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2007年10月27日 (土)

木を見せて森を見せない政治

Kenさんから厳しいトーンのコメントが前回記事「告発問題の論議から感じたこと」へ寄せられました。告発のコストなどを問題視したサイトを紹介したため、横領者への甘さが印象付けられたようでした。Ken314さんからフォローいただきましたが、あくまでも告発の是非に対しても多様な見方があることを紹介したつもりでした。

さらに前回記事の最後の方で述べた内容を意識し、その話につなげていく意味合いもありました。つまり物事を単純化し、簡単に白黒をつけがちな風潮に対する問題提起への伏線だったと言えます。また、前回記事のコメント欄では黙考人さんから公務員の横領は本当に多いのか、詳しい数字を掲げながら解説していただいています。

とにかく公金横領は犯罪であり、情状酌量の余地はなく絶対許されるものではありません。この点は誰からも異論が出ない共通認識となり得ます。しかし、時効が到来していない事件をすべて遡って告発するかどうかは、人によって意見が分かれます。このような事例を切り口とし、前回の記事で言い尽くせなかった話を書き進めてみます。

その前に申し添えなければなりません。これまでも当ブログは公務員に関する身近な問題から国政の話など幅広いテーマを取り上げています。記事内容の話題転換が地方公務員の働きぶりや待遇などに強い関心をお持ちの方々に対し、問題のすり替えであるような誤解を与えないか心配しています。決してそのような意図がないことを念のため、あらかじめ表明させていただきます。

さて、たいへん前置きが長くなりました。このような点も雑談放談をうたった当ブログの特性ですのでご容赦ください。まず素人の私が語るよりも、読売新聞に掲載されていた東京大学の御厨貴教授の「官邸崩壊」(上杉隆・著)に対する書評「“目に見える政治”の結末」の中で使われた言葉を紹介します。

井上義行、世耕弘茂、石原伸晃、塩崎恭久といった面々。彼等はいずれも劇場型政治の小泉政権の下で、政治とは何かを学習してきた。その結果が、政治を見えるように仕切るという意識を生み出した。

「チーム安倍」は、断片化された目に見える政治に固執する。彼等が内むきになり自己満足する様子は、閣僚スキャンダルの露呈による支持率の低下という危機的状況が訪れるや、ますますひどくなる。

何か悪いことがおこれば、その対策に腐心するのではなく、公務員たたきや、サミットでの安倍イニシアチブの演出といった、別の目に見える政治によって解消しようとするのが常だったからだ。

以上は、御厨教授の書評から抜粋した内容の一部です。小泉元首相が「郵政民営化に賛成か、反対か」と訴え、「刺客」候補の話題などで盛り上がり、自民党が圧勝した成功体験がその後の政治に大きな影響を与えてきました。政治家が国民に対して分かりやすい言葉で政治を語ることは重要ですが、中味を単純化しすぎて本質的な問題から目をそらされるようでは本末転倒な話です。

敵か味方か、具体的な選択肢に対してイエスかノーか、シンプルでこれ以上分かりやすいものはありません。しかし、簡単に白黒をつけられない場合も多く、とりわけ政治の世界ではそのような場面が頻繁にあるはずです。逆に「目に見える政治」を常に意識していたら、それこそ木を見せて森を見せない政治になってしまう恐れがあります。

膨大な年金未記録の問題も、社会保険庁の怠慢から職員の横領、その告発の是非など「目に見える」話が騒がれがちでした。当然、どれも軽視できない問題ですが、何よりも年金制度のあり方そのものが大きく問われるべき課題であることは間違いありません。

例えば官僚の天下り問題も、早期退職を長年慣例化してきたキャリア制度見直しなど公務員制度全体の中で考えなければ、士気の低下や人材確保の面で支障を及ぼしかねません。テロ特措法の延長問題も、インド洋での給油の是非が大きな争点となっています。しかし、平和な国際社会をどう実現するかという総論から考えれば、各論の一つにすぎません。

以前にも記したことがありますが、駐レバノン特命全権大使だった天木直人さんのブログをブックマークしています。天木さんはイラク戦争に反対した元外務官僚で、霞ヶ関の裏表を熟知している方です。そのような方の思いもブログを通し、いつも興味深く拝見していました。特に最近、そのブログの中で印象に残った言葉を紹介し、この記事の結びとさせていただきます。

テロ特措法に至っては予想通りの展開になった。毎日のように与野党の政治家が給油の是非を論じているが、こんな問題は二次的な問題なのだ。「米国のテロとの戦い」にこれ以上付き合っていくべきかどうかが問題なのだ。「米国のテロとの戦い」に付き合うことが果たして世界が日本に期待している国際貢献かどうかと言うことなのだ。それを正面から議論すべきなのだ。

10月23日の毎日新聞「知られざる給油活動」がはっきり書いている。日本が給油活動をしていたことなど世界は何も知らないのだ。大騒ぎをするのは日本と米国だけである。その米国はイラクの平和回復をあきらめ、ついに長期的な米軍駐留を言い始めた。米国は給油よりも日本がイラクから手を引く事を許さないのだ。終わりのない米軍のイラク占領に日本を引きとどめたい、それだけなのだ。

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2007年10月21日 (日)

告発問題の論議から感じたこと

前々回記事「舛添厚労相の発言」以降のコメント欄で、保険料を横領した職員に対する告発の是非について議論が続きました。法律面の原則論からその是非に対する論議は成り立ちにくいものと思っていましたが、とおるさんから紹介された企業法務担当者のブログ記事「告発のコスト」のような見方などがあることも知りました。以下は、その記事から抜粋させていただいた内容の一部です。

普通の民間企業なら、たかだか28万100円の着服額で、既に全額弁済され、懲戒免職を食らっている元職員に対してさらに刑事処分を求める、といったような無駄なことはしない。

ひとたび告訴、告発したなら、犯罪の裏づけになる資料の提供や、何度にもわたる事情聴取への協力をしなければいけないし、仮にそこまでやったとしても、被害実態(弁済されているのだから、損害はゼロだ)を考えると、起訴猶予になるか、軽微な処分に留まるのがオチ。

年金問題の処理で一杯いっぱいになっている社保庁に余計なミッションを課す大臣の姿勢は、“単なるパフォーマンス”との謗りを免れ得ないし、それによって、刑事司法制度に余計な負荷をかけることになるのだから、なおさらタチが悪い。

また、とおるさんからは抑止力の問題で、次のようなコメントをいただいています。

「原則懲戒免職+横領金の返済」の抑制効果よりも、「刑事告発」の抑制効果の方が遙に大きいとする根拠はありません。現実問題として、横領等の犯罪は借金に追われている等正常な判断力を失っている人間が起すものなので、その先に刑事告発がまっているから止めようと考えられる状態なら、最初から起きませんよ。

このように公務員ではない方々からも多面的なご意見があることを知り、たいへん興味深いものを感じていました。一方で、告発しない考え方に対し、厳しく批判される方々が多いことも事実です。私自身の考えは前回記事でも示しましたが、コメント欄での論議の中で改めて次のように訴えてきました。

法律は勝手に解釈できないため、舛添厚労相の主張が正論となり、実態や心情面からの悩ましさが退けられてしまうのが残念です。公務員にとっての極刑である懲戒免職で処分され、人生の再チャレンジ中の人に対し、何年も間が空いてからの刑事告発、「死屍に鞭打つ」故事が頭に浮かんでしまいます。

このように語るとお叱りを受けるかも知れませんが、この問題では正直なところ理屈と感情がせめぎ合いしています。とにかく今後、絶対公金を横領する職員を出さない組織としていくことが最も重要であることは言うまでもありません。

その上で今後、横領に対する告発は必ず行なうべきだと考えています。これまで原則を貫かなかった事例が多く、「身内に甘い」ような批判を受けています。住民の皆さんから「身内に甘い」と決め付けられるのは本意ではありませんので、今後、曖昧な対応は許されないものと思っています。

この間の論議を通し、厳しいご意見をお持ちだったken314さんから「このサイトをみることで、公務員に対する不信感がある程度は払拭されましたような気がします」とのコメントをいただきました。公務員を批判的に見ている方々との相互理解が少しでも進む機会となれば意義深いことであり、ken314さんの一言は非常にうれしく感じました。

今回、告発問題の論議から感じたことを綴ってきました。さらにもう一つ、どうしても付け加えたいことがあります。先週木曜の夜、報道ステーションに舛添厚労相がインタビューを受けている場面が映っていました。薬害肝炎問題における官僚の犯罪性について、民主党が舛添厚労相へ告発するよう要請したニュースでした。

血液製剤によるC型肝炎患者418人のリストについて、厚生労働省が患者の名前など個人情報の存在を知りながら放置していた問題で、民主党は、舛添要一厚生労働大臣に刑事告発も視野に入れた要請文書を菅代表代行自らが提出することを決めました。

民主党・菅代表代行:「薬害エイズの時と同じだ。なんでそんな体質なのか、厚労省というのは」 要請書では、厚労省がC型肝炎患者の個人情報を製薬会社が保有していることを知りながら、患者を特定せず、感染を本人に知らせなかったことは、病状が日々進行する患者を見殺しにしたのと同じだとしています。

そのうえで、当時の責任者を刑事告発するよう求めています。民主党は19日、薬害エイズ問題で、行政の責任を初めて認めた菅直人元厚生大臣が直接、舛添大臣に手渡すことにしています。舛添要一厚生労働大臣:「どこまで(血液製剤の)製造者以外の国が監督するべきなのか。こういうことについて、少し法的に詰めてみないといけない」

以上が報道ステーションで流れたニュースの内容です。薬害エイズ事件では「官僚の不作為」が法律面から犯罪として問われてきました。そのような経緯を考えれば、今回の舛添厚労相の発言は釈然としません。その犯罪性についても「告発し、捜査機関が判断する」と言うのならば一貫性があり、頭が下がる思いでしたが…。

民主党が多少パフォーマンス的に行動していることも否めません。しかし、厚生労働省の人命を軽視した隠蔽体質は相変わらずであり、薬害エイズ事件を教訓化できていない点は重大な問題です。それにもかかわらず、民主党の要請に対して歯切れの悪いコメント、結局のところ舛添厚労相の勇ましさは「小人」などと見下す相手のみに向かっているように感じています。

感情的な思いからすれば舛添厚労相に対し、「何だ!こいつは!」というのが本音でした。しかしながら感情的な思いが先走った議論は慎まなければなりません。建設的な意見交換から遠ざかり、対立の溝が広がるだけの平行線となりがちです。前々回記事のコメント欄では感情が表に出た感想を発していましたが、今は冷静に書き込むことができています。

冷静な目で見れば、舛添厚労相の「少し法的に詰めてみないといけない」という発言が現時点では仕方ないものだろうと思っています。とにかく物事は単純に白黒をつけられません。最近、どうも物事を単純化し、白黒をつける風潮が目立っています。小泉元首相が成功したワンフレーズ・ポリテイクスの影響かどうか分かりませんが、問題の本質から目をそらされてしまう懸念があります。

この土日、休日出勤があったりしたため、他のサイトなどからの引用が多い記事となりました。投稿に要する時間短縮に努めたつもりでしたが、予想外に長い記事となり、自分なりの問題提起も広がっていきました。それでも消化不良気味なまとめであるため、できれば次回以降の記事で、この続きを書き進めてみる予定です。

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2007年10月13日 (土)

社保庁元係長の逮捕

これまで時折り、インターネット上や雑誌などで目にした興味深い話題を当ブログで紹介してきました。そのような時、必ず伝聞調で綴っています。100%事実かどうか断定できない可能性もあり、読み手にその判断を委ねる書き方でした。

役所の文書などでは絶対使えない手法ですが、このようなブログでは許される範囲だろうと思っています。「アメリカ企業から郵政民営化の功労者である竹中さんに2兆円(「いざなぎ超え」と新自由主義)」の話は、あまりに突飛な噂話の類いだったため、厳しい批判コメントをいただいてしまいました。

一方、情報や知識については必ず確認することを習慣化し、うろ覚えや憶測で記事を書かないように心がけています。電子辞書を傍らに置いて、誤字や誤用などにも注意しています。それでも「他山の石とせず」のように迷わず使った慣用句が誤りで、ご指摘を受けて訂正した赤面する例もありました。正解は「他山の石として」教訓化していく使い方でした。

前回記事「舛添厚労相の発言」のコメント欄で、深く反省しなければならない事実誤認を犯してしまいました。全国指名手配されていた社会保険庁の元係長が逮捕された報道を取り上げた際、「懲戒免職されていた元係長」と書き込んでいました。投稿直後、せっせさんから「発覚前に依願退職(もちろん退職金つき)」とご指摘を受け、「懲戒免職」の箇所のみを削除し、次のとおり訂正したコメントは残しています。

全国指名手配された社会保険庁の元係長、厚労相の強い指示を受けて「全国指名手配」され、働いていた風俗店で逮捕に至ったニュースが象徴的です。本人いわく「指名手配されていたことを知らなかった」とのことでした。繰り返し述べてきましたが、法律に則った一連の行為を決して批判できません。ただあまりにもシンボリツクな事例に押し上げられているような気がしています。この元係長の場合、特に本人は逃げ隠れしていなかったのにもかかわらず、仰々しく全国指名手配するケースだったのか疑問に思っています。

私が引っかかったのは「本人が知らなかった全国指名手配」の件でした。しかし、せっせさんからは懲戒免職だったかどうかで前提が変わる点の指摘も受けています。さらにken314さんから「懲戒免職と思いこんでしまっているあたり、やはり公務員なんだな、と思いました。心が折れました」とのコメントも寄せられました。確かに致命的な誤りだったと重く受けとめています。申し訳ありませんでした。

今後の戒めとするためにも、この問題を改めて記事本文で取り上げてみました。なぜ、このような過ちを犯したのか、まず自分自身の心構えの問題がありました。じっくり時間をかけている記事本文と違い、コメント欄の文章はきわめて短時間に書き込んでいます。朝、通勤前の時間に書くことも多く、コメントに対しては冒頭に記したような慎重さが欠けがちでした。

とは言え、報道内容などに関して曖昧なまま書き込むことは決してありません。今回の元係長逮捕のニュースも新聞記事を手元に置いて、参考にしながらコメントを書き上げています。ちなみに逮捕されたことを伝える新聞記事の内容は次のとおりでした。

福岡県警捜査2課と小倉南署は8日、国民年金の保険加入者から徴収した保険料33万円を着服したとして、業務上横領容疑で全国に指名手配していた小倉南社会保険事務所(北九州市小倉南区)の元係長、北川勝久容疑者(37)が、熊本市内の風俗店で働いているところを発見し、同容疑で逮捕した。北川容疑者は本名で勤務し、店の借り上げ住宅で生活していたが、自分が指名手配されていたことは知らなかったという。社保庁の年金横領が問題化して以降、逮捕者が出たのは初めて。

調べによると、北川容疑者は同事務所で国民年金保険料の徴収業務をしていた2006年2月上旬ごろ、保険料が未納だった加入者2人の自宅を訪問。同事務所の金庫から盗み取った領収証を加入者に渡して現金を徴収し、2人から受け取った保険料計33万円を着服した疑い。福岡社会保険事務局は昨年12月、北川容疑者が同様の手口で、加入者7人11件分の保険料計100万5900円を着服したとして県警に告訴した。県警は余罪についても追及する方針。(読売新聞10月9日)

特に社会保険庁を辞めた経緯は書かれていませんでしたが、頭から懲戒免職されたケースだと思い込んでしまいました。次のような指名手配した時のニュースまで確認する手間を惜しまなければ、今回の誤りは避けられたようでした。

北川容疑者は横領発覚前の06年7月に依願退職し、現在行方が分からなくなっている。退職後、加入者の指摘で犯行が発覚、福岡社会保険事務局が県警小倉南署に告訴していた。北川容疑者は発覚後の同事務局の調査に対し「借金の返済に困った」などと横領の事実を認め、最近、親族が横領額を返済したという。同事務局は「在職中に発覚すれば懲戒免職に相当する」として退職金の返還も求めている。(毎日新聞10月3日一部抜粋)

自分のミスを反省しながら元係長逮捕の一連のニュースを紹介させていただきました。さらに墓穴を掘らないためにも言葉を選ばなければなりませんが、福岡社会保険事務局の対応にも何か締まらなさを感じてしまいがちです。いずれにしても今後、記事本文はもちろん、コメント欄でも不確かな情報は記さないよう充分注意していきます。

最後に一言。社会保険庁が宮城県大崎市に代わって、年金保険料を着服した元職員を告発しました。舛添厚労相の発言をめぐる波紋は日々広がっています。また、前回記事のコメント欄での議論の流れからすれば、今回の記事は脇道にそれたものだったかも知れません。次回以降の記事で、いずれグリーンピアの問題なども掘り下げていくつもりです。

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2007年10月 6日 (土)

舛添厚労相の発言

ブログの更新を週1回と決めている訳ではありませんが、どうも平日の投稿から遠ざかりがちです。そのため、旬な話題をタイムリーに取り上げられない場合も多くなっています。先週土曜、舛添要一厚生労働大臣が国民年金保険料の横領問題に絡み、「銀行は信用できるが、社会保険庁は信用ならない。市町村はもっと信用ならない」と発言しました。

私自身、昼間のニュースで耳にし、ムッとしながら言いたいことが頭の中に数多く浮かんでいました。すぐにでも当ブログで舛添発言を扱いたいと思いましたが、その土曜の夜に新規投稿した記事は「変わり続けている市役所」でした。結局、直前の記事(「襟を正す」記載の難しさ)のつながりを優先した内容でした。

直接批判された当該の市町村職員の一人として、舛添厚労相の発言は非常に心外であり、強く憤りを覚えるものです。ただ切り口によっては賛否が分かれ、感情的な思いが先行した意見対立を招く懸念もありました。そのような心配があり、舛添発言には触れずに新規記事を投稿した面があることも確かでした。

その後、やはり舛添厚労相の発言は物議をかもし、倉吉市長や武蔵野市長から抗議を受けることになりました。武蔵野市長らは「市町村を含む年金行政全体への不信感を増幅しかねないもので、誠に遺憾」「窓口で住民への対応に尽力している市町村職員の士気を著しく損なうもので、看過できない」とし、舛添厚労相の不用意な発言の訂正を求めています。

この抗議行動に対し、倉吉市役所へは「舛添発言は国の責任転嫁だ」などと市長を支持する激励メールや電話が多数寄せられたそうです。しかし、舛添厚労相は「小人の戯れ言に付き合う暇があったら、もっと大事なことをやらなければならない」「私に言うより、不正を働いたところの首長に言いなさい」と反省するどころか、逆に挑発する発言を繰り返しています。

さらに舛添厚労相は年金保険料横領問題で「盗っ人は最後の一人まで草の根かき分けても探し出し、きちんと牢屋に入ってもらう」と強弁し、総務省を通じて市町村へ圧力を加えていました。しかしながら最近、業務上横領の公訴時効7年を迎えていない9市町の中で、告発しない方針を示す自治体が相次ぎました。

その動きに対して、舛添厚労相は「市町村がやらないなら社会保険庁長官の名前で告発する」とし、いっそう高飛車な姿勢を示しています。一方で、岩手県知事だった増田寛也総務相は「それはそれで受けとめなければいけないと思っている。その判断が適切かどうか最終的には住民が決める話」」と容認する考えを表明しています。

ここ数日、以上のように舛添厚労相の発言が必ず新聞紙面に載っていました。ある意味で、先週の土曜日に扱うよりも旬な話題となっているようです。なお、懸念している難しさが拭えた訳ではありませんが、前回記事のコメント欄での風さんからのリクエストに後押しされ、今回の記事タイトルに至りました。

まず告発の問題ですが、刑事訴訟法第239条第2項で「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない」とされています。また、「本来捜査機関によって判断されるべき事由、例えば、被疑者の再犯のおそれ、改悛の情の有無等を判断して、これによって告発するか否かを決めたり、その他自己の職務と関係のない事由によってこれを判断したりすることは、許されない」ものと解されています。

したがって、告発云々の話は舛添厚労相の言い分が原則的なものであり、その是非に関する論評は避けなければなりません。その上で、心情的には増田総務相の見解を支持する立場であることだけは付け加えさせていただきます。ちなみに告発しない自治体は「全額返済している。懲戒免職とし、議会へも報告し、すでに社会的な制裁を受けている」などを理由としています。

とにかく誤解がないよう強調させていただきますが、金額の多寡にかかわらず公金の横領は絶対許されるものではありません。「魔が差した」一度の過ちでも犯罪は犯罪として処罰の対象となります。その上で、舛添厚労相の発言や姿勢に対する問題点を指摘していくつもりです。

一点目は、当ブログで何回も議論の対象となってきた問題です。公務員である一個人が犯した罪、そのことによって公務員全体が批判を受ける理不尽さがありました。まさしく今回の舛添厚労相の発言がその構図に当てはまり、市町村職員全員が泥棒呼ばわりされたようなものでした。

倉吉市長や武蔵野市長の抗議は筋が通ったものであり、もっと自治体側から憤りの声が上がっても良いほどです。二つの市からの正式な抗議に対し、「大人げないことを言いなさんな」と切り返す舛添厚労相の態度には本当にあきれ返ってしまいます。

二点目は、舛添厚労相自身が社会保険庁を所管する責任者であることを自覚していない姿勢や態度の問題です。就任する前の問題だったとは言え、社会保険庁職員の不正を国民へ詫びるより、舛添厚労相は「泥棒は牢屋へ」「市町村はもっと信用ならない」などと勇ましい発言を繰り返してきました。

このような勇ましさが国民受けしている面もありますが、グリーンピアを乱立させた「巨悪」などからの目くらましではないことを願っています。また、就任前の年金未記録の問題で国民から強い批判を受けた安倍前首相に比べ、舛添厚労相の対照的な姿は政治家のタイプの違いであるようにも感じています。

三点目は、実際に仕事で公金を取り扱うことが多い職員の立場から最もあきれ果てた問題です。舛添厚労相は「横領を防ぐため、社会保険庁職員に保険料を直接扱わせない。徴収窓口を廃止する」方針を明らかにしました。この発言には本当に驚かされました。一点目と二点目の問題にもつながりますが、社長が「自分のところの社員は信用できないので、現金は扱わせない」と言ったことになります。

ごく少数の不届き者や人間の弱さが犯罪につながらないような仕組み作りは確かに重要です。しかし、舛添厚労相の今回の発言が現場の窓口の実態や実務などを把握した上でのものなのか甚だ疑問です。市町村と社会保険庁の実情が同一ではないかも知れませんが、現行でも保険料の収納は金融機関が中心となっているはずです。

職員による収納は休日や夜間など納付率をアップする目的や金融機関に委託していない狭間の時間を埋める場合が多く、その代替のためには金融機関への委託費の大幅アップが避けられません。さらに訪問徴収なども否定していった場合、ますますフレキシブルな収納が難しくなり、納付率の大幅ダウンも覚悟する必要があります。職員に現金を扱わせない発想は、行政の効率運営に逆行する非常識な話だと受けとめています。

いろいろ長々と書いてきましたが、舛添厚労相の発言は国民の怒りの感情を代弁している側面があることも否めません。その発言に対し、市町村職員の一人として問題だと思う点を率直に指摘させていただきました。幅広いご意見を伺えるのはブログの利点だと考えていますが、ぜひ、立場や視点の違いを認め合った議論へご理解ご協力をよろしくお願いします。

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