5千万件の年金記録漏れ
先週は松岡農水大臣の自殺の衝撃から始まり、社会保険庁による5千万件の年金記録漏れが大きな注目を浴び、その問題で与野党が国会で激しくぶつかり合いました。このブログのカテゴリーは「日記」としていますが、もう1年ほど完全に「週記」の投稿間隔となっています。そのため、時事の話題をタイムリーな記事として取り上げることが減っていました。
それでも最近、アクセスいただく検索ワードとして「社会保険庁」が増えています。過去に「社会保険庁の不祥事」「社会保険庁の解体、自治労の正念場」という記事を書き込んでいるからです。その2つの記事がGoogleなどの検索サイトで「不祥事」というワードと組み合わせることによって、トップページに並ぶことが多いようです。
自治労組合員の立場を明らかにして「公務員のためいき」を続けている以上、年金記録漏れの問題は最新記事としても取り上げる必要性を感じていました。この問題は様々なブログで取り上げられ少々出遅れ気味ですが、改めて自分なりの意見を述べさせていただきます。逆に遅くなったことにより、新たに把握できた情報をもとに書き込める利点も少なくありません。
まず今、自民党の「ご安心ください!!あなたの年金は大丈夫です!!」を大きな見出しにした宣伝ビラがネット上で話題になっています。当初、マスコミは「消えた年金記録」と伝えていましたが、最近は「宙に浮いた」や「記録漏れ」の表現に変わってきています。自民党のビラの表面では、その点の経緯などについて説明しています。
自民党の河野太郎代議士もご自身のブログで「消えていない5000万件」として訴えているのを目にしました。さかのぼれば10年前に基礎年金番号制度が導入された際、国民一人一つの番号に移行する事務作業が始まりました。それまでの制度では転職などにより複数の年金記録を持っている人が多く、約3億件の年金記録が存在したようです。
そのうち約1億件はスムースに基礎年金番号が付され、残り2億件の名寄せ作業を現在まで進めてきました。しかし、現時点で5千万件の未確認の年金記録、つまり基礎年金番号が付されていない過去の年金記録があり、それがクローズアップされた大きな問題となっています。その上で、自民党は今後1年間で未確認の記録の名寄せを完了させ、さらに5年間の時効も撤廃し、受け取れるべき年金は必ず全額受け取れることを約束しています。
その実現性に疑問が残るかも知れませんが、表面の内容はある程度納得できる常識的な説明だと思っています。しかしながら裏面は非常に刺激的で、ある面で自民党のあせりや迷走ぶりが浮き彫りになっている内容でした。とにかく今回の問題の責任は、基礎年金番号制の導入を決めた当時の厚生大臣だった菅直人民主党代表代行であると強調しています。
この方便は非常にお粗末であり、基礎年金番号制の導入そのものが誤りだったと言っているようなものです。基礎年金番号制が始まらなければ、5千万件の問題自体が発覚しないまま、納付した年金が消えて行った可能性のあることを想像できないほど、今の自民党執行部は愚かなのでしょうか。それ以上に多くのサイトで失笑を買っているのが「我々の責任ではない、民主党の菅代表代行と労働組合が悪い」としている露骨な責任転嫁の姿勢です。
興味深く拝見したサイトとして「自民党が血迷って、ビラを撒く(笑)」を参考までにご紹介させていただきます。いずれにしても一般的なクレーム処理の原則の中で最も避けなければならない点として、クレームになった原因を他人に押し付け合うことだと言われています。顧客に多大な迷惑をかけた大企業の社長が記者会見で、10年前にいた地方の支社長と労働組合が起こした責任で「私は悪くない」と居直ったらどうなることでしょうか。
当然、一番責任を痛感しなければならないのは社会保険庁であり、自民党から名指しされている労働組合の責任も避けられないものと思っています。とは言え、なぜ、5千万件もの未確認記録が現在まで残ってしまったのか、素朴な疑問を抱いていました。そのため、自治労本部もしくは国費評議会から何らかの見解が早期に示されることを期待していました。
2億件を4分の1に圧縮した見方もできますが、やはり5千万という件数は半端ではない驚くべき数字です。これまで自治労のHPを頻繁にチェックしていましたが、ようやく6月1日付で自治労の見解が書記長談話として掲載されていました。全文をご覧いただけるようリンクしていますが、ポイントを簡単に要約してみます。
5千万件に及ぶ年金記録漏れについて様々な理由が考えられることを説明した上で、その原因がすべて明らかでないことを述べています。その結果、国民の皆さんから大きな不信や混乱を招いている点を社会保険庁組織全体の責任として反省の意を示しています。その上で、労働組合としての社会的責務を果たしながら問題の解決に向け、現場から全力で取り組む決意を表明しています。また、どうして現時点まで5千万件の記録漏れが残ってしまったのか、その背景を次のように釈明しています。
社会保険庁として「最終的に年金を受給するまでに正しく記録整理・統合されれば良い」、「本人の記憶に無い加入記録を勝手に本人の記録と判断することはできない」と判断してきた実態がある。問題の本質は、被保険者や事業主の届出・申請を前提とした現行の法律規定と、それに依拠し未統合記録を積極的に解消してこなかった社会保険庁の対応の不十分さにある。
「最終的に…」の意味合いは、60歳未満の人の記録と見られる約2,120万件を指しています。さらに記録漏れとなった理由として、社会保険庁だけのミスではないものも多数見込まれています。本人、勤務先の会社、事務移管前の区市町村の手違いなど多岐にわたっているものと思います。
しかし、この膨大な数字のまま現状に至ってしまった責任は社会保険庁にあり、それほど酌量の余地がないのも確かです。おそらく年金記録の確認のための充分な職員数が確保できない事情もあったかも知れませんが、労働組合の責任も決して軽くないものと思っています。充分なチェック機能を果たせなかったこと、未確認記録をゼロにするための役割を担えなかったことなど、労働組合としても率直に反省しなければなりません。
ただ非常に残念なのは組合員に過剰な労働負担を生じさせない目的で定めてきた労使確認事項がオールorナッシングで自民党から批判されている点です。OA機器の進歩や普及の中で、すみやかに内容を変えるべき確認書も多かったはずです。例えば社会保険庁の職場に限らず、電磁波などの健康被害が懸念されていた時代、端末操作に連続45分携わったら15分は別の仕事を行なうとした安全衛生面の目安がありました。
決して45分勤務したら15分休憩できたルールではありません。それを自民党の中川政調会長は「45分仕事したら15分も休んでいる」などと言って、自治労国費評議会を批判する一つの材料としていました。NHKの日曜討論の場でしたが、それに対して民主党の鳩山幹事長は何の反論もできませんでした。
即座に反論したのは社民党の又市幹事長でした。自治労富山県本部の元委員長であり、適切なタイミングでの切り返しだったと思っています。逆にその発言がなければ、不確かな情報のまま社会保険庁の職員が批判を受けたことになります。一方で一事が万事、自治労本部と民主党との意思疎通の不足に歯がゆさを感じています。
鳩山幹事長がそのような事情だったことを知らなくて当たり前だろうと思います。自治労組合員の誇りや働きやすい環境確保のためにも、自治労本部でなければ果たせない役割を何としても発揮して欲しいものと願っています。公然と自治労叩きに力を注ぐ自民党と対峙するためには、今こそ支持協力関係にある民主党との連携のよりいっそうの緊密化が求められています。
自民党の宣伝ビラのシナリオにはまらないためにも、5千万件の年金記録漏れ問題など反省すべき点は深く反省し、現場から率先して改善していく努力を自治労として適確にアピールすべき重要な局面です。さらに万が一、民主党からも「自治労はお荷物」だと切り捨てられるようなことがあった場合、政治闘争方針そのものを抜本的に見直すべき岐路ではないでしょうか。
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コメント
この問題も私には少々難しい所があるのですが、他にもいろいろ意見が出るはずですから、私は1点だけ。
年金記録漏れに関して、野党の中からは、政府の責任として内閣不信任案を提出すべきだと言う発言がチラホラ聞こえてきました。(今日も社民党福島党首が出すべきだと言ったそうです。)
しかし、OTSUさんがおっしゃったように、ここでは社会保険庁そのもののあり方が問われているのです。故松岡農水大臣の問題もあってイケイケなのかも知れないですが、安倍政権への追及もいいけれど、まず野党各党自体が、(これが一番肝心だと思うんですけれど)「社会保険庁そのものをどうするつもりなんだ?自公がダメならあなた方はどう変えるつもりなのか?(それとも変える必要はないのか?それはそれで意見の一つとしては構わないと思うが)」と言う事を、世論の前ではっきり公約として掲げるべきです。でなければ政権批判だけでは片手落ちです。所詮参議院選挙対策のリップサービスとしか聞こえないでしょう。
投稿: 菊池 正人 | 2007年6月 3日 (日) 21時59分
菊池正人さん、さっそくコメントありがとうございます。
今回、たいへん長めの記事を書き込みました。それでも言い足りない点、言葉足らずな点などを多く残しています。したがって、様々なご意見やご指摘を受けるものと思います。それはそれで率直な参考とさせていただき、さらに自分なりの考えをまとめる機会としていくつもりです。
菊池さんへのお答えとして、まず民主党は社会保険庁を国税庁へ統合し、税と一体で集める対案を示しています。その案の問題もあるようですが、政府与党案ありきで強引な国会運営が進められてきたのも事実です。とにかく参議院選挙をどう優位に運ぶかが第一となる党利党略での発想は与野党とも避けて欲しいものです。
投稿: OTSU | 2007年6月 4日 (月) 07時38分
お久しぶりです。
社保庁を擁護する義理も縁も無いのですが、この問題については、TVと政治家(点数稼ぎの民主&労組潰し目論見の自民)が扇動している観があり、実際には問題の無い部分が大きい模様です。
基本的には、統合については漏れではなく、最初からそういう方針だったようです。
本質的な問題があるとすれば、一部で発生している本当の記録消失の点だと思います。ただし、これも社保庁のミス、地方自治体のミス、企業でのミス等々が混ざっているので、一概に社保庁の問題と言えるのかは、疑問が残りますが。
具体的には、以前照会した権丈先生のHP
http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/
の「勿凝学問80 この度の泡沫(うたかた)の年金騒動の持久力はどのくらい?――ガンバレ民主党、このままでは参院選までもたないよ 」と、その中で引用されてる新聞記事等を参照してみると面白いです。
社会保障の専門家からすると、かなり馬鹿馬鹿しい政争になっているようです。
投稿: とおる | 2007年6月 5日 (火) 19時33分
とおるさん、お久しぶりです。今回もたいへん興味深いURLの紹介と合わせ、多角的な見方につながるコメントありがとうございました。
このようなご意見に誘発され(?)、コメント欄では大胆な感想を加える時が今までもありました。今回も民主党が5千万件の問題で鬼の首を取ったような勢いで与党政府を攻める姿勢に危うさを感じています。要するに国民に対して過度な不安をあおっている一方、民主党政権だったら解決できたかどうか…、と素朴な疑問を引きずってしまいます。当然、本文でも述べたとおり社会保険庁の責任が重いことは言うまでもありません。
それでも現場の職員が駄目だったと言う短絡的な決め付けだけは論外で、たいへん複雑な問題が解消できていない過渡期だと思っています。同じ自治労の仲間として、このようなとらえ方が社会保険庁職員に肩入れしすぎた意見なのかも知れませんが、率直な現時点での感想です。
投稿: OTSU | 2007年6月 5日 (火) 21時06分
問題は問題として、ちゃんと責任の切り分けをしないと変なことになりますよね。問題を単純化して視聴者や有権者を惹き付けようとするTV&民主党の姿勢は最悪だと思います。
なお、今回の未統合記録の件に関しては、勿凝学問79の方が参考になる意見が読めるかもしれません。あと、以前に問題化された不正免除についても、勿凝学問44を読むと、単純に社保庁に問題有りとはいえない感じです。
投稿: とおる | 2007年6月 6日 (水) 06時32分
とおるさん、コメントありがとうございます。勿凝学問、いろいろ参考になります。
ちなみに本日、自治労本部の岡部委員長からお話を伺える場に参加してきました。せっかくの機会であり、年金記録漏れ問題における民主党との連携などについて質問させていただきました。
制度面の国会議論に対して労働組合が物申す立場ではないが、職員の雇用面については重大な関心を寄せている点を伝えているとのお答えでした。また、たいへん難しい問題であるが、自治労のHPでの書記長談話にとどめず何らかの見解を示すことも検討しているとのことでした。
当たり前な話だったかも知れませんが、この危機的な局面に際し、自治労本部として様々な役割を発揮しようとしていることが充分感じ取れる岡部委員長のお答えでした。
とおるさんのコメントに対する回答から横道にそれすぎたようで、たいへん申し訳ありませんでした。
投稿: OTSU | 2007年6月 6日 (水) 21時32分
1 3億件もあったものを加入者への照会や調査を経て、残り5000万件にまで減らしていったことはもっと評価して良いと思います。年金の仕事を市町村で担当していて、心配で聞きに来る人は半分以上は以前に社保庁の照会に応じて他の年金番号を統合しています。関心がなく照会に応じなかった人がやはり残っています。
2 社保庁の改革に関してこんな心配をしています。ばかばかしいかもしれませんが、電電公社がNTTになって何万もした電話債券が紙くずになりました。だれがNTTになって電話債券が紙くずになることを予想したでしょうか。非公務員型組織になってどうなるのかきちんと議論してほしいです。
投稿: yamamizu | 2007年6月12日 (火) 21時35分
yamamizuさん、コメントありがとうございました。
ご指摘の1のような見方もできますが、やはり5千万件も確認できていないという憤りが多くの国民の受けとめ方だろうと思っています。
確かに2のご指摘ですが、社会保険庁の解体後の姿について全容が分かりづらいようです。「年金記録もれ」が大きく焦点化されたため、たいへん重要な問題が関心を持たれずスルーされていく危うさを感じています。
また、何かお気付きの点がありましたらコメントをよろしくお願いします。
投稿: OTSU | 2007年6月12日 (火) 23時03分