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2009年3月21日 (土)

農水省の「ヤミ専従」疑惑

昼休みを告げるチャイムが鳴ると、市庁舎地下にある食堂は途端に長い行列を作ります。誰でも利用できる食堂ですが、職員の利用が圧倒的に多いため、少し出遅れるだけで5分以上待たされることになります。チャイムと同時に仕事を区切れない職場の皆さんには「申し訳ないな」と思いながらも、できる限り足早に食堂へ急ぐのが私の日課となっていました。

組合の役員を務めているため、何年も前から昼休みは組合業務を遂行する貴重な時間でした。そのため、その5分の待ち時間を惜しむのが体に染みついていました。また、車で通勤していますが、突然の渋滞などに対応できるよう余裕を持ち、毎朝8時頃には役所へ着くように心がけています。その始業時までの30分も、組合業務に充てられる貴重な時間となっています。

かなり昔は、私どもの役所でも勤務時間内の組合活動が非常に幅を持って、労使慣行として認められていました。その当時も条例に定められていた時間内活動は労使交渉に限られていたはずですが、交渉のための準備行為という解釈が広がっていたようです。社会保険庁で厳しい批判を受けた「ヤミ専従」のような極端な問題も、この解釈の延長線上にあったものと見ています。

制限速度40キロの道路を41キロで走れば道路交通法の違反です。「50キロまではOK」という話は取り締まり上の現実的な運用として、実際にその通りなのかも知れません。しかし、1キロオーバーでも違反だと問われれば、不本意でも返す言葉がない点も押さえなくてはなりません。それでも法律の適用に関し、マージャンの遊び方やパチンコの景品買取システムなど社会通念上の幅があることも確かです。

この「社会通念」という幅は、時代とともに変化していきます。「ナントカ還元水」で注目を集めた事務所費の問題も、追及された国会議員の本音は「今までは許されていた」「皆が同じようにやっている」というようなものだったはずです。誤解を受けないよう強調させていただきますが、決められたルールは厳格に守るべきことが当然であり、「ここまでは許される範囲」などとの勝手な解釈は言語道断だと考えています。その上でルールの運用に対して、ある程度の幅やノリシロも必要だろうと思っています。

住民基本台帳法では「転入をした日から14日以内に届け出なければならない」と記され、正当な理由がなく守れなかった場合は5万円以下の過料に処されます。しかし、この規定を厳格に適用している自治体はないはずであり、6か月を過ぎたケースに対して簡易裁判所へ通知しているのが概ね現状ではないでしょうか。この幅は自治体にとっても裁判所にとっても現実的な実務遂行上の対応であり、かつ社会通念上も認められてきた範囲だとも言えます。

前置き的な話が長くなりましたが、勤務時間内の組合活動の問題も時代とともに大きく変わってきたものと思っています。もう一度、強調させていただきますが、「ヤミ専従」のような存在が昔は許されていたと述べるものではありません。違法なものは今も昔も違法であり、駄目なものは駄目であったことに変わりありません。

しかしながら幅に対する解釈問題として、労使関係の中で「ヤミ専従」的な存在も暗黙の了解としてきた場合があったのかも知れません。言うまでもなく公務員に対する厳しい視線が強まる中、「ヤミ専従」は絶対許されるものではないはずです。仮にかつて存在していたとしても、過去の遺物となっているものと思っていました。

それが数年前、社会保険庁で取り沙汰されたことに違和感を持ちました。つい先日は、読売新聞の朝刊第1面に「ヤミ専従」の文字が大きく掲げられました。農水省の職員で構成する全農林労働組合における「ヤミ専従」の疑惑でした。さらに農水省側が意図的な調査によって「ヤミ専従」隠しを行なったとの報道内容でした。

農林水産省が昨年4月、国家公務員法で禁じられている労働組合のヤミ専従調査を行い、全国の地方農政局などから職員計142人に疑いがあるとの報告を受けていたことが分かった。その後、同省は組合側に確認調査の日付を教えるなどし、当日、無許可で組合活動をする職員が「ゼロ」になるまで調査を繰り返した。省を挙げた事実上のヤミ専従隠しとみられ、石破農相は読売新聞の取材に「確認作業に問題があった」と認め、142人の調査をやり直すよう関係部局に指示した。

調査は昨年3月に匿名の通報があったことがきっかけで、秘書課が全国46の地方農政局・事務所などに対し、組合幹部全1395人について4月1日の勤務実態を照会。その結果、通常の業務をしていた職員は1人もおらず、全員が同日中に何らかの組合活動をしていたことが判明した。このうち事前に許可を得ていた職員は17人だけ。1236人は「事前の許可がなくても認められる範囲の内容」などと見なされたが、142人はヤミ専従の疑いがあると報告された。

報告がまとまった直後の同月4日、松島浩道秘書課長が、同省職員で作る全農林労働組合(組合員数約1万9000人)の書記長に会い、確認調査を行うと伝えた。それを踏まえ、秘書課は9日付で142人の勤務状況を報告するよう求めた。この調査でも、17農政事務所から計48人がヤミ専従であるとの報告があった。このため秘書課は21日、全農林に23日に再度の調査を行うことを伝えるとともに、対象者の氏名や具体的な調査方法までも明かした。

その結果、48人は調査日に全員が自席で勤務していたり、「短期専従許可」を取ったりしていたという。読売新聞の取材に、複数の農政事務所幹部が「正直に回答したが、本省の調査はヤミ専従の隠匿が目的だったと思う」と語った。社会保険庁でのヤミ専従発覚を受け、総務省が昨年5月に全省庁に報告を求めた際、農水省は1人もいなかったと回答していた。【読売新聞2009年3月15日】

その後、読売新聞は連日のように追跡記事を重ね、木曜夕刊には再び「処分職員の賞与穴埋め」という見出しの記事を第1面のトップに持ってきました。確かに注視すべき問題ですが、ここまで大きく取り上げていくニュースなのかどうかは少し疑問に感じています。本題と離れていきますので、これ以上触れませんが、他紙に比べて読売新聞の力の入れ方は半端ではないようです。

農水省の弱腰について、「霞が関最強組合」に配慮した、省内では「組合が怖いあまり、国民への説明責任を放棄した」と自省の声があがっているなどと書かれています。どうも社会保険庁における労使関係と同じような構図だったように見受けられます。つまり組合側が圧倒的に強く、当局側としては改めたいと考えている問題を提案もできず、様々な「既得権」が温存されてきたのかも知れません。

過去の遺物となるべき「ヤミ専従」の問題が今、批判の対象となる事態は非常に残念な話です。疑いの段階とは言え、「現場にはヤミ専従が悪いという感覚はない」と明かす農水省の地方事務所幹部の声も載っていました。連合に結集している組合同士ですが、産別が異なり日頃のお付き合いがない関係です。そのため、ブログを通した物言いで誠に失礼ながら、これまでの組合側の認識の甘さなども厳しく総括し、改めるべき点は直ちに改めていくことが急務だろうと思っています。

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コメント

「改めるべき点は直ちに改めていく」。本当にそうですね(まだ調査の段階ですが・・・・)
しかし、正当な組合活動が停滞することがないようにしていかないといけませんね。
私たちの職場は時間外活動が主で(あとは人事院の制度にそって活動していますが)役員に相当な負担がかかっている
こともありOTSUさんの組合活動と状況は同じだなと感じています。

投稿: ためいきばかり | 2009年3月21日 (土) 22時41分

ためいきばかりさん、コメントありがとうございます。

私もその点を危惧しています。この問題がセンセーショナルな取り上げ方をされていくことで、維持しなければならない正当な組合活動まで批判の対象となることを心配しています。

ちなみに今回のブログ記事の要旨について、分かりづらい点があったものと思います。さらに回りくどい言い方になるかも知れませんが、紹介した読売新聞の記事の“1236人は「事前の許可がなくても認められる範囲の内容」などと見なされたが、142人はヤミ専従の疑いがあると報告された”の箇所に絡む問題意識も託した記事だったことを補足させていただきます。

投稿: OTSU | 2009年3月21日 (土) 23時29分

農水省も、小泉内閣の時の遺産である公務員削減(昨今の地方支分局廃止議論とはまた別)で農林統計に係る業務の見直しと大幅な人員の削減(新規採用停止・他省庁への人員移管)を迫られていたのではなかったかと思います。

そもそも人が少なくなってきている中で、昔ながらの組合活動は難しい部分もあるのではないでしょうか。

また、業務を離れて専従で組合業務に携われる人数も限られていると思います。
事務所・出張所などの多い仕事だと、支部クラスでは通常業務の合間に役員が組合の仕事をしているということもあるのかな、と。
もちろん、短期専従許可や年次休暇など、職務専念義務を外れる措置は必須ですが・・・これもどれだけ使えるのかという心配はあるでしょう。

いろいろ言い出すときりがないですし、細かくやればやるほど無駄な負担が増えるわけですが組合活動と通常業務の境目もある程度はっきりさせておく必要がある時代なのかもしれません。通信手段等はもちろんのこと、必要とあらば紙くらいまでは。

投稿: 流浪人 | 2009年3月22日 (日) 00時24分

民間企業では、企業側が認めていれば、就業時間中の組合活動は許容されています。就業規則や労働協約に明示されていれば当然ですが、労使慣行でも正当性を持ちます。

今後、公務員の労働基本権の回復が行われれば、制度的にも、政府当局と組合との交渉ごとの重要性が高まります。国家公務員の協約妥結権が回復すれば、労働条件の制度設計にも公式に関与することになる訳です。

つまり、政府当局側にとっても交渉相手の労働組合が職員代表として真っ当に機能してくれないと困るようになる訳ですから、就業時間内に許容される組合活動の範囲を拡充すべきと思います。

当たり前のことですが、人事担当部署は、組合との交渉に必要な業務を就業時間中に行っている訳ですから、(逆の立場から)同じ制度設計に関与することになる組合役員にもそれなりの自由度が与えられて然るべきと思います。

そもそも、労働協約に就業時間中の一定の組合活動を盛り込むこともできますしね。これは、民間企業では普通に行われていることでもあります。

投稿: Thor | 2009年3月22日 (日) 08時13分

流浪人さん、Thorさん、おはようございます。

それぞれ貴重な情報やご意見ありがとうございました。今回の問題によって、よりいっそう時間内活動の規制強化につながる懸念を持っています。

お二人からいただいたコメントは、そのような極端なオールorナッシングではない趣旨だと受けとめています。いずれにしても時間内活動の問題も、誰からも批判を受けないルールや運用の確立が必要だろうと思っています。

投稿: OTSU | 2009年3月22日 (日) 09時05分

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最後にこの度のご連絡で不快な思いをされた方には誠に申し訳ございません。重ねてお詫び申し上げます。

投稿: “My”アフィリエイトスカウト事務局 | 2009年3月25日 (水) 21時57分

Myアフィリエイトスカウト事務局の池田さん、前回記事に引き続き、お誘いありがとうございます。

当ブログは個人の責任で、自費による運営ですが、私どもの組合員の皆さんへ機関紙などを通してPRしています。そのような経緯もあり、一切アフィリエイト関係は掲げない方針です。せっかくのお誘いですが、改めてご理解くださるようお願いします。

投稿: OTSU | 2009年3月25日 (水) 23時37分

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