公務員に組合はいらない?
前回記事「労働組合はいらない?」に対し、本当にたくさんの方からコメントをいただきました。ありがとうございました。コメント欄でもお詫びしましたが、それぞれ貴重な提起が含まれていながら必ずしも逐次お答え切れていません。たいへん恐縮ですが、代表的な問いかけに対し、今回の記事本文を通して私なりの考え方を示させていただきます。
大半の方は労働組合の必要性を認めています。その一方、公務員を中心とした組合である自治労を毛嫌いされている方、あらまさんのように公務員には労働組合そのものが不必要であると主張されている方もいらっしゃいます。あらまさんからは前回記事へ多数コメントを頂戴しましたが、ご自身のブログ記事「公務員の労働組合」なども読ませていただきました。
あらまさんも公務員は勤労者であり、憲法第28条(勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。)によって労働基本権は保障されていると指摘されています。しかし、公務員は民間とは違う公益的な立場があり、「労働組合を作って待遇改善を図ることは慎むべき」であるとの論調でのコメント投稿となっています。
歴史をたどれば、終戦直後は公務員も労働組合法などの適用対象でした。それが1948年のマッカーサー書簡(公務員のストライキを禁止)を契機に公務員の労働基本権の制約が進み始めました。それ以降、現在に至るまで公務員には争議権や協約締結権が認められず、警察と消防職員には団結権も否定されています。そのため、公務員法では「労働組合」ではなく、「職員団体」と呼ばれています。
一方で、ILO(国際労働機構)は151号条約で、公務員の団結権、団体交渉権、争議権、市民的権利を定めました。2002年11月のILO理事会では、日本政府に対して「公務労働者に労働基本権を付与すべき」との勧告も採択しています。それに対し、日本政府は条約の批准を見送り、このような国際的な要請にも応えない姿勢に終始してきました。
最近、ようやく公務員組合側と政府との協議の場で、労働基本権回復が具体的な課題として取り上げられるようになりました。渡辺喜美行革相も就任した当初、「労働基本権の見直しは不可欠」との考え方を表明していました。しかしながら今国会で成立した公務員制度改革関連法の中で労働基本権の問題は無視され、新たな人材バンクばかりが強調された不誠実な中味にとどまっています。
ここまでが客観的な経緯やとりまく現状です。要するに国際的にも国内的にも民間と区別せず、公務員にも労働基本権を拡充していく動きがあります。ただ以上のような説明では、あらまさんのご指摘に対して半分も答え切れていないものと思っています。あらまさんの主張は「労働組合がなくても公務員は安定した労働条件や雇用が保障される、だから労働組合は不要ではないか」との趣旨だろうと理解しています。
また、社会保険庁の組合が職員の労働負担に過剰反応し、年金記録漏れ問題につながったと思われているのかも知れません。さらに産経新聞「正論」に掲載された屋山太郎氏の「社保庁問題は国鉄問題にそっくり」などの記事に強い賛意を持たれているのだろうと受けとめています。つまり公務員の労働組合活動の成果やその方向性について、完全に否定的な見方を持たれているものと感じています。
「公務員の賃金は闘わなくても人事院勧告で決めてくれる」と特権のような見られ方がありますが、そもそも労働基本権制約の代償措置として人事院が存在しています。それにもかかわらず勧告が完全実施されず、過去に凍結や値切りなどが行なわれ、最近では賃下げ勧告も定番となっています。加えて人事委員会さえない自治体は勧告で示された改定率を踏まえ、当該の労使で独自に配分などを交渉しなければなりません。
労働条件の全体的な問題に関しても労使交渉の機能が確立されていない場合、使用者側の視点や思いだけで切り下げられていく可能性があります。行革の推進イコール職員数削減と見られがちな中、職員の健康に影響を与えかねない人員不足の職場を強いられる恐れも否定できません。そのような不適切な職場体制では、結果的に住民サービスの低下を生じさせる心配があります。
「公務員だから黙っていても恵まれた安定的な職場が確保される」との言われ方もあります。確かに公務職場では法令順守が大前提となります。しかし、労働法制は最低基準を示すことが多く、組合が要求しなければ改善されない事例も珍しくありません。逆に圧倒多数の自治体で労働組合があったからこそ、しっかり確立した労働条件が根付いたとも考えられます。今回の記事タイトルも「公務員に組合はいらない?」と疑問符を付けましたが、私自身の答えは言うまでもありません。
このブログのプロフィールでも明らかにしていますが、現在、自治労に加盟している市職員労働組合の執行委員長を務めています。これまで喜怒哀楽が波打つ組合活動でしたが、組合員の皆さんから「組合があって良かった」との言葉をいただいた場面が数多くありました。その言葉の一つ一つが大きな励みとなり、さらに組合をつぶしたくない気持ちを糧にしながら今まで役員を担い続けてきました。
今回の記事も長くなりましたが、屋山太郎氏の「正論」を紹介した手前、自治労についても少し触れてみます。組合員数100万人は全国最大の産業別組合であり、村山元首相が自治労出身であったり、確かにその影響力は卑下できないかも知れません。また、自治労は地方公務員の組合だと思われがちですが、公共サービスに従事する民間労働者の組合の割合も急増しています。
その自治労に対して最近、どうもダーティーなイメージ操作や過剰な買いかぶりが目立っている気がしています。年金未記録問題に対し、自治労と全国社会保険職員労働組合が連名で「基本的な考え方」をホームページ上で表明しました。年金記録管理の実態、問題の本質、求められる対策の考え方、「覚書」や「確認事項」の問題などが掲げられています。お時間が許される方は、ぜひ、リンク先をご一読ください。
この問題で「社会保険庁の解体を阻止するため、自治労が民主党に未記録問題をリークした」などと途方もない噂話を耳にしたことがあります。自治労は民主党を支持する団体の一つですが、まったく事実無根の話です。時には情報や意見を交わす場もあるはずですが、一昔前の総評・社会党ブロックと言われたような緊密さは影を潜めています。
先日、年金記録漏れ問題における民主党との連携について、自治労本部の岡部委員長に直接質問する機会がありました。その際、「制度面の国会議論に対して労働組合が物申す立場ではないが、職員の雇用面については重大な関心を寄せている点を伝えている」とのお答えでした。労働組合の立場と果たすべき役割上、筋の通った話であると受けとめさせていただきました。
そして、取り沙汰されている社会保険庁の労使の問題ですが、労使対等の原則が組合側に傾いた力関係だったのかも知れません。とは言え、社会保険庁の組合役員は、すべて「組合員のため」を考え、交渉を積み重ねてきたものと思っています。その交渉結果である労使確認事項も情勢の推移の中で、臨機応変に改めるべき事項も多かったはずです。
いずれにしても「組合員のため」と考えてきた結果が、このような事態を招いた一因と見られてしまっている現状です。再雇用を踏み絵にした官邸主導の「ボーナス返納」の恫喝に対しても、容認せざるを得ない社会保険庁の組合役員の内心は痛恨の極みだろうと思っています。しかし、厳しく反省する必要性がある労使関係だったかも知れませんが、未記録を招いた一番の原因は「労使問題」だと言い切る姿勢にもあきれてしまいます。
今朝、日本テレビの「ウェーク!」に出演した竹中平蔵前総務相の発言には非常に腹が立ちました。ちょうど民主党の馬淵澄夫代議士のブログ記事「最後のヤマ場!?」で、竹中前大臣の発言について取り上げていました。「学者顔して選挙前に民主党タタキのための組合問題に無理やり結び付けようという魂胆が何ともうそ臭い」と言い切ってくださっています。
今回も話が拡散し、批判的な目で読まれている方にとって突っ込み所満載の記事だったかも知れません。180度異なる視点や考え方のコメントをいただけるのは、不特定多数の方を対象にしたブログの利点だと考えています。どのようなご意見も歓迎する立場ですが、ぜひ、悪意や感情論のみが先走ったコメントはご遠慮くださるようよろしくお願いします。
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