徴税吏員としての職務
2年前の4月に市民課から今の職場、納税課へ異動しました。市民課では管理係に所属し、住民基本台帳の実態調査や人口統計事務などを担当していました。納税課では収納係に配置され、滞納整理事務に従事するようになっています。これまで当ブログの記事を通し、税金に関する題材をいくつか扱ってきました。
- 2007年5月12日 ふるさと納税と三位一体改革
- 2008年1月13日 収納現場から見た税源移譲
- 2008年1月20日 もう少し税金の話
- 2008年1月26日 千円札の重み
それぞれ自分の担当している仕事の話にも触れていますが、主題は税源移譲やガソリン税の暫定税率の問題などにつながっていました。そのような構成となっている理由として、まずローカルな話題に終始した記事を不特定多数の皆さんに発信する意味合いの薄さを考えています。また、ブログでの身近な事例の取り上げ方には、よりいっそう細心の注意が必要とされる点なども留意してきました。
加えて、税務の知識や実務について熟練できるよう日々励んでいるつもりですが、3年目に入っても「新たな発見」に遭遇する場合が珍しくありません。収納業務の奥深さの証とも言えますが、自分自身の勉強不足の露呈であることも否めません。したがって、その程度のスキルの者がブログで具体的な仕事の話について、掘り下げていくことの気恥ずかしさがありました。
とは言え、決して担当業務に対して「半人前」という訳ではありません。前回記事(「スーパー公務員」になれなくても)のコメント欄で、のん気な野良猫さんとイチ公務員さんが交わされていた議論の答えにつながるのかも知れませんので、この点については後ほど改めて説明させていただきます。いずれにしても前回までの記事内容の流れを踏まえ、今回、久しぶりに自分自身が担っている納税課の仕事を題材として取り上げてみました。
私の仕事は徴税吏員として、税金の滞納整理事務を担当しています。納税者が納期限までに地方税を納付しない時、①督促状や催告書等による納税の催告、②差押や交付要求等の滞納処分、③徴収猶予等の納税の緩和措置を行ないながら滞納金を徴収して完結するか、不良債権として滞納処分を停止して徴収権を消滅させる、以上が徴税吏員の主な職務内容です。
滞納処分とは、地方団体等が自力執行権に基づいて行なう租税債権の強制的実現手続きを総称したもので、国税徴収法に規定されている処分です。具体的には預金や不動産などの差押が滞納処分にあたります。徴税吏員は滞納処分に関する職務権限が与えられた者であり、地方公務員一般の守秘義務違反より重い罰則が地方税法によって課せられています。
このように公権力を行使する象徴的な職務に際しても、人事異動した日から職員は新たな仕事で「一人前」の役割を求められます。納税課に限らず、このような位置付けは全庁的なものであり、新入職員であっても「研修中」というような名札を付ける扱いはありません。そのため、事務引継ぎや研修のあり方など配属先によって濃淡がありますが、どこの職場でも新たに配置された職員の経験不足は専ら先輩職員が補うことになります。
のん気な野良猫さんから「2,3ヶ月で一人前になれるとしたら、一人前の水準が低いか、仕事のレベルが低いかのどちらかでしょうね」との投げかけがありました。配属初日から「一人前」を求められるという話は、もっと驚かれるかも知れません。要するに初めて担う仕事ばかりだったとしても、周囲からのフォローを受け、そつなく自分の仕事を遂行しなければならない点を強調しています。
この場合の「一人前」の水準は、新任職員と先輩職員とでは小学生と大学生以上の差があるのかも知れません。だからと言って「仕事のレベル」が担当する職員によって変動する訳ではなく、つまり徴税吏員の職務の重さが人によって変わるものではありません。その仕事の法的な背景を深く理解して担っているのか、慣れれば30分で終わる分量を1時間以上かけてしまうのか、そのようなレベルの差は経験を積むことで埋めていくことになります。
このように書いてきて、うまく説明できているかどうか自信がありませんので、今回の記事の題材とした私の職場の具体例を示しながら補強させていただきます。人事異動の内示が1週間前にあり、発令までの間に前任者と事務引継ぎを行ないました。納税課収納係の仕事はペア制が採用されています。したがって、私とペアを組む先輩職員も同席し、継続している個別案件の説明を受けました。
まったく税務は未経験であり、初めて聞く専門用語が飛び交う中、前任者の説明を半分も理解できていなかったかも知れません。それでもペア制という安心感に救われていたことは確かであり、前任者も私より先輩職員への説明を重視していたようでした。配属後も基本的にマンツーマンで実務のフォローを受けられるのが私の職場の特色でした。全庁的には、このような完全なペア制は稀ですが、前述したとおり新任職員は同じ係の先輩職員から仕事を教わっていくのが通例でした。
そのようなフォローができない少人数職場では、事務マニュマルが整えられているはずであり、それでも分からない時は異動先の前任者に尋ねることになります。ペア制が採られている納税課は新任職員にとって恵まれた職場ですが、一方で体系的な実務マニュアルの不足が気になっています。つまり実務面は先輩職員のきめ細かい手助けがあり、それほど体系的なマニュアルが必要とされていない職場でした。
それぞれの実務においてマニュアルはあるのですが、散在しているため、「これ1冊あれば実務の遂行は完璧」というようには整えられていません。その一方で、書籍となった滞納整理事務に対する手引や参考書は多数あり、研修を受ける機会も数多くある職場だと言えます。配属初日に課長や係長らから受ける課内研修から始まり、東京税務協会や市町村研修所が行なう初任者研修など、税務のスキルを高めるための機会は体系化されています。
ここで、少し切り口を変えた説明を加えていきます。私ども徴税吏員の仕事の目的は、本来徴収すべき市の債権を少しでも多く回収し、厳しい財政状況に寄与することが一つです。しかし、より重要な使命は、圧倒多数である納税者の皆さんとの公平性を保つことだと言われています。例え千円の滞納だったとしても、納付している人たちとの公平性の観点から未納は認めない姿勢が求められています。
徴税吏員の仕事の第一歩は滞納者に催告し、納めていただくというシンプルなものです。その催告書を郵送するという仕事は、配属初日の職員でも「一人前」にこなせる類いのものです。ただし、単純な仕事だと気を抜くことはできません。送付する書類の中に誤って別な人の市税明細書などを入れてしまったら一大事です。どこの職場でも同様であり、言うまでもありませんが、単純作業であっても常に細心の注意を払わなければならない仕事ばかりです。
徴税吏員の職務は先ほどお伝えしましたが、催告から始まり、滞納処分や執行停止に向けた財産調査などに進んでいきます。その際、実務経験や研修を重ねることで、多種多様なアプローチの仕方や工夫をはかれるようになり、収納率の向上という結果につながっていきます。滞納者のリストを前にして、次に何を行なうべきか、その引き出しの数の差が経験の差と比例するものと思っています。
自分の仕事について書き進めると、取り留めもなく長くなりそうです。さらに「一人前」論議に対する明確な答えにつながっていないことも反省しなければなりません。それでも前回記事を踏まえたまとめとしては、「スーパー公務員」になれなくても徴税吏員としての職務に対して今後も全力を注ぎ、「ばかもの」と言われるようなスキルアップに努めていく決意を新たにしています。
最後に、この仕事は結果が数字に表われるシビアさもあります。徴税吏員の努力だけではどうにもならない要因もつきまといますが、徴税吏員の努力で数字が動くことも確かです。異動して来た初年度、収納率97.4%は東京三多摩地区で第1位となりました。2年目となる昨年度は97.0%と率を落としましたが、2年連続で第1位を確保しました。組織全体で達成した結果であり、その一員であることを正直誇らしく受けとめています。
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