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2008年11月15日 (土)

批判続出の定額給付金

金曜の夜、私どもの組合の定期大会が開かれました。ほぼ昨年と同じ350人ほどの出席があり、保育園職場からは民営化提案に反対する意見表明などが示されました。全体的な流れとして、代議員制の大会への移行が進んでいます。しかし、私どもの組合は全員参加型の大会にこだわり、1人でも多くの方の出席が得られるよう努めています。

4人に1人弱とは言え、これだけの人数の組合員の皆さんが一堂に会し、議論できる場はたいへん貴重だと考えています。その思いは昨年の記事「定期大会を終えて…」でも綴らせていただきました。ちなみに前日に開票された組合役員の信任投票では、自己最高となる96.9%という高率で引き続き執行委員長に選任されました。ありがとうございました。

さて、世界的な金融恐慌を受け、10月に発表した追加経済対策の柱だった「生活支援定額給付金」の問題が迷走しています。総額2兆円規模での実施が決まっていますが、麻生首相は当初「全世帯」に給付すると表明し、「4人家族で6万円程度」と説明しました。その後の与党内の調整により、1人あたり12,000円、2009年1月1日時点での年齢が18歳以下と65歳以上の人に8,000円加算する案となっています。

それに対し、与謝野経済財政相が所得制限の必要性を訴える一方、中川財務・金融相は「事務が煩雑になり、年度内支給ができなくなる」という理由から所得制限に反対していました。「選挙目当てのばらまきだ」との批判を意識し、与党内からも「高額所得者への給付に制限を設けるべき」との声が高まっていきました。

一時、法的には所得制限を設けず、高額所得者には辞退を促すという情けない案も浮上していました。結局、もっと驚き、あきれ果ててしまう政府・与党による結論が示されました。支給の窓口となる区市町村に給付制限を設けるかどうか、設ける場合の所得の額などについて、自治体の裁量とする非常に無責任な「丸投げ」という結論(?)でした。

給付金の支給は、金融機関の個人口座に振り込む方式と現金手渡しする両案が検討されています。市区町村は住民基本台帳に基づき、世帯全員の名前や支給額を記載した通知書を世帯主に郵送することになります。支給業務にかかる残業代などの全額が国費で負担される予定ですが、繁忙期となる年度末に余計な負担を強いられる市区町村側の不満の声が広まっています。

神奈川県の松沢知事は「2兆円のばらまきは天下の愚策」と切り捨て、「制限を市町村に決めさせるというが、こんなの政策じゃない。間違ったことには地方からやめるべきだと、はっきり言うべきだ」と公然と批判しています。横浜市の中田市長は「経済対策として2兆円全部をこっちに考えさせてくれた方が、よほどヒットする」とし、さらに「住民基本台帳ネットワークを使って国が通知文を発送し、口座に振り込めばいい」とも述べているようです。

所得制限の問題などについて、麻生首相は「地方分権というんだから各市町村で決められたらいい」と身勝手に解釈しています。国が一方的に決め、拒否権のない定額給付金事務の押し付けが「地方分権」と呼べるはずはありません。総務大臣の経験があるのにもかかわらず、麻生首相の認識や思慮が不足した言葉にも批判が集まっています。

なお、大半の市区町村は所得制限を設けない方向で検討に入る見込みです。仮に設ける場合、所得の下限だけは1,800万円と決まっています。必要経費(給与所得控除)を差し引いた額が所得となりますので、年間の給与収入金額に換算すると2,074万円です。確定申告が必要となる年収2,000万円を所得制限の目安にしたものと見られています。

もともと公明党と自民党で合意した政策は定額減税でした。1998年に今回と同じ2兆円規模で実施され、納税者本人1人29,000円、扶養家族1人につき14,500円が減税されました。しかしながら定額減税の場合、税金を納めていない所得の低い世帯には恩恵が及ばないため、景気刺激への即効性も期待しながら給付金方式に変更したと言われています。

1999年の地域振興券は7,000億円の予算規模で、15歳以下の子どもがいる家庭と老齢福祉年金受給者らに対し、1人あたり2万円の支給でした。地域振興券の時の市区町村の負担も半端ではありませんでしたが、今回の定額給付金は全世帯を対象とするため、比較にならない窓口での混乱などが危惧されています。

全国市長会の会長である秋田市の佐竹市長は「秋田市の場合、1か月で配ると1日に4千人から5千人が市役所に訪れる。物理的にどうしようもない。職員が他のことは何もできない」と述べ、混乱が避けられない見通しを示しています。そのため、佐竹市長は申請期間について、「最低でも半年は必要である」とも主張されています。

加えて、莫大な経費と手間をかけながらも、経済効果は限定的である見方が強まっています。国内総生産(GDP)の押し上げ効果は0.1~0.2%と試算するエコノミストが多いようです。大手百貨店幹部の「社会保障や教育などの構造的な問題に取り組み、将来不安をなくすことこそ、消費喚起につながる」との意見に強く共感できます。

千葉県の堂本知事は「中小企業対策や福祉施策などで、(財源を)移転してくれた方が、経済効果はある」と発言しています。また、耐震補強の必要な公立小中学校の校舎は5万棟近くあります。2兆円の半分の1兆円で、その全部の工事に取りかかれるそうです。一時的な給付金のばらまきよりも、子どもたちの安全を守り、同時に公共事業による景気対策となり得る有意義な税金の使い方の一つではないでしょうか。

現金が支給されることを喜ばない人は少ないはずですが、朝日新聞の調査によると63%の人が「不要な政策」だと答えています。あまりにも底の浅い政策のお粗末さを国民が見透かしている結果だと言えます。今後、実際に支給するためには関連法案の審議などが必要とされています。これほど不評で、問題が多い定額給付金に関しては改めて国会で充分な議論を交わし、適切な判断が下されることを期待しています。

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コメント

定期大会が御苦労さまでした。数々の課題があるなかで「国の責任」でおこなうべき政策が、「地方に丸投げ」では「地方分権」
とはいえませんね。そのなかで「道州制」は「究極の構造改革」であるとされ、マスコミなどでもマイナス面は報道されることはありません。しかし、市町村合併で地方の状況は改善されることなく、格差の拡大は拡がるばかりです。国の出先機関の廃止、縮小の問題は私の職場とも無縁ではありません。国民のサービス低下につながるのでは?、地方に負担のみ押し付けるのでは?といった疑問点は、新聞等でも報道されることなく「国の責任の放棄」に向けた動きは進んでいます。
今回の「定額給付金」の問題は、本来あるべき地方分権の姿ではなく、究極の「国の責任の放棄」の一面をかいまみることができるのではないでしょうか?

投稿: ためいきばかり | 2008年11月16日 (日) 23時14分

ためいきばかりさん、おはようございます。コメントありがとうございました。
本当にその通りです。地方分権という言葉を都合良く解釈する政府与党の姿勢にあ然としています。
また、「無駄ゼロ」を強調しながら今回の2兆円の使い方は大きな疑問を抱かざるを得ません。自公政権の統治能力のなさが改めて浮き彫りとなった問題であるものと受けとめています。

投稿: OTSU | 2008年11月17日 (月) 06時58分

ご無沙汰しております。

給付金、確かに効果ってどうなのよ?って思ってしまいます。数年前の地域振興券も経済効果ってあったのかどうか疑わしいです。
しかし、もらえるものはありがたい。前回は傍観者でしたが今回は当事者なので正直、助かります。
我が家は来年から子供が幼稚園で今月、入園金を10何万払ったのでカツカツです。
さらに来年からは月3万が幼稚園の月謝で消えていきます。
幼稚園も補助が自治体からでるらしいのですが、我が家の場合は試算したら最低限の金額しか支給されないのがわかり、がっくりです。地方税もそれなりの金額を納めているのだから、そこは平等に支給してほしいです。
話がなんか逸れてしまいましたが、今回の給付金は、とてもありがたいです。
しかし、これが原因で後になって何倍もの負担を負うのかもしれないと思うと正直、不安です。不謹慎な表現かもしれませんが、まるで消費者金融から借りるような気分がします。
個人的には、資源も何もない国なのだから消費税の増税で財政破綻に対応すべきと思いますがどう思われますか?個人の税の応益負担も限界に近づいてきているように感じます。所得税や住民税だと限られた範囲(人)でしか課税できないので消費税のように幅広い範囲で徴収できる税が平等で有効ではないかと最近、考えるようになりました。
ちなみに先日、出張してきたドイツは最高で19%の付加価値税(消費税の類)らしいですよ。

投稿: エニグマ | 2008年11月18日 (火) 00時55分

エニグマさん、お久しぶりです。コメントありがとうございました。

今回の定額給付金は露骨な選挙対策と見られ、景気対策なのか生活支援だったのか理念が後付けである問題があります。民主党の政権公約がバラマキだと批判を受けがちですが、例えば中学校卒業までの子ども1人あたり月2万6千円の「子ども手当」に対し、この定額給付金との費用対効果などの面で優劣は明らかだと思います。

消費税の問題ですが、やはり将来的には具体的な検討が避けられないものと感じています。後期高齢者医療制度の導入など、小手先の財源対策に走る歪みが随所に現れています。とにかくデンマークなど福祉先進国から学ぶべきことは多いものと思っています。

投稿: OTSU | 2008年11月18日 (火) 08時11分

お久しぶりです。以前同様に閲覧させていただいておりました。
今回の
>中学校卒業までの子ども1人あたり月2万6千円の「子ども手当」
の方が費用対効果があるという書きぶりには到底納得いかず、久々に書き込ませていただきました。
0歳から15歳までの全ての子どもに年間312,000円を支給せよと、本気でそんなことをおっしゃっているのでしょうか。意見には個人差があることは承知していますが、熱心な組合員はそのような統一見解であるということでしょうか。いやぁ、、、にわかには信じられません。1人の子どもに15年間もそんな大金を「タダ」で支給できる財源を明示していただきたいものです。

なお、今回の私の書き込みは、今年度中に実施が予定されている給付金の話題とは別件です。ですので、私の考えは給付金の方が費用対効果が得られるというものではありません。この点は誤解無きようお願いします。
元々民主党のマニフェストには「子ども手当」や「高速道路無料化」がうたわれており、「はあ?何寝ぼけてるんですか?」と個人的には思っていました。今回のOTSUさんの書き込みはそれについて尋ねてみたい思いを後押しした感じ、といったところです。

投稿: イチ公務員 | 2008年11月18日 (火) 21時46分

イチ公務員さん、コメントありがとうございました。

エニグマさんの家庭の様子が示されたコメントを受け、最近の記事「民主党の政権公約」で記した内容を改めて紹介しました。さらにその記事に続く「民主党を応援する理由」を通し、私なりの思いを綴らせていただいています。

イチ公務員さんの疑念を全否定する立場ではありませんが、定額給付金より格段に意義あるものと思っていることも確かです。取り急ぎのレスで言葉不足となっているかも知れませんが、ぜひ、先ほど紹介した記事やそのコメント欄などもご覧いただければ幸です。

投稿: OTSU | 2008年11月19日 (水) 06時54分

東北の片田舎から初めてコメントします。
いつも拝見させていただいています。

定額給付金ですが、やはり本当に評判が悪いですね。
選挙のバラマキ、決定までの迷走、各大臣間の意見の不一致、「地方分権」の意味を勘違いした自治体への「丸投げ」、国会への補正予算案提出時期の迷走など、これまでにないほどひどい状況になっていますね。
全世帯に現金を給付するという施策で、これほど国民から批判される施策もないのではないでしょうか。

ところでこの定額給付金ですが、各地の議員や首長などから「私は辞退する予定」という意見が出ていますね。
まあ、辞退するかどうかは個人の勝手なんでしょうが、私の周りでは、「これは公職選挙法で規制する寄附行為ではないか」という話が出ています。以前、知事などが「退職金を受け取らない」と表明したときに、「寄附行為に当たるから受け取らなければならない」という話があったのと同じではないかというものです。

今回の定額給付金は、「単に手続きをしない」ということで辞退となるものと思われますから、退職金とは性格の異なるとは思いますが、一部の議員などは、「辞退したことを表明することで有権者の支持を得たい(選挙用のアピールにしたい)」と考えているのではないでしょうか。
また、受給した給付金を、何らかの手続きで、そのまま「まちづくり応援寄付金」などに回すという人もいると思われ、それこそまさに「寄附行為」ではないでしょうか。
こういう使われ方をするのであれば、さらに本来の目的とはかけ離れたものになることでしょう。


当方の自治体でもどの課が窓口になるか、水面下では早くも、アツイ闘い(笑)が起こってます。
定額給付金には、とにかく非常に不安と不満を持っています。
このほかにも言いたいことがありすぎて、勝手ながらいろいろ書かせていただきました。

長文・乱文、たいへん失礼いたしました。

投稿: と~く | 2008年11月20日 (木) 10時03分

と~くさん、はじめまして。コメントありがとうございました。
ご指摘のとおり掘り下げていくと様々な問題が出そうな政策だと改めて感じています。
ぜひ、これからもお気軽にご意見やご感想をよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2008年11月20日 (木) 22時53分

地方分権・・・このコトバを聞いた時、私は唖然としてしまいました。

私の職場は地方分権には一家言ありまして、地方分権というのは良いにつけ悪きにつけ「決定権は地方に持っていかれるものだ」という認識でいたものですから。
財源移譲、権限委譲はセットでなければいけないし、人員や組織を丸ごと投げられても受け取れないと知事がきっぱり言えるようなものなのだと。

もっとも、ろくな将来像も見えない中で行き場のなくなる地方支分局の数千人、いや全国規模で見れば数万人は不安な中でも仕事をしていかなければならないのですがね。

地方分権って面倒なことやイヤなことを押し付けるってことでしたっけ?
切って捨てられない押し付けられる組織の中の人ですら、疑問に感じているんですが。
地方分権で国から切り捨てられて地方に押し付けられる我々や、我々がやってきた仕事って、いやなことだったのか、とね。

投稿: 流浪人 | 2008年11月21日 (金) 00時15分

流浪人さん、おはようございます。コメントありがとうございました。
国家公務員の方だとお見受けします。このようなリアルな声を聞かせていただけるのも非常に貴重なことだと考えています。
ぜひ、これからもよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2008年11月21日 (金) 06時50分

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