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2010年9月 5日 (日)

自治労委員長の問題提起

前回の記事は「混迷を深める阿久根市の夏」でした。そのコメント欄で今朝ほど記したことですが、先週日曜に放映された「サンデー・フロントライン」の内容に憤った竹原市長は番組制作者らに対して、謝罪と訂正を求める抗議文を送ったようです。専決処分が違法であると決め付けられたことに反発した抗議でしたが、議会が開ける状態でありながら開かずに下した専決処分が違法であることは明白でした。

竹原市長いわく、首長と議会との間が不信任の関係だから専決処分は許され、その是非は司法が判断すべきと主張されています。裁判官も公務員だから信用できないと語っていた竹原市長の変節ぶりは横に置きますが、普通に考えれば到底裁判で争えるような論点ではないことも明らかでした。独特の理屈で地方自治法の条文を解釈されているようですが、結局のところ仙波氏も適切な助言を行なえるブレーンとはなり得ず、毎度のことながら竹原市長の致命的な問題だと言えます。

また、先日の阿久根市議会で議決された通年議会条例について、公布しないことを竹原市長は宣言していました。地方自治法第16条で「条例の送付を受けた場合、20日以内に公布しなければならない」とされていますが、またしても法律を無視する暴挙に出ようとしています。このように竹原市長絡みの話題は尽きることなく、まだまだ混迷を深める阿久根市の夏でした。引き続き新規記事で取り上げることも考えましたが、今回の記事は8月末に徳島市で開かれた自治労の定期大会について触れてみます。

そもそも阿久根市の騒動を「対岸の火事」としないためにも、自治労に所属する各自治体の職員組合は自分たちの足元を見つめ直していく努力が欠かせません。私自身の問題意識の一端は、最近の記事「人事院勧告と最低賃金目安」の中で表していました。すると自治労大会冒頭の主催者を代表した挨拶で、徳永委員長からも同様な趣旨の問題意識が示されていました。たいへん心強く感じたところであり、その発言の要旨は次のとおりでした。

自治労(全日本自治団体労組)の徳永秀昭委員長は26日、徳島市で開かれた定期大会のあいさつで、「正規職員と非正規職員が賃金をシェアすべきだ」と述べた。一例として、人事院勧告に準じて地方公務員の正規職員の給与が削減された場合、削減分を非正規職員に配分する方向で労使交渉を進めることを提案。正規と非正規の格差解消に向け、産別労組のトップが具体的な提案をするのは極めて異例で、労働界全体に影響を与えそうだ。

徳永委員長は、一部の正社員が賃下げを受け入れて非正規雇用をなくした広島電鉄の例を挙げ、「正規・非正規の均等待遇を実現するためには、もう一歩進んだ運動展開が必要な時期に来ている」との考えを示した。自治労が09年に実施した調査によると、全国の自治体の非正規職員は推定60万人。特に財政の厳しい地方の町村では、正規を非正規に切り替える傾向が強く、職員の半数が非正規という状況にある。また、非正規職員の6割が正規職員並みに働く一方、定期昇給はなく、各種手当も支払われないため、8割が年収200万円以下の「官製ワーキングプア」とされる。

徳永委員長は「非正規職員が搾取されているのが実態」と現状を指摘した。だが、公務員に対する国民の目は厳しく、非正規職員の処遇改善のための新たな原資は見込めないのが実情。人事院勧告に準じて全国の自治体が給与や手当を切り下げた場合、影響額は2340億円になると総務省が試算しており、徳永委員長は格差解消へ向けた原資として着目している。地方公務員の労使交渉は自治体ごとに行われる。徳永委員長の発言を受け、各単組がどのように取り組むかが注目される。【毎日新聞2010年8月26日

徳永委員長は、官製ワーキングプアと称される自治体非正規職員の処遇改善、その実現を通した公共サービスの向上を強調されたようです。「非正規職員の存在が行政サービスを左右するようになっているにもかかわらず、非正規職員が搾取されている自治体の現実を改善させるためには正規職員と非正規職員が賃金をシェアし、全体として処遇改善と安定雇用をはかるという方策を大胆に採用すべきだ」という問題提起でした。

そのための原資について「現実的な問題への対応は避けて通れない。非正規職員の処遇改善のため正規職員を含めた総原資のあり方について議論を開始し、本年の場合で言えば、人勧の削減原資を非正規職員の処遇改善に確保する交渉・協議を行なうことなどを大胆に運動展開する必要がある」と述べ、連合評価委員会が求めた「人間を対立させようとする、よこしまな意図を拒否し、『人間が人間としての尊厳を実現できる社会を、働く者たちの共同意思のもとに築く』という指摘を受けとめ、自治労こそが変革と挑戦の最先頭に立つ、という意思を固め合おう」と呼びかけていました。

さらに「この問題提起は、組織的・全体的な判断と覚悟が不可欠ともなる。来年の春闘に向けた議論の中で、さらに深化していきたい」と徳永委員長は話されています。来賓として出席されていた連合の古賀会長も「まったく同感。連合内部でも具体的なプロセスを明確にしなければならない」と述べられ、来賓の枝野民主党幹事長ともども徳永委員長の発言に賛同されていました。自治労の置かれている現状や課題などを考えれば、徳永委員長の問題提起は私自身にとって大きくうなづけるものでした。

その一方で、大会議論を通しては、次のような発言が示されることも自治労の等身大の姿でした。「賃下げ人勧を認めるのか」「正規を減らして非正規を増やした当局を許すのか」「正規化を要求する非正規の思いに冷や水を浴びせるのか」という内容の意見が大会代議員から示されていました。言うまでもありませんが、様々な意見が交わせる組織こそ健全で力強く、それぞれの発言の内容を決して批判するつもりはありません。

このような発言に対し、徳永委員長は「財政に限りがある」「社会的に通用する運動を」「原理原則が正しくても実現できなければ無意味」という率直な言葉で総括答弁されていました。最後の採決では議案すべてが可決されましたが、いずれにしても自治労組合員90万人の思いは非常に幅広いものがあるはずです。そのことを認め合った上、激しい議論の末に確認できた方針については一致結束して立ち向かっていく信頼関係という「絆」が、よりいっそう大切だろうと思っています。

最後に、自治労大会の会場では阿久根市職労が阿久根名産品とストラップを販売していました。また、阿久根市職労が大会参加者に配布したチラシには、竹原市長との対立の中から組合員同士の「団結」「連帯」「絆」を獲得し、閉塞感の広がる職場にあっても明るさを失わず、堂々と業務に活動に取り組めたことが記されていました。そして、団結グッズとして作製したストラップには「絆」の文字を刻んでいました。

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コメント

お話は大変興味深いのですが、引用で気になった部分があります。

>人事院勧告に準じて地方公務員の正規職員の給与が削減された場合、削減分を非正規職員に配分する

これに対して、次の引用では

>正社員が賃下げを受け入れて非正規雇用をなくした広島電鉄の例

とされています。上記の例では従うべき勧告に素直に従うのは癪だから、下げた分はせめて労働者間で配分しようと読めます。市民の声としては財政状況が悪化しているから削減して欲しいという流れなのに、それに逆らう手法にも読み取れています。
逆に広島電鉄の例では市場の影響による賃下げから、正規労働者が自主的にさらに上乗せして切り込むことで、非正規雇用を無くしたと読めます。しかし実際調べてみると、そう上手く機能していない様で、労組は猛反発中との記載もあります。
それでも通常我々の目に映る労組の中では、かなり柔軟に対応できる組織となっているようです。

そのうえで、今回の人事院勧告では、

>人事院勧告に準じて全国の自治体が給与や手当を切り下げた場合、影響額は2340億円

とありますが、現状の財政状況では、これは広く国民に還元させられてしまう事になるでしょう。特に公務員は貰いすぎという印象が国民には強くありますので、これはどうしても譲れない部分となります。逆に譲ってしまえば政権が転覆しかねません。


従って記事で指摘する様に賃金をシェアするためには、各市町村の労組が人事院勧告に上乗せする形で、どれだけ踏み込んだ削減提案を自ら出来るのかが試される事になると思います。

大多数の国民から見たときには、自治労が人間を対立させようとする原因として存在するという事実を受け入れて頂きたいと感じております。従って、自らを世間に広く認めてもらうために率先して身を切る。新たな意味で初めての春闘となって欲しいと感じております。

投稿: | 2010年9月 5日 (日) 19時05分

自治労の委員長の提起の、
「人勧の引き下げ分を非正規に」という話は、
一見聞こえは良いですが、制度的に矛盾していませんか?
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今回はマイナス提示→マイナス分は、非正規に上乗せするとなると、
いつ来るかわかりませんが、
プラス提示があった時→正規のプラス分は、非正規から搾取する?

という理屈になってしまいそうです。おかしいですね、これだと。
------------------------------------
同じことについて、もうひとつ。
非正規の給料月額などについては、
なんらかの基準を用いて決定しているのではないですか?
例えば、行政職給料表の1級のどこか、というように。

1級のどこか、という決めをしている以上は、
人勧マイナスなら、正規職員に準じて下がるでしょうし、
人勧プラスなら、正規職員に準じて上がるでしょうし。
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人件費総枠を変えず、
配分論を検討するのは、総論的には必要でしょうが、
各論に入った途端、行き詰まってしまいそうです。

○正規職員の給与は、今後ずっとマイナス勧告で、引き下げられるだろう、ということと、
○非正規の給与の額を、少しでも改善して行こう、ということとが、
たまたま時期が同じであると、
見かけ上、委員長の言われたように、マイナス勧告分を非正規に、ということになりますが、
あくまで「見かけ」にすぎないので、
本質を捉えた上で、どうするのかを議論していただければなぁ、と思った次第です。

投稿: イール | 2010年9月 5日 (日) 19時09分

2010年9月5日(日)19時05分に投稿された方、イールさん、さっそくコメントありがとうございました。

お二人のご指摘、それぞれ違う点、共通している点を受けとめています。いずれにしても徳永委員長が非正規職員の問題に大きな焦点を当てたことの意義を感じています。今回の記事に対して、どのようなご意見が他にも寄せられていくのか、自分自身の考え方を整理する上での貴重な機会とさせていただくつもりです。

2010年9月5日(日)19時05分に投稿された方へ、これからもコメントをお寄せいただける場合は意見交換をスムースに行なうためにも、ぜひ、名前欄の記入にはご協力くださるようお願いします。

投稿: OTSU | 2010年9月 5日 (日) 21時19分

私は大会委員長発言を支持しますし、
みんなで守っていかなければならない内容だと思います。
ただし、臨時非常勤職員が素直に「委員長発言に賛成」と言っては、
絶対に正規職員を敵に回すことになるので注意が必要です。

「正規も非正規も賃上げ」「正規職員による人員確保」
は正論ですが、現在の情勢では現実可能性はほぼないと言い切っていいと思います。
そんな中、正論だけにこだわっていたら「均等待遇」実現は絶対にできません。

自治体は、民間会社のように『株主配当や役員報酬、会社内部留保が増えているのに労働者の取り分が減っているというのはおかしい』、とは言いにくい組織の成り立ちにありますので、単純に「賃上げしろ」という運動はそもそも難しい。

私は自治体正規職員の第1の課題は『賃上げ』ではなく『サービス残業の撲滅』であると思います。
『サービス残業の撲滅』は働き方の見直し、人員確保から均等待遇に基づいたワークシェアリング・・
につながります。


投稿: 一自治労専従職員 | 2010年9月 6日 (月) 14時25分

専従職員さんへ

きっとあなたの発言は、普通の職場では受け入れられないでしょう

自治労の同一労働・同一賃金は

いまや同一職場・同一賃金です

サービス残業撲滅なんて、当たり前のことを強調するのですか?

まぁ仕事できない人ほど残業する例もありますが・・・

いずれにしろ、仕事しない方が楽をする現状は

まともな一般職員にはとても受け入れられないでしょうね

それで正規職員がすべて賃下げなんて本気ですか?

そんな都合良い話は職場には受け入れられませんよ

一番最初に賃下げするのは委員長自身では?

なんの実績も上げてないし・・・


まぁ年寄りの忠告ですが・・・

少し視点を変えて頑張ってくださいね

投稿: 元役員 | 2010年9月 6日 (月) 20時51分

一自治労専従職員さん、元役員さん、コメントありがとうございました。

たいへん難しい問題だと思っていましたが、とらえ方などが個々人で微妙に分かれたご意見をいただいています。正規職員の賃下げを容認するような見方をされてしまうと、組合費を納めている組合員から執行部は強い非難を受けることになるはずです。確かに徳永委員長の問題提起は、丁寧な議論を重ねなければ不団結の要因になりかねません。

私自身、記事本文で書いたとおり非正規職員の待遇改善という課題や、とりまく情勢認識は基本的に共感している立場です。その上で、寄せられたコメント一つ一つを貴重な参考意見としながら自問自答していこうと考えています。

投稿: OTSU | 2010年9月 6日 (月) 22時20分

ご無沙汰しています。徳島大会で委員長の発言、そしてそれに続くように古賀連合会長の発言を聞いて、いろいろと誤解を招く可能性もありつつも進めていかなくてはいけない発言であったように思っています。
個人的には、非正規労働者の取り扱いと、正規労働者の取り扱いについて、まったく民間同様に考えるべきなのかどうか思案に暮れているところです。
人件費比率という言葉がありますが、民間企業では、それが20%から多くても30%の固定経費として捕らえられていますが、行政においた場合、わが自治体では平成20年度決算では、16.2%という数字が出てきます。
この数字自体は、決して大きな数字ではないと思いますが、民間と同様に議論をしてよいものなのか。収益を生み出さない事業体としてはなかなか判断が難しいと思っています。
非正規労働者については、民間の場合、物件費。投機的経費というくくりになると思うのですが、これは、収益の状況に応じて、対応が変化するものであると考えています。
官製ワーキングプアという言葉もありますが、わが市の嘱託職員の賃金は220万円の年収を前後する形で、数字上は、それなりになっています。問題は、任期付任用職員への登用であるとか、正規職員への採用の可能性であるとかそのあたりになりませんか?
人材の流動性なども含めて、十分検討をする必要があるのかと思います。
もう少しで、組合委員長も退任になります。OTSU様のこれからの活躍に期待いたします

投稿: ある市職労委員長 | 2010年9月 7日 (火) 16時58分

ある市職労委員長さん、お久しぶりです。コメントありがとうございました。

ご指摘のとおり難しい問題であり、いろいろ誤解を招きがちな提起だと思っています。なお、嘱託職員の年収220万円は「臨時・非常勤職員の中では」という意味合いだろうと思いますが、正規職員の平均年収と比べれば極めて低い水準であるものと見ています。このような比較論を持ち出すと話が複雑化するのかも知れませんが、たいへん恐縮ながら一言添えさせていただきました。

また、組合委員長の退任、本当にお疲れ様でした。ブログから推察しているところですが、ぜひ、新しいステージに向けて頑張ってください。

投稿: OTSU | 2010年9月 7日 (火) 21時47分

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