ストライキ批准投票
記事の更新は週1回ですが、毎日のように訪れてくださる方がいらっしゃいます。管理人である私も含め、コメント欄へ寄せていただくご意見を楽しみにしているからです。率直な意見交換できる掲示板的な役割は喜ばしいことであり、幅広い情報や考え方に触れられる有意義な場になっていることを心から感謝しています。
記事本文の内容によってコメント数は増減していますが、前回記事「内需拡大に向けた春闘へ」のコメント欄はストライキに関する話題で盛り上がりました。実はストライキの問題について、このブログで正面から取り上げたことがありません。これまで2005年12月に「ニューヨークで25年ぶりのストライキ」、2006年4月に「フランス政府が若者雇用策撤回」、2007年6月に「公務員に組合はいらない?」の中で触れてきた程度でした。
憲法第28条で「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」とされていますが、公務員に関しては争議権など労働基本権の制約がある現状です。それに対してILOは再三、日本政府へ「国の行政に直接従事しない公務員への結社の自由の原則に沿った団体交渉権及びストライキ権の付与」の勧告を示してきました。
同勧告に対し、日本政府は「ILOの見解を認識しつつも、日本の歴史的背景や公務員における労使関係の状況等を踏まえ、国民全体の共同利益の見地から労働基本権の制約は免れ得ない」と釈明してきました。最高裁判所も「労働基本権を保障する憲法28条の規定は公務員にも適用されるが、この権利は国民全体の共同利益の保障の見地から制約を免れ得ないものであり、また、労働基本権制約に対する適切な代償措置が講じられていることから、公務員の争議行為を禁止した法律の各規定は違憲ではない」旨を示していました。
ストライキは決行することが目的ではありませんが、労働組合の切実な要求を前進させるためには有効な手段であることも事実です。そのような趣旨を踏まえ、自治労も闘争時にストライキを適宜配置してきました。そもそもストライキは経営側に与える打撃を切り札とし、譲歩や決断を求める組合側の「伝家の宝刀」です。一方で、バスや鉄道など公共サービスを提供する労働組合のストライキは地域社会に及ぼす影響もはかり知れません。
当然、公務員のストライキも同じ側面がつきまといます。また、交渉が決裂して打ち抜いた場合、法的な問題など民間組合の皆さん以上のリスクを覚悟しなければなりません。常にストライキは「諸刃の剣」の面があることを強く意識し、抜く時はより慎重になる必要性を痛感しています。したがって、ストライキ戦術の配置そのものも徹底的な議論を交わした上、メリハリをつけた対応が求められているはずです。
春闘期に自治労はストライキの批准投票に取り組みます。1年間を通して1波につき2時間を上限とするストライキ指令権について、自治労中央闘争委員会に委譲することの賛否を問う投票です。自治労組合員全員を対象とし、組合員総数の半分を超える「○」が批准の成否となります。組合員個々のストライキに対する思いは様々ですが、これまで7割前後の賛成票で批准されてきました。
前述したとおり自治労のストライキは、一定の制約がある緊張関係の中での配置となります。そのため、指令権そのものを自治労中央本部へ委ねることの重要性があります。さらに自治労の結束力を内外に示す一つの指標としても、この批准投票の取り組みは重視されています。合わせて、投票用紙には次のような2008春闘のポイントなどが記され、組合員一人ひとりが春闘を身近に感じてもらう機会としています。
- 賃金改善、同一価値労働・同一賃金の実現
- 脱「格差社会」にむけた公共サービスの再構築
- ワーク・ライフ・バランスの実現と職場のワークルールの確立
組合員の中には「ストライキの配置自体が問題だ」とする見方から「ストライキも構えず、妥協するのか」というような対照的なご意見があります。いずれにしても組合執行部はストライキをはじめ、一つ一つ丁寧に組合員の皆さんと問題意識を共有化していくことが大切なことだと考えています。その上で、多様な声を踏まえながら執行部は、とりわけ闘争の局面で適切な選択肢を懸命に模索しています。
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コメント
「あんたは時々生意気を言うが、労働関係法のことは何も知らんじゃないか!」と自治労の皆さんに何時も言われています。
これまで労働組合とは無縁のところで働いてきましたから、労働関係法とも無縁でしたので、そう言われても仕方がありません。
しかし、公共サービスの民間移管に際して、ほとんどが役務提供のような入札に最低制限価格も設けず、安く発注できたことを手柄のように思っている公務員に言われたくないというのが正直なところです。
直営時はパッカー車に3人乗車して、交通安全上の理由ということで運転手は運転席から動くこともしませんでした。
ところが、民間に移ったとたん、賃金は半減で乗車人員は2名というところも多いのではないでしょうか。
田舎では、そうした受託業者に労働組合などほとんどありません。それでも生活するためには昇給もないところで働くしかないのです。(委託料はほとんど据え置きか減少傾向にあるのですから、昇給は不可能です。)
他所の状況はよく判りませんが、少なくとも私のところでは、どうも公務員以外に「人権」はないようです。これまで直営でやってきたサービスをそのまま継承している労働者の人件費が公務員の50%未満でしかない実態も見てください。
賃金改善、同一価値労働・同一賃金の実現
脱「格差社会」にむけた公共サービスの再構築
ワーク・ライフ・バランスの実現と職場のワークルールの確立
公共サービスに従事するすべての労働者を対象にしたスローガンであることを望みます!
投稿: ニン麻呂 | 2008年2月11日 (月) 01時47分
ニン麻呂さん、おはようございます。コメントありがとうございました。
深く肝に銘じるべきご指摘だと受けとめています。3つのスローガンをはじめ、今春闘で自治労は公共サービスに従事するすべての労働者を対象にした「同一価値労働・同一賃金の実現」などをめざしています。
かけ声だけに終わらないよう少しでも具体的な成果を上げるため、単組や連合地区協などの場で努力していくつもりです。
投稿: OTSU | 2008年2月11日 (月) 08時49分
おはようございます。
ストライキ批准投票というテーマから指定管理者を含めた業務委託のあり方に対する自治労としての考え方が問われているのかなと受け止めました。
自治労の春闘要求としても重点課題となっていますよね。
地域公共サービスを支える民間企業を含めたすべての労働者の賃金労働条件の底上げを図るためにも公契約ルールの確立が必要ですね。
単に費用削減のためややりたくない仕事をアウトソーシングするのではなく、サービスの中身を精査し、そこで働く労働者の雇用環境の改善も視野に取り組んでいく。
責任は重大です。共に頑張りましょう。
投稿: shima | 2008年2月12日 (火) 08時25分
shimaさん、コメントありがとうございました。
自治労組合員以外の方への補足となりますが、ストライキ批准投票の用紙はA4サイズです。右端4分の1ほどを切り離し、○か×を記して投票することになります。左側4分の3に春闘の重点課題などが記載されています。
その重点課題の中に「自治体で働くすべての労働者、公共サービス民間労働者の処遇の確保と公正労働の実現にむけ、入札改革と自治体公契約条例の制定に取り組む」「職場における臨時・非常勤職員の権利状況、請負(委託)の実態などの調査を進め、雇用の確保と処遇の改善を実現するとともに、職場から法令遵守を徹底する」などが掲げられています。
いつもニン麻呂さんからは公契約条例などを制定しなくても、できることがあるとご提起いただいています。いずれにしても以上のような問題意識を強く持ちながら2008春闘に臨んでいます。
shimaさんへのレスを利用させていただき、長々と補足的な文章、たいへん失礼致しました。本当に自治労の責任は重く、具体的な結果を出すためにも、お互い頑張っていきましょう。
投稿: OTSU | 2008年2月12日 (火) 20時43分
おはようございます。
自治労のストライキ批准投票から少しそれますが、自治労春闘の取り組みについて・・・。
自治体公契約条例の制定は、やはり重要な取り組みになると思います。
自治体当局が事業をアウトソーシングする際に一番に問題とするところは、やはり「経費」という点は否定できない事実です。
すでに2巡目に入る指定管理者の選定にあたっても、この経費が重視され、そこで働く労働者の人件費を極端に押さえ込んだ不当ともいえるダンピングが各地で問題となっているようですが、これでは本来の制度導入の趣旨に反するのではないでしょうか。
「民でできることは民でやる」協働という視点が生かされていないと思います。
1巡目の総括でも、民間では「お手上げ」で、管理者の選定ができないところも出てきているのも事実です。
人件費から委託費へ予算上繰り替えられるだけですし、委託費の内訳がどのようになるのかも含めて、内部からチェックしていくことをしなければ、何のため、誰のための制度なのか見失うことになります。
残念ながら、労働組合という組織でそこまでの取り組みができている単組がどのくらいあるのか???
取り組みは道半ばというところでしょうね。
投稿: shima | 2008年2月13日 (水) 08時26分
shimaさん、コメントありがとうございます。shimaさんのご意見を受け、また私なりの感想を書かせていただきます。
労働に対する社会的な格差是正が実現することにより、行政のアウトソーシングの問題が本質的な議論につながるのだろうと考えています。民間賃金水準との比較によって公務員賃金が定まっていたはずですが、年収200万円以下の人が1000万人を超えた中、公務員は恵まれているとの見られ方が際立っています。その構図のもとでの「官から民へ」は、必然的にコスト縮減に直結している現状があります。
そのためにもご指摘のような労働のダンピングを許さない仕組み作りが喫緊の課題だと思っています。その上で、収益を度外視した公共サービスの大切さについて、改めて訴えていく必要性を強く感じています。今朝、郵政会社とローソンが提携したニュースに接しましたが、ますます利益の出ない過疎の地域から郵便局が消えていく心配は的外れでしょうか。
投稿: OTSU | 2008年2月13日 (水) 21時36分
こんばんは。
スト権の話については前に書いたので省きます。
公契約に関する現状での問題点は御指摘のとおりだと思います。それと同時に、行財政改革による財政再建の必要性も全国どの自治体にも共通する課題だと思います。
入札制度改革の原点として指名競争入札による談合や歳出のムダを省いていこうとすることであり、この改革自体は前向きに進めるべきであると考えております。また同時に最低制限価格の引き上げなどで事業者の経営、従業者の賃金向上に資する施策の必要性も当然あります。
コスト削減とセーフティネットの維持。一見矛盾するようですが、行政はどちらも両立(言うのは易く実際難しいこととは承知してますが)することが大事ではないかと思います。
投稿: かでる | 2008年2月13日 (水) 23時41分
おはようございます。
いつもいつも、ご丁寧にお答えいただきありがとうございます。
ストライキ批准投票からテーマを逸らしてしまったみたいで恐縮です。
そこでまた機会がありましたら、公契約条例とか限界集落の問題など取り上げていただければ、勉強にありますのでOTSUさん、よろしくお願いいたします。
本日は県本部の中央委員会で春闘方針を議論してきます。
投稿: shima | 2008年2月14日 (木) 08時13分
かでるさん、shimaさん、おはようございます。コメントありがとうございました。
コスト削減の視点の大切さもその通りだと考えています。姿勢や工夫しだいで圧縮できるコストは最大限努力すべきものと思っています。
ただどのように頑張っても黒字とならないサービスに対し、撤退できるのが「民」であり、基本的にできないのが公共サービスだろうと見ています。
また、従来のコスト中心の競争入札から公正労働や環境指標も条件とした総合評価方式への転換は談合防止につながると言われています。もちろん、従来型の入札方式より割高となる面もありますが、必須とすべき社会的コストとして認知されていく行政側のアピールも重要だろうと思います。
なお、限界集落の問題などは自分自身の勉強も兼ねて、機会がありましたら取り上げさせていただきます。本日午後、公共サービス基本法に関する講演会に行ってきます。この内容は次回以降の記事で取り上げる予定です。ぜひ、またご意見やご感想をお願いします。
投稿: OTSU | 2008年2月14日 (木) 08時18分
厚生労働省 「役務提供契約」という偽装請負や二重派遣の是正を
官庁は「役務提供契約」※を“請負または委託契約”にて大半の業務を発注しています。
また、官庁に同調し、地方自治体においても同様に偽装請負や二重派遣が日常化しています。厚生労働省は、なぜ官庁の是正指導に動かないのでしょうか・・。
そもそも「役務提供契約」※は、基本的に委託契約や請負契約に準じています。そのため、受注者も安易に外注に業務を丸投げという図式なのです。ところが、実際は現地の発注者から外注に指示が出ています。そして、自ずと「偽装請負」や「二重派遣」という結果を招いてしまっているのです。官が是正し、地方自治体が是正し、それから民間が襟を正すのが本来の姿ではないでしょうか。官による「役務提供契約」と民間の派遣契約を業務別に区分し、早急な改善を望むものです。官は率先して偽装請負を解消すべきです。
※委託者が専門的な知識や技能及び技術情報等の役務を提供し、受託者がこれに対する報酬を支払うことを約すことによって成立する契約。官庁や地方自治体で使われている。
以
◆人事総務部ブログ&リンク集
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投稿: 人事総務部-ブログ&リンク集- | 2009年5月14日 (木) 20時26分
人事総務部ブログ&リンク集さん、ご訪問ありがとうございます。
本当のその通りです。また、ブログ&リンク集の情報、ありがとうございました。
投稿: OTSU | 2009年5月14日 (木) 22時13分