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2008年2月16日 (土)

公共サービス基本法

木曜の午後、年末に休日出勤した時の代休を充て、竹橋にある日本教育会館へ向かいました。公務公共サービス労働組合協議会と連合官公部門連絡会が主催した「公共サービス基本法」制定を求める中央集会に参加するためでした。12時34分の特別快速に乗れば、開会時間の1時30分には間に合う計算でした。それが中野駅での乗り継ぎに10分ほど待たされ、息を切らして会場に入った時には主催者挨拶が始まるところでした。

この集会には二人の講師が招かれていました。初めに「質の高い公共サービスの実現のために」の演題で、東京大学大学院経済学研究科の神野直彦教授の講演でした。続いて民主党「次の内閣」総務大臣の原口一博さんから「公共サービス基本法制定をめざして」と題した講演を伺いました。原口さんは衆議院予算委員会での質疑を終え、その直後に駆けつけていただいたようです。

神野教授の講演の要旨は次のとおりでした。租税負担と社会保障負担に対するGDP(国内総生産)の国際比較において、日本はフランスやドイツより下回っています。さらに高齢福祉や失業対策などの公的社会支出のGDP比較で、日本はアメリカと肩を並べ、スウェーデンの半分にも満たない低さです。それでも以前は格差社会などの言葉と無縁な社会でした。

長期的雇用慣行などによって収入の安定した労働者が多く、大企業は護送船団方式で守られ、中小零細企業は公共事業や規制政策で保護されていたからでした。それが市場主義の導入により、規制緩和が進み、強きを助けて弱きをくじく「小さな政府」路線に転換した結果、現在のような社会的な格差が問題視されるようになりました。特に労働市場の規制緩和を押し切られた労働組合の責任にも神野教授は触れられていました。

もともと日本は国際比較の中で「小さな政府」であり、社会保障やリスクに対する補填が低水準のまま、競争原理や自己責任が強調される「不安社会」に変えられてしまいました。今後、労働市場の二極化の改善をはじめ、「安心社会」への転換のためには、育児、養老、教育、医療など、すべての人が利用しやすい制度への維持向上が大切であると説かれていました。

「民間でできることは民間で」との議論は、民間企業のビジネスチャンスを拡げることが意図され、公共サービスを最も必要とされる人々を排除しかねないと懸念されていました。また、市民の生活を支える「安心の給付」を裏付ける財政再建のためには、租税負担水準を引き上げるのではなく、租税負担構造を公平にすべきと主張されています。余談としながらフィンランドのお金持ちが速度違反した場合、3千万円の罰金が科せられる極端な応能原則の例も示されていました。

神野教授の講演内容すべてメモした訳ではなく、当日配布された資料も参考にしながら私なりの理解で概略のみを綴らせていただきました。神野教授の著書は多数あり、インターネットから講演記録を読むこともできます。興味を持たれた方は、ぜひ、ご覧になってください。神野教授は格差社会の解消に向け、公共サービスの再生と刷新を訴え、公共サービス基本法案づくりでは中心的な役割を担われていました。

その法案は、第169回通常国会へ民主党が提出する運びです。その法案を取りまとめる民主党の責任者が原口さんでした。今回の講演に接したことによって、「TVタックル」などマスコミによく出ている原口さんのイメージが大きく変わりました。報道関係者も聞いている中での講演でしたので、その場の空気を読んだ公務労協向けの内容ではないものと思いますが、市民運動出身の菅直人さんから受ける印象に近いものを感じました。

講演の冒頭、同じ松下政経塾出身である前原前代表の手法を批判し、そのことを謝罪する言葉で始まったことに新鮮な驚きを覚えました。「3年前、働く仲間の皆さん(この言い回しも意外でした)との軋轢があったこと、圧力団体とみなした無理解なリーダーがいたことを残念に思っています」と述べ、3つのドクトリン(約束)を紹介されました。政党と労働組合の分断、民と公の分断、正規と非正規雇用の分断に乗らないとの決意でした。

また、総務省が今年3月末までに各自治体に公表を求めている現業職員の給与調査の問題にも原口さんは触れられました。パート労働が多数を占める民間企業での調理業務などの実態がある中、その給与水準と比べて「公務員の給料は2倍も3倍も高い」とデマゴーグの材料とする総務省に対して憤られていました。

本来、収入の低い人たちが多数となった労働の二極化を問題にすべきであり、様々な規制は働く人たちを守るためにあったものだと訴え、労働者派遣法に強い問題意識を持たれていました。民主党は労働を中心とした福祉型社会をめざし、公共サービスの主権を国民に戻すことを基本法の理念に置かれているそうです。

そして、教育や福祉など公共サービスの実施にあたっては、住民に一番近い自治体の役割を重視した法案の考え方であると説明されていました。その他、様々なエピソードを織り込みながら分かりやすく、熱のこもったお話を伺うことができました。この記事で紹介した内容は、私自身が強く印象に残った点を中心に報告させていただきました。

今後、公務労協や連合は民主党と連携し、この法案の成立をめざしていきます。記事タイトルは「公共サービス基本法」としましたが、その法案内容などの説明が充分ではなく恐縮です。最後に、神野教授らがまとめた報告書のサイトをご紹介し、基本理念などに対する説明不足を補わさせていただきます。

参考資料公共サービスの再生と刷新で「不安社会」からの脱却を-安心を保障する有効な政府のために(2006年2月7日) 良い社会をつくる公共サービスを考える研究会

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コメント

上手く書けなくて恐縮ながら、前半の神野先生のお話について思う事です。
実は私が先日、「千円札の重み」の時にコメントさせていただいたのも、同様の問題意識に立脚していました。
現状、多種多様な行政による保障制度が用意されているのは事実だと思います。そして政府によりカバーされる領域は「大きい」と思います。しかし個々の制度については、層が薄く不十分で脆弱である(人的にも、資金的にも)と思っています。それ故、見かけ上政府にカバーされる範囲の広さと裏腹に、総量として「小さすぎる政府」になっていると考えて来ました。
極論すると現状規模の政府支出を賄えるだけの、若しくは、遠くない過去の財政支出を賄うだけの税負担を(全体として)行っていない。それ故今の財政状態があるとすら感じる事があります。なお遠くない過去の財政支出とは、ある時期に有権者のある程度多数が世論として役所・議会に求めて支持したもの(=景気対策という名前の造る事自体を目的にしない限り絶対に実現不可能な規模の公共事業投資等)を念頭においております。

今の与党は、前回衆院選で「大きい政府から小さくて効率的な政府に」を旗印に政権を得たと理解しています。
しかしながら、私は政府規模の大小と効率の程度は別の軸におかれる概念だと考えています。つまり、大きい政府にも効率的なものと非効率的なものが、小さい政府にも効率的なものと非効率的なものがあるのだろうと思っています。
更には、前回衆院選の投票行動は政府規模の大小より「現状の非効率な(あるいは、非効率に見える)部分をより効率的なあり方に変容させるべき」という意識がより強く反映されたものではないかと愚考しています。つまり、「小さい政府」を唱えている方々のある程度の多数が脳裏に描いている通りに政府を設計すると、「(今よりは)大きくて効率的な政府」ができあがるのではないだろうかと思っています。
昨今の政府に求められている有権者からの要望を考えると、実現するには「(少なくとも今よりは)大きい政府」を作り、それを維持するだけの租税公課を負担するしかないのではないだろうかと、思ったりもするわけです。大いなる勘違いかもしれませんけれども。(-_-;)

投稿: あっしまった! | 2008年2月19日 (火) 16時31分

あっしまった!さん、コメントありがとうございました。

政府の大小問わず、効率的な行政が求められていることは、まったくその通りだと思います。ただ効率さの幅や評価に対し、立場や視点の違いによって温度差が出がちである点も否めません。国や地方を問わず、断定的な言い方で「無駄」と指摘される場面が多くなっています。議論の余地のない「無駄」も多いのかも知れませんが、一つ一つの事項を掘り下げた場合、それなりの経緯や背景が説明できるものも少なくないはずです。

例えば、国からの補助金等の基準となる道路建設の経費が割高だと国会の場で追及されます。しかしながら基準単価等を落とした場合、安全性の問題やその労働に従事する者の賃金がダンピングされる恐れなども、合わせて議論すべきではないでしょうか。

最近、注目している著書として山家悠紀夫さんの『「痛み」はもうたくさんだ!脱「構造改革」宣言』があります。目からウロコとなる貴重な内容で、「歳入に合わせて行政サービスを削る発想から、まず必要な行政サービスをシビル・ミニマムとして算定し、そのうえで、財源の確保を考える、という発想へ」など数多く含まれていました。この短い一文だけでは誤解を招いたり、充分な趣旨が伝わらないだろうと考えています。できれば記事本文で、じっくり取り上げたいと思い、あたためている著書の一つでもあることを付け加えさせていただきます。

あっしまった!さんのご意見を伺い、その本のフレーズを思い浮かべたところでした。まったく見当外れでしたらご容赦ください。また、取りとめのないレスとなり、たいへん恐縮です。ぜひ、これからもあっしまった!さんの貴重なご意見や解説を楽しみにしています。よろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2008年2月19日 (火) 20時59分

管理人様宛
いつも、コメントでなくトラックバックするよう勧められそうな程の長文で申し訳ありません。
意図を正確に伝える必要のある主題で、意図を正確に表すのと文書量の削減は私の文筆力では難しいようです。(-_-;)

ご紹介のフレーズはおそらく私の意図を簡潔に示したものだろうと思います。
私も管理人様ご指摘の通り、十分な注釈を付加しないで引用すると、相当な誤解を招きかねないと思います。
ご紹介の書籍は是非拝読しようと思っています。貴重な情報をいただき、ありがとうございました。(謝)

投稿: あっしまった! | 2008年2月19日 (火) 22時11分

あっしまった!さん、素早いお返事ありがとうございました。
このブログのコメント欄は長文も大歓迎です。また、トラックバックよりコメントの方が注目度は高いはずですので、これからも遠慮なさらずご投稿ください。

投稿: OTSU | 2008年2月19日 (火) 23時36分

OTSU様お久しぶりです。
春闘でお忙しいところと思います。
さて、うちの自治体で人材育成基本方針の策定委員会に参加させていただいているのですが、その中で地域住民はどのような行政職員を望むのかといったポイントがありました。
独自でアンケートをとるのではなく、第5次総合計画策定にあたってアンケートをとった部分もありますので、それを参考に策定をしたのですが、住民アンケートでは、職員数の削減についてまだまだ足りないという意見が多く、人事当局としても困っていたようです。
今回のお話での小さな政府であるとかの次元ではなく、それこそ地方行政など要らないのではないかといった勢いで回答をいただいたようです。
うちは合併前から効率化に勤め、合併後も集中改革プランとして7.7%約180名の人員削減を行っていきます。
ただ、心配なことは50代職員は1,000名いること。1割を削減したとしても750名は採用しなければなりません。
民間の採用状況が改善に向かっている中、これだけ批判を受けている公務職場をあえて志望してくれる人が、どのくらいいるのでしょうか。
たぶん、住民にとって便利である元役場の支所の維持が、数年後には維持できない状況が見えています。
東京と異なり、今回の合併で、住民の動線だけは確実に伸びているので・・・
合併前110平方㎞であったうちは今400平方㎞を越えています。
住民向けの情報発信と透明性、公平性の確保。4原則2要件は決して人事評価だけでなく、住民に対してもしっかりと開示しないといけない時代になったのではないでしょうか。

投稿: ある市職労委員長 | 2008年2月20日 (水) 11時04分

ある市職労委員長さん、お久しぶりです。コメントありがとうございました。

同じように自治体で働く職員、その組合役員であっても、それぞれの地域によって悩みや問題意識も様々であることを改めて感じています。このように実際の距離の壁を越え、率直な意見や情報交換できる点は、インターネットを介したブログの利点だと思っています。

どこでも共通する悩ましさは、職員数を減らすことが行革の柱になりがちな点ではないでしょうか。そもそも官民を問わず、良質なサービスの提供は安定した労働条件が欠かせず、安定した労働条件の広がりは社会全体を豊かにする、このような発想が大事だと考えています。今後、その発想や問題意識を記事本文で掘り下げていくつもりです。ぜひ、またご意見やご感想をよろしくお願いします。

批准投票の取り組みをはじめ、多忙な時期が続きますが、健康にも注意しながらお互い頑張っていきましょう。

投稿: OTSU | 2008年2月20日 (水) 23時35分

おはようございます。
私どもの自治体では、民間の評価委員を加え、初めて業務仕分けに着手しました。
評価対象となった事業の抽出方法自体がどうであったかという問題もありますが、結果は期待どおり???
わざわざ、外部評価にかけるまでもなく内部的にも事業の継続に疑問符のあるようなものも多くあり、長年の慣例で引きずっているものに当たり前の評価結果がでたなという感じでした。
本当に住民のニーズがあるのかどうか、新年度事業計画の策定にあたっては、自治体経営当局はきちんと自己評価を行ったうえで予算・要員付けを行わないと業務は際限なく広がり、財政をも圧迫するのは当たり前です。
「小さな政府」「大きな政府」という視点より、的確に住民ニーズを捉え、公としての必要性の検討、受益者の応分の負担割合の検討など費用対効果を精査し、行政の担うべきサービスを確立、充実させることが大切だと思います。

投稿: shima | 2008年2月21日 (木) 08時24分

shimaさん、コメントありがとうございました。

経費節減のために行革を進める訳ですが、その行革を進めるために外部へ調査などを委託して新たな経費をかける、どこの自治体でもありがちな構図だろうと思っています。また、どこの職場も忙しい中、行革を進めるために行政評価など新たな仕事を増やす、どうも行革という手段が目的化しているような錯覚に陥ることもあります。

行革を推進するための職場の方々が懸命に取り組んでいる姿勢は、いつも頭が下がる思いで見ています。ただ問題意識が現場の隅々まで共有化できない限り、前述のような疑問符が付く場合もあり得ます。基本的に職員一人一人が住民の皆さんの役に立ち、信頼される仕事ができるように日々努力しています。その思いが適確に実を結ぶためにも、組合は組合としての役割を発揮できるよう頑張りたいものと考えています。

いつもshimaさんのコメントに触発され、直接的なレスとならない自分なりの感想を綴らせていただき恐縮です。このような意見交換も貴重なことだと思っていますので、ぜひ、これからもよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2008年2月21日 (木) 21時46分

おはようございます。
こちらこそ、いつも勉強させていただき、日ごろの業務、組合の取り組みに生かしていかねばと思っております。
今後も参加させていただきますので、よろしくお願いいたします。

投稿: shima | 2008年2月22日 (金) 08時12分

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