夏季一時金減額の動き
この1週間、前回記事「都下水道局のワッペン問題」と前々回記事「官僚たたきと公務員改革」それぞれへ複数のコメントが寄せられました。幅広いご意見や情報を得られる機会となっているため、いつも本当に感謝しています。最近、個別に素早くレスできないことが多く、たいへん申し訳ありません。
また、前回記事で自分自身の心構えとして述べた点ですが、考え方の異なる論争相手に対し、まずは聞く耳を持たせられる言葉遣いや表現の仕方に努力いただければと考えています。ぜひ、コメント投稿される際、そのような点をご留意くださるようよろしくお願いします。議論の内容そのものの対立が激しくても、感情的な「溝」が広がらない論争を切望しています。
さて、霞ヶ関の官僚の待遇が適当なのかどうか、人によって見方は分かれがちでした。いずれにしても官僚の賃金水準も、公務員制度の大きな骨格をなす人事院勧告に基づき現在の形が作られてきました。以前の記事「公務員賃金の決められ方」で記しましたが、社会一般の情勢に適応するよう民間賃金との比較調査が毎年繰り返され、その結果をもとに公務員の賃金水準などはプラスマイナスの補正が加えられてきました。
ボーナス、賞与、期末勤勉手当、呼び方が様々ですが、組合は一時金と呼んでいます。その一時金の民間の年間支給月数は春闘を経て、4月からの新賃金と合わせて決まっていきます。これまで人事院は8月に示す勧告に向けて、その年の春闘結果となる民間の相場を例年5月から調査してきました。一時金の場合、前年冬と当年夏の民間事業所の支給実態をもとに国家公務員の年間支給月数を勧告しています。
都道府県や政令市には独自な人事委員会がありますが、このサイクルは基本的に人事院勧告と同じです。したがって、好景気で賃金や一時金の大幅な引き上げが民間であった時も、公務員は半年以上遅れてその増額分を手にするのが通例でした。例えば民間では夏の一時金が大幅に引き上げられて3か月分の支給だったとしても、公務員の夏季一時金は前年の相場をもとにした2か月分にとどまる仕組みでした。
民間の一時金は、4月から翌年3月までの年度を単位に年間支給月数を定めます。しかし、公務員は前述した調査から勧告までのサイクルがある関係上、年末一時金から翌年夏季一時金までの期間をもって年間支給月数を配分することとなります。民間と比べ、賃上げ時期が遅れる一方、賃下げ時期も遅れるのが公務員制度の基本的な姿でした。
これまで賃上げの実施時期が4月1日に遡及された場合の差額支給や賃下げ相当分の減額調整など、官民の水準格差を埋める手立ては必ず講じられています。つまり増減の具体的な実施時期は民間と比べて遅れますが、その差額分の調整は何らかの形で行なわれてきました。同様に一時金の変動分に関しては、主に年末一時金の支給月数で調整してきました。すでに支給されている夏季一時金の額はそのままとし、年末一時金で年間支給月数分の増減を調整する手法でした。
このような「時間差」は制度上の問題として、やむを得ないものであったはずです。それが昨年秋以降に加速した経済危機に伴い、民間の夏季一時金の平均支給額は昨年比で6%以上落ち込む見通しとなり、「公務員だけ高いままでいいのか」という声が強まっていました。そのため、与党は「国家公務員の給与に関するプロジェクトチーム」を立ち上げ、議員立法もちらつかせながら夏季一時金を減額するよう人事院に圧力をかけていました。
その与党の働きかけを受け、人事院は4月7日から4月24日にかけて夏季一時金の減額を前提とした臨時調査に乗り出しました。そのような時、ブックマークしているブログの中で「おいにー、ぷんぷん」という記事を見かけました。そのブログの管理人は同じ役所の後輩ですが、「政治的な臭いがプンプン」と批判し、「公務員の労働基本権制約の代償措置である人事院の機能を損なうものであることから、到底容認できません」と憤っていました。
いつも顔を合わせている間柄ですので、「今回の調査は仕方ないよ。通常の調査と違った結果を出すようでは問題だけど、夏も含めて調整する方がいいんじゃないの」と率直な感想を伝えていました。自民党のプロジェクトチームの座長である葉梨康弘衆院議員も「決して公務員いじめではない。冬のボーナスだけで調整すると冬の支給額が激減し、公務員のふところに与える影響が大きい」と述べているようですが、その言葉にも一理あるものと受けとめていました。
確かに「上がる時は待たされて、下がる時は遅らせない」という論法に感情的なシコリが残ることも分かります。とは言え、明治大学の高木勝教授が「本来、景気のためには官も民もボーナスが上がるのがベストだが、民間が下がるのに公務員や国会議員だけが据え置きや上昇というのは公平性の観点からおかしい」と指摘していますが、やはり大半の人たちは「やむを得ない動き」だと見ているのではないでしょうか。
このように個人的には考えていましたが、公務労協としては夏季一時金臨時調査に強く反対し、中央集会などに取り組むことが決まっていたようでした。反対している主な理由は次のとおりです。中立的機関である人事院が政治的な圧力に屈し、その立場と責任を放棄している、調査方法が従来の詳細な支給額の調査ではなく、精確性や信頼性に欠けるというものでした。(参照「2009年度公務労協情報 №42」)
中央レベルの問題で緊急を要する場合など、個別の方針議論に一単組の立場からは関与できません。100万人を超える組織のあり方として、代議制による責任執行は当たり前であり、今回の公務労協の方針に反発するつもりはありません。決まった方針を受けとめ、できる限りの対応をはかる予定です。その上で、今回の記事をお読みいただいた皆さんがどのように感じ取られるのか、今後の参考のために当ブログで取り上げさせていただきました。
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