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2008年3月15日 (土)

追い風と逆風が交錯した今春闘

各労働組合の2008春闘要求に対し、火曜日に大手企業を中心とする経営側の回答が一斉に示されました。今春闘は様々な面で異色な側面がありました。昨年末に公表された経団連の経営労働政策委員会報告の中で初めて「賃上げ容認」が盛り込まれました。また、経団連の御手洗会長は「リストラも一段落して業績もいいのだから、上げられるところは上げるべきだ」と主張していました。

交渉が大詰めを迎えた段階では、福田首相がメールマガジンで「今こそ改革の果実が給与として国民、家計に還元されるときだ」と指摘し、経営側に異例の「賃上げ要求」を行ないました。首相は「日本経済はここ数年、成長を続けている。大企業を中心に、バブル期をも上回る、これまでで最高の利益を上げている。構造改革の痛みに耐えて頑張った国民の努力のたまものだ」と述べていました。

「企業も、給与を増やして消費が増えれば、より大きな利益を上げることにつながる。給与引き上げの必要性は経済界も同じように考えているはずだ。政府も経済界のトップに要請している」とし、実際に御手洗会長らを官邸に呼び出したことも報道されていました。「賃上げ容認」派である御手洗会長も「企業に大幅賃上げを強制するのは難しい」と説明せざるを得ないほどの熱弁だったようです。

原油や穀物価格の高騰で食料や日用品の値上げが相次ぐ中、看板に掲げている「生活者重視」の姿勢を強調するための一種のパフォーマンスであることは確かです。さらに大きな責任と権限を持つ総理大臣なのですから、他力本願的な言葉ではなく政策面からのアプローチで具体策を示して欲しい思いもあります。しかし、このような首相の行動は労働組合側にとって歓迎すべき追い風であったことも間違いありません。

税引き後利益が1兆7千億円に上る見通しのトヨタ自動車、御手洗会長も福田首相も真っ先にトヨタを念頭に置いた発言だったはずです。そのような視線を集めるトヨタの経営側は、サブプライムローン問題の影響は深刻であり、経団連が示した「報告書は誤った期待を与える」と批判していました。年明けから株価も下落していく中、トヨタ経営陣は一貫して「ベクトルは下」と語り、組合からの1500円の賃金改善要求に対し、早い段階で上限を前年並の1000円に設定していたようです。

トヨタの渡辺社長は「前年実績を下回る500円の回答も真剣に検討していた」と話し、最終盤での首相の要請を重く受けとめたとしながらも、最後まで前年実績1000円超え回答の決断は下しませんでした。この結果は他の労働組合の回答へも大きな影響を及ぼしました。大手電機メーカーの経営側は「カーナビゲーションを納入する大切な取引先のトヨタを上回る額は出せない」とし、やはり前年並1000円の回答にとどまっていきました。

春闘相場を主導する自動車や電機など大手製造業の一斉回答が、12日あった。労組側は、好業績を理由に前年実績を上回る賃上げを求めたが、経営側は景気の先行き不透明感を盾に大幅な賃上げに難色。大半の企業は3年連続の賃上げとなったが、水準は「前年並み」が目立った。食品など身近な商品の値上がりが相次ぐ中、労組側が期待する水準の賃上げを達成できなかったことで、消費がどれだけ刺激されるかは不透明だ。

海外販売が好調な自動車では、トヨタ自動車が過去2番目に高い組合員平均年間253万円の一時金(ボーナス)要求に満額回答。しかし、月額1500円を要求していたベースアップ(ベア)は、3年連続して1000円で決着した。連合幹部は「トヨタですら前年並みにとどまったことが、大手製造業以外の企業の賃上げを前年実績以下にする口実として使われかねない」と警戒する。(2008年3月12日asahi.com

サブプライムローン問題に端を発し、原油高や円高など、日本経済の先行き不安感が昨年以上に賃上げ交渉を難しくさせ、強い逆風下での春闘であったことは否めません。一方で、アメリカの低所得者向け住宅融資の破綻が世界経済へ深刻な打撃を与えている構図は、「風が吹けば、桶屋が儲かる」という諺のようなグローバル化の特質でした。脆さが裏腹となるリスクから脱却するためには内需の拡大が欠かせず、大幅賃上げが最も効果的な対策の一つだと言われていました。

そのような背景もあり、福田首相から経団連への異例な「賃上げ要求」につながっていました。最近の記事「内需拡大に向けた春闘へ」で記したとおり連合側も、その思いを強く前面に出して今春闘に臨んでいました。以上のような動きや視点は、労働組合側への追い風でした。したがって、今年の春闘は追い風と逆風が交錯した複雑な情勢で取り組まれていたことになります。

春闘は序盤戦が終わっただけであり、まだまだ多くの組合のたたかいは続いていきます。しかし、残念ながらトヨタの前年並回答に象徴されるように組合側の出バナがくじかれたスタートを強いられました。経営側の「安い人件費で台頭する中国と競争するためには賃上げは論外」という発想を突き崩せなかった結果であり、その理屈が「労働ダンピング」を加速させてきた点を今後も厳しく問い続けなければなりません。

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コメント

 結果を見て、「やはりね」と思いました。
 今日はあまりダラダラ書くつもりはないですが、根本的な問題として、従来の労働組合って、資本主義自体を全否定する所から始まっているので、高度にグローバル化が進んだ今の日本経済の中ではとても太刀打ちできないのでは?円高だの、原油高だの、株価だという世界は、日本の労働運動の力量ではどうにもコントロールしようがないでしょう?
 春闘の相場作りでいつもトヨタ自動車が引き合いに出されますけれど、はっきり行って今のトヨタはあまりに国際的すぎて、もはや他の産業の参考にさえならないのでは?トヨタに引きずられて全体が抑え込まれてしまう、というなら、いっその事春闘なんかやらなくても充分恵まれている(と私は思っています。そんな事はねえぞ!という方がおられたらごめんなさい。)トヨタはもう春闘への参加を遠慮してもらい、真に「弱い者」「団結しなければならない者」だけでやった方が、案外良い結果が出るのではないか、などと最近は考えるのですが。そもそも自分たちの雇用や暮らしは自分たちの力で守るのが原則です。人任せはもうやめましょうよ。
 正直な所、「こんなマンネリ化した妥結の繰り返しなら、もう春闘なんかやめてしまえ!」というのがホンネです。と言ったら、OTSUさんを初め、多くの方々の怒りを請うでしょう。それでも、春闘が多大なコストとリスク(=組合員の犠牲)で成立っている以上、一度組合員一人一人の春闘に対するホンネを探るべき時が来ているのではないでしょうか。本当に春闘が組合員一人一人の暮らしの向上に役立ってきたのか?彼らはそう思えているか?過去の成果は実感できているのか?中小は大手の成果の恩恵を甘受できているのか?
 いよいよ各労働組合(官も民も関係なく)は、ホンネで春闘そのものの是非について論じるべき時が来ていると考えます。

投稿: 菊池 正人 | 2008年3月17日 (月) 00時17分

HYといいます。
過去にも、1度だけコメントさせていただいたことがあります。
私は北海道の自治体で労組の執行委員をしています。

どうしてもOTSUさんにお聞きしたいことがあり、久しぶりにここにアクセスしました。記事とコメントに関連の無いことをどうかお許し下さい。

実は、私はこのたびの人事異動(内示)で、環境課から総務課へ異動することになりました。
少なくとも、私の自治体(及び周辺自治体)では「総務課=当局」です。組合とは相対する組織ということになります。そういうわけで、従来から、総務課に異動になった者は、「仮に組合の執行委員だったとしても、執行委員に名前こそ残しながらも、個別の活動からは距離を置いていく」ということが慣例となっています。
組合員ではあったとしても、積極的な活動は控えなければならない…と、いうのが私のところの総務課なのです。
聞いた話ですが、極端な例(?)では自治体によっては(例えば都道府県など)、総務課、財政課、あるいは行革関連部局へ配置された時点で労組を一時的にでも脱退しなければならないという話も聞いたことがあります。

そこのところ、他の自治体や、あるいは民間の場合はどのようなのでしょう?!
管理職ではない以上、総務課だろうが何だろうが、あくまで組合員だし、執行委員どころか役員(4役)に名を連ねていたって問題ではないとは思いますが、職場の空気(風土)みたいなものを無視することもどうかとも思います。

いずれにしても、私はこのたび4月1日から総務課に配属ですが、さしさわりのない程度に組合活動にも参加はしていこうと思ってはいます(従来の総務課組合員のやり方も参考にしながら…)。

ただ、確かに「総務課」というと、勤務中は当局としての事務を粛々と執り進めながら、一方では組合で、その日中の事務に反すること(=逆のベクトルのこと)を、場合によってはやらなければならない側面はあるのかもしれません。
その辺り、他の種々の労組ではどのような現実なのかなぁ…と、思ったものですから、ぜひOTSUさんに聞いてみたいと思いました。
何かその辺りの情報がありましたら、聞かせてください。また、OTSUさんの私見についてもぜひお聞かせ下さい。
何卒、よろしくお願いいたします。

投稿: HY | 2008年3月17日 (月) 05時32分

菊池正人さん、おはようございます。いつも貴重なご意見ありがとうございます。
春闘のあり方など確かに見直しも必要かも知れません。それでもトヨタ経営側が説明する「グローバル化」の理屈だけでは、問題だとの見方も出てきた点は意義深い流れだろうと思っています。とりわけ時の首相までその認識に立ったことは追い風だったはずです。

HYさん、おはようございます。ご訪問ありがとうございました。
組合役員の異動先について、私どもの役所では一定の配慮があるようです。極端に組合活動が制約されるような出先職場(自治体ですのでタカが知れていますが)などには配置されません。当然、組合の人事不介入の原則を前提としている話ですが、「不当配転」や「不当労働行為」と指摘されないための当局側の判断による慣行となっています。
また、管理運営面にかかわる係長は条例上で非組合員とされています。逆にそれ以外は、官房部門の職場でも一組合員として同じような活動をお願いしています。実態面での温度差はありますが、形の上での線引きはないのが私どもの役所の現状です。近隣の自治体も基本的に同じだと思いますが、若干扱いが異なるかも知れません。

投稿: OTSU | 2008年3月17日 (月) 07時25分

おはようございます。
テーマとは直接関係ないようですが、HYさんのコメントへ・・・。
私どもの自治体も組合役員の人事異動には一定の配慮があるようで、管理部門への異動はほとんどありません。
ただ、組合活動の制約については、条例、規則で明確に規定されるべきもので、いわゆる「管理職等」の範疇に規定される職(担当業務)以外は、なんら制限を受けるべきものではないと思います。
私も参事補(係長)ですが、是々非々で当局と交渉を行っていますよ。
それぞれの単組で事情は異なるのでしょうが、なんとなく「不当労働行為」のような気がするな・・・。

投稿: shima | 2008年3月17日 (月) 08時22分

いつも拝見しています。ちょっとお話に入れてください。


人事担当課・給与担当課・議案担当課・財政担当課の職員が、一方で人員や給与を削る議案について上程理由や議会資料を作成し、一方では組合役員としてこれに反対する活動を展開する。

これは、対議会(ひいては対住民)を考えたときに、問題が無いとはいえないでしょう。「仮に組合の執行委員だったとしても、執行委員に名前こそ残しながらも、個別の活動からは距離を置いていく」という慣例は、そんなところから生じた配慮だと思います。

ちなみに、うちの自治体では、「組合役員は出先機関に飛ばされない」といった配慮はありません。逆に、出先の声も組合活動に反映させるため、少なくとも1人は出先機関の職員が役員に就任するようお願いする慣例があります。市の面積が合併で広がったのですが、勤務時間外に活動していたので、出先機関の職員でも組合活動に差し障りはありませんでした。

投稿: 大分からこんにちは | 2008年3月18日 (火) 12時44分

大分からこんにちはさん、はじめまして。コメントありがとうございました。
人事担当課などの部署と執行委員の任務との折り合いの難しさはご指摘のとおりです。そのため、一定の配慮や判断が当局側に求められているのだろうと私も思っています。
なお、一点だけ釈明させていただきます。出先職場の執行委員を拒むものではなく、幅広い職場から選出されるのが理想だと考えています。私自身、初めて執行委員を担った時は出先職場でした。前回のコメントは、もともと本庁職場だった執行委員が片道1時間近くかかる遠い出先職場に異動した場合などを想定したものです。そのような場合、結果として組合活動の弱体化を意図した誤解や混乱を招きかねません。私の言葉が不足し、出先職場の皆さんに不愉快な思いを与えていましたら申し訳ありませんでした。

投稿: OTSU | 2008年3月18日 (火) 23時25分

 いつも私の拙い意見に真剣に答えてくださって有難うございます。ただ、今回の回答に関しては少々疑問も感じます。
 「福田総理も言ってくれた」という発言は、…これは春闘に限らないのですが、本来自分たちの力でやらなければならない問題に、他の誰かさんの発言を引用するというのは、私は変だと思っています。自らの暮らしを守るための「闘い」にしては主体性がないような感じがして。まして福田総理は労働側にとって「敵」のはずです。「余計なお世話だ!」ぐらい言ってもいいんじゃないですか?労働側がそれを言えない所が今の春闘の問題なのではありませんか?(しかも結果に反映されていないし。)
 そもそも私は今の春闘には「追い風」なんてないと思っています。この辺はOTSUさんと見解が異なるのですが、ただ単に「逆風」がほんの少し弱まったのを「追い風」と勘違いしているに過ぎないのでは?
 前にもトヨタを引き合いにして少し書きましたけれど、今の春闘はもはやシステム自体が機能不全に陥っていて、組合員、ひいては世論全体の暮らしの向上にはほとんど役立っていないと思っています。ほんのわずかな成果の差に一喜一憂するばかりでなく、本当に春闘そのものが労働者全体に幸福をもたらすものなのか、一度真剣に考えませんか?
 今回はちょっとOTSUさんに逆らった事を書いてしまって申し訳ありませんでした。

投稿: 菊池 正人 | 2008年3月19日 (水) 00時28分

菊池正人さん、おはようございます。コメントありがとうございました。
「福田首相も言ってくれた」とのとらえ方は、決して組合側の主体性を低めたつもりではありません。広く国民生活を向上させていく一つの手法として、賃上げは必要だとの認識が広がるための象徴的な話題として素直に歓迎したものです。
春闘のあり方の総括は必要だろうと思いますが、組合員にとって賃上げは共通課題となる大切な要求であることに間違いありません。500円の賃上げは単に年間6000円の引き上げではなく、生涯賃金の改善につながり、賞与や年金などへも反映されます。そのため、経営側が一時金には簡単に積み増しても、賃上げには抵抗を示す理由となっている現状です。
この問題では菊池さんと意見が異なるようですが、異なる意見を交わしていけること自体、貴重なことだと思っています。ぜひ、これからも貴重なコメントをお待ちしています。

投稿: OTSU | 2008年3月19日 (水) 08時25分

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