木を見せて森を見せない政治
Kenさんから厳しいトーンのコメントが前回記事「告発問題の論議から感じたこと」へ寄せられました。告発のコストなどを問題視したサイトを紹介したため、横領者への甘さが印象付けられたようでした。Ken314さんからフォローいただきましたが、あくまでも告発の是非に対しても多様な見方があることを紹介したつもりでした。
さらに前回記事の最後の方で述べた内容を意識し、その話につなげていく意味合いもありました。つまり物事を単純化し、簡単に白黒をつけがちな風潮に対する問題提起への伏線だったと言えます。また、前回記事のコメント欄では黙考人さんから公務員の横領は本当に多いのか、詳しい数字を掲げながら解説していただいています。
とにかく公金横領は犯罪であり、情状酌量の余地はなく絶対許されるものではありません。この点は誰からも異論が出ない共通認識となり得ます。しかし、時効が到来していない事件をすべて遡って告発するかどうかは、人によって意見が分かれます。このような事例を切り口とし、前回の記事で言い尽くせなかった話を書き進めてみます。
その前に申し添えなければなりません。これまでも当ブログは公務員に関する身近な問題から国政の話など幅広いテーマを取り上げています。記事内容の話題転換が地方公務員の働きぶりや待遇などに強い関心をお持ちの方々に対し、問題のすり替えであるような誤解を与えないか心配しています。決してそのような意図がないことを念のため、あらかじめ表明させていただきます。
さて、たいへん前置きが長くなりました。このような点も雑談放談をうたった当ブログの特性ですのでご容赦ください。まず素人の私が語るよりも、読売新聞に掲載されていた東京大学の御厨貴教授の「官邸崩壊」(上杉隆・著)に対する書評「“目に見える政治”の結末」の中で使われた言葉を紹介します。
井上義行、世耕弘茂、石原伸晃、塩崎恭久といった面々。彼等はいずれも劇場型政治の小泉政権の下で、政治とは何かを学習してきた。その結果が、政治を見えるように仕切るという意識を生み出した。
「チーム安倍」は、断片化された目に見える政治に固執する。彼等が内むきになり自己満足する様子は、閣僚スキャンダルの露呈による支持率の低下という危機的状況が訪れるや、ますますひどくなる。
何か悪いことがおこれば、その対策に腐心するのではなく、公務員たたきや、サミットでの安倍イニシアチブの演出といった、別の目に見える政治によって解消しようとするのが常だったからだ。
以上は、御厨教授の書評から抜粋した内容の一部です。小泉元首相が「郵政民営化に賛成か、反対か」と訴え、「刺客」候補の話題などで盛り上がり、自民党が圧勝した成功体験がその後の政治に大きな影響を与えてきました。政治家が国民に対して分かりやすい言葉で政治を語ることは重要ですが、中味を単純化しすぎて本質的な問題から目をそらされるようでは本末転倒な話です。
敵か味方か、具体的な選択肢に対してイエスかノーか、シンプルでこれ以上分かりやすいものはありません。しかし、簡単に白黒をつけられない場合も多く、とりわけ政治の世界ではそのような場面が頻繁にあるはずです。逆に「目に見える政治」を常に意識していたら、それこそ木を見せて森を見せない政治になってしまう恐れがあります。
膨大な年金未記録の問題も、社会保険庁の怠慢から職員の横領、その告発の是非など「目に見える」話が騒がれがちでした。当然、どれも軽視できない問題ですが、何よりも年金制度のあり方そのものが大きく問われるべき課題であることは間違いありません。
例えば官僚の天下り問題も、早期退職を長年慣例化してきたキャリア制度見直しなど公務員制度全体の中で考えなければ、士気の低下や人材確保の面で支障を及ぼしかねません。テロ特措法の延長問題も、インド洋での給油の是非が大きな争点となっています。しかし、平和な国際社会をどう実現するかという総論から考えれば、各論の一つにすぎません。
以前にも記したことがありますが、駐レバノン特命全権大使だった天木直人さんのブログをブックマークしています。天木さんはイラク戦争に反対した元外務官僚で、霞ヶ関の裏表を熟知している方です。そのような方の思いもブログを通し、いつも興味深く拝見していました。特に最近、そのブログの中で印象に残った言葉を紹介し、この記事の結びとさせていただきます。
テロ特措法に至っては予想通りの展開になった。毎日のように与野党の政治家が給油の是非を論じているが、こんな問題は二次的な問題なのだ。「米国のテロとの戦い」にこれ以上付き合っていくべきかどうかが問題なのだ。「米国のテロとの戦い」に付き合うことが果たして世界が日本に期待している国際貢献かどうかと言うことなのだ。それを正面から議論すべきなのだ。
10月23日の毎日新聞「知られざる給油活動」がはっきり書いている。日本が給油活動をしていたことなど世界は何も知らないのだ。大騒ぎをするのは日本と米国だけである。その米国はイラクの平和回復をあきらめ、ついに長期的な米軍駐留を言い始めた。米国は給油よりも日本がイラクから手を引く事を許さないのだ。終わりのない米軍のイラク占領に日本を引きとどめたい、それだけなのだ。
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