橋下知事の人件費削減案
出勤前の時間、テレビは「朝ズバッ!」を映しています。支度しながらですので、じっくり見ている訳ではありませんが、みのもんたさんの一言二言に突っ込みを入れたくなる時があります。みのさんは、安倍政権の「官邸崩壊」の立役者の一人だった井上秘書官と同じ逗子に住み、二人は居酒屋で情報交換する仲でした。みのさんの発言の影響力を高く評価していた井上秘書官は、会うたびに安倍前首相や政策の素晴らしさなどを訴えていたようです。
その努力が実ったためか、年金問題で安倍内閣に逆風が吹き荒れていた時でも、みのさんからは政権擁護の発言が目立っていました。また、公務員関連の不祥事が報道されるたび、手厳しい言葉で批判するのも定番でした。歯に衣着せずに発言するスタイルがみのさんのセールスポイントですが、もう少し基礎知識を勉強してから話せば良いのにと思う場面も少なくありません。
スポーツニュースの時間、北京五輪の出場権をかけた男子バレーボールのアジア予選で、日本と争う国はオートラリア、韓国、イラン、タイであると説明されました。その直後、みのさんは「イランもアジアなんですね」と一言発しました。思わず、それを言うのならば「オーストラリアもアジア予選なんですね」だろうと心の中で突っ込みを入れていました。
さて、とにかく著名人がテレビで発する言葉の影響力は非常に大きく、宣伝効果も抜群です。宮崎県の東国原知事がテレビ出演などを通し、もたらした経済効果は1年間で492億円と試算されています。大阪府の橋下知事のマスコミへの露出も負けず劣らず、経済効果の押し上げに一役買っているものと思いますが、マイナスイメージを発信している気配もあります。来春入庁する府職員の採用試験の申込者数が前年度より4割減となりました。
橋下知事は府職員に対して「破産会社の従業員の自覚を」と述べ、大幅な賃金カット方針を打ち出しています。やはり「破産会社」に魅力を感じる人が少ないのは当たり前な話です。それでも橋下知事は「(待遇に)不安を抱く人がいるのかも知れないが、難局を一緒に乗り切ろうと意欲を持って来てくれる学生がこれだけいるのは心強い」と話しています。一方、法政大学の早川征一郎教授は「大幅な人件費削減方針が影響し、公務員になりたい人が大阪府から他の自治体に流れたと考えるのが自然。仕事への情熱だけで優秀な人材を確保するのは難しいのでは」と評しています。
橋下知事は財政非常事態宣言を発し、2008年度予算で380億円の人件費削減を柱とする歳出削減案を掲げていました。その他に私学助成などの事業見直しで440億円の削減、府有施設売却などで280億円の歳入増を確保し、予算総額で1100億円を捻出するよう指示していました。その方針に基づき、大阪府当局は総額約350億円の人件費削減案を5月22日に労働組合へ提示しました。
警察官や教職員を含めた一般職の基本給削減率は、管理職12~16%、非管理職4~10%とし、3年間実施する案です。平均削減率は12.1%となり、退職手当も5%カットします。大阪府の給与水準は、国家公務員を100として比較するラスパイレス指数が89となり、都道府県で最下位となる見通しです。
橋下知事は「事業の見直しで、人件費にも切り込まざるを得なかった。今、手を緩めたら将来世代に大きな影響が出る。この程度は負担しなければならない」と説明しています。知事自身は、基本給(145万円)を30%、退職手当を50%カットするようです。タレントと弁護士の二束の草鞋を履き、莫大な収入を得ていた橋下知事にとって、このような削減は本当に「この程度」との認識なのだろうと思います。
さらに橋下知事が非公務扱いでテレビに出た時の出演料に対し、「私の考えとしては、非公務での出演料は個人の所得として税金を払った上で、政治活動資金にさせてもらいたい」と語っているそうです。講演についても、知事就任までは1回につき150万円ほどの講演料を受け取っていたようですが、「金額の妥当性、また、講演の対価として受けることがいいのか検討したい」と述べ、曖昧な姿勢を見せていました。
特別職である知事は出演料などの副収入を得られるのかも知れませんが、一般の職員は法的に兼業が禁止されています。もっともっと収入を得たいと思っても、公務員はアルバイトができません。それは職務に専念する義務があるからです。例えば夜間のアルバイトをして、昼間の公務に支障が出ることが絶対許されないからです。その代わり余程ぜいたくをしない限り、生活に困らない賃金が保障される処遇となっていると言われてきました。
また、公務員は労働基本権が制約されています。その代償措置として人事院勧告があり、民間の賃金水準との均衡をはかるような仕組みとなっています。公務員賃金は「高い」と言われがちですが、民間相場の反映であることを留意いただきたいものと思っています。以上のような公務員特有の制約を横に置いたまま、財政再建の一手法として賃下げ提案が強行されていった場合、際限のない公務員賃金の削減スパイラルが始まる懸念を抱いています。
職員やその労働組合が財政再建を決して軽視するものではありません。しかし、年収で平均50万円近い減額に対し、大阪府職員の「懲罰のようで、意欲まで削られそうだ」と嘆く声は他人事とは思えません。「公共サービスは赤字が当たり前、だから安直な人件費削減は問題」と反論する組合の主張は、広く共感を得られる言葉とはなり得ません。残念ながら公務員以外の住民の大半が橋下知事の掲げる賃金カット案を歓迎していく構図は避けられません。
今後、労使交渉も情報公開の対象となる動きが強まる中、今回の大阪府のようにニュースとして流れる場面が増えてくるのかも知れません。万が一、そのような席に自分自身が組合側の立場で座った際、どれだけ短いフレーズで広く共感を得られる言葉が発せられるかどうか自問自答しています。その意味で、このブログを通して公務員賃金のあり方などを深く掘り下げていければと考えています。
| 固定リンク
| コメント (98)
| トラックバック (4)
最近のコメント