最近、共同通信の記者だった魚住昭さんの著書「官僚とメディア」を読み終えました。これまでも書評と言う訳ではありませんが、本の感想などをもとにブログの記事を書き込んできました。読書は好きな方で、忙しい中でも必ず何か読み進めています。ブログ投稿が週一ペースとなってから話題に事欠かず、読んだ本に絡めた記事内容は3月の「労働ダンピング」以来となります。
「本書は、官僚とメディアの凄まじい癒着と腐敗をえぐり出した衝撃的ノンフィクションである!」と帯紙に記されていました。全8章で構成され、具体的な事件に対する独自な取材を通し、魚住さんがマスコミ報道の問題点を浮き彫りにしています。官僚側が発信する意図的な情報をそのまま垂れ流し、批判能力が低下している現在のメディアのあり方に対し、魚住さんは非常に憤っています。
第1章に「もみ消されたスキャンダル」を掲げ、自分が育った共同通信の不甲斐なさを真っ先に訴えています。共同通信は全国の地方紙やNHKなど、ほとんどの国内メディアに記事配信を行なう通信社です。加盟紙の総発行部数だけで約2千万部に達し、読売などの全国紙を上回る影響力を持つメディアに位置付けられています。
そのスキャンダルとは、2000年6月から8月にかけて下関市にある安倍首相の後援会事務所や自宅へ、計5回火炎瓶が投げ込まれた事件に関するものでした。この事件の背景を共同通信の記者が地道な取材によって、まとめ上げた記事が出稿直前に上層部からストップをかけられた話が記されていました。
1999年4月の下関市長選で安倍首相直系の市長の当選に向け、怪文書配布などで「選挙協力」した人物がいました。その人物が安倍首相サイドから約束の報酬を得られなかったことに反発し、指定暴力団の組長に依頼して火炎瓶を投げさせたことを共同通信の記者らが調べ上げていました。
安倍首相が直接関与した証拠はなくとも、「美しい国づくり」を掲げて就任した直後にお膝元のスキャンダルを伝えることに意味があると記者らは考えていたようです。仮に安倍首相側から訴えられても負けない材料は揃っていた記事であり、差し止められずに加盟社に配信していれば全国の地方紙で報道されたニュースだったはずです。
この記事が握りつぶされたのは、官邸サイドから圧力がかかった訳ではないようです。ちょうどこの時期、共同通信は平壌に支局開設の準備を進めていました。もともと安倍首相ら政権中枢は、この支局開設の動きを苦々しく思っていました。そのような微妙な時期に安倍首相の怒りをかう記事に対し、共同通信の上層部が自主規制したと魚住さんは分析していました。
魚住さんは、この差し止め事件を取材して一つだけ嬉しかったことがあると述べています。現場のデスクや記者らが揃って「これはジャーナリズムの自殺行為だ」と怒りの声をあげたことです。その一方で、現場からの真剣な思いを無視する共同通信上層部を厳しく批判しています。
第2章以降も様々な事件について、魚住さんが綿密な独自取材を積み重ねた結果、新たな見方につながる興味深い話が並んでいました。ヒューザーが絡んだ耐震偽装事件の問題は、そもそも姉歯建築士の個人的な過失に近い構造計算ソフトの改竄から始まったと推測しています。ヒューザーの小嶋社長は悪人のイメージが定着していますが、ある意味で被害者だったとも見ているようです。
最も責任を負うべきなのが姉歯建築士であることは間違いありませんが、国土交通省と形骸化した建築確認システムにこそ大きな問題があったと伝えています。イーホームズの藤田社長も一貫して国土交通省を批判してきましたが、官僚側の情報操作を鵜呑みにしたメディアが本質的な問題の偽装を覆い隠してしまったと魚住さんは嘆いています。
女性国際戦犯法廷の特集番組に対する政治的な圧力問題をめぐり、NHKと朝日新聞が激しく対立しました。朝日新聞の誤報のような印象が強く打ち出されましたが、客観的な事実を見れば、安倍首相と中川政調会長による直接的な政治介入があったことは明らかだと魚住さんは述べています。さらに圧力はなかったかのような報道がまかり通ったことに日本のマスコミの異常さを指摘しています。
関係者の発言を録音したテープが実際あるにもかわらず、「無断録音」だったため公開できなかった朝日新聞側のジレンマを魚住さんは取り上げています。各メディアの組織や仕事の進め方が管理強化され、「無断録音」そのものが絶対認められない足かせとなったようです。その結果、NHKの番組改編問題で、朝日新聞が信用を大きく損ねる構図となっています。
実刑2年の判決が出た村上ファンドの問題では「検察の暴走」という章を起こしています。最終の第8章では裁判員制度のタウンミーティングにおけるサクラ動員の問題など、最高裁が手を染めた「27億円の癒着」の構造を暴いています。最高裁と電通との違法な「さかのぼり契約」の実態、全国地方新聞社連合会との関係性など、この本のタイトルを象徴した内容が書かれていました。
すべて興味深い話であり、事細かく紹介したいところですが、あまり長いブログ記事も好ましくないものと思っています。とは言え、単なる書評ではありませんので、もう少しお付き合いください。とにかく以上のように内容がおもしろく、読みやすい文章であったため、一気に読み終えた書籍でした。ぜひ、少しでも興味を持たれた方は、お読みいただくことを勧めたい著書「官僚とメディア」でした。
この本を読んだ感想です。情報は発信側から都合良く操作される場合があることを肝に銘じ、手にしている情報が必ずしも真実ではないことを意識する必要性を改めて感じました。このことは官僚やメディアからの情報に限らず、すべて当てはまるのではないでしょうか。その意味では、魚住さんが著書を通して発信している情報も、そのような視点でとらえるべきなのかも知れません。
決して疑い深くなることを勧めている訳ではありませんが、インターネット上には様々な情報があふれています。私自身、なるべく両極端な評価や意見に接し、自分なりの考え方を整理するよう心がけています。例えば以前記事にした「従軍慰安婦問題」など真っ向から議論が分かれるテーマに際し、それぞれの歴史認識に触れるよう努めてきました。
その上で、簡単に「正解」を一つに絞ることの難しさを痛感しています。また、「正解」は必ずしも一つとは限らないのかも知れません。真実は一つなのでしょうが、その触れ方や接した場面の違い、一人ひとりの蓄積してきた経験や思想性の違いから人によって「正解」が分かれることもあり得ます。
具体的な事例として、テレビ出演した安倍首相への評価の違いに驚いたことがありました。ちょうど赤城農水大臣の事務所費疑惑が浮上した時でした。同じ番組を見ていながら「落ち着きがなく、まったく説明責任を果たしていない」と厳しい意見が多かった時、「堂々として、分かりやすい説明だった」と評価する人も少なくありませんでした。
どんどん話は横道にそれていくようでしたが、強引なまとめをさせていただきます。基本的な立場や視点の違いがある一人ひとりが、様々な情報の真偽を見きわめ、自分なりの一つの「正解」を表現するのが選挙だろうと思っています。来週日曜は参議院議員選挙の投票日です。ぜひ、それぞれの「正解」を託した貴重な一票、必ず行使するようよろしくお願いします。
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