鳩山首相の軽率な発言
このところブログを続けている意味合いを改めて問われる厳しい場面が増えていました。そのため、いつもより言葉一つ一つに神経を使いながら新たな記事をまとめていました。たいへん貴重な提起を受け、それに呼応しながら様々な物事を掘り下げていくキャッチボールは、非常に意義深いことだと思っています。ただ常に全力で駆け抜けていくのは息が切れる心配もあり、今回は少し角度を変えた題材の取り上げ方とさせていただきます。
鳩山由紀夫首相は26日夜、2010年春闘で連合が日本経団連に対し、定期昇給(定昇)などによる賃金水準の維持を主張していることについて「連合の考えとすれば理解できる。ただ、経済状況はそう簡単ではない。経営者にとってみて、簡単に昇給できるという状況ではないと思う」と述べ、定昇凍結も視野に入れる経団連側の立場にも理解を示した。首相官邸で記者団に語った。
一方、首相は「それぞれの立場で主張し、最終的に労使が意見を交換しながら結論を出していくことになる。私から今、どうすると言う立場ではない」とも述べ、交渉の推移を見守る考えを示した。10年春闘は26日の経団連と連合のトップ会談で、労使交渉を本格スタートさせたばかり。連合は民主党最大の支援組織で、同党代表の首相の発言は、交渉に影響を与える可能性もあり、連合や傘下労組の反発も予想される。
08、09年の春闘では、それぞれ当時の福田康夫、麻生太郎両首相が経団連の御手洗冨士夫会長を首相官邸に呼び、直接賃上げを要請する異例の対応をしていた。【時事ドットコム2010年1月26日】
1か月ほどの前のニュースですが、「何、これ?」と気に留めていたエピソードでした。最近の記事「言葉にすることの大切さ Part2」の冒頭で、「今年の春闘は統一的なベースアップ要求を控えながらも賃金カーブの維持、つまり最低限、定期昇給の確保を求めた取り組みが重点化されています」と紹介していました。したがって、上記のような鳩山首相の発言を耳にした時、本当に驚きました。
日本経団連は、経営労働政策委員会報告で「総額人件費の抑制」を理由にベースアップどころか「定昇の凍結もありうる」という姿勢を打ち出していました。この財界の姿勢に対し、連合は経団連とのトップ会談で、古賀伸明会長が「定期昇給の確保・賃金カーブ維持は最低限の方針であり、ここに手を付けることは労使関係を揺るがすことになる」と強調していました。
この会談の後、記者団から感想を求められ、経団連側の立場に理解を示した鳩山首相の発言が飛び出していました。連合加盟の産別組合の幹部は「耳を疑った。経団連とのトップ会談当日にする発言か。労働者の気持ちを分かっていない。KY(空気が読めない)にもほどがある」と憤りを抑えきれない様子だったようです。
連合は翌日、「首相が定期昇給を軽視するかのような発言をされたとすれば残念」と官邸に申し入れていました。官邸からは「懸念は理解した。与党議員の質問で首相に発言の真意をただす」と返答し、さっそく同日の参院予算委員会で辻泰弘議員が首相への質問に立っていました。それに対し、鳩山首相は「すでに経営側が主張していることを単に紹介しただけ」「自分の立場からどうこう言う立場ではない」と弁明していました。
紹介したニュースの記事にあるとおり連合は民主党の最大の支援組織と見られています。その民主党が政権与党となり、初めての春闘を迎え、いろいろな期待感が広がっていた矢先、連合へ冷や水を浴びせる発言だったことは間違いありません。福田元首相、麻生前首相でさえ、経団連の御手洗会長を官邸に呼び、内需拡大のために賃上げを直接要請する異例の対応を行なっていました。
このような動きと対比すれば、産別組合の幹部から「介入しないという立場では弱い。自公政権でも経団連に賃上げ要請をしていたのに」と不満の声が出るのも当然だろうと思っています。いずれにしても連合が応援してきた政党の政権であるため、様々な労働の問題に対し、きめ細かく適切な気配りが行なわれていくことを期待していました。しかしながら今のところ国家公務員の皆さんの過労死の心配も否めないような職場実情などは、逆に以前より悪化しているような話が聞こえがちであり、たいへん残念なことだと感じています。
水曜の夜、「2010春季生活闘争を成功させる連合三多摩の集い」に参加しました。毎年、著名人による講演の時間があり、今年は読売新聞社会保障部次長の左山政樹さんから「2010総合生活改善闘争の取り組み~社会全体の底上げに向けて~」という演題のお話を伺うことができました。連立政権をめぐる情勢や「全労働者」で取り組む春闘の重要性などが語られ、「政治は必要だが、政党に頼るな」というメッセージも託していただきました。
定期昇給確保の要求など、やはり労使交渉の積み上げによって相場を高めていく必要性の提起でした。官邸に太いパイプがあるからと言って、政治の力に依存しすぎれば「癒着」という批判を招きかねないことへの警鐘だったものと受けとめています。とは言え、今回の記事で取り上げた鳩山首相の軽率な発言に対し、連合が取った迅速な行動に関しては、さすがに左山さんも「やりすぎ」とは見ていなかったことを付け加えさせていただきます。
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