混迷を深める阿久根市の夏
9月14日に投票される民主党代表選挙に小沢前幹事長が名乗りを上げ、菅首相との間で党内を二分する激しい対立の様相を呈してきました。このニュースが先週夜の報道番組で大きく取り上げられたのは当然ですが、一地方の市議会の動きもそれに続く扱いで注目を集めていました。日曜午前の「サンデー・フロントライン」でも民主党代表選挙を巡る討論の後、「混乱議会を緊急取材…阿久根市長の真意直撃」という特集が組まれていました。
このブログでも、たびたび取り上げてきた鹿児島県阿久根市の竹原信一市長、ますます全国的な知名度を上げてきました。竹原市長の言動に対する個人的な意見は、これまでの記事を通して充分発信してきました。それでも最近、組合員から「阿久根市のこと、書かないのですか」と尋ねられていました。そのため、繰り返しのような批評となるのかも知れませんが、顛末を追い続けることも、それなりに意義深い試みなのだろうと思い返していました。
一方で木曜と金曜、自治労の第82回定期大会が徳島市で開かれていました。自分自身は事情があって参加できていませんでしたが、今週末は自治労大会の話題を中心に新規記事を投稿しようと考えていました。しかしながら前述したような組合員の関心や阿久根市に絡む以前の記事へのコメント投稿などに後押しされ、2か月ぶりに阿久根市の話題を取り上げることとしました。ちなみに昨年6月以降、投稿してきた竹原市長に関する記事は次のとおりでした。
- 2009年 6月 7日 「ブログで有名な阿久根市長」
- 2009年 6月14日 「もう少し阿久根市長の話」
- 2009年 6月21日 「もう少し阿久根市長の話 Part2」
- 2009年 8月 8日 「阿久根市のその後」
- 2009年 8月15日 「阿久根市のその後 Part2」
- 2009年12月12日 「阿久根市長の常識、世間の驚き」
- 2009年12月19日 「竹原市長の問題点」
- 2010年 3月14日 「再び、阿久根市のその後」
- 2010年 3月21日 「それでも支持される竹原市長」
- 2010年 6月27日 「評価が分かれる『独裁者』」
その都度、たくさんのコメントをいただき、竹原市長の言動を巡って賛否両論、様々な意見が交わされてきました。私自身の考え方は、竹原市長のめざしている方向性の是非を議論する以前の問題として、あまりにも進め方や手法が乱暴すぎるため、とても容認できないというものでした。最近の動きを見ていると、いっそうその考え方を強めるばかりであり、竹原市長の行動はエスカレートの一途をたどっていました。
竹原市長は3月に「傍聴席にマスコミがいる」という理由で、市議会への出席を拒み始めました。6月の定例議会は招集そのものを行なわず、鹿児島県知事からの是正勧告も無視してきました。その一方で、7月に入ってから市議会議員報酬を1日1万円とする日当制への変更、職員らの賞与を半減する条例改正などの専決処分を連発していました。
地方自治法による専決処分は179条と180条に定められています。いずれも議会が開けない場合の緊急を要する措置として、あくまでも例外的に認めている処分です。前者は、専決処分の後に開かれた議会での承認が必要となります。後者は、あらかじめ議決によって指定した軽易な事項について首長の専決処分を認め、179条と異なり議会には報告のみで承認を求める必要はありません。
専決処分は19件にのぼりましたが、竹原市長は「市長と議会が正当な関係ではないため、専決処分が許される」という独自な判断を示しています。ようやく8月25日と26日に開かれた臨時議会では、専決処分14件が不承認とされました。しかし、竹原市長は不承認でも「議決されたから有効」と強弁し、違法かどうかは司法が判断すべきと述べています。どうも竹原市長は地方自治法の条文を読んでいるのでしょうが、自分自身にとって都合良く解釈しているようです。
確かに議会による不承認は、すでに執行された案件を遡って改めさせる効力を持っていません。会計決算に対する不承認と同様、議会から「好ましくなかった」という不名誉な烙印が押された事実にとどまります。しかし、今回の竹原市長の行為は議会を開けるのに開かず、専決処分を繰り返したことの違法性が問われていました。議会が不承認でも専決処分が有効とされるのは、「議会を招集する時間的余裕がない場合などに行なわれた適法な専決処分を想定している」と総務省も指摘しています。
さらに7月末には専決処分で、副市長まで選任していました。元愛媛県警巡査部長の仙波敏郎氏ですが、警察の裏金問題を告発した経歴などが竹原市長に買われた登用でした。地方自治法で、市長が副市長を選任する際は議会の同意を得なければなりませんが、異例な専決処分という手法で副市長に着任しています。専決処分そのものの違法性が問われている中、議会からも承認されず、これまでの仙波氏の信念に照らし合わせた時、どのように折り合いを付けているのか不思議な点です。
就任した際、仙波氏は「行政改革に取り組む市長の熱意に心を打たれたが、専決処分を繰り返すやり方には無理がある。私の役割は市民と職員の声を聞き、行政運営を健全化することだ。議会を招集するよう市長に働きかけたい」と述べ、実際に臨時議会が開催される運びとなりました。また、裁判所から復職命令を受けていた職員の職場復帰も、仙波氏の働きかけがあったものと思います。
警察官時代の裏金問題に対しても、自らが関与することを一切拒んできたため、仙波氏は組織の中で冷遇され続けたそうです。したがって、仙波氏の正義感や骨っぽさは筋金入りだと見ていますが、副市長就任自体が問題視している専決処分であることの矛盾は指摘せざるを得ません。加えて、次の報道のような認識は問題であり、もう少し労使関係を勉強してから慎重に発するべき言葉でした。このような勇み足があっては竹原市長と五十歩百歩だと言わざるを得ません。
阿久根市の副市長に選任された仙波敏郎氏は16日の同市課長会で、総務、企画調整、財政の3課の全職員について、市職員労働組合から脱退させ、応じない場合は異動させる方針を明らかにした。仙波氏は取材に、「総務など3課の職員は市政の中枢を担当している。市と対等の立場にある市職労に所属していると、市の情報が職労側に漏洩(ろうえい)し、行政改革などが阻害される恐れがある」と語った。仙波氏が発案し、竹原信一市長も同意しているという。
仙波氏は8月末以降、市職労に申し入れ、協議を始めたいとしている。「組合を脱退しないとセクションが変わることを職員に徹底してください」と課長会で述べたといい、取材には「組合と粘り強く議論し、労使合意を目指す」と話している。総務など3課の職員は計35人で、うち組合員は29人。同市の組合員は計約190人。市職労は「詳細が分からず、コメントのしようがない」。自治労県本部は「人事をちらつかせ脱退を強要しているのと同じで、地方公務員法に違反する」と反発している。【南日本新聞2010年8月17日】
阿久根市の近況を書き連ねていくだけで、かなり長い記事となってしまいます。このように混迷を深めている阿久根市ですが、ついに竹原市長に対するリコール(解職請求)運動が始まりました。先週水曜日に中間発表がされ、市長解職の賛否を問う住民投票を求める署名数は8420人分に達していました。住民投票に必要な有権者の3分の1にあたる約6700人分を大きく上回る数で、住民投票の実施は確実視されています。
いつも非常に悩ましい点として、一定の待遇が保障されている公務員だから、自治労に所属している組合の役員だから、竹原市長の手法そのものを批判し、本筋の議論を遠ざけているように見られがちです。そのような見られ方があることは認めざるを得ませんが、決して公務員の賃金水準の議論から逃げるつもりはありません。その上で、一貫して訴えていることは「目的実現のためならば、手段は選ばない」という発想や行動の危うさです。
最後に、住民投票が実施されれば、竹原市長が解職される確率は高いはずです。一方で、竹原市長も手を上げると言われている出直し市長選挙では、竹原市長が3回目の当選を果たす確率は決して低くないものと見ています。破天荒な言動を繰り返し、とにかく全国的な注目を集めている現状は、竹原市長の描いたシナリオ通りなのかも知れません。そして、改めて阿久根市民から信任を得ることで専決処分を民意によって正当化し、地方自治の二元代表制を事実上否定するというシナリオまで竹原市長は描き切っているのでしょうか。
| 固定リンク
| コメント (156)
| トラックバック (0)
最近のコメント