新政権への期待と要望
先週日曜の衆議院選挙で、民主党は308議席を獲得しました。1党が獲得した数としては過去最高であり、これまでの記録は1986年の衆参ダブル選挙で中曽根自民党が獲得した300議席でした。当時の定数は512、現在は480ですので、今回の民主党の圧勝ぶりが際立っています。日曜午後8時に明らかにした各局の出口調査などによる予想では、320前後の数字が並んでいました。
その場合、自民党の議席数は2桁にとどまる惨敗予想でした。最終的には、森元首相や福田前首相らが大接戦の末、小選挙区で民主党候補を振り切るなど、自民党は119まで議席数を盛り返す底力を発揮していました。さすがに民主党単独で衆議院の3分の2を占める大勝は許さないという民意の絶妙なバランスが働いた選挙結果だったのでしょうか。
前回記事「ネガキャンの中の自治労」のコメント欄で書いた感想ですが、応援していた候補者や政党の勝利は本当に嬉しいものがあります。ただ今の気持ちは、例えが適当かどうか分かりませんが、人事異動の内示が出た後のように感じています。内示前の各職場では、誰が昇格するのか、誰が異動するのか、期待や興味が高まったワクワク感が充満しています。それが内示された後、異動する人たちは新しい仕事への不安感も芽生え、残された人たちはベテランが抜けた穴の心配など、一気に現実に引き戻されていきます。
待ち望んでいた政権交代、これから嬉しさだけではない難しい現実の課題が直面していくはずです。国民から大きな期待を寄せられた民主党国会議員の皆さんの責任の重さは半端ではないため、そのような気持ちをもっと強く感じられているのではないでしょうか。いずれにしても政権交代は目的ではなく、国民の生活を豊かにするための手段であり、そのためのスタートラインに民主党が立ったという見方が適切なのかも知れません。
今月16日には鳩山新政権が発足する運びですが、社民党と国民新党との連立に向けた協議が進められています。外交や安全保障面で民主党と社民党との軋轢が心配されています。しかし、社民党が謙虚さと大局観を忘れず、一方の民主党が次のような認識を持ち続けている限り、乗り越えられていくハードルだろうと思っています。参考までに昨年の秋に投稿した記事「民主党を応援する理由」の内容の一部を紹介させていただきます。
大義のなかったイラク戦争をやみくもに支持した小泉元首相の政治姿勢は厳しく問われなければなりません。そのような過ちを教訓とし、「非は非」と言える日米関係をめざす民主党の方針こそ、国際社会の中で日本の地位を高め、国益にかなうのではないでしょうか。決して米国と不仲になることを望んでいる訳ではありません。米国との同盟関係を過度に強調するリスクへの問題意識があるため、その関係を見つめ直す切っかけとしても非自民政権の誕生を期待しているところです。
小沢代表の外交参謀と目されている山口壮衆議院議員が『サンデー毎日』(10月19号)の誌面で、自民党の外交政策を痛烈に批判しています。アフガン情勢が悪化する中、戦略を誤っている米国の言うままに「テロとの戦い」を大義名分に掲げる麻生首相の間違いを指摘し、小泉元首相が「対米関係さえ良ければ日本の安全保障は大丈夫」とうそぶいたことに対しては、あまりに幼稚であるなどと切り込んでいます。(参考「天木直人のブログ」)
「“戦争をつくる”のではなく“平和をつくる”ことでしかテロはなくならない」と訴える元外交官で、国際政治学博士の肩書も掲げる山口さんの主張に強い共感を覚えています。このような考え方が基盤となっている民主党に対し、「日米同盟重視」一辺倒の自民党との差異は明らかです。今後、政権選択の選挙戦の中で、このような差異を強調していくことも民主党に求められているのではないでしょうか。
以前投稿した記事を紹介する時、必ずリンクをはるようにしています。それでもクリックして、その記事まで読まれる人は少ないものと見ています。そのため、今回は改めて述べたかった内容について、当時の文章をそのまま掲げさせていただきました。木曜日には小沢代表代行の幹事長就任も決まったようであり、「友愛」外交を打ち出している鳩山代表とともに憲法の平和主義を大事にした政権運営に努めていただけるものと期待しています。
続いて、私たちの生活に直結する個別政策の行方ですが、そもそもマニフェストを金科玉条としがちな選挙のあり方に少なからず疑問を抱いていました。少し前に「『政権交代論』への共感」という記事を綴り、そのコメント欄の中で次のように書き込んでいました。決して手を抜いている訳ではありませんが、後付け的な主張ではない意味も込めて、やはりその時の文章をそのまま掲げさせていただきます。
『政権交代論』の著者である山口教授は「野党の側からマニフェストを示す際には、正確な財源の見積もりは困難である。政権獲得を目指す政党にとって最も重要なことは、こぢんまりした整合性ではなく、現状を批判することと、よりよい社会を提示する構想力である」と問題提起しています。
週刊エコノミスト(2009年5月5日・12日合併号)のインタビューでは「今のマニフェスト運動は英国から移植し、日本型を作る際に偏ってしまった。数値目標財源にこだわり過ぎです。100㍍を10秒台で走ろうとする人と、できるだけ長距離を走ろうとする人を同じスタートラインに立たせて、あなたは何秒か、と聞くようなものです。この議論を突き詰めると政党政治を貧しくし、空洞化させます」と語っています。
マニフェストの母国イギリスにおいては、政党の基本理念がマニフェストに表現されることが第一義で、財源の確保が強調されている訳ではなく、数値目標を過度に強調するのは日本的な誤解であるようです。個人的には、このような考え方に強く共感しています。とは言え、マニフェストの土俵に民主党も乗ってしまったことは間違いありません。今さら大胆な軌道修正は難しい局面であり、残念なことだと思っています。
特に今回の総選挙戦の勝敗を分けた鍵は、マニフェストの優劣だった訳ではない見方が強まっています。自民党政治からの「チェンジ」を願った票の積み重ねが地殻変動を起こし、民主党の勝利につながったものと受けとめています。確かに子ども手当や農業の戸別所得補償制度など、具体的な公約が民主党への支持を広げたことも事実だと思います。一方で、直接的なメリットがないどころか、負担増になる可能性を覚悟した多くの人たちも民主党へ1票を投じているはずです。
つまり個別政策への期待よりも、閉塞感を打開するため、政権選択が大きな判断材料になったものと見ています。以前から民主党の公約だった高速道路の無料化など、簡単に下ろせなかった経緯もあったのでしょうが、正直なところ優先順位の高い政策なのかどうか疑問が残っています。それでも必ず公約の大半は実現に向けて、具体的な検討に入ることが民主党の今後の既定路線です。
仮にマニフェストを軽視した場合、国民との約束を破ることとなり、一気に民主党への批判が強まっていくはずです。したがって、まずは政権公約に掲げた政策の実現に向け、全力を尽くしていくのが当たり前な話だと受けとめています。しかし、著しい歪みや将来への大きな禍根が見込まれた時は、勇気ある撤退や大胆な軌道修正も選択肢に加えて欲しいものと望んでいます。
民主党が期待されているのは、総論としての国民生活の向上であり、明るい未来を切り開くことだと思っています。党としての面子や体裁にこだわり、各論の実現を優先しすぎた結果、逆に国民を不幸せにするような事態は本末転倒なことです。公約を修正する際など、真正面から誠意を尽くして説明責任を果たしていく限り、国民からの信頼も簡単に失墜しないのではないでしょうか。
とにかく生活者の視点を重視した民主党中心の政権には大きな期待を寄せています。その上で、一支持者として現時点での率直な思いを言葉にさせていただきました。最後に一言。自治労に所属する組合役員の立場から見た政権交代について、今回の記事で触れる予定でした。いつものことですが、長々とした記事となってしまったため、別な機会に譲らせていただきます。
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コメント
2人のガキを抱えるオヤジとして一言。
地域振興券、定額給付金、子ども手当。前2つは1回きりのモンで、正直もらえるもんはもらうけど、中途半端な金額やし、無駄な気もしてた。そうそう、地域振興券は当時資格が無うて、もろてへんわ。せやけど今度の子ども手当は定額給付金以上のカネが、毎月やってくるんやから、これは助かるわ、正直。なんせ保育料ものすごい高いからな。子ども手当満額でも相殺できんのやさかい。
せやけど、ホンマは、社民党の言うみたいに、保育所をもっと整備しとくほうが、国のためではあると思うな。
オレんとこはなんとか入所できたけど、倍率すごいねん、毎年。待機児童を抱える家庭を思たら、一律にカネを渡すより、保育所を造ったり、保育料を安くする政策にしても良かったんやけどな。しかしそうすると選挙公約としてのインパクトは無くなるから、難しいところか。何にせよこの公約を反故にされたら、キレるで。
タカ派のオヤジとして一言。
対米関係がどうとか、そういう相対的な事も大切ではあるんやけど、先ず日本がどういうスタンスでいるんか、己自身の問題やと思う。そこがしっかりしてへんかったら、例えばインド洋での給油活動をやめるんでも、意味が変わってくるんちゃうやろか。国内では、憲法改正、A級戦犯の扱い、靖国に替わる施設、外国人参政権、自衛隊の装備や活動範囲、外交では、特定アジアに対する姿勢、拉致問題、北朝鮮の核、このへんみんな繋がってくると思うんや。対米関係は、その中の1つやで。またそういう問題は民主党が主張する国民生活の向上ともつながってるはずで、軽く扱うてもろたら、困るな。この辺に関しては社民党がくっついてるんがめっちゃ不愉快や。どっかの右寄り雑誌にもあったけど「第二の村山談話」が生まれん事を心から祈ってる。
個人的な新政権の期待と要望、そして不安を言うてみた。失礼。
投稿: K | 2009年9月 5日 (土) 02時20分
Kさん、おはようございます。さっそくコメントありがとうございました。
前者のご意見は共通する点が多いようですが、後者については、Kさんと私自身のとらえ方は枝分かれしていくのだろうと思っています。それでも社民党のスタンスとまったく同じものではありませんので、本文で記したような「謙虚さと大局観を忘れず」という言葉につながっています。
投稿: OTSU | 2009年9月 5日 (土) 07時27分
確か子ども手当の創設に伴って、現行の児童手当は廃止するという話でしたっけ。ところで、現行制度下で事業所から健保・厚年と併せて集められている児童手当拠出金(年金特別会計児童手当勘定)はどうするのんでしょね。(仮称)子ども手当拠出金として徴収を続けるのかしら?児童手当拠出金の去就については明示されてないようですけど。
ちなみに配偶者控除・扶養控除の廃止で約1.6兆円の税収増が見込まれて、児童手当が現状で約1兆円と見込まれるらしいと聞いたので(但確証無)、所得控除の廃止と児童手当拠出金を(仮称)子ども手当拠出金に振り替えたら、子ども手当の財源として調達できるのが約2.6兆円くらいかと。
で、子ども手当は初年度は半額支給(必要な財源が約2.7兆円と見込まれると明記されている)らしいから、初年度は何とかなるのでわ、多分。。。配偶者控除や扶養控除の廃止、児童手当拠出金の子ども手当の財源への移行の為の法改正が実現できればの話ですけど。
2年目以降の完全支給については、今言われている政策方針だけで対応するのは、限りなく難しいと思いますけど、そこを何とかするのが民主党様の国民との契約と言うことで。少なくとも、子ども手当(但し初年度の半額支給のみ)については、実現可能性についてある程度目処が立つんじゃないでしょうか。。。(ボソッ
投稿: あっしまった! | 2009年9月 5日 (土) 17時30分
あっしまった!さん、コメントありがとうございました。
民主党のマニフェストを読み返しましたが、所得税の配偶者控除・扶養控除の廃止と不透明な租税特別措置の見直しで2.7兆円を節約すると書かれ、児童手当拠出金の扱いは見つかりませんでした。今後、詰めていく課題が結構残されているのかも知れません。
ちなみに選挙後の朝日新聞の調査で、子ども手当反対が49%で賛成31%、高速道路無料化反対が65%で賛成20%という結果が明らかになっています。利害が大きく異なっていく政策ですので、このような結果になるのは仕方ないのでしょうが、今回の記事本文に書いたような見方が裏付けられる数字だと思っています。
投稿: OTSU | 2009年9月 6日 (日) 21時06分
実は息子が地方公務員でしてね。たまたまこのブログにあたっちゃって連続書き込みしてますけど。
外交政策云々するほど学識はないんですが、一言。
私は、アフガン戦争には大義名分があったと思ってます。9.11が陰謀でなければね。
タリバンがビンラディンをかくまってたわけですからね。
イラク戦争については、無理無理でしたね。
しかし、結果は、イラクの方がうまくいってますね。フセイン政権下で抑圧されていたシーア派とクルド人が政権に参加しました。このままある程度民主的な政権が根付くかどうかわかりませんが、ともかく中東では異例のことです。
逆に大義名分もあり、オバマ大統領が今後力を入れると言っているアフガンの方が情勢がきびしくなっていますね。
極端なことを言えば、外交はうまく立ち回ればいい、ってことです。大義名分がなくても、当時イラク戦争に協力したのは日本だけじゃないし、血を流したわけでもなし、あれで同盟国づらができたなら、成功ってことじゃないですか。
じゃ、正義はどこにあるんだ、って言われるかも知れませんが、どこにあるんでしょうね。
中国なんか、ミャンマーと仲良くしても、チベット人を弾圧しても、実質的な制裁は受けません。理由は簡単で、核を持ってて13億の人口がある、経済的に成長しつつある大国だってことです。要するに強けりゃ、何やったっていいんです。
正義も大義名分も自分に都合がよけりゃふりかざすものです。そうじゃありませんか。
道義外交とか、正義外交って成功した試しがない。カーター大統領はソ連にいいようにやられたし、イギリスのブレア政権ができたときのロビン・クック外相もそんなこといってましたけど、結局なんの役にも立ちませんでしたね。
投稿: ケイジ | 2009年9月25日 (金) 10時30分
ケイジさん、コメントありがとうございました。
4つの記事へのコメントを通し、ケイジさんの博識ぶりが分かります。その上で、この外交のあり方などについては、簡単には論評できません。そのようなとらえ方もあるという点のみ、受けとめさせていただきます。
投稿: OTSU | 2009年9月25日 (金) 21時37分