来年5月に始まる裁判員制度
賃金闘争の山場が先週木曜夜だったことを前回記事に書き込みました。その夜は、連合地区協議会が主催した講演会とも重なっていました。「裁判員制度のスタートと労働組合の取組」という演題で、講師に弁護士の五百蔵洋一先生をお招きしていました。五百蔵先生は、企業や労働組合のコンプライアンス問題などでも活躍されている方です。
地区協議会の副議長を務めている私ですが、ぜひ、聞いてみたい内容であったため、その日を楽しみにしていました。この講演会を決めた幹事会の時点で、私の手帳のスケジュールは空いていました。残念なことに後から産別統一闘争の日程が入ってしまった訳ですが、例年のスケジュールを先読みして木曜だけは避けるべきだったと少し反省しています。
直接講演を聞けませんでしたが、入手した資料は非常に分かりやすく、裁判員制度の中味や問題点などが記されていました。さらに昨日から裁判員候補者に選ばれたことを知らせる通知書が発送され、新聞紙面に「裁判員制度」の文字が目立つようになってきました。そのため、今回の記事では、五百蔵先生の資料などをもとに裁判員制度について取り上げてみました。
来年5月に始まる裁判員制度を前に、最高裁は28日、来年分の裁判員候補者名簿に登録された29万5027人(有権者約350人に1人)に、候補者になったことを知らせる「裁判員候補者名簿記載通知書」を発送する。通知書には、候補者に対し、辞退を希望するかどうかを確認する調査票などが同封され、29日以降に届く見込みだ。
ほかに同封されるのは、制度を説明するマンガ冊子やパンフレットなど。調査票では、〈1〉弁護士や自衛官など裁判員になれない職業かどうか〈2〉裁判員を辞退できる70歳以上の人や学生などで辞退希望があるかどうか〈3〉辞退を希望する特定の月があるかどうか--などを調べる。回答用マークシートに記入し、証明書などを添付して返送する。 【読売新聞2008年11月28日】
候補者は選挙人名簿から無作為に抽出されているため、事前に裁判員になれない人などを把握する調査となっています。裁判員になれない職業として、上記の他に三権分立の観点から国会議員や自治体の長があります。ちなみに自衛官は緊急事態への対応を優先する必要性から除外しているそうです。
この裁判員制度は、来年5月21日以降に起訴される刑事事件から始まります。殺人罪、強盗致死傷害罪等、死刑や無期懲役刑を含む重大事件や危険運転致死罪など、国民の関心が高い事件が対象となる予定です。年間で3000件前後を見込み、1事件につき6人の裁判員と1~2人の補充裁判員が選ばれ、3人の職業裁判官とともに公判手続きに参加します。
毎年秋に約30万人の裁判員候補者が選ばれ、対象となる事件が起訴された際、その候補者を対象にくじ引きが行なわれます。選ばれた数十人が裁判所に出向き、裁判官が質問等を行なう選任手続きを経て、最終的に裁判員6人と補充裁判員が決まります。1人で事業を運営している場合や冠婚葬祭など、一定の辞退要件はあるようですが、現時点では必ずしも明確化されていないそうです。
公判の7割は3日以内で終了すると言われていますが、かなり疑問があると五百蔵先生の資料には書かれていました。裁判員制度は第1審のみを対象とし、有罪か無罪か評決し、有罪であれば死刑や懲役の年数までの判決を下すことになります。なお、有罪の多数意見や刑の決定には、最低1人以上の裁判官が含まれなければなりません。
今回導入する裁判員制度は、ヨーロッパに多い参審制度の一種です。それに対し、映画『12人の怒れる男』などで有名な英米の陪審制は、プロである裁判官が加わらず、陪審員のみで有罪か無罪かを決めています。ちなみに陪審制では、刑の量定は裁判官だけで行ないます。なお、裁判員制度においても従来通り公判前手続きは、裁判官、検察官、弁護士が行ない、裁判員は参加しません。
裁判員には日当1万円以内と交通費が支給されますが、法定休暇制度は設けられていません。各企業等の判断に委ねられています。したがって、労働組合の役割として、特別有給休暇制度などの整備が急務であると五百蔵先生は提起されたそうです。また、有給の特別休暇となった場合、日当の取扱いが課題となります。五百蔵先生は「そのまま受け取るべきもの」とのお考えですが、今後、とりわけ公務員に関しては統一的な基準作りが欠かせないはずです。
裁判員制度を導入する最大の理由は、国民の司法に対する参加や関心を深めるためだと言われています。しかし、この制度に対し、「素人の国民を裁判に参加させたという単なるアリバイ作りにしかならない」「民事事件こそ庶民感覚が必要なのに、なぜ、刑事事件に限るのか」など根強い批判の声があることも確かです。実際に始まってから大騒ぎとなった後期高齢者医療制度の二の舞となる懸念が充分あり得るのかも知れません。
最後に、たいへん厳しい守秘義務に触れてみます。偶然くじで選ばれた一般人が罰則を伴う重い守秘義務を負わされる問題について、五百蔵先生は指摘されていました。事件に対する自分の意見を評議以外の場で述べることが禁じられています。相手が家族であっても同様であり、他人を裁くことで重い精神的負担を受けた人が、その心情を誰にも吐露することができないというのは過酷であると訴えられています。
また、罰則がないとは言え、350人に1人の割合で届く「裁判員候補者名簿記載通知書」を受け取った候補者本人が、そのことを不特定多数の人に明らかすることも禁じられています。家族、親類、一定の範囲の職場の人たちや行きつけの飲食店の主人らに明かすことは認められていますが、他の客の耳に入るような会話には注意しなければなりません。当然、ブログへの掲載などは論外であり、私自身に届いているかどうかなど、絶対に明かせないことをお伝えします。
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