来る』の中で記されていた一つの見方を改めて最後に掲げさせていただきます。
公務員の給与カットに胸のすく思いの国民は多いはずだ。が、「ザマアミロ」ではすまない。この震災賃下げが契機となって、民間にも減給の波が押し寄せ、「給与カットの連鎖」が起きる危険性があるからだ。経済評論家・奥村宏氏がこう指摘する。「企業はいま、とにかく人件費削減を進めたい。日本経団連が2007年にホワイトカラーの残業代をゼロにできる制度の導入を働きかけたように、人件費削減を狙ってきた。今回の公務員の賃下げは、経営者が組合や社員に震災後の業績悪化を補うための賃金カットを求める口実になる」
大震災以後、客足が激減している東日本の観光地の観光業界団体役員が語る。「宴会も減ったままだし、稼ぎ時の大型連休もパッタリでした。いつ従業員に賃下げを切り出そうかと考えていたが、国が範を示したからやりやすくなった」 製造業も震災による部品不足や夏の節電目標などで工場の操業率が低下しており、今期の業績大幅悪化が予測されている。大手から中小、零細企業まで広範囲に人件費削減が行なわれることを警戒しなければならない。
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