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2008年12月27日 (土)

剣を売りて牛を買う

私が勤めている市役所内の申し合わせの一つとして、職員間での年賀状交換を慎む心得があります。「虚礼廃止」を理由としていますが、私自身は元旦に届く年賀状が「虚礼」だと考えていません。それでもこの申し合わせがあるので、新たにお出しする人たちを増やすことなく、昔からやり取りしている人たちに限って続けてきました。その中でも返信がなくなった場合、翌年からは送らないように配慮してきました。

このような経緯の中、市役所以外の知人らも合わせて毎年、年賀状は80人前後の方々にお出ししています。宛名も含めてパソコンから印刷できるようになり、以前より格段に年賀状を作る手間が省けています。それぞれに一言添えたいところですが、それもさぼりがちとなるため、せめて文面にはオリジナリティが出せるように努めています。そこで、よく引用するのは十二支にちなんだ故事や諺でした。

来年は丑年ですが、あまり牛にかかわる故事などは思い浮かびませんでした。ところがネットで調べ、「ことわざの部屋」というサイトを見つけたところ意外にも、その数が多いことに驚きました。その中から年賀状で使えそうな内容を探していた時、「剣を売りて牛を買う」という故事に目が留まりました。漢書・循吏伝の中に出てくる言葉ですが、意味は「武事をやめて農業に力を尽くすこと」であり、実際にあった話が起源となっているようです。

それも剣を売って牛を買い、皆が農業に力を入れ始めたことによって、村全体が豊かになった話だそうです。結局、自分の年賀状には使いませんでしたが、ブログでは紹介しようと考えていた言葉でした。とにかく紀元前の中国で、このような故事となるエピソードがあったことに感慨を覚えました。言うまでもなく『三国志』に代表されるように中国の歴史も戦乱の時代が圧倒的に多く、「剣を売りて牛を買う」事例はきわめて稀だったはずです。

2008年が終わろうとしている今、残念ながら国際社会は「剣を売りて」の話とは程遠く、戦争放棄を憲法で謳う日本でさえ、世界有数の軍事力を保持しています。誰もが戦争そのものは忌み嫌っているはずですが、一方で非武装は絵空事の世界であるものと考えている人が数多いことも確かです。国家の安全保障のあり方については各人で様々な考え方があり、ちょうど1年前、「平和憲法と防衛利権問題」という記事のコメント欄を通して率直な議論を交わしていました。

先日、TBSが「あの戦争は何だったのか」と問いかけた番組を放映しました。第1部は史料や証言をもとに検証したドキュメンタリー仕立てで、第2部は「日米開戦と東条英機」と題したドラマで構成されていました。4時間半に及ぶ番組でしたが、新たに知り得た情報も多く、非常に内容の濃い力作でした。アメリカとの戦争を回避するため、あくまでも外交交渉を貫くのか、戦争に打って出て状況打開をはかるのか、その選択肢の中で揺れ動いた当時の日本の姿が生々しく描かれていました。

戦争にいたる軍部と政府の対立と妥協のプロセスを、東条英機という人物を軸に追い、当時の日本のシステム自体が抱えていた問題、欠陥と矛盾、そして起こる日本の悲劇を描いていく。これまで、戦争の悲惨さを被害者の視点から描く作品は多かった。だが、同番組は、繰り返される政権交代、省庁の縄張り争いなど、現代と共通点があったことに着目。日本というシステムが持つ問題点は今の時代にもあるというメッセージを伝えたい。

製作したTBS側の意図は上記のとおりですが、田母神俊雄・前航空自衛隊幕僚長の論文「日本は侵略国家であったのか」の問題も意識していたかも知れません。この番組を観て、人によっては田母神・前幕僚長が述べている「アメリカに仕掛けられた罠」という点などを感じ取り、避けられなかった戦争だったと受けとめるのかも知れません。

私自身は、近衛文麿・元首相の長男の妻が番組の最後に語る言葉に対し、製作スタッフの思いが託されているものと解釈しています。「軍隊というのは戦争が商売、軍人は戦争したがりますよね」との言葉が印象に残りました。ドラマそのものも早期開戦を主張する軍部とそれに抵抗する外務省らとの対立が主題となっていました。つまり文民統制の重要さについて、改めて考えさせられた番組だったと思っています。

田母神・前幕僚長の論文は月刊「WiLL」1月号を購入し、全文を読みました。合わせて前幕僚長を擁護する他の記事にも目を通しています。内容に対する具体的な論評は避けさせていただきますが、その主張に賛同する方々が本当に大勢いらっしゃることを重く受けとめています。その上で、私の個人的な思いとして「剣を売りて牛を買う」ことが普遍化した国際社会の実現を心から願っています。

今回が2008年最後の記事となる予定です。この1年間、たくさんの方々の「公務員のためいき」へのご訪問やコメント投稿に改めて感謝申し上げます。本当にありがとうございました。どうぞ来年もよろしくお願いします。ちなみに次回の更新は、例年通り元旦を予定しています。ぜひ、早々にご覧いただければ誠に幸です。それでは良いお年をお迎えください。

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コメント

国家予算に占める軍事費が高いアメリカは、第2次世界大戦後も世界中で戦争しています。
軍事費が低い日本は戦争していません。今の日本は「剣を売りて牛を飼う。」です。
田母神さんの狙いは日本の軍事費の増大と自衛官への報酬アップであると思います。
軍事費を増やせば、日本はほぼまちがいなく戦争に突入して国民が犠牲になるでしょう。
防衛費の抑制は日本の平和を守るために大切ですね。

投稿: 助兵衛 | 2009年1月 1日 (木) 00時31分

助兵衛さん、コメントありがとうございます。
先ほど更新した記事で、イスラエルのガザへの空爆についても触れました。
本当に「剣を売りて牛を買う」世界が実現できることを祈念しています。

投稿: OTSU | 2009年1月 1日 (木) 00時44分

助兵衛はん
助兵衛はんみたいな意見の人間はようさんいてるし、その逆の意見の人間もようさんおる。
以下はその逆の立場からのコメントやさかい、気ぃ悪うせんといてな。

オレはアメリカはああいう国やと思てる。戦争なんか選択肢の一つに過ぎず、簡単に正義の名の下に戦争をしおる。
ああいう国と手を組みたくはないけど今はめちゃ強いからな、とりあえず当面はお友達というのが個人的な感想。

次に、日本が戦争をしてへん理由なんやけど、これは防衛費とそれほど密接には関係してへんのとちゃうかな。
モノとしては結構ええモン持ってるで(装備は専守防衛にしてるから今すぐどうこうできひんけどな)。
モノが無くても戦争が絶えん国もあるしな。やっぱ関係ないやろ。
「世界に誇る平和憲法のおかげ」などという連中も、おるやろけどな。オレはそれは否定するで。

田母神さんの狙いなんやけど、彼の歴史観がこれまで完全に否定されてきた事の不満と、最近肯定され始めていることへの期待、ではないやろか。
それと、自衛隊の報酬アップではなく、自衛隊の貢献度の認知度アップ、自衛隊の必要性の認識度アップ、とちゃうやろか。
あの論文(というほど長くない)の一部に、一度実行支配されたら簡単には取り返せない、という内容のくだりがあった(オレも読んだ)。
軍事力の必要性を感じさせる内容で、オレなんかは感心したけどな。

防衛費を増やしても、今さら何が必要なんか、わからん部分もある。F−22か?(←ものすごい性能の戦闘機の名前な)。
オレ個人はそれよりトマホークが欲しいんやけどな(←外国まで飛んでくミサイルの名前や)。
装備がようなっても、戦争する必要がなかったら、別にせんでもええやろ。
むしろ問題なんは、「どうせ先に攻めてこない」という認識からか、色々と妙な潜水艦やら飛行機がやってきたり、
勝手にガス田開発されたり、「独島」ちゅう挑発的な名前の教習揚陸艦作られたり、ミサイル日本海に撃たれたり、
教科書に口出されたり、何か言えば内政干渉や言われたり、している現状とちゃうか。

こういう事いうと「軍靴の音が聞こえる」とかいうおっさんが身近におったけど、
オレにも聞こえるで。どっかの国の「軍靴の足音」がな。

国民が犠牲にならへんように日々頑張っているんが自衛隊で、
そこをしっかり認識しておく事が日本の平和を守るために大切やと、オレは思うんやけどな。
自衛官の報酬アップも考えたったらどおや。こないだ大阪城公園で自衛隊であることを前面に出さずに、
看護自衛官募集のビラを一生懸命配ってたで。このご時世に人手不足の職場ってどんなんやねん。

日教組の組織率が下がり、どっかの大臣にコケにされ、一部で悪の組織みたいに言われてるんは、
この手のテーマで、思いっきり偏った考えを持って、学校で教えちゃったからやろ。オレは教わっちゃったんやけど。
労働組合の問題と平和問題(防衛論争)は、やっぱ別個に考えた方がええと思うで>ブログ主はん

過去の戦争について語るとまた長なるからやめとくわ。また機会があったらな。
こないだ、おもしろそうな本を借りたから、ここで紹介させてくれ。
『太平洋戦争(上・下)』児島襄 中公新書(絶版かも)
オレ自身あの戦争の事をよう理解できてへん部分が多うて、知識も少ないから、ちゃんと勉強しとかなあかんな思うてな。
戦争を語る人間が多い割には、あんまりわかってへん奴が多い。不思議やな。

投稿: K | 2009年1月 2日 (金) 07時26分

漢字まちがえた。
教習揚陸艦→強襲揚陸艦
まるで練習館みたいやん、すまん。

ついでに、1年前の「平和憲法と防衛利権問題」という記事も読んでみたで。議論の方向性としてはKEIはんに1票。

投稿: K | 2009年1月 2日 (金) 07時54分

Kさん、おはようございます。コメントありがとうございます。

様々な考え方があることを受けとめた上、今回のような記事を通して問題提起しています。個々人の考え方の違いは簡単に埋まらないものと思いますが、それぞれの主張に触れ合う場も貴重なことだろうと考えています。

そのため、このような趣旨のもと今後も幅広いテーマを扱うブログとなっていくものと思います。いつもKさんのコメントは分かりやすく、以上のような意味合いから本当に貴重な内容です。ぜひ、今年も当ブログをよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2009年1月 2日 (金) 09時19分

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