公務員の人件費
東京の最高気温は金曜日に20度を超え、一転して土曜日は10度前後となり、10度ほどの差がありました。三寒四温という言葉もありますが、真冬だと思っていたら、いつのまにか春の訪れを感じている季節も間近なのかも知れません。ちなみに労働組合の世界では、年明け早々から春の闘い、春闘の季節を迎えています。
以前、「季節は春闘、多忙な日々」という記事を投稿していましたが、今年も同じように忙しい日が続いています。新年度に向けた職員配置数の問題、給与構造改革とも呼ばれる賃金水準の独自な見直しなど、労使交渉の課題は多岐にわたり、それぞれ非常に重要な内容でした。例示した二つの課題は言うまでもありませんが、私どもの自治体の人件費総額に直結するものでした。
このように人件費は、職員数と個々の給与総額によって変動します。給与の中味は、月額給料の他に扶養手当や住居手当等の諸手当、時間外勤務手当、期末勤勉手当(賞与)、退職手当などを含んだものです。加えて、年金や健康保険料等への事業主負担分も人件費の中に含めて考えられています。このような人件費のとらえ方や事業主負担分の考え方は公務員に限らず、概ね民間企業の場合も同じ扱いとなっています。
政権交代以降、民主党のマニフェストに掲げられた国家公務員の総人件費2割削減の問題が注目を集め続けています。その際、国家公務員一人ひとりの給与水準を2割減らすような見られ方が強まっていますが、正確には「地方分権に伴う地方移管、国家公務員の手当・退職金などの水準、定員の見直しなどにより、国家公務員の総人件費を2割削減する」と衆院選に向けたマニフェストには記されていました。
このマニフェスト策定にあたっては、民主党の政策担当者と連合との間でも議論が交わされていました。その場では、地域主権改革がマニフェストの大きな柱であったため、権限と財源の地方移管に伴う人件費削減が主な手法となる説明だったと聞いていました。残念ながら菅首相らが、そのような点を強調した場面を見ることができていません。意図的なのかどうか分かりませんが、「守れないマニフェスト」の一つとして数えられがちであり、ますます自らの首を絞めているように思えてなりません。
さて、以上の話は事実は事実として触れましたが、このブログを閲覧されている皆さんの中には憤りを覚える方もいらっしゃるのだろうと見ています。「もともと公務員の給与は高いのだから2割削減でも手ぬるいと思っていたのに」「ますます詐欺のようなマニフェストだ」「やはり民主党は労働組合に操られていた」という意見などが示されるのかも知れません。さらに公務員を批判的に見ている方々から反発を招くような話を冒頭に持ってきた私への批判が示されることも覚悟しています。
前回の記事「公務員の職務と責任」に対しても、たくさんのコメントをお寄せいただきました。やはり公務員の働き方や待遇を批判するコメントも少なくありませんが、そのような批判の仕方に疑問を投げかけられる方々も増えていました。また、その方々が必ずしも公務員ではないため、たいへん心強く感じていることも確かでした。1週間のアクセス数は約1万件、訪問者数はその半分弱という狭い中ですが、幅広い立場の方々に閲覧いただいているブログであることも間違いありません。
そのため、このブログに寄せられる意見は、実生活の中で物事を判断する際の一つの参考資料にもなっていました。これまでも記してきたことですが、私自身の主張の大半が常に四面楚歌、批判の集中砲火を浴びるようであれば、組合役員を続けていくこと自体が大きな悩みとなっていたはずです。厳しい批判の声がある一方、幸いにも自分自身の考え方も間違っていないという勇気付けられるコメントも数多く頂戴してきました。
このような経緯や背景を踏まえ、前回記事のコメント欄を読みながら感じた自分なりの感想や意見を述べさせていただきます。若手??経営者さんから「OTSUさんは必死に既得権益を守ろうとする尖兵にしか見えませんね」という指摘を受けました。私自身、自治労に所属している職員労働組合の執行委員長という立場を明らかにしていますので、そのような見られ方も致し方ないものと思っています。
この点については以前の記事(「襟を正す」記載の難しさ)でも記しましたが、労働組合の役割は組合員一人ひとりの現行の生活水準を守ることが第一だと考えているからでした。とは言え、公務員に対する厳しい逆風も痛感しているため、長期的な視点で判断すべき責任の重さも受けとめなければならず、その肌感覚を当ブログなどを通して磨いているとも言えます。つまり時代の変化や情勢認識を見誤らないためには、多種多様な情報を適確に把握していく必要性を強く認識しています。
私どもの市における前述した賃金水準の独自な見直し、要するに削減提案は最大で月額3万円近くに及ぶ内容でした。新年度に向けた大きな労使課題となっていますが、組合の立場としては「はい、分かりました」と簡単に受け入れられるものではありません。それでは、どのような解決への道筋が妥当なのか、内外からの見られ方を充分意識しながら決着点を探る責務が組合役員には求められているものと思っています。
今年度の予算ベースにおける公務員人件費は財務省主計局の資料で、国が5.2兆円(56.4万人)、地方が21.7兆円(235.2万人)でした。先日の『TVタックル』で使われていた平均年収は時間外勤務手当を除く2009年分として、国家公務員635万円、地方公務員611万円に対し、民間406万円という比較の数字が使われていました。それぞれの額は人事院、総務省、国税庁の資料から示されていました。
民間の数字は日払いなどの雇用者を除いていますが、派遣やパートなどの非正規雇用も含む額となっています。これまで収入と所得の違いを踏まえず、乳幼児なども含む全人口で割った数字を市民の年収200万円とし、役所職員の年収が3倍以上と批判していたケースもありました。『TVタックル』で使われた数字は、そのように誤った比較ではありませんでしたが、コメンテーターの理解不足や意図的なミスリードが所々で目立っていました。
一例として、民間406万円の中に派遣やパートの年収が含まれていないような印象を与えていました。学校給食の話で「調理師は公務員でなければいけない」という福岡政行さんの言葉は栄養士の誤りであり、全体を通して本当に熟知した上で解説しているのかどうか疑問に思う内容でした。なお、このような統計資料に基づく比較の話は、前回記事のコメント欄で皆さんから詳しく説明いただいていました。
いつものことながら突っ込み所満載の番組でしたが、もう一つだけ、たいへん気になった出演者の発言がありました。公務員の給与が民間より高い点について「民間が上がるように努力すべき」と自治労幹部が発言していたという話題に対し、勝谷誠彦さんが「自治労を呼びましょう、今の発言をテレビの前でできるのか、この野郎」と激高していました。話の流れそのものが自治労幹部の発言を揶揄していたため、自治労はとんでもない傲慢な組織だという印象がかもし出されていました。
しかし、もともと公務員の給与は民間相場の反映です。労働基本権の代償である第三者機関の人事院が同種同等の原則のもと、毎年、50人以上の規模の事業所を標本抽出して格差を是正する勧告を行なっています。その50人以上の是非に対する評価があることも承知していますが、制度的には公務員給与は民間と同水準に位置付けられています。その上で、取り上げられた民間406万円というように低くなりがちな背景は、非正規雇用の増大が影響していることを指摘しなければなりません。
経営の厳しさや国際競争力を高める目的が喧伝され、財界の意向をくんだ労働法制の規制緩和などが繰り返される中、労働力のダンピングが進みました。加えて、リストラや就職氷河期を経て、本来自立した生活給が必要な労働者までも「家計補助的賃金」水準に余儀なくされる事態に至っています。したがって、このような背景を考えれば、自治労幹部が「民間を上げるべき」と発言したことは、労働組合の役員の立場として当然であり、何ら批判される言葉ではないものと思っていました。
さらに以前の記事「定期昇給の話」でも綴ったとおり成果主義の導入などによって、民間では年功給の体系が薄まっていました。それに対し、公務員側は年功給の色彩が強く残る中、職員数削減という行革によって新規採用の手控えが続いていました。結果的に職員の平均年齢が上がり、そのまま平均年収も上がる構図をたどっていました。
今回の記事も長くなりましたが、あくまでも事実関係を中心に述べてきたに過ぎません。公務員給与が高いことの言い訳に聞こえる方もいらっしゃるかも知れませんが、言い訳であることを特に否定するつもりはありません。一般庶民さんから「冷静な議論に必要なのは、客観的な事実に基づく議論であって、感情論や印象論に終始することは避けたい」というコメントをいただきましたが、私自身も心からそのように願っているからでした。
最後に、公務員制度改革の一環として、人事院勧告制度は廃止される方向となっています。2013年からは新たな制度のもとで、自律的な労使関係によって公務員の給与が決められていく見通しです。その際、現行の水準を維持できるのかどうか、ますます住民の皆さんからの理解が重視されていくものと受けとめています。同時に公務員の人件費の問題は財政健全化のためにも避けて通れない難題であり、その水準の妥当性についての情報発信力や判断力を日々磨いていこうと考えています。
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