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2007年5月12日 (土)

ふるさと納税と三位一体改革

最近の記事「心機一転、新年度」で記しましたが、4月から納税課へ異動しました。徴税吏員として日々、税金の収納業務に励んでいます。5月31日の出納閉鎖に向けた繁忙期であるため、明日日曜も出勤し、担当地区を回る予定です。

組合役員を長く務めていると各職場の雰囲気や仕事内容を垣間見る機会は多くなります。しかし、あくまでも垣間見ていただけであり、実際、その職場へ異動することによって改めて業務の奥深さを実感することになります。ある意味、役所の人事異動は転職したような大変さや新鮮さを味わうことができます。今までの仕事のスキルはリセットされ、一から覚えることが多く、まだまだ悪戦苦闘は続きそうです。

給食費や保育料の滞納問題が注目を浴びていますが、税金の滞納者も決して少なくありません。それでも租税は応能原則や、すべての公課や私債権に先立って徴収できる優位性などがあり、年金保険料などに比べると高い収納率となっているようです。さらに体系的に確立されている滞納整理のノウハウにも目を見張っています。

とにかく圧倒多数の納税者との公平公正さをはかるためにも、ごく少数の滞納者と接触していくのが徴税吏員の役割です。督促、催告、差押、取立などの言葉が日常的なものとなり、イソップ寓話「北風と太陽」を思い浮かべながら可能な限り自主納付していただけるよう働きかけています。

このような職場に在籍しているため、必然的に新聞記事などでも税金に関する記事へ目が行きます。最近、目に付いたのが「ふるさと納税」制度創設の話題です。安倍首相が「美しい国づくり」の一環と考え、政府・与党に指示し、急浮上した問題でした。

政府・与党は9日、納税額の一部を故郷など地方の自治体に移す「ふるさと納税」を創設する方針を固めた。地方自治体間の税収格差を是正する狙いで、7月の参院選に向けた地方活性化策の目玉と位置付ける。近く総務省が設置する有識者の研究会や、年末の与党税制調査会で議論したうえで、2008年度税制改正で実現をめざす。

菅義偉総務相が同日、首相官邸で安倍晋三首相に会い、こうした方針を説明した。首相は同日夜、首相官邸で記者団に「多くの人の自分の生まれ故郷を大切にしたい、地域の美しさを守っていきたいという思いをどうくみ取っていくか検討していかなければならない」とふるさと納税を検討していく考えを示した。(
日本経済新聞社)

個人住民税は1月1日現在の住所地で課税され、均等割と所得割があります。一定の所得がある人に一律の額を課すのが均等割で、都道府県民税が年1000円、市町村民税が年3000円です。前年の所得に対し、定められた率を乗じて課すのが所得割です。

今まで所得割は5%(そのうち都道府県民税2%)、10%(2%)、13%(3%)の3段階でしたが、今年6月から一律10%(4%)に変わります。課税所得が低い場合、住民税だけで見れば、大幅引き上げとなります。ただし、国税である所得税の税率構造を見直し、税負担の合計額は基本的に変わらないことが強調(国税庁)されています。

ちなみに都道府県民税は市町村税と一緒に市町村職員が徴収します。すでに所得税が下がっているとは言え、住民税に限って考えれば大幅負担増となる場合が多くなります。したがって、住民税の滞納者が増える心配もあり、市町村の納税課職員の仕事に直接影響を及ぼす可能性がある制度改正だと見られています。

なぜ、このような面倒な改正が行なわれたかと言えば、「国から地方へ」と声高に叫ばれている三位一体改革の結果でした。地方でできることは地方での方針のもと、より身近なサービスを自治体の責任で効率的に行なえるよう国庫支出金と地方交付税を見直し、税源移譲を進めるのが三位一体改革です。

その総仕上げとして所得税を減らし、住民税が増える制度変更をはかり、3兆円の税源そのものが移譲されることになりました。三位一体改革自体、国と自治体との間での喧々諤々の議論や綱引きを重ねてきています。地方分権を推進する総論は賛成でも、各論となる実施方法に対しては自治体側が反発する局面も少なくありませんでした。

今回、税の根幹を占めている所得税と住民税間での移譲であり、納税者の負担が変わらないと言うことであり、国と自治体間ではフェアな移譲額だろうと思います。しかしながら自治体間の格差は広がる難点が指摘されています。つまり一人あたりの税収が最大の東京都と最小の沖縄県で3.3倍の開きがありました。

この制度改正で、ますます税収格差が広がる見込みです。その格差を埋める一助として、「ふるさと納税」制度の話が持ち上がったようです。税額の最大1割について、納める自治体を指定でき、その額を税額控除の対象とする案が検討されています。

「ふるさとで生まれ育って、税金を納める段階になると都会に出てしまう。教育や福祉のコストを負担した地方が割を食っている」との不満の声があり、都市と地方間の格差是正は喫緊の課題です。ただ地方税は、身近な行政サービスに対して負担するという応益原則があり、引っ越しが多かった場合の「ふるさと」の定義など、解決すべき問題が山積しています。

さっそく石原都知事は反発していますが、大都市と地方との間で住民税の争奪戦となる火種であることも間違いありません。さらに事務作業のコスト増に見合う税収増がはかれるのか疑問の声もあり、安倍内閣らしいパフォーマンス先行の思いつき政策である疑念も生じてしまいます。

財務省幹部が「地方税を互いにやり繰りする制度なら歓迎だ」と正直なコメントをもらしています。このような発言からも結局のところ地方分権の大義のもと、赤字財政を地方へ押し付ける構図が三位一体改革の本質のような気もしています。

もともと地方税は税制自主権の原則がある一方、地域経済などの差異による歳入格差が出ることを前提とし、国の責任による財政調整や財源調整が求められています。それが地方交付税制度などにつながっている訳ですが、この間の地方分権の動きが地方切り捨てになるようでしたら国の責任放棄と言わざるを得ません。

当然、自治体側も国に依存しすぎず、健全な財政の確立に向けて必死に努力することが欠かせません。私自身の職務としては納税の重要性を訴えながら収納率を高め、少しでも市財政に寄与することだと考えています。それでも自治体や一職員の努力の限度やスタートラインの違いなど、様々な要素を見きわめ、国としての責任や役割も適確に発揮して欲しいものです。

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コメント

公務員の目から見た日日のいろんな事が見えてきて大変面白く読ませていただきました。
私の近くの市役所職員もやはり色々言われながら一生懸命やっている様がだぶってきます。

さて、ふるさと納税の件ですが、仰っておられるとおり、一説によると高校を卒業するまでに税金は一人当り3千万円使われるといわれています。その内の相当数の人が東京へ行き働いて納税します。定年退職したらまた帰ってきて、介護保険を使います。
地方は、税金を納めても貰って無い人に、介護保険料の負担を強いられているのが現状と考えれば、いかに東京が恵まれた環境にあるかがお分かりいただけると思います。

基本的な考え方はあっているが、ふるさと納税は、選択性ではなく、義務とすべきでしょう。

などと考えるのは、私だけでしょうか。

投稿: 丸 | 2007年5月16日 (水) 09時28分

丸さん、はじめまして。コメントありがとうございました。
ご指摘のとおり東京などの一人勝ち状態は好ましくありません。ただ都市間の格差を埋める手立てが「ふるさと納税」で良いのか、その点が少し疑問に思っています。地方税の基本原則など具体的な問題が山積していますが、様々な検討を加えた結果、丸さんのような義務制も一つの選択肢かも知れません。それでも参議院選挙のためという安直な発想だとしら問題だと考えています。
ぜひ、これからも気軽にご訪問ください。よろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2007年5月16日 (水) 12時53分

お久しぶりですね。迷惑でしょうけど,このたび戻ってきました。さて早速ですけど,そもそも何故,あなたの徴税業務を,ことさら安倍内閣の執政非難と結び付けて論じる必要があるのでしょうか。残念ながら理解できません。それともこれは,いわゆる非難の為の非難とやらなのでしょうか?
たぶん私の理解力不足なのでしょうけど,たとえば民主党の政権下に於いても,おそらく徴税業務の実態は,まったく同様だと思います。如何でしょうか?

投稿: 多香子 | 2007年5月18日 (金) 17時26分

多香子さん、お久しぶりです。コメントありがとうございます。
確かにご指摘のような混乱を与えた記事だったかも知れません。もともとブログは日記形式が多く、このブログもココログのカテゴリーとして「日記・コラム・つぶやき」で投稿しています。したがって、日常を綴ったエピソードと合わせ、自分自身の主張を混在させた記事が多くなっています。つまり今回も税金つながりで「ふるさと納税」制度の問題点を訴える構成となったに過ぎません。
また、安倍内閣への評価は個々人で大きく分かれるものと思っています。しかし、このブログ、さらに実際の組合活動においても、考え方の押し付けは論外だと考えています。そのため、このようなブログを通して、自分なりの思いを発信しているつもりです。
当然、読み手によって賛否の分かれる記事が多いことも覚悟しています。その意味で、一方通行とならないコメント機能は貴重なことだと思います。したがって、多香子さんのような視点でご覧いただく方の訪問やコメント投稿も歓迎すべき立場です。ぜひ、これからも率直なご意見をよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2007年5月18日 (金) 22時45分

お久しぶりです。瑞鶴です。私も四国の地方公務員ですので丸さんと同じく今の地方財政は問題点があると思います。

潤沢な税収に裏づけされた、大変充実した都会の行政サービスにどっぷり浸かった地方出身者は、田舎の貧弱な行政サービスを目の当たりにすることにより、故郷へ帰らなくなるのではないのでしょうか?つまり、都会で定年を迎えた人が地方に戻って来なくなるのでは?

地方へ人が戻らなくなるということは、益々地方は過疎化し人材が都会(日本国自体に)に供給されなくなるということではないのでしょうか?

しかし、地方も悪いとは思います。バブルの時など税収が相対的に豊かであった時に無駄な公共事業等を推し進め、住民もなんでもかんでも役場へ頼むという「他人の財布だから懐が痛まない」という感覚を持ちすぎたのではないのでしょうか?今でも議員絡みの事業というのは多々あります。(こうして次の選挙に反映されるという悪循環を引き起こす)

石原都知事が言うように「地方は行財政改革をしたのか?」という言葉はある意味至極当然ではないのかなと私自身は思っております。

一番大事なことは住民自体の意識変革だと思います。行政サービスをタダで受けるのは当たり前、困ったら役所が何とかしてくれるという意識を無くすのが大切ではと思います。そのためだったら、今の地方財政の危機もちょうど良い薬になるのではと思います。

つたないことを色々と書いてしまいましたが、OTSUさんのご賢察を賜りたいと思います。よろしくお願い致します。

投稿: 瑞鶴 | 2007年5月19日 (土) 18時40分

瑞鶴さん、お久しぶりです。コメントありがとうございました。
地域間の著しい格差、住民の所得割の比重が強まるほど、その格差が広がることになります。2004年の資料で区市町村別平均所得ランキングは、トップの東京都港区が947万円、最下位の北海道上砂川町が211万円で、5倍近くの差があります。その格差を埋める調整機能は、やはり国の責任だと考えています。記事本文でも書きましたが、自治体同士のパイの奪い合いや住民の善意に期待する制度では問題だろうと思っています。
一方で、国に頼り過ぎない自治体、役所に頼り過ぎない住民となるような意識改革をいっそう進める必要があります。当然、自治体職員もコスト意識をより強く持つよう心がけなければなりません。
それでも都市間格差は簡単に解消できないだろうと見ています。どうしても地方税の中でやり繰りが必要であるならば、各自治体が拠出した基金制度による新たな財政調整を行なうことも一案かも知れません。
別に安倍内閣が進めるから反対だと言う訳ではありませんが、事務手続きなども複雑になりそうな「ふるさと納税」制度よりシンプルではないでしょうか。
瑞鶴さんのコメントにお答えしながら記事本文で言い足りなかった点を書かせていただきました。ぜひ、これからもご意見ご感想などよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2007年5月19日 (土) 19時26分

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