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2008年1月13日 (日)

収納現場から見た税源移譲

ブログを続けていて良かったことの一つとして、不確かな知識や情報を整理する機会となっている点です。やはりインターネット上に文章を残すためには、たとえ個人的なサイトであっても偽った内容の記述は避けなければなりません。したがって、今回のタイトルのような記事を書き込む場合も、いろいろな資料に改めて目を通しています。

それでも思い違いやケアレスミスも時々あり、その誤りをコメント欄でご指摘いただいたことが何回かありました。このように誤った情報が適宜訂正できるのもブログの良さだと思っています。また、発信者と読み手側との相互交流できる機能があるからこそ、投稿した記事の内容に予想外の広がりや厚みを加えていける趣深さがあります。

さて、昨年4月に納税課へ人事異動しました。必然的に税金に関するニュースが気になり始めていました。特に最近、税金の徴収に苦労している自治体の実情を取り上げた報道がよく目に入っていました。自分自身の関心の度合いが高まったからだけではなく、実際に新聞やテレビで扱う数が以前より増えているようです。

異動した後、このブログで「ふるさと納税と三位一体改革」という記事を綴り、住民税の大幅負担増による滞納者が増える懸念を表しました。残念ながらその通りの状況となり、昨年末にはNHKのクローズアップ現代で「“税金”滞納2兆円~苦悩する地方自治体~」と題した次のような内容の番組が放送されました。

福祉や教育、ゴミ処理や公営住宅の運営…。地域に根ざした行政サービスの財源である地方税の滞納が慢性化し、今、全国各地の自治体の頭を悩ませている。その額、およそ2兆円。滞納の背景には、地方経済の疲弊による貧困の拡大やバブルの後遺症、そしてモラルの崩壊などがあるという。

方、税金のことはこれまで国任せにしてきた多くの地方自治体もノウハウや経験不足から徴収が思うように進んでいない。また、「三位一体の改革」により“税源移譲”が行われ、地方税の割合が増えたことも追い打ちをかけている。そうした中、藁にもすがる思いで民間ノウハウを導入する自治体まで現れた。“税金”滞納2兆円をめぐり、今、地方で何が起きているのか。その現状と対策最前線の動きを伝える。(2007年12月20日放送)

三位一体改革による税源移譲と定率減税廃止が重なった結果、人によっては住民税の負担が何倍にも増えています。その増えた分と国税である所得税の減額分は同じとなる制度変更ですが、減税措置の廃止に伴い所得税の負担軽減の実感が打ち消されていました。そのため、昨年6月以降に受けた「なぜ、こんなに住民税が上がったのか」という質問は数え切れない多さです。

所得税は源泉徴収されていても、住民税は給料から天引されない普通徴収となる場合が少なくありません。地方税法で給与所得は特別徴収するものと定められています。しかし、従業員が少ないなどの事情から普通徴収を認め、各事業所に対して必ずしも特別徴収を100%義務付けていません。

住民税が年間24万円だった場合、特別徴収は12分割の月2万円となります。普通徴収は基本的に納期が年4回となり、1期ごとに6万円を納めなくてはなりません。このように普通徴収は現金で納付する重さなどが加わり、特別徴収に比べて滞納者の数が飛躍的に増える傾向です。

さらに所得税はその時点の収入に対しての課税です。一方、住民税は前年1月から12月までの所得に対し、翌年6月に納税通知書が発布されます。自営業の方などで収入に大きな変動があり、減収となった翌年、その1年の時間差は非常に厳しい負担感を生じさせがちです。収入の額より税金が多く取れられることはあり得ないのですが、翌年課税される住民税を意識せず、使い切ってしまうと本当にたいへんなことになります。

以上のように住民税は、所得税に比べて集めにくい仕組みとなっています。もう一つ、決して「国任せ」にしてきた訳ではありませんが、確かにノウハウや経験は国より自治体の方が圧倒的に不足しています。国税庁という専門組織を持つ国に比べ、5年程度で異動する事務系職員が徴税吏員となる区市町村との間では、マンパワーや組織力の差は歴然としています。

また、クローズアップ現代で映し出された話として、小さな町や村では滞納者と職員が顔見知りであるため、強制執行となる差押処分などがためらいがちになる実態もあるそうです。いずれにしても滞納者の増加は自治体の歳入減に直結します。もともと厳しい財政状況の中、大半の自治体が住民税の収納率低下に悲鳴を上げています。

そもそも三位一体改革によって、地方交付税5兆円減、補助金や交付金4兆円減に対し、税源移譲は3兆円にとどまっています。自治体側から見れば、結局のところ三位一体改革は国の財政負担の軽減化が主目的だったと言わざるを得ません。その希少な3兆円そのものも収納率を落とし、大きく目減りさせる事態は絶対避けなければなりません。

マスコミ報道で、収納課の新設や差押品のネットオークションへの挑戦など、各自治体が様々な工夫や努力を重ねている姿も知り得ています。制度や条件の厳しさなどを四の五の言うよりも、私たち収納現場の職員は与えられた職務に全力を注いでいます。収納率の向上が自治体財政へ寄与することはもちろん、圧倒多数である納税者との公平公正さが高まる大切さを受けとめ、日々の業務に向かっています。

昨年の同時期に比べ、収納率が落ち気味であることは私どもの市も例外ではありません。したがって、昨年より早い時期から組織としての集中的な対策を立てつつあります。その中で、一本でも多く電話をかけ、一軒でも多く訪問するように努め、とにかく一人でも多くの方との接触をはかっていこうと考えています。

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コメント

 以前、サラリーマンを辞めた翌年に納税申告をしたら、思わぬ額の還付金があって、思わず舞い上がって還付された金額と同等の買い物をしたことがあります。

「翌年課税される住民税を意識せず、使い切ってしまうと本当にたいへんなことになります。」・・・そのとおりでした。

 私の住んでいるような田舎には「納税組合」があって、高い収納率を維持していたのですが、報奨金の抑制と個人情報がらみの理由で解散し、そのことも収納率の低下に結びついているようです。(納税組合というのは確かに住民の相互監視のようなイヤな部分もあったのですが・・・)
 もちろん、大幅な公共事業の減少、雇用環境の悪化などによって、「払わない人」より「払えない人」が増加していることも大きな要因です。
 また、その一方で「徴税コスト」の上昇もジンワリと深刻なものになってきています。

 これに全国平均の10~15年先をいく高齢化(当然少子化も)が進み、社会資本ストックの老朽化が進むなかで「地方分権改革」が目前に迫りながら、さしたる知恵のない者ばかりが取り残された田舎で、「貧すれば鈍する」という諺を実感しています。

投稿: ニン麻呂 | 2008年1月18日 (金) 10時24分

ニン麻呂さん、コメントありがとうございました。
本当に「払えない人」が増えています。千円が未納だった高齢の方に電話で「お忘れでは」と尋ねた際、「分かってますが、年金が支給されてから」との答えを頂戴したことがありました。年金で生計を支えている方々にとって、千円を切り詰めながら暮らしている様子を垣間見た瞬間でした。
また、「ふるさと納税と三位一体改革」で書きましたが、地方交付税の減額は地方間の格差に拍車をかけた面が否めません。
次の記事も税金について、もう少し触れてみる予定です。ぜひ、またご訪問ください。

投稿: OTSU | 2008年1月19日 (土) 08時21分

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