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2009年3月14日 (土)

憂慮すべき“お役所蟹工船”

木曜の夜、組合交渉は明け方まで断続的に続きました。結局、一睡もできない徹夜明けの朝を迎えることとなりました。それでも一定の決着がはかれれば、少しは疲れも癒されるのですが、最終的な解決に至らず週を越えた継続協議となっています。自治労都本部統一の春闘指標は確認できましたが、単組独自の課題である増員要求や減員提案に対する是非をめぐり、労使交渉は平行線をたどりました。

労使それぞれの見方に隔たりが大きく、改めて各職場の実情を把握し合いながら協議を促進していくことになります。次は水曜夜が大きな交渉の山場となる予定であり、組合要求の前進のために週明け大事な日々が続いていきます。このように人員配置の問題は労使協議の対象としていますが、ここ数年、常勤職員の増配置は抑制傾向をたどっています。

その一方、臨時・非常勤職員の採用が増え、すべて嘱託職員に切り替わった職場もありました。このような経緯の中、私どもの組合は恒常的な業務を担う嘱託職員の皆さんの組合への加入にも力を注いできました。常勤職員と比べ、待遇が劣る嘱託組合員の課題は多岐にわたり、日常的に労使協議を重ねながら労働条件の底上げをめざしています。

しかしながら制度面での壁などがあり、均等待遇の原則を貫けているのかどうか問われれば、常勤職員との「格差」は歴然としています。このような現状は当市に限った問題ではなく、『AERA』3月2日号に「広がる“お役所蟹工船” 保育園でも病院でも清掃業務でも」という記事が掲載されていました。その記事のリードには、このように書かれていました。

第2氷河期で再び復活する公務員人気。だが、その公共サービスの現場にも雇用不安が広がる。際限なき自治体の歳出削減は人件費に向かう。非正規と民営化で“お役所蟹工船”の世界が広がる。

取り上げられていたのは、まず和歌山県橋本市の非正規職員であるAさん(29歳)の事例でした。Aさんは、ごみの収集や仕分け業務に従事しています。月給が15万8千円、勤務時間は8時30分から17時15分です。クレーム処理と書類作成以外、正規と非正規との仕事に違いがないと書かれていました。契約は1年更新で、継続雇用を前提とした昇給制度がなく、同じ年齢の正規職員の年収が420万円であることも記されていました。

都内の保育園で働く非常勤職員のBさん(35歳)の手取りは月額10万円、そこから給食費5千円が取られ、交通費と7万5千円の家賃を払ったら何も残らない厳しさでした。静岡県の市民病院の看護ヘルパーであるCさん(52歳)の年収は250万円、「正規職員の補助」として採用されながら実際の業務内容は正規とほぼ同じ、やはり雇用契約は1年単位で常に「雇い止め」の不安にさらされているそうです。

今や自治体が直接雇用している職員のうち4人に1人以上が非正規で、内訳は保育士や学校給食員が多くなっています。自治体政策に詳しい福島大学の今井照教授は「退職者の補充を臨時・非常勤職員で穴埋めしたため、同じ業務内容でも大きな賃金格差が出てしまう」と語り、1990年代後半から強まっている行政改革を受け、“お役所蟹工船”というべき事態が全国に広がったと指摘しています。

私どもの組合と同様、自治労全体でも非正規雇用の待遇改善をめざし、非常勤職員の皆さんらの組織化などを重点課題としています。しかし、地方公務員法上の臨時・非常勤は、あくまでも補助的な業務を担うという位置付けであり、正規との差を大胆に縮められるところまで至っていません。非常勤職員の存在なくして自治体業務が成り立たない現状にもかかわらず、適用される法と実態が乖離しているものと見られています。

さらに『AERA』の誌面では、学校給食や保育園などの民間委託化の問題が取り上げられていました。その市場規模は2009年度に5兆円を超える見込みです。法政大学の武藤博己教授は「自治体財政の悪化と2001年からの小泉構造改革を受けて、公共サービスの充実化ではなく低価格のための民間委託が進行してしまった」と語っています。

市場参入を狙う企業も多く、一般競争入札となればギリギリの低価格で受注するケースが増えています。当然、事業費の削減は従業員の賃金に跳ね返ります。埼玉県下水道公社から委託されている電気関連の保守点検会社に働くDさん(40歳)の年収は310万円ですが、会社への委託費用そのものは年々削られているそうです。

埼玉県越谷市のリイサクル施設でも2006年度から運営業務が随意契約(特定業者との契約)から事実上の指名競争入札となり、働く社員の月収が31万円から21万円に下げられた事例が記されていました。加えて、1年契約で翌年の受注が保証されていないと従業員を正規で抱えるリスクが大きいため、ここでも非正規への置き換えが進みがちとなります。

労働者の生活を脅かしている実態について、越谷市の担当者は「市としては最低賃金を下回るなどの法令違反がなければ、指導することはできない」と困惑気味に話されています。入札デフレスパイラルが起きても、現在の社会状況では競争入札を随意契約に戻すのは市民の理解を得にくい、そのように『AERA』の記事は続きます。また、労働者の一定賃金を保証した上での入札制度は、現行法上では難しいとまで書かれていました。

一方で、北海道えりも町が地域雇用を最優先し、車両運行、施設管理、給食調理、清掃業務などを5年という複数年での一括契約としました。東京都国分寺市でも可燃ごみの収集業務を5年間の複数年契約とするなど、行政コストを抑えつつ、そこで働く人たちの雇用や賃金を守りながらサービスの質を担保しようとする動きも出始めています。

前述した武藤教授は「政策入札」制度を提唱されていますが、数年前から自治労は「自治体公契約条例」制定の運動を進めています。もともと入札制度は価格が中心でした。特に労務提供型の委託契約は2002年まで「最低制限価格制度」さえありませんでした。1999年に地方自治法施行令が改正され、価格とその他の要素を総合的に判断できる「総合評価方式」の導入が可能となりました。

それらの経緯を踏まえ、自治労は人権、環境、福祉、公正労働、男女平等参画、障がい者雇用など社会的価値を落札基準に盛り込んだ公契約条例の普及をめざしてきました。とりわけ公正労働基準の遵守などが入札の条件となることによって、委託労働者の待遇改善につながることを期待しています。いずれにしても憂慮すべき“お役所蟹工船”という現状に対し、少しでもその改善がはかれるよう組合役員の立場から努力しなければならないとの思いを新たにした『AEAR』の記事でした。

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コメント

交渉お疲れさまです。ウチは金曜日に早朝職場集会と午後から交渉を打ちました。
一定の成果・・・正規職員採用はここ数年、退職者数の5割未満しか採用されてきませんでしたが、来年度からは5割以上の採用をすることで労使妥結、夏期休暇も粘り強く交渉を行った結果、今年度と同日を維持。一定程度の成果を得ることはできました。時短の絡みは労使妥結はしているものの、議会の議決次第でどうなることやら・・・

投稿: ハマ〜 | 2009年3月14日 (土) 22時58分

ハマ〜さん、コメントありがとうございます。

お互い春闘期の交渉、お疲れ様です。人員の課題は、まだまだ現在進行形で続きそうですが、時短についてはスムースに運んでいます。

投稿: OTSU | 2009年3月14日 (土) 23時42分

ご紹介の主題に関しては、今年2月16日発売の、「週刊東洋経済(2009年2月21日特大号)」の第2特集も、それなりに良質な記事だったと思います。最近類似の記事を多く目にするようになったので、やや記憶が曖昧でして、もしかしたら雑誌や発売号を根本的に間違えてるかも知れないのですけれど・・・。(恥

特集の題名は、『ここまで来た「自治体荒廃」あなたの街の大問題』とあって、所謂官製ワーキングプアのみに焦点をあてた記事ではありませんでしたが、ご紹介の外部委託の契約問題や非正規雇用の待遇問題・法制度に起因する背景事情なども含めて、問題を知る入り口としては良い内容だったかと。(確かこの特集記事の中で読んだ気がする。う~ん。年取って物忘れが・・・。ポリポリ。

投稿: あっしまった! | 2009年3月15日 (日) 09時46分

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投稿: Myアフィリエイトスカウト事務局 | 2009年3月15日 (日) 11時56分

あっしまった!さん、コメントありがとうございます。

『東洋経済』の記事も興味深いですね。今回、組合事務所にあった『AERA』の記事が目に留まり、ブログに取り上げてみましたが、このような問題意識が広がっていくことは大切なことだと考えています。

投稿: OTSU | 2009年3月15日 (日) 17時25分

Myアフィリエイトスカウト事務局さん、ご紹介ありがとうございます。

当ブログは個人の責任で、自費による運営ですが、私どもの組合員の皆さんへ機関紙などを通してPRしています。そのような経緯もあり、一切アフィリエイト関係は掲げない方針です。せっかくのお誘いですが、ご理解くださるようお願いします。

投稿: OTSU | 2009年3月15日 (日) 17時32分

交渉お疲れ様です。今年もまた大幅な定員削減が確定しました。
出先の廃止も進んでおりそのたびに地元から存続の声がでているとのことです。
しかし、「小さな政府」を「国民が選択した」ということもあり総務省の査定はこの経済情勢でもかわることはありませんでした。
私の職場は民主党の「政治的要請」で始まったシフト制、サービス提供時間の拡大等を定員削減のなかでも続けています。
その結果、職員に相当の負担(家庭的な事情でその勤務ができない職員がいるため他の職員がカバー)が来ています。
当局追及もしなければなりませんが、「政治的要請」で始まったことにより「罪悪感」が彼らになく、利用状況も芳しく
ないのに続けている現状があります。
非常勤職員の待遇改善も大きな課題です。無権利状態で民間よりもひどい状況にあることです。
昨年、橋下知事のもとで行われた交渉のときの非常勤職員の方の声が忘れられません。「イルミネーションの方が私たちより大事ですか」。(私の職場でも一人雇い止めが確定しました。正直先が見えませんが職場声をあげなくなった時、本当の危機が訪れる
と感じていますので意見集約等を行うことでで少しでもよい職場になるよう活動しています。)

投稿: ためいきばかり | 2009年3月15日 (日) 22時12分

臨時・非常勤職員の組織化するのに内部から不満の声を聞くと徒労感に襲われますね。
表立って騒ぐ人はいませんが、「彼らは待遇がわかって契約したのでは」「組合員の賃金労働条件を優先すべき」「私達は試験を受けて入った、彼ら彼女等は違うから待遇の差は当然」

うーん。
正規・非正規労働者側のコンセンサス醸成は公民問わず道が遠いのかなあ。

投稿: 南方くす夫 | 2009年3月15日 (日) 23時04分

非常な脱線投稿であることは承知の上ですが、ためいきばかり様のご投稿を拝見すると書かない訳にはいかない気分。(汗

特に国の公務員に関して言えば、(狭義の)官僚のみならず、(広義の)行政職員の中でも、心ある人や職責に忠実な人であればこそ、民主党様の言動について離心しておられる方は多い筈ですよ。
日常、「法令遵守を錦の御旗にして攻撃」しながら、自らの支持率の観点から都合が悪かったり、目先の支持者の歓心の為には、「法令遵守した執行結果をけしからんと攻撃」してこられたりしますから。
かなり振り回された現場も多いと思います。人員は減らすが組織の許容量以上に仕事は増やす、しかし過誤の発生は許さない。両立不可能な命題や言動不一致な行為を平気で要求しますからね。

大体、民主党様が政令・省令・通知と言った行政機関の裁量の余地を狭めるという大義名分の下で、国会に提出される法案野の中には、成立したとして「そのまま執行すれば、法案提出者が想定していた形で執行することが出来ない」ようなものもありましたし。
仮にそんな法案が成立したとすれば、法案提出者が想定していた形で執行するには、民主党様が排除するよう仰る政令・省令を駆使する必要があるもの、下手したら戦前の勅令という法形式と見紛う程の大幅な規定を必要とするのですが。
と申しますか、法案中に委任規定を盛り込まれるときには、「政令」と「省令」の区別を付けてくださいよ。単に「命令」って条文に書かれても、政令と省令を併せ持つ「勅令」という法形式は無いのですから。>民主党様

投稿: あっしまった! | 2009年3月16日 (月) 01時53分

ためいきばかりさん、南方くす夫さん、あっしまった!さん、おはようございます。コメントありがとうございました。

個々の思いとして、民主党政権に対する不安が拭えない点はやむを得ません。ただ民主党が結成されてから現在まで連合との太い支持協力関係があることも事実です。

したがって、労働組合の立場について、率直に申し入れていくことは決して「一部の利益集団のため」ではないはずです。そのような意味合いから各産別の本部機能を適確に発揮して欲しいものと願っています。

投稿: OTSU | 2009年3月16日 (月) 06時41分

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