ベア見送りの人事院勧告
久しぶりに公務員にかかわる話題に戻ります。8月11日に2008年度の人事院勧告が示されました。更新が週一ペースとなっていますが、この人事院勧告に関する記事だけは毎年投稿してきました。一般の新聞紙面ではベタ記事扱いにとどまりますが、私たち公務員にとって様々な処遇に大きな影響を及ぼす重要なニュースだと言えるからです。なお、ブログを開設してから昨年まで3年間のバックナンバーは次のとおりです。
- 2005年8月18日「地域給導入とマイナス人勧」
- 2006年8月12日「プラマイゼロの人事院勧告」
- 2007年8月11日「人事院、6年ぶりのプラス勧告」
上記の他にも人事院勧告に絡む内容は数多く記事本文で取り上げてきました。最近投稿した「公務員賃金の決められ方」も人事院勧告を中心にまとめたものでした。ちなみに2年以上前に投稿した「休息時間の廃止」は、今でも「休息時間」などのキーワードからGoogleをはじめとした検索エンジンの上位に並ぶ記事となっています。
さて、今年の人事院勧告の特徴は、まず月例給の官民較差を136円(0.04%)と算出し、その差がきわめて小さいことから水準改定(ベースアップ、略してベア)を見送った点です。一時金についても民間の支給月数と概ね均衡しているとし、年間4.5月分の据え置き勧告が示されました。一方で、医師不足の解消に向け、来年4月から初任給調整手当を引き上げ、医師の給与は平均で約11%改善されることになります。
手当関係では、関係府省との調整や国会対応などの特殊性・困難性を考慮し、本府省業務調整手当(係員2%、係長4%等)の新設が勧告されました。また、自宅にかかる住居手当廃止は今回見送られましたが、引き続き来年の勧告に向けた検討課題とされています。ガソリン代急騰による交通用具にかかる通勤手当の改善も検討されていましたが、今回の勧告では触れられず、据え置きとなりました。
画期的な内容としては、完全週休2日制を導入した1992年以来の勤務時間短縮が勧告されたことです。以前の記事「公務員の勤務時間短縮へ」で報告していましたが、民間の労働時間が公務員より15分短い調査結果を人事院はつかんでいました。その5年越しの調査結果を踏まえ、来年4月から現行1日8時間を7時間45分とし、週38時間45分とする勧告に至りました。
以上の内容に対し、自治労は「2008年人事院勧告に関わる声明」を出しています。その中で「今後は、所定勤務時間の短縮にかかわる政府の政策決定と国会における取り扱いに焦点が移る」と記されていました。本来、公務員の労働基本権の代償機関であり、中立公正な調査結果に基づく人事院勧告は政治から不可侵であるべき存在です。
それが政治の思惑に左右され、示された勧告が否定される動きは決して許されるものではありません。特に今の政府与党は「国民感情」という言葉を都合良く使い分け、時間短縮の勧告を潰しにかかることも充分あり得ます。それでも福田首相は今年の春闘期に異例の「賃上げ要求」を行なったり、仕事と生活の調和、いわゆるワーク・ライフ・バランスを大切にする政策目標を掲げていますので、杞憂に終わることを願っていますが…。
続いて今回、勧告日をめぐって混乱が生じたことを報告します。事前に人事院総裁は「勧告日を7日」と明らかにしていました。その前日の6日になって官邸から「福田総理の日程が取れなくなった」との連絡があり、勧告が週明けの11日に延期されました。労働組合側はもちろん、全国市長会の事務局の皆さんらも勧告予定日に合わせて説明会などの準備を進めていました。
人事院給与局長から公務員連絡会に対して「現場で混乱が生じたことについては重く受けとめている」との考えが表明されたそうですが、これまで生じたことがない前代未聞の延期騒ぎでした。人事院の事務上の大きな不手際だと言えますが、昨年までは首相や両院議長の日程に関係なく「内閣と国会へ勧告」していたのかも知れません。
一般的な話として、例えば市長あての要請書の提出なども市長が不在だったり、その内容の軽重によっては副市長らが代理で受け取ります。あくまでも現時点では個人的な推測ですが、今回の延期騒動は福田首相の福田首相らしい「こだわり」があるように感じています。そう言えば、副大臣人事は自民党各派閥間で調整するのが慣例で、あの小泉元首相も口出ししなかったそうです。それを福田首相は異例の形で介入し、数名の差し替えを行ないました。
リーダーシップが欠けているように見られがちですが、意外なところで意外な「こだわり」や指導力を発揮している福田首相だと言えます。最後に、人事院勧告の話題が少々横道にそれて恐縮でしたが、雑談放談も副題としているブログですので、ご理解ご容赦ください。
| 固定リンク
コメント
質問ですが、所定労働時間と所定労働日数はどのように統計を取っているのでしょうか?
人事院のHPを見ましたが、統計の取り方を解説しているページがありませんので宜しければ教えてください。
所定労働時間と所定労働日数の調査した数は同じだとすると違和感があるんですよね。
一日7時間30分が16.4%なのに、一週37時間30分(7.5×5)の人は11.7%。
一日の所定労働時間が7時間30分の人のうち少なくとも4.7%は週4日以下の労働日数ですか?
同じように、7時間45分は19.3%なのに、一週38時間45分は16.2%。
8時間は37.4%なのに、40時間は39.8%(2.4%が週6日6時間40分勤務とは思えないので変形させている企業もあるとおもいますが、その場合、一日の労働時間はどの日のを統計に反映させているのでしょうか?)
ぱっと見れば直に気付く内容なんだから、補足説明くらい入れとけば丁寧なのに、と強く思いますね。(この辺りがお役所仕事なのでしょうね。)
投稿: のんきな野良猫 | 2008年8月17日 (日) 02時07分
明らかに場違いな質問で、人事院に質問すべきことでは?
無理に「役所」関係者、労働問題関係という共通項で括ってるようですが、三越デパートの開催するフェアの詳細を東武デパートの労組に質問するくらい間が抜けてます。
投稿: More | 2008年8月17日 (日) 08時45分
のんきな野良猫さん、Moreさん、おはようございます。
Moreさんのご指摘のとおり詳しい答えは人事院にお尋ねいただければと思いますが、私自身が受けとめている点を取り急ぎお伝えします。民間における所定労働時間の1日当たりと1週間当たりの調査対象企業は別であり、その数も異なるものと理解しています。
交代制勤務など1日当たりの勤務時間数の比較が難しい場合、1週間当たりにならして調査しているはずです。したがって、調査表の数字がばらつくことに私自身は違和感を持ちませんでした。
投稿: OTSU | 2008年8月17日 (日) 09時21分
>moreさんへ
自分が統計をもとに説明するときはその統計について調べますからね。
ブログ主も、人事院勧告の統計の取り方について調べただろうと思い聞きましたがおかしいですかね?
自分が資料として利用する統計について、調査の仕方や対象を調べるのは当たり前のことですが、MOREさんにはそういう発想は無いのでしょうねww愚かですね。
投稿: のん気な野良猫 | 2008年8月17日 (日) 19時40分
>OTSUさんへ
ネットで確認できる情報ですか?URLを教えてくれると助かります。
投稿: のん気な野良猫 | 2008年8月17日 (日) 19時43分
のん気な野良猫さんへ
平成20年人事院勧告参考資料の第30表(下記URL)を見て、そのように受けとめています。のん気な野良猫さんも同じ表を見て疑問を示されているのかも知れませんが、特に私は疑問を持たず、前回のレスのとおり解釈しています。
http://www.jinji.go.jp/kyuuyo/f_kyuuyo.htm
投稿: OTSU | 2008年8月17日 (日) 20時14分
>OTSUさんへ
もう少し、詳しく調査方法を調べられてはいかがでしょうか?僕は趣味ですが、OTSUさんは労働組合の役員ですよね?自分の使う資料の調査方法くらいは知っておいた方が無難だと思いますが。。
30表には、右上に、(平成20年職種別民間給与実態調査)と書かれています。民間給与実態調査の方法を見ますと、実地調査となっています。(滋賀県や静岡県のHPなどでも、調査員が実際に訪問しますと書かれています。)又、調査項目も書かれています。
OTSUさんが言うような、「民間における所定労働時間の1日当たりと1週間当たりの調査対象企業は別」というのは、非常に不合理だと思うのですが?(わざわざ訪問して、一日あたりの時間を尋ねて、一週あたりの労働時間を尋ねないわけですからね。。それに、都合の良いデータだけ選んだだろ?と言われかねないわけですから。。)
30表に関して言えば、不親切にも、「事務・管理部門の所定労働時間を調査」して出したデータである事が抜けています。
又、仮にoTSUさんがいうように、統計の母体数が一日と一週で違うとしても、変形労働時間の人を数えてないとおかしなデータになりますよ。(これについては、適当な母体数を決めて%使って試算してみればわかります。)
PS 人事院には既にメールしてありますが、お盆なのでか返信はまだです。
投稿: のんきな野良猫 | 2008年8月18日 (月) 00時15分
のんきな野良猫さん、お気遣いありがとうございます。
そこまで掘り下げて思慮される姿勢に頭が下がります。一方で、人事院が公表している資料に対し、私自身、違和感がなかったことも確かです。やはり人それぞれの視点やスキルの差で、とらえ方が異なることを感じ入っています。
投稿: OTSU | 2008年8月18日 (月) 21時15分
「自治労」「存在意義」で検索してヒットしたブログ(下記URL)です。1年前の少々古い記事ですが、ご参考まで。
http://hahaha.iza.ne.jp/blog/entry/290961/
投稿: イチ公務員 | 2008年9月 2日 (火) 23時44分
イチ公務員さん、サイトの紹介ありがとうございます。
さっそく目を通してみましたが、そのような見られ方が少なくないことを受けとめ、このブログを続けています。取り急ぎ、一言だけ添えさせていただきました。
投稿: OTSU | 2008年9月 2日 (火) 23時55分