« 是々非々の議論 | トップページ | ルワンダの悲しみ »

2008年7月20日 (日)

最適な選択肢の行政改革とは?

現在、市立図書館や児童館を指定管理者、学校給食共同調理場をPFI、保育園を民営化する計画が矢継ぎ早に示され、その是非について議論が行なわれています。それぞれ経営改革プランに基づき、コスト削減を主目的とした行政改革の一環です。市の広報などを通して呼びかけたパブリックコメントや市民の皆さんへの説明会の中では、計画に対する不安の声が数多く寄せられています。6月に開かれた市議会では、図書館の問題について慎重に検討することを求めた陳情も採択されています。

私どもの組合は、日頃から職員の労働条件と市民サービスの維持向上について、どちらも欠かすことができない車の両輪だと考えています。同時に厳しい市財政を踏まえ、行政の効率化をめざすことに対し、私たちも積極的に賛同する立場です。しかしながらコスト削減が優先されがちな行政改革に対しては、日常的に市民の皆さんと身近に接する機会が多い現場職員の目線に誇りを持ち、労使交渉の場で市側へ様々な懸念点を訴えています。

言うまでもなく、市の今後の進むべき方向性は、市民の皆さんの声を踏まえて選択しなければなりません。そのためには市の施設を民間へ委ねる計画などに対し、多面的な情報を提供する必要性を感じていました。さらに私たちの懸念点が「ひとりよがり」なものなのかどうか、広く市民の皆さんへお伝えすることも大切な局面だと受けとめ、新聞折込による全戸チラシ配布に取り組むこととしました。

当該職場の組合員、連合三多摩の皆さんらにも素案をご確認いただき、8月3日日曜の朝刊各紙で配布する運びとなっています。実際のチラシはA2判で、写真やイラストなどを使い、なるべく読みやすい紙面レイアウトに努めています。「良質な市民サービスに向けた行政改革とは? ~最適な選択を行なうための一資料として~」と呼びかけたチラシに対し、多くの方から率直なご意見をお聞かせ願えることを切望しています。

各計画は最終決定前の段階であり、寄せられたご意見などは今後の労使交渉を進める上での貴重な判断材料とさせていただく予定です。今回、そのチラシの内容を中心にブログの記事にまとめてみました。下記の内容は、まず市が検討中の主な行革計画と私どもの組合の考え(⇒以下)を示し、参考までに関連する以前の記事も紹介させていただきました。その後に行革計画に対する総論的な見解を掲げています。

《保育園の民営化》 平成22年度に1園、平成23年度にもう1園を民営化する計画です。最終的には、現在11園ある市立保育園を6園まで減らすことが方針化されています。

⇒ 保育園は子どもたちを「預かる」だけではなく、地域の「子育て」を支援する施設としての役割が高まっています。そのためにはベテラン保育士の存在が欠かせません。そもそも保育園をコスト論で見ていくことに強い違和感を抱き、改めて公立保育園の役割の大切さを訴えています

参考記事「保育園民営化の問題点」「保育園民営化に賠償命令

《児童館の指定管理者》 8館ある児童館をすべて指定管理者へ委ねる方針が示されています。当面、モデル的に21年度から1館を指定管理者へ委ねる計画です。

⇒ 児童館は地域の「子育て」ネットワークの拠点施設に位置付けられるべき重要な公共施設だと考えています。指定管理管理者の移行が進んだ場合、その機能が発揮できない懸念を抱いています。

《図書館の指定管理者》 図書館すべてを指定管理者へ委ねる計画が示されています。当面、8館ある地区館を指定管理者へ移行し、将来的には中央図書館も指定管理者に委ねる計画です。

⇒ 図書館は単に本の貸出しを行なうだけが役割ではありません。多様な情報を正確に、かつ無料で提供する公共施設です。住民の様々な課題を解決するためのサポートを的確に行なうためには経験豊富な図書館職員が必要です。しかし、民間には実績の少ない業態であり、ベテラン司書職もきわめて少ない実態などを問題提起しています。

参考記事「図書館に管理者制度」「図書館に管理者制度 Part2」「図書館の役割と可能性

《学校給食共同調理場のPFI》 老朽化した2場ある小学校給食の共同調理場の建替えに伴い、1場に統合した新調理場の建設計画が示されています。その建設や新調理場の運営などを含め、PFIへ委ねることが検討されています。なお、栄養士は直営職員とする計画です。

⇒ 栄養士との綿密な連携がはかれ、食教育の推進や食の安全責任を全うするためにも、調理業務は直営職員による運営の必要性を訴えています。

参考記事「学校給食への安全責任」「学校給食のあり方、検討開始」「メタボリック症候群と学校給食の役割

■ 利益の有無にかかわらず、必要なサービスを提供するのが行政の責任と役割です。

 市の行政改革に向けた方針は、市役所の業務や施設を民間へ委ねる「民間委託化の推進」「指定管理者制度の活用」「PFIの検討」などの言葉が並んでいます。私たちは、行政が担えば安全、安心で、民間だとサービスの低下を招く、不安である、その逆に民間が担えば効率的で、行政は非効率だとの短絡的な決めつけは問題だと思っています。どちらが担っても学校給食で言えば、食中毒など起こさないよう万全な対策を講じていくのは当然であり、あえて非効率な業務運営を行なう訳はありません。

したがって、自治体直営でなければ、住民サービスが低下するという言葉は、民間で働く皆さんへ失礼な話だと考えています。逆に図書館の指定管理者の計画などで、直営では住民サービスの向上がはかれないという言葉も適切ではありません。学校給食に限らず、利益を目的とするかどうかが官と民の決定的な違いだと考えています。

■ コスト削減のあり方などの問題点の検証が欠かせません。

学校給食共同調理場へのPFIの導入の問題ですが、子どもたちに絶対安全で質の高い給食を提供していくことが至上命題であることは言うまでもありません。O-157やBSEの問題など非常に神経を使う状況となっている中、万が一でも起こしてはならない事態が不幸にして起きた場合、その責任から行政は免れることができません。その観点から私たちは、民間の得意分野を活かしたPFI調理場の建設そのものを否定するものではありませんが、調理業務自体は引き続き直営での責任を果たすべき業務だと考えています。

一昨年夏、埼玉県ふじみ野市の市立プールで、女の子が亡くなる痛ましい事故が起きました。今年6月、ふじみ野市側の責任が強く問われた司法の判断も示されていますが、委託先の民間会社の不手際が大きかったことも確かです。しかし、この事例に対しても、民間だから事故が起きたと決めつけるものではありません。経験の浅いアルバイトが中心となっていた点や、充分な研修などを行なえなかった仕組みによるものだと考えています。

もともと行政サービスは無料又は非常に廉価で提供するものが大半です。そのため、受託企業の利益は、市からの委託費と人件費などの差額から捻出されるため、どうしても賃金などが抑えられる傾向となりがちです。ちなみに人件費が同一の職員態勢であれば、直営の方が低コストとなる計算が成り立ちます。例えば、時給900円のアルバイト賃金に必ず受託会社の利益分が乗せられ、市へ請求されることになります。市が直接雇用した場合、アルバイトの賃金900円そのものが市からの支出であり、この面では民間への委託化などが必ずしも低コストの構図とはなり得ません。民間への委託化などが低コストと試算されるのは、正規雇用者数を絞り、年収を抑制した従業員で構成することを前提としているからです。

このように人件費が抑制された場合、従業員の定着率も低くなる可能性が高まります。ある自治体の民間委託化された図書館で、男性職員が「好きな職場だけど、今のままでは将来設計が立てられない」との理由から結婚を期に退職する話がありました。図書館経験の豊富な職員がどれだけいるかで、その図書館の実力が決まっていくとも言われていますので、このような事例は住民サービスの観点から決して好ましいことではありません。

■ 直営責任を果たしながらコスト削減や住民サービスの向上に努めます。

直営のままでは図書館の開館時間の延長ができない、コスト削減は困難などと決め付けられることは本意ではありません。労使で充分協議することによって、これまでも常勤職員数の削減など大幅な見直しを組合側は受け入れてきました。今回も業務形態などを精査し、私たちは人件費の削減を積極的に受け入れる姿勢を示しています。合わせて、広く市民の皆さんを募り、市が直接雇用する非常勤職員制度の拡充などを市側へ逆提案しています。

また、公共施設が直営である利点として、各地域にある保育園や児童館のネットワークを活用し、より効果的な子育て支援や児童虐待防止などにつなげていけるものと考えています。さらに私たちは学校の夏休み期間に学童保育所への配食サービスなど、直営だからこそ可能な住民サービスの向上策や工夫も組合側から提案しています。いずれにしても住民サービスの維持向上がはかれ、一定のコスト削減が可能ならば、改めて直営の方向性を検討することこそ、最適な選択肢となり得るのではないでしょうか。

|

« 是々非々の議論 | トップページ | ルワンダの悲しみ »

コメント

Kや。毎回ムズかしいお題やな。オレには関係ない思たけど、保育園ネタやったから、書く。あくまでオレの近所の話や。
民営化後の保育園が、それまでと遜色無かったら、ええんやけどな。でも、オレの近所はめちゃめちゃ公立人気やで。みんな公立の方がええって、知ってんねん。ヨメは、娘を保育園にに預けるにあたって、何園か見て回ったんやけど、結局家から近所の私立やのうて、中学校の校区が違うほど遠い公立を選びおった。聞けば私立の保育所の主任さん、オレより若かったらしい。私立の保育士の質の問題やのうて、そこに当てられるカネの差やと思うけどな。結局。主はんとこも、あんまり性急に民営化せんでも、ゆっくり考えたほうがええで。

そやけどな、公立は公立で、難儀もあんねん。全員参加の「保護者会」では、民営化反対などなどのテーマで「保育運動」なる運動に参加せなあかん。署名もあるし、デモもある。時には裁判にもなる。3年くらい見てるんやけど、この手口、某野党のそれとおんなじやねん。で、ちょいと調べたらやっぱりそうやった。がっちり手を組んでるっちゅうか、「保護者会」はその政党の関連団体みたいなもんやった。やめたら村八分やろ、なかなかやりおる。いや、某野党が悪いという訳ではないけどやな、そういう事に付き合わされんのは、嫌やねん。勝手にやってくれっちゅう感じでな。まぁその辺はネットでも話題になってるみたいやけどな。娘が小学校行ったら解消されるかというとそうではなくて、学童保育もそういう団体が噛んでるらしい。教員の組合も、そっち系の団体があるやろ。

保育士も公立なら公務員で、オレ的には大切にしてやりたいところやけど、こういうことが逆に世論の足を引っ張ることもあるんとちゃうか?

投稿: K | 2008年7月21日 (月) 09時24分

Kさん、コメントありがとうございます。
いつも具体的な例示をいただき、たいへん分かりやすいご意見に感謝しています。後半部分は多少ぼかした書き方になっていますが、ご指摘の点については充分理解し、そのような見られ方をされないよう注意していくつもりです。
ぜひ、これからもお時間が許す時、貴重なご意見をよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2008年7月21日 (月) 18時45分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 最適な選択肢の行政改革とは?:

« 是々非々の議論 | トップページ | ルワンダの悲しみ »