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2009年2月 8日 (日)

根強い人気の小泉元首相

昔から試験勉強などで一夜漬けが多く、切羽詰まらないと集中できないタイプでした。社会人となってから日々たまっていきがちな業務だけは、できる限り早めに処理するよう習慣化しています。それでも締め切りに幅がある原稿の依頼などに関しては、本来のタイプ通り「明日がある」と先送りしていく自分に戻りがちでした。

ある原稿を仕上げるため、年末年始からその作業に集中する時間を意識的に作ってきました。しかし、どうも一気に仕上げるまでに至らず、1月に入ってから何回かの週末が過ぎていきました。日程の目処を尋ねられた際、「1月中には」とお答えしたことによって、ようやく切羽詰まり、先週日曜日には一区切りつけることができました。まだまだ不充分な内容ですが、とりあえず今は試験が終わったような身軽さを感じています。

さて、木曜の読売新聞朝刊に意外な結果を示した記事が掲載されていました。読売新聞が1月31日と2月1日に実施した面接方式の全国世論調査で、首相に最もふさわしいと思う国会議員を尋ねたところ、トップが14.4%を獲得した小泉元首相だったそうです。2位が13.7%の小沢民主党代表、3位が7.5%の舛添厚労相、4位に4.7%の麻生首相、5位に4.6%の渡辺前行革相と続いていました。

折りしも日本郵政の保養宿泊施設「かんぽの宿」のオリックスへの一括売却問題に対し、鳩山総務相が「待った」をかけたことにより、郵政民営化のネガティブな側面にも注目が集まっている時期でした。麻生首相自身、郵政民営化の問題を「市場原理主義でモノを考え、ドライな改革をやり過ぎたのではないかという反省をしないといけない」と国会で答弁するほど小泉「改革」への疑念が強まっている中で、相変わらず小泉元首相が根強く支持されている調査結果に正直驚きました。

取り沙汰されている派遣切りの問題も、そもそも経営側の意向にそった労働者派遣法の見直しなど「構造改革」を進めたことが背景にあります。最近、よく竹中元総務相がテレビに出演し、小泉「改革」の正当性を立て板に水の説明を繰り返しています。その姿を見るたびに『脱「構造改革」宣言』の著者である山家悠紀夫さんの言葉を思い出しています。いろいろまずいことが起こると「構造改革」が充分進められていないからだとする話は、まったく誤解であるのと山家さんの言葉でした。

また、竹中さんは派遣切りが大きな問題となっているが、派遣労働者の比率は2.6%に過ぎないと述べています。さらにオリックスの宮内会長は郵政民営化を論じた経済財政諮問会議のメンバーではなかったのだから鳩山総務相の介入は不当であると反論し、それぞれの問題に対して持論を展開しています。しかし、宮内会長は規制改革・民間開放推進会議の議長であり、郵政民営化推進論者でした。経済財政諮問会議の議論に直接関与していないから不問とする理屈は、派遣労働者2.6%の言い分と同じように本質論から逃げるための詭弁だと言わざるを得ません。

このような竹中さんの主張に対し、その不当性を植草一秀さんがご自身のブログ「知られざる真実」の記事(「かんぽの宿」疑惑新事実とTBS竹中平蔵氏詭弁演説会)の中で詳しく反証されています。その前後の記事も合わせてご覧いただくと、ますます郵政民営化の負の側面が垣間見えてきます。一方で、植草さんの指摘がすべて正しく、竹中さんらが頭から不公正な「改革」に取り組んできたと決め付けるものではありません。

小泉元首相も竹中さんも使命感を持って、郵政改革や規制緩和を進めてきたのかも知れません。しかし、政策判断していく方向性が強い者をより強くする、いわゆる市場主義であったことは間違いありません。圧倒多数を占める勤労者の賃金は抑制しても、国際競争力や株主への配当を高め、見た目の企業価値を押し上げる手助けに力を注いできたことは明らかです。

前述した山家さんも指摘していますが、小泉「改革」は供給サイドに偏りすぎた政策を進め、需要サイドへの配慮を軽視したものでした。小泉政権では定率減税の廃止、医療費の引き上げ、財政出動の徹底した削減など、需要創出策がない需給バランスを欠いた路線だったことが否めません。「いざなぎ超え」の景気回復も、その恩恵が賃金に充分反映されなかったどころか、非正規雇用が急増してきたのも小泉「改革」の特徴でした。

歴史に「if」は禁物ですが、もう少し需給バランスに配慮した政策が進められてきたら、この世界同時不況の中でも違った局面を迎えていたのでしょうか。いずれにしても、このような評価の仕方も個々人で枝分かれしていくものと思っています。今回綴ってきた主張も複数の著書を読み、個人的に賛同している内容を取り上げているものです。

つまり小泉「改革」に対する評価には賛否両論があるはずです。それでも「少し間違っていた」という雰囲気が高まってきたことは確かです。麻生首相の郵政改革見直し発言も、そのような国民の中の変化を意識しているはずです。横道にそれますが、「内閣の一員として最終的には賛成したが、(個人的には)反対だった」という麻生首相の言い訳は、突っ込み所満載の非常識なものでした。この一言で、さらに支持率は落ち込むのではないでしょうか。

記事タイトルにある小泉元首相の根強い人気の問題に戻りますが、何とも不思議な構図だと思っています。「改革」の方向性の誤りによって、もたらしている現状に対する結果責任が小泉元首相への批判に結びつかない…、不思議な構図です。読売新聞の調査によると今の時代の首相に必要な資質として、「指導力」と「決断力」が1位2位にあげられています。

したがって、小泉元首相にはその2つが強いイメージとして、国民の中に深く刻まれているのだろうと推測できます。しかし、独善的な「指導力」や誤った方向性への「決断力」が発揮されても、国民にとっては悲劇的なことです。例えば常に「仮想敵」を作り、国民受けする勇ましい発言を繰り返すことによって、支持率が上がるような姿は決して好ましいものではありません。心から信頼できる政治家を選ぶためには、私たち有権者が多様な情報を適確に取捨選択し、人物評価の観察眼を磨くことも重要な責務だろうと考えています。

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コメント

小泉元総理とヒトラーを比較する意見が在任中もありましたが(私も「郵政選挙」の時に演説をききましたが、実にうまいひとでした)、OTSUさんが「不思議な構図」としているところも似ているように感じます。最近、読売新聞の書評でナチスの研究本がでていましたが、たとえばバターがなくなったとすると「いままで買えなかった層にまで購入できるようになり一時的になくなっただけだ」などの詭弁が紹介されてましたが、「構造改革」も「小泉さんは悪くない。悪いのは邪魔をする連中だ」と説明する人やそのように思っている人もいまだに多くいるのかも知れません。「娯楽」も与える点も共通項があり小泉さんの場合、「抵抗勢力」(マスコミも活用して)をたたくことにより「痛み」を一時的に国民から忘れさせました。(ナチスドイツの場合、戦争末期に総天然色映画「ミュンヒハウゼン」(1943年)、「コルベルク」(1945年1月)など娯楽大作を製作し「空襲で街が燃えているのに、映画館には列ができていたのです」(「ミュンヒハウゼン」の監督ヨーゼフ・バキの証言)など娯楽で「痛み」を忘れさせました。)
「指導力」と「決断力」は大切ですがやはりご指摘のように誤った方向にいけばやはり国を破滅させたヒトラーのようになることは歴史の教訓でしょう。(それでも戦後においても西ドイツでは「戦争を除けばヒトラーは偉大な指導者だったか」の問いに肯定的な意見が半数を占めていた。「戦争責任とは何か」木佐芳男著より)


投稿: ためいきばかり | 2009年2月 9日 (月) 00時41分

ためいきばかりさん、コメントありがとうございました。

小泉元首相のスタイルが成功体験となっているため、その手法をとる政治家が目立っています。話が広がり過ぎるため、今回の記事で固有名詞はあげませんでしたが、本当にそのような「敵」を作っていく手法で良いのかどうか疑問に思っています。

投稿: OTSU | 2009年2月 9日 (月) 07時25分

「民主に賛成の官僚以外クビ」http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090209-OYT1T00666.htm

こんなことを自民党議員が言えば「独裁政治」「ファシズム」と民主党やマスコミは袋叩きにしそうなもんですが。

無知で幼稚な知識で公務員叩けば人気取りが出来ると思ってる政党を組合が応援している理由がさっぱり分かりません。

投稿: アナベル・ガトー | 2009年2月10日 (火) 01時16分

アナベル・ガトーさん、ご訪問ありがとうございます。

鳩山幹事長の「局長クラス以上に辞表を提出してもらい、民主党が考えている政策を遂行してくれるかどうか確かめたい」という発言に対し、その言葉自体には非常に違和感を覚えます。

その続きとして「それくらい大胆なことをやらないと、官僚の手のひらに乗ってしまう」と述べていますので、極端な例えによる民主党としての決意の表れだろうと解釈しています。

なお、私自身が民主党を応援している理由は、次の記事などで何回か触れてきています。言うまでもなく、自治労の方針と民主党の政策は、すべて一致している訳ではありません。その上で、お互い率直な意見が交わせる信頼関係を重視しているところです。

http://otsu.cocolog-nifty.com/tameiki/2008/10/post-03c3-1.html

投稿: OTSU | 2009年2月10日 (火) 20時44分

自分に都合の良い選挙結果の時は「直近の民意を尊重せよ」、
都合の悪い選挙結果の時は「この国の民主主義は死んだ」、
挙句の果てにはヒトラー呼ばわりとか、寝言も大概にしろよと思わないでもないKEIです。お久しぶりです。

麻生首相に人気があるのは漫画とかアキバ系とか言った色物な理由からではなく、
小泉首相の部下として総務大臣や外務大臣を務めた時の手腕を評価しているからで、
「小泉元首相の後継者としてふさわしい/辛うじて認められる」的思考で期待している人も多いのではないかと思っています。

だから、今回の麻生首相の「言い訳」に失望した人は多い気がします。
(「麻生総務大臣」は最大の抵抗勢力を大臣のポストを使って縛るという、小泉政治の中でも有名な技の一つなので、
「実は反対だった」というのも理解はできるのですが、それを言っちゃオシマイよ、というのが僕の正直な感想です。)

そもそもなぜ小泉元首相のような指導力・決断力のあるリーダーが求められるかと言うと、今の政治に指導・決断の鈍さが感じられるからで、
議事進行を妨害しまくった挙句、その責任を相手に押し付けて何ら恥じる所の無い民主党にこそ問題があるのでは、などと思うのですが、どうでしょうか?

P.S.
この話題にピッタリな本を一冊紹介します。↓
ムダヅモ無き改革 (近代麻雀コミックス) 大和田 秀樹
小泉元首相のイメージを絶妙に表現している漫画だと思います。

投稿: KEI | 2009年2月11日 (水) 17時25分

KEIさん、お久しぶりです。コメントありがとうございました。

ご紹介いただいたコミックス、面白そうな内容ですね。麻雀も好きな方ですので、さっそく手に入れてみようと思います。


投稿: OTSU | 2009年2月11日 (水) 19時00分

何故、小泉純一郎さんが根強い人気なのか?派遣切りの問題をつくった張本人なのに。規制緩和をして日本が滅茶苦茶になっているのだから、その事を忘れないでほしい。

投稿: 赤い彗星 | 2009年2月15日 (日) 16時33分

赤い彗星さん、当ブログへの頻繁な訪問やコメントありがとうございます。

それぞれ頷けるご意見を多く頂戴しています。今回の端的な感想も、私自身の思いと共通するものでした。なお、一つ一つのコメントにレスできていませんが、これからもご容赦ください。

投稿: OTSU | 2009年2月15日 (日) 16時41分

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