非正規公務員の課題 Part2
今回の記事タイトルは迷いませんでした。前回の記事「非正規公務員の課題」の続きをもう少し書き込もうと考えていたからでした。また、注目していた裁判の結果も取り上げるつもりでしたので、改めてそのことを報道した新聞記事をご紹介します。大阪府枚方市の住民が「非常勤職員への手当支給は違法」として市を訴えた裁判の控訴審判決を伝える記事でした。
枚方市が条例で基準を設けずに非常勤職員に支給した特別報酬を返還させるよう求めた住民訴訟の控訴審判決が17日、大阪高裁であった。三浦潤裁判長は支給を違法と判断した1審・大阪地裁判決(08年10月)を取り消し、住民の請求を棄却する逆転判決を言い渡した。
三浦裁判長は「名称は非常勤職員だが、勤務実態は正規職員と変わらない」として、非常勤職員が正規職員と同様に手当を受け取る権利を認定。そのうえで「条例で具体的な金額まで規定する必要はなく、執行機関に委ねられている」として、支給を適法と判断した。住民側は、市が03、04年度に非常勤職員約380人に対して支払った特別報酬約5億5000万円を返還させるよう求めていた。【毎日新聞2010年9月18日】
この判決結果に対し、ブックマークしているブログ「きょうも歩く」の記事「非常勤職員のボーナス・退職金に違法性はなく返還義務なしとの判決」の中で、訴訟を起こしたオンブズマンの問題意識に疑問を投げかけられていました。その記事の内容に限らず、ブログの管理人である黒川滋さんの主張には、いつも共感を覚えることが多く、更新を楽しみにしているサイトの一つでした。いずれにしても「官製ワーキングプア」という言葉が取り沙汰されがちな中、さらに非常勤職員の待遇を押し下げようとする動きには私も違和感を抱いていました。
前回記事の流れから今回の記事タイトルにも非正規公務員という呼び方を使いました。実は以前、私どもの嘱託組合員から「私たちは正規に雇われていないんですか」という質問を受けたことがありました。勤務時間などの差はありますが、正規に雇用された職員であることに変わりありません。非正規という呼ばれ方に疑問が示された訳ですが、それ以来、なるべく非正規という呼び方を避けるように心がけていました。
それでも参考文献などの引用や場面によっては、臨時、嘱託、非常勤、非正規職員に対し、常勤、正規職員という呼び方が混在していくことをご容赦ください。特に労働問題に切り込んだ著書の中では非正規という呼称でなければ、しっくり話が進まない場合も見受けられます。最近、読み終えた新書『新しい労働社会ー雇用システムの再構築へ』では、非正規労働者という言葉が焦点化され、その歴史や現状の問題点などが綴られていました。
著者である濱口桂一郎さんのブログ「EU労働法政策雑記帳」もブックマークし、いろいろ参考にしているサイトでした。その新書の中から「なるほど」と感じた箇所を少し紹介していきます。高度経済成長以来の日本社会において、非正規労働者とは主として家事に従事しながら家計補助的に働く主婦労働力としてのパートタイマーと、主として学校に通って勉強しながら小遣い稼ぎ的に就労する学生労働力としてのアルバイトが2大勢力だったと濱口さんは述べられています。
とても一人の生活を維持することすらできない低賃金でしたが、夫や父親が正社員として非正規労働者である家族構成員の分も含めた生計費を賃金として得ていました。その前提があったため、以前は非正規労働が貧困というイメージとは結びにくかった点を指摘されていました。ちなみに新卒採用から定年退職までの長期雇用が保障され、年功で賃金が上がっていくシステムは決して企業の温情ではないことを以前の記事「定期昇給の話」の中で綴っていました。
企業の教育訓練投資の成果である熟練労働者を重視し、年功賃金と退職金制度は熟練労働者を企業に縛りつける仕組みでした。労働組合の立場からは、生活給という位置付けで定期昇給をとらえ、子どもの教育費など人生の支出が増える時期に比例して賃金が上がる年功給を合理的なものだと考えていました。スキルアップと生活の変化に対応しながら、働く側にとっては安心して将来の生活設計を描け、経営側にとっては帰属意識の高い人材の安定的な確保や企業内教育を通じた労働生産性の向上がはかれ、双方のメリットがこのような仕組みを支えてきました。
このような日本型雇用システムのメンバーであるのか、その枠外の労働者であるのかという点では、正規か、非正規かという呼称が見事に当てはまっていました。前述したとおり主婦労働力や学生労働力が非正規の主流だった頃は、この明確な区分けも特に問題視されていませんでした。しかし、バブル経済が崩壊し、海外の廉価な労働力と競わされるようになり、各企業が正規労働者の数を急激に絞る込むようになっていきました。
その結果、リストラされて非正規雇用を余儀なくされているケース、就職氷河期の中で正社員となれずフリーターを強いられているケースなどが目立つようになっていました。とりわけ公務職場の場合、正規職員の待遇が安定した長期雇用システムの代名詞のように見られている中、同じ役所内での非正規雇用との「格差」は、より顕著な事例が多いのだろうと認識しなければなりません。
前回の記事で、朝日新聞の編集委員兼論説委員である竹信三恵子さんの講演の話を報告しました。その時、配られた資料『記者有論』の中で、非正規職員の増加は短期で担い手が変わりがちとなり、公務サービスの質が下がるという問題意識を竹信さんは示されていました。このような現状に際し、竹信さんは次のような考え方を『記者有論』を通して提起されていました。
打開策として、熊沢誠・甲南大学名誉教授は、正規との賃金の分け合いによる非正規の安定化を提案している。日本の正規公務員の国民1千人あたりの数は主要先進国中で最低水準だが、賃金水準は高めだ。こうした特徴を土台に、賃金を平準化して非正規も正規として公認する策だ。
問題提起の方向性としては否定できません。しかし、「自治労委員長の問題提起」でさえ、反論が示される現状も押さえていかなければなりません。加えて、正規公務員の賃金水準を大幅に引き下げる便法に使われかねないため、そのような面からも慎重になる必要性を感じています。この戸惑いに対し、明確な答えが示唆されている訳ではありませんが、濱口さんは『新しい労働社会』の中で次のように語っています。今後の議論を進める上で欠かせない基本線として、濱口さんの言葉を紹介し、この記事の結びとさせていただきます。
正社員の待遇を下げることが主な目的になってしまっては、その正社員たちが同意することは不可能です。重要なのは正社員と非正規労働者の間で賃金原資をどのように再配分し、両者にとって納得できるような共通の賃金制度を構築していくかという問題でしょう。
労働者にとって生活設計の根幹に関わるような仕組みの改革を、その労働者の意に反して強制することができるなどと考えるのは、労働問題の基本的な姿勢として大きな問題があります。賃金や労働条件のあり方は労使が集団的に決める。これが産業民主主義の基本原則です。
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コメント
私の職場でも非正規公務員の課題が常にでている状態です。昨年までは職場での健康診断がないなど改善されつつあるのですが、勤務日数、労働時間が任用によって異なるなど「共通の賃金制度」構築はかなり難しいでしょうね。
また、政府の政策(アドバルーン的なもの等)によって新たに雇用される非正規公務員がいる一方、「事業仕分け」であっさり「雇い止め」される非正規公務員もいることも現在抱えている問題であるといえます。(職種、経験、資格で新たに設けられる仕事に応募できないなど雇用を守ることも難しくなってきています。)
私が住んでいる県や近隣政令指定都市では、新たに立ち上げた事業は派遣会社が担っていることが多く、正規職員は数名しかいないなど、OTSUさんの職場でも今後新たな課題になってくるのではないかと推測しています。
投稿: ためいきばかり | 2010年9月26日 (日) 09時04分
ためいきばかりさん、おはようございます。コメントありがとうございました。
確かに共通の賃金制度は難しいものと思っています。いずれにしても現状の問題点を労働組合側が認識し、一歩ずつ解決していく姿勢と行動が重要であるものと考えています。
投稿: OTSU | 2010年9月26日 (日) 09時15分