« ベア見送りの人事院勧告 | トップページ | あるチラシへの苦言 »

2008年8月23日 (土)

講演会「小さな政府」を考える

7月に投稿した記事(最適な選択肢の行政改革とは?)で、私どもの組合が作成したチラシを新聞折込で配布する話をお伝えしました。チラシの内容は、コスト削減が優先されがちな行政改革の進め方への懸念を表明したものです。多くの市民の皆さんにチラシをお読みいただき、私どもの主張が少しでも共感得られることを願っていました。

各行革課題での労使協議を重ねていますが、私どもの懸念点が「ひとりよがり」なものであり、市民の皆さんから理解を得られない場合、アドバンテージは市側に移ります。逆に組合の主張が多くの市民の皆さんから支持を得られた場合、労使協議を優位な立場で進めることができます。

その一環として、広く市民の皆さんにも呼びかけた講演会を開くことも意義深いことだと考えていました。とりわけ小泉政権以降、際立ってきた「官から民へ」の流れを問題提起できる内容が望ましいものと思っていました。さらに6万部以上の数のチラシ配布にあたり、そのような趣旨の講演会のPRを同時に掲げられれば、紙面が厚みを増すものと見ていました。

ここ10年ほどの間にPFIや指定管理者制度など、行政のアウトソーシングを促進させる法改正が進められてきました。厳しい財政事情が背景にあることも確かですが、公共の分野を民間へ開放する意図が働いていたことも間違いありません。いわゆる「構造改革」という総論を見つめ直す中で、自治体の行革課題という各論を検証することも貴重なことだと常々考えていました。

このような問題意識を語っていただける講師を想定した際、真っ先に山家(やんべ)悠紀夫さんの著書『「痛み」はもうたくさんだ!脱「構造改革」宣言』が頭に浮かびました。今年2月、ブログの記事(脱「構造改革」宣言)を投稿した時は、元神戸大学大学院教授の経歴から関西に居住されている方だと思い込んでいました。交通費などの予算支出も検討しながら講演依頼の運びになった時点で、サプライズがありました。

山家さんの事務所「暮らしと経済研究室」は、私が勤める役所のすぐそばにあることを知りました。歩いて1分もかからない場所でした。その事務所を私と担当役員の二人で訪ね、新聞折込を予定したチラシの件から講演会の趣旨などを説明させていただきました。全国を飛び回られている忙しさの中、山家さんには快く私どもが主催する講演会の講師を引き受けていただきました。

講演のタイトルは“「小さな政府」を考える~これからの官と民の関係は~”としています。組合員はもちろん、一人でも多くの皆さんにご来場いただければと考え、入場無料です。9月5日(金)午後6時30分から立川市民会館小ホールで開きます。事前の申込も必要ありませんので、ぜひ、お気軽にご来場ください。

山家さんと直接お会いした際、今年になって発刊した著書2冊をご紹介いただきました。『日本経済 見捨てられる私たち』(青灯社ブックス)と『暮らしに思いを馳せる経済学』(新日本出版社)でした。さっそく入手し、読み終えていますが、ますます講演会当日が楽しみになっています。そして、一人でも多くの方に山家さんのお話を聞いてもらえたらと思い、皆さんへのお声かけに力を注いでいるところです。

その講演会の関心を高めていただくためにも、参考までに『日本経済 見捨てられる私たち』に書かれている山家さんの「小さな政府」に対する問題意識の一端をご紹介します。その前後に示されている主張やきめ細かい資料を省き、本文の一部が抜粋されることは山家さんにとって本意ではないかも知れませんが、ご容赦ください。

「小さな政府」を標榜しての、政府サービスの圧縮、民営化、民間委託化等は、人々の暮らしにどう影響するのでしょうか。まず、生じることは、サービスの切りつめや質の低下が起こり、生活が不便になることです。国鉄の民営化に伴い、地方路線の多くが廃線となりました。

地元自治体などの努力もあり、第三セクターなどの手で維持された路線もありますが、その経営は火の車で、いつ廃止されるかわかりません。JRが引き継いだ路線でも、地方では、ダイヤが不便になったり、割高の特急ばかりが走って実質値上げに近い状況になったりしています。

次は、おそらく郵便について同様のことが起こるでしょう。保育園なども、多くの自治体で、民営化や民間委託が進められており、経験豊かな(従って給与の高い)保育士に代えて、資格を取りたての、一年から三年までの短期雇用契約の(従って、給料の安い)保育士による保育が行われるようになっています。

保育サービスの質が、それだけ低下している、と言っていいでしょう。単に、生活が不便になるだけではありません。「小さな政府」は、生活の不便と同時に生活の不安をもたらします。事故の不安については、言うまでもありません。採算重視の民間では、ややもすると事故対策は手抜きになりがちです。

その著書の第三章「小さな政府」をめぐる神話では、上記のような内容の他に公務員数や政府支出の経済規模による国際比較、「官より民の方が生産性が高い」とした内閣府経済白書の生産性定義の問題性などを綴られています。最後に繰り返しになりますが、このブログをご覧なっている方で興味を持たれ、会場へ足を運べるようでしたら、ぜひ、お気軽にご来場くださることを心待ちしています。

|

« ベア見送りの人事院勧告 | トップページ | あるチラシへの苦言 »

コメント

おはようございます。

地域住民の方々がどのように受け止め、評価していただけるか興味深いですね。頑張ってください。

明日から、上京いたします。
残念ながら、中央本部大会ではなく仕事上の研究協議会です。


投稿: shima | 2008年8月26日 (火) 08時15分

shimaさん、コメントありがとうございます。

新聞折込したチラシに対し、手厳しい匿名によるご批判、名前やメールアドレスなどを明らかにした率直なご意見や励ましの言葉などを複数頂戴しています。配布した枚数に比べると予想外に少なかったように感じていますが、口コミで伺う声は大半が好意的なものでした。どのような声が寄せられたか、機会を見てご紹介させていただきます。

私は千葉市で開かれる自治労大会に参加する予定です。代議員は女性役員にお願いし、傍聴席から議論を見守ります。今回はお会いできるチャンスはないようですが、また機会がありましたらご挨拶させてください。

投稿: OTSU | 2008年8月26日 (火) 19時18分

こんばんは、今回の記事は考えさせられました。

地方路線のお話は、行政サービスに関するコストの削減の反動が如実に現われた具体的な話ですね。
ちなみに郵便は、10月か11月かよくわかりませんが「配達記録」という種類の郵便がなくなるそうです。いろいろな意味で簡素化していくのでしょうね。よい面もあれば悪い面もあるということがわかりました。
でも無駄の排除と業務のカイゼンは今後も公務員には求めていきます。

投稿: エニグマ | 2008年8月27日 (水) 02時44分

エニグマさん、おはようございます。
私たち公務員の組合も「小さな政府」に異議を唱えることが単に現状を守る、自分たちの処遇のためのような見られ方をされない情報発信に今後も努めていくつもりです。

投稿: OTSU | 2008年8月27日 (水) 08時19分

お疲れさまです。

協議会、一日目が終了しました。

29日までの滞在なので。ちょうど本部大会と重なるのが残念です。

サンルート品川から、レスしてますが、さすがに東京!各部屋にインターネットサービスというのはびっくり!!!
というより、いつも安宿利用だからかもしれませんが、本当に十年ぶりくらいの上京で、勢いのある地区・まちと勢いのない地方都市の違いを実感しています。

歩いている人の多さや活気、地方都市の私からしたら、そんなあたりまえのことが、うらやましい限りですよ・・・・・。

それでは、機会がありましたら一度直接お会いして、意見交換したいものですね。

投稿: shima | 2008年8月27日 (水) 22時11分

shimaさん、お疲れ様です。
同じような問題意識や悩みを抱えているshimaさんとの交流は、このブログを続けていく上で大きな励みとなっています。こちらこそ機会がありましたら「オフ会」的な意見交換もよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2008年8月27日 (水) 22時36分

コスト削減については・・・
民間委託は本当にコスト削減になるのか、といった切り口もあります。

技術系では、施工自体はかなり昔から請負化でした。役所で積算して、入札にかけて、発注すると。そして請負者を監督して施工させ、完成して引き取る。こういう流れです。
いま、監督や積算、そして入札事務の一部(請負者の資格審査など)を外部委託するに至っているわけですが・・・仕事の流れが大きく変わり、やりやすくなったこと、やりにくくなったこといろいろあります。
しかし、費用という面で見れば・・・職員数も少なく、超勤(残業)過多の問題や、メンタルヘルスの問題などもあり、増員なしにこれ以上の負荷はかけられない状況ではありますが・・・直営でやらせられること、直営でやらせたほうが明らかに安いことがいっぱいあるのも実態であります。
情報管理の面でも、直営でも信用できない部分はありますが、外注化するにあたって規定すべきものが抜けていて余計に危なくなった面も否めません。

やるべきこと、やらないほうがいいこと、そしてやめるべきこと、そういうことをきちんと整理して追及していけばいいのでしょうが、なかなか難しいでしょう。そういうことをする気力や体力の余裕が中の人にあるとも思えません。

投稿: 流浪人 | 2008年8月28日 (木) 07時52分

公務員の仕事の領域と民間の仕事の領域との境界は本当にあやふやになってきています。
そんな中でなんとなく気になるのは、各自治体で抱えている専門職のあり方です。
特に技術系の職員の今後のあり方は検討しなければならない時期になっていると思います。
さまざまな問題はあるにせよPFIなど民間活用が進められ、財政難から箱物事業が削減され、中小自治体では技術系の職員の仕事はどんどん減らされています。
これらの人材をうまく広域的に活用できる方法はないのか?
景気のよい大都市部では再開発などので人材は必要なはずです。
広域派遣や自治体間協定などで所属自治体のみの事業に従事する職務専念義務の問題をクリアできないかと考えます。
公共事業を民間に投げるのと同様に他の自治体のノウハウや人材を活用することはできないのでしょうか?
まとまりませんが、一考してみる価値はあるように思います。

投稿: shima | 2008年8月28日 (木) 19時40分

流浪人さん、shimaさん、コメントありがとうございます。
行政のアウトソーシングの問題について、確かに当たり前のように民間へ委ねている業務が多数あります。また、技術系職員の人材活用の面なども含め、視点を切り替えれば様々な課題があることを認識させていただきました。このような点は様々なご意見を伺えるブログの良さだと改めて思っています。

投稿: OTSU | 2008年8月28日 (木) 22時33分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 講演会「小さな政府」を考える:

« ベア見送りの人事院勧告 | トップページ | あるチラシへの苦言 »