人事院勧告と最低賃金目安
このブログを始めたのが2005年8月16日、開設してから5年が過ぎようとしています。更新しなくても年月は流れていくため、これまで記事の数が100回を刻む際にメモリアルな内容を投稿していました。昨年の夏は、ちょうど双方が重なり合った時期であり、「5年目の夏、そして300回」というタイトルの記事でした。
週1回の更新にもかかわらず、毎日千件前後のアクセスがあります。訪問者数は概ねその半分ですが、多くの常連の皆さんに支えられていることを実感しています。また、Googleなどから「阿久根市」絡みのワードを検索されると、この「公務員のためいき」が上位に顔を出します。そのため、竹原市長の言動が注目を集めた日などは、アクセス数が急増する傾向をたどっていました。Yahoo!のトップページに掲げられた際などは、1日で1万件を超えた日もありました。
このように多くの皆さんの来訪が大きな励みとなって、週1回の更新を欠かさず、5年間継続できたものと感謝しています。さらに数多く寄せられるコメントの一つ一つが拙い記事内容に厚みを加えていただいているものと受けとめています。今後、何年続けられるか分かりませんが、これまで通り実生活に過度な負担をかけないペースで運営していくつもりです。ぜひ、これからもよろしくお願いします。
さて、今年度の人事院勧告が8月10日に示されました。月例給を平均757円、0.19%の引き下げ、一時金は0.2月か分引き下げられ、1963年以来の4か月割れとなる年間3.95か月分の支給となります。平均年間給与としては△9万4千円、△1.5%となり、特に50歳台後半層の月例給が重点的に引き下げられる勧告内容でした。
民間相場の反映である人事院勧告ですが、まだまだその相場も底を打っていなかった結果が明らかになったと言えます。このように公務員の賃金水準は引き続き下降線をたどっていきますが、最低賃金に関しては8月5日、次の記事にあるとおり引き上げ目安の答申が示されました。その背景や内容について詳しく書かれていましたので、そのまま紹介させていただきます。
中央最低賃金審議会が本年度の地域別最低賃金の「目安」を決め、厚生労働相に答申した。時給で10~30円引き上げ、全国加重平均では15円アップの728円とした。今回の特徴は、時給表示になった2002年度以降では08年度と並ぶ最大の上げ幅になったこと、比較的賃金の低い地方でも都市圏と同じ幅にそろったことだ。最低賃金で得られる所得が、生活保護の給付水準を下回る地域もある。金額はまだ低い。それでも広がる一方だった地域格差の是正につながる。評価できる。
菅直人政権は、賃金を上げて消費を増やし景気回復を図る、との基本政策を掲げる。低所得者層の底上げは、その一歩となるものだ。政府には引き上げが実現するよう最大限の努力を求める。最低賃金には、労働者の生活水準を維持する役割がある。雇用主はこれを下回って雇うことはできない。違反すれば最高50万円の罰金が科せられる。
審議会は労使の代表や有識者らで構成する。毎年夏、都道府県を経済状況に応じてA~Dのランクに分けて決めている。この地域格差によって、いまの時給は最高が東京の791円に対し、最低は佐賀、長崎、宮崎、沖縄の629円。162円もの開きがある。Bランクの長野は681円で、15番目の位置にある。答申は長野も含めた41県で一律10円アップとし、特にDランクの底上げを図った。
審議会は労使が激しく対立したが、結局は労働側の主張にほぼ沿う形で決着している。後押ししたのは「できる限り早期に時給800円以上にする」とした民主党政権の方針だ。ただ、最低の県を800円以上にするには、毎年10円ずつ上げても18年もかかってしまう。政府はてこ入れを急ぐ必要がある。最低賃金が関係するのは、主に経営体質の弱い中小・零細企業である。小売りや飲食店、流通などの業種が多い。雇用主の間には、かえって就労の場を損なう、との反発がある。
実際の改定額はこれから都道府県の地方審議会が決めることになる。労使双方が着地点を見いだすには困難が予想される。答申通りに進むかは不透明だ。政府は賃金と生産性の向上に結び付く中小・零細企業の支援策をしっかり組み立てる必要がある。現実には最低賃金以下で働く人も少なくない。地方の再生策が強く求められる。【信濃毎日新聞2010年8月8日】
ブックマークしているブログ「EU労働法政策雑記帳」の最近の記事(最低賃金の「目安」)の中では、連合事務局長と日商会頭のコメントが紹介されていました。連合は「雇用戦略対話の合意である“できるだけ早期に全国最低800円、2020年までに平均1000円”の達成に向けた道筋を示したとは言い難いものの、確実に一歩を進めたものと受けとめる」と評価し、日商側は「最低賃金のみが大幅に引上げられれば、経営に影響し、雇用の喪失につながる」と小規模企業への負担を懸念したコメントを示していました。
最低賃金の水準に対する見方は、このように立場によって大きく分かれがちです。しかし、フルタイムで働いても生活保護の給付水準を下回るようでは問題であると言わざるを得ません。今後、中央最低賃金審議会が示した目安を受け、都道府県ごとに審議されて定まった額が法的拘束力を持っていくことになります。最低賃金制度の話で言えば、千葉県野田市が導入した画期的な公契約条例という独自な制度も紹介しなければなりません。
その条例は野田市にかかわる入札制度を見直し、受注する企業の労働者に対する賃金水準の底上げをはかるため、独自に定めた最低賃金水準を落札基準に明記したことが最大の特徴でした。少し前までの入札制度は価格が安ければ良いというものが中心で、特に労務提供型の委託契約は2002年まで最低制限価格制度すらありませんでした。また、1999年には地方自治法施行令が改正され、価格とその他の要素を総合的に判断できる総合評価方式の導入が可能となっていました。野田市はその動きから、さらに一歩踏み出し、条例の前文には次のような決意も示されています。
地方公共団体の入札は、一般競争入札の拡大や総合評価方式の採用などの改革が進められてきたが、一方で低入札価格の問題によって下請の事業者や業務に従事する労働者にしわ寄せがされ、労働者の賃金の低下を招く状況になってきている。
このような状況を改善し、公平かつ適正な入札を通じて豊かな地域社会の実現と労働者の適正な労働条件が確保されることは、ひとつの自治体で解決できるものではなく、国が公契約に関する法律の整備の重要性を認識し、速やかに必要な措置を講ずることが不可欠である。
本市は、このような状況をただ見過ごすことなく先導的にこの問題に取り組んでいくことで、地方公共団体の締結する契約が豊かで安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することができるよう貢献したいと思う。この決意のもとに、公契約に係る業務の質の確保及び公契約の社会的な価値の向上を図るため、この条例を制定する。
このブログを始めた頃、「公契約制度の改革って?」という記事を投稿していました。自治労全体の取り組みとして、野田市が制度化したような公契約の見直しを進めていることを紹介した内容でした。ちなみに近隣の市でも野田市に追随する条例が年内に成立する運びとなっています。私どもの市においても同様な条例の制定を求め、自治労や連合の要請書の中でも重点化してきています。今後、全国的に野田市のような雇用を重視した動きが広がっていくことを強く期待しているところです。
今回、同じ時期に公務員の賃金は引き下げ、最低賃金は引き上げという対照的な結論が示されました。人事院も中央最低賃金審議会も、建前上は客観的かつ中立な立場で数字を示しているはずです。とは言え、世間のムードや政治的な思惑が、まったく反映されていないとは断言できません。それはそれで疑問があったとしても現行の制度上、示された数字は粛々と受けとめていかなければなりません。そのような意味合いからも、自治労や連合の運動の力点が社会全体の賃金水準底上げに置かれていくことは必然的な流れだろうと思っています。
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コメント
私は今年になってブログを始めたばかりの初心者です。
昨日、「実は悲惨な公務員」の検索結果からこのブログにたどり着きました。こういうブログが5年前からあることなどまったく知りませんでした。
ブログの利点は気軽に意見交換できることだと私も実感しています。どうしてもっと早くから始めなかったのかと後悔しています。
ブログを立ち上げてから物事を深く考えるようになりました。より良く考えるためにはより多くの情報に接する必要があります。そのため今まで「ツンドク派」だったのですが、努めて読むようになりました。ネットにも情報があふれていますのでその選別に苦労しています。
私のブログは「憤懣やるかたなし!! 元・公務員のたわごと」というタイトルを付けましたが、「公務員のためいき」には足元にも及びません。
私のブログは1ケ月前に始めたばかりです。どこまで続けられるかわかりませんが、「公務員のためいき」を参考にさせてもらいたいと思います。よろしくお願いします。
投稿: おやかたひのまる | 2010年8月15日 (日) 20時57分
おやかたひのまるさん、はじめまして。コメントありがとうございました。
「憤懣やるかたなし!! 元・公務員のたわごと」はブックマークさせていただきました。精力的な更新、たいへんお疲れ様です。ブログを開設しようと考えた出発点は少し違うようですが、公務員に関する情報を幅広く発信していく大切さは共通した認識だろうと受けとめています。こちらこそ、これからもよろしくお願いします。
投稿: OTSU | 2010年8月15日 (日) 21時59分
OTSUさんの記述で、ここがひっかかります。
>人事院も中央最低賃金審議会も、建前上は客観的かつ中立な立場で数字を示しているはずです。
>とは言え、世間のムードや政治的な思惑が、まったく反映されていないとは断言できません。
このような表現を使うのは、好ましくないと考えます。
人事院の勧告は、世間のムードや政治的な思惑で、
勧告の記述が左右されてはいけません。
そんなもので左右されるようでは、
もはや人事院勧告の存在意義が問われます。
公民較差を、どう均衡させるのか、
これが、人事院勧告の大きな役割ですから、
統計的に、最も確からしい方法でサンプルを抽出し、
勧告として仕立てている以上、
我々公務労働者は尊重すべきである。
たしかに、数年前に、
公民較差比較団体の従業員規模を、
100人から50人に引き下げました。
このことのみを捉えれば、何らかの意図は感じられるかもしれません。
ただし、
人事院が、確からしい統計をとる上で、
比較団体の規模を変えたのであれば、
やはりそれは、公務労働者としては尊重すべきであろうと。
(それ以下の団体までに引き下げるのは、
実態にそぐわないので、それは私も反対です。
50人未満団体において、社内の給与制度として、
「制度」としてきっちり構築されているか、非常に疑問だからです。)
今回の勧告に話を戻しますが、
今回の勧告では、そういったものは何もないですよね?
でしたら、余計に、「ムード」や「思惑」と記述するべきではない、と考えます。
今回の人事院勧告では、
40代から傾斜で減額スライドをかける、という内容が出されていますが、
統計的手法のなかで、年代別にみて、その較差の分布を捉えて述べているからこその記述であり、
私は、やはりこれらを尊重すべきだと思っています。
今回の人事院勧告の指摘で、
民間では、すでに40代から月例給が上昇しない、
という構造になっているのか、と改めて知るところとなりました。
投稿: イール | 2010年8月18日 (水) 14時00分
イールさん、コメントありがとうございます。
確かに「主観」としての表現ですので、ご指摘の趣旨はその通りだと思います。その上で、「主観」的な見方が取り沙汰されがちな中、「示された数字は粛々と受けとめていかなければなりません」が結論としての個人的な思いであることをご理解いただければ幸いです。
投稿: OTSU | 2010年8月18日 (水) 23時04分
1963年以来の4か月割れとなる年間3.95か月分の支給。その当時(1964年)の新聞記事(社説)には「公務員給与」に誠意を示せとあり、1948年を除いて完全実施されたことがなく、地方公務員にいたっては国の業務を負担させているにもかかわらず給与等の財源については地方で負担しろと言わんばかりの実態を批判していました。(もちろんその当時の公務員給与は相当低かったこともこの記事の背景にあると思いますが・・・)
今回の勧告で勧告以上の引き下げを主張する新聞社の記事もありましたが、「ルール無視」のやり方は公務員には許されるのか記事を書いた方に聞いてみたいものです。(おそらくまっとうな返答は頂けないでしょうが・・・)
個人的には財政再建のためであればおおいに結構なのですが、現在の「バラマキ」はいただけませんね。(このままでは「失われた30年」になるのかも)
最低賃金は引き上げられましたが、中途半端な引き上げで扶養から外れたり、人件費増のため雇用が継続されない(私の職場では非常勤職員の雇い止めが財源等の問題で今年度末にかなりおこなわれそうです。)など問題点も出てきそうですね・・・
投稿: ためいきばかり | 2010年8月18日 (水) 23時14分
ためいきばかりさん、おはようございます。コメントありがとうございました。
かなり前の記事に書いたことがありますが、公務員の組合が中央レベルでの交渉機能を発揮できていなかった頃、ご指摘のような状況だったようです。その意味合いで考えれば、具体的な勧告に至るまでの人事院交渉の意義も軽視できないものと受けとめています。
投稿: OTSU | 2010年8月19日 (木) 07時58分
給料って何ですか?提供するサービスの対価でしょ?
では何故、提供するサービスの価値を高める事を考えないのかね?
公務員の提供すべきサービスとは何かを考えた事がありますか?
公益とは何かを考えた事がありますか?
何故、「交渉」とか「好感度」とか「法律」とかに何時も依存しているのかね?
そんな事で本当に日本の問題が解決すると思っているのかね?
勇気や意地や知恵はどこに行ったのだ?矜持を失っては何を語っても無駄だ。
投稿: あまのじゃく | 2010年8月19日 (木) 09時54分
あまのじゃくさん、コメントありがとうございました。
私も含めて今回の記事内容でコメントを寄せている方々が「勇気や意地や知恵」を置き忘れているとは考えていません。いつ、どこで、どのような場面で、何を発揮していくのか、その違いだろうと思っています。
このブログを通し、あまのじゃくさんとは数多くお互いの意見を述べ合ってきました。そのため、抽象的な言い回しですが、私の言葉の意味合いそのものはご理解いただけるものと考えています。どうしても適確にかみ合った議論とはならないため、あまのじゃくさんのストレスを高めていくのかも知れませんが、私のような発想の者も決して少数ではないこともご理解くださるようお願いします。
投稿: OTSU | 2010年8月19日 (木) 21時48分
日本は議会制民主主義をとっている。政治の多くは「行政」と「議会」で決められる。
従って巨額な借金の一義的原因は「行政」と「議会」にある。
当然、このような悲惨な状況を作りだした「行政と議会のあり方」が追及されるべきだ。
然るに多くの「自称責任者」はその身分と既得権益に乗っかっているだけで、反省もしなければ事態の解決を計ろうともしない。
時々「議会軽視だ」なんてセリフを吐く阿呆がいるが、こんな悲惨な事になった責任を取る覚悟もない。
鹿児島県知事に至っては「日本の財政はもうすぐ破綻する」と責任者でありながら(何もせずに)言い放っているのだから役立たずの極だ。
夕張市の市長とか副市長とか議員に責任を取って腹切った人いますかね?
身分と既得権益にしがみ付いて、責任は取らんが軽視はされたくない・・という阿呆が日本を駄目にしたんだ。
それは確かに日本人全てなんだが、一義的には行政と議会なんですよ。
橋下大阪府知事が何故「阿久根市長を尊敬している」と言っているかというと、行政と議会のあり方を追及しているからだ。
再度言うが、この部分に光を当てないと永遠に問題は解決しない。おっと失礼、日本が破綻すれば解決しました(笑)。
投稿: あまのじゃく | 2010年8月20日 (金) 09時27分
あまのじゃくさん、いつもコメントありがとうございます。
平行線となりがちな私が論評を加えても詮ないことですので、個人的なレスは控えさせていただきます。なお、この記事の冒頭にも記したとおり毎日、多くの皆さんに訪れていただいています。前回の記事も同様でしたが、いろいろな意味で具体的な意見を交わすには難しいテーマなのかも知れません。
投稿: OTSU | 2010年8月20日 (金) 22時11分
>色んな意味で具体的な意見を交わすには難しいテーマなのかもしれません。
ははは、難しいから議論になり、難しから意味があるのです。
そうでなければ、ただの慣れ合いです。おっと議論を要求するのが私の悪い癖でした(笑)。
投稿: あまのじゃく | 2010年8月20日 (金) 22時59分
>フルタイムで働いても生活保護の給付水準を下回るようでは問題であると言わざるを得ません。
最低賃金と生活保護の「不均衡」については、最低賃金を上げるより生活保護費を下げることで均衡を図ればいいのでは、という意見をチラホラ目にするようになりました。
一種の「引き下げデモクラシー」でしょうが、短絡的な考えだと笑ってもいられませんね。
投稿: 対人手当 | 2010年8月21日 (土) 01時36分
あまのじゃくさん、対人手当さん、おはようございます。コメントありがとうございました。
「引き下げデモクラシー」への懸念は私も同様です。なお、「正解」を一つに絞れないかも知れませんが、様々な意見を交わすことの意義は感じています。その上で、「難しいテーマ」となっている現状を認識しているところでした。
投稿: OTSU | 2010年8月21日 (土) 07時26分