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2007年2月 4日 (日)

八代尚宏教授の発言

「女性は産む機械、装置の数は決まっているから、後は一人頭で頑張ってもらうしかない」と発言した柳沢伯夫厚生労働大臣。女性を機械に例えた非常識さ、少子化の問題を個々の女性の生き方へ責任転嫁した不見識さ、少子化対策に責任を持つ厚生労働大臣としては弁明の余地がない致命的な失言でした。

野党が柳沢大臣の辞任を強く求めるのは至極当然なことだと見ていました。しかし、柳沢大臣が辞めるまで一切の国会審議に応じない戦術には正直違和感があります。もともと絶対多数を占めている与党の横暴に対抗するため、局面によっては審議拒否の戦術も必要だと考えています。

今回がその局面だったかどうか、各野党の責任者が判断する問題ですが、個人的にはミスリードの戦術行使だったと感じています。大半の国民が柳沢発言に反発し、与党の中にも公然と批判する声が強まっていました。したがって、国会審議の場を通して不信任決議案などを突き付けた方が、より与党側を揺さぶれたものと思っています。

結果的に柳沢大臣の罷免が実現しなかったとしても、悪役は一貫して柳沢大臣であり、必死に守り通した与党側、ひいては最高責任者の安倍首相となる構図を刻みつけることができたはずです。それにもかかわらず審議拒否戦術を取ったことにより、わざわざ与党側から「職場放棄」と反撃されるスキを与えてしまいました。

さらに権力側になびきたい大手マスコミは、ここぞとばかりに「政権をめざす党」の看板が泣くなどと批判の矛先を野党側へ向けてきました。同様に「審議拒否はけしからん!」と国民の中からも野党の戦術を非難する声が上がり始めています。挙句の果てに愛知県知事選挙と北九州市長選挙の結果が柳沢発言の決着の行方を左右すると言われていますが、そのような話では決してないはずですが…。

さて、記事タイトルと異なる内容を普段以上に長々と書き込んできました。いっそのこと前置きは別タイトルの記事にしようかとも考えましたが、このまま強引な「発言」つながりで続けさせていただきます。

前回記事「問題が多い労働契約法」のコメント欄で、島根県益田市議のニン麻呂さんからたいへん貴重な問題提起を受けています。ニン麻呂さんのブログ「地方議員の本音」は公契約のあり方など非常に勉強になることが多く、更新のたびに読ませていただいています。前回のコメント内容も幅広い提起を含んでいましたが、改めて自問自答する意味合いから今回の記事内容へつなげてみました。

ここで、ようやく今回の記事タイトルにある八代尚宏教授を紹介します。八代教授は国際基督大学教養学部で教鞭をとり、経済財政諮問会議の民間議員として労働市場改革専門調査会の会長を務めています。以前から労働市場の改革を唱え、労働ビッグバンの強力な推進役と見られています。

最近、八代教授の発言を新聞や雑誌などで目にする機会が急増しています。その大胆な発言は物議をかもし、特に労働組合側が強い反発を示しています。「正社員の待遇を非正規社員の水準へ合わせるべき」「非正規社員の雇用が不安定なのは、正社員が過度に守られている裏返し」など、このような端的な言葉に接すれば労働組合側が憤るのも当然です。とは言いながらも、それらの発言に至った八代教授の真意を理解するためには、もう少し詳しい発言内容の紹介が必要かも知れません。

正社員と非正規社員の格差是正のため、1600万人の非正規社員を全員正社員にすることは非現実的である。低成長の上、国際競争力にさらされた企業が総人件費を抑制している中、「同一労働同一賃金」の達成のためには正規と非正規の待遇を双方からすり寄せることが必要である。非正規なりの雇用安定を図る策を考えていくべきである。

つまり八代教授の主張はワークシェアリングの発想であり、前回記事で紹介したオランダの改革に相通じるものが見受けられます。また、八代教授は「労働組合に所属していない大多数の労働者の利益も含めた長期的に望ましい労働市場のあり方を考えていくべき」と述べられています。

このように紹介していくと八代教授の発言は真っ当なものであり、反発する労働組合側が問題だと思われる方が少なくないかも知れません。しかし、一方で「儲け主義の財界の論理に偏っている」との批判や「労働は市場原理に任せるべき」との八代教授の主張に対して「労働は商品ではない」と非難する声が増えていることも事実です。

八代教授の主張に対し、私自身がどう考えているのか、問われることも覚悟しています。「自問自答中」の答えが適当なのかも知れませんが、とにかく正規の待遇を非正規の水準へ切り下げる話は論外だと言い切れます。それこそ経営者側を喜ばす愚挙であり、実は八代教授の発言もそこまで極端ではなかったものと受けとめています。

要するに「双方からのすり寄せ」の度合いが非常に重要だろうと考えています。当然、その「すり寄せ」に際しては、労働者の声を代弁する労働組合との合意形成を絶対欠かせない条件としなければなりません。いずれにしてもニン麻呂さんの提起に対し、明確なお答えを出し切れていませんが、これからも真摯に「自問自答」していく必要がある大事なテーマだと言えます。

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コメント

ご無沙汰してます。

経済誌などで八代教授の発言を読むと、御用学者そのものであるので、どうしても批判的にしか読めないですね。労政審でひんしゅくを買っていたザ・アールの奥谷禮子社長といい、まぁ立場性の問題というのか・・・

そういう経営側の理屈が真実としてまかり通ってしまっているのが現状なので、労組が怒って主張しなきゃダメだなと思いました。

ただ経営側も、低位平準化して平等になればいいとは、思っていないのかもしれません。現実は少数のエリート労働者、中間労働者、底辺労働者、といった形で階層化して差別分断して統治することで、会社を安定させようとしているというのが実態のような気がします。

労組も「平等」を希求しつつも、そういう実態を追認しているような・・・

投稿: hammer69_85 | 2007年2月 4日 (日) 15時33分

hammer69_85さん、お久しぶりです。コメントありがとうございます。
公務労協や自治労が八代発言を強く問題視している中、あえて今回の記事を書き込んでみました。八代教授の主張は奥谷社長の発言と異なり、頭から否定できない問題提起を含んでいるものと感じています。
全面的にその趣旨に賛同するものではありませんが、賛否両論からの視点で率直な議論を交わすべきテーマだと思っています。

投稿: OTSU | 2007年2月 4日 (日) 21時31分

お邪魔します。
「八代尚宏」のキーワードでgoogle検索して20~30分ネット上を眺めただけという,にわか勉強をしてみました。
ただそれだけの知識ですが,感想としては「社会科学系学者にありがちな,自分の思いこみを正当化するためにあれこれと理屈をこねまわす人」という印象を受けました。
経済学者としては優秀な方なのでしょうから,例えば私がこの方からいろいろな話を聞けば,賛同できる部分もあるのだろうと思います。
しかし,生活感がないというか,年収数百万で2人も3人も子どもを育てている庶民の実感はご存じないだろうなという感じを受けます。
「経国済民」の「経国」はできても「済民」はどうかなという感じです。

投稿: WontBeLong | 2007年2月 6日 (火) 23時53分

WontBeLongさん、コメントありがとうございます。
八代教授は「宇宙人」などと揶揄している記事も目にしています。確かに八代教授の発言を全面的に肯定していくのは大きな問題だろうと思っています。
ただ「正規」と「非正規」労働者の関係性について、軽く見過ごせない大事な問題提起が含まれていることも感じています。
したがって、八代発言を頭から否定しない観点で、議論していく切り口として今回の記事を投稿させていただきました。もう少し次回記事でも掘り下げてみる予定です。ぜひ、また貴重なご意見をよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2007年2月 7日 (水) 07時27分

 私の基本的なポリシーも「ワークシェアリング」の考え方ですから、「労働組合に所属していない大多数の労働者の利益も含めた長期的に望ましい労働市場のあり方を考えていくべき」という八代教授の発言を支持します。

 OTSUさん以外の皆さんがどこに住んでいらして、どのようなご職業の方かは存じませんが、最近の「売手市場」といわれる時期に、結構偏差値の高い大学を出た若い人が、公務員試験に落ちたら就職先がないという地方都市がたくさんあるということを理解されていないような気がします。

 最近、市内の求人倍率がようやく0.9に近くなったとはいえ、ハローワークに行ってみると、求人の4割近くがパートで、そのほとんどは時間給700円以下です。
 こういう状況ですから、市内の高校を卒業する生徒の80%近くが進学や就職で市外に流出し、30歳までに再び市内に戻って定住するのは全体の30%くらいにまで落ち込んでいます。
 こういった傾向が既に20年くらい続いているのですから、65歳以上の人口が全体の30を超えているのは当然のことです。

 それに追い討ちをかけるように公共事業が大幅に落ち込み、
建設会社のリストラが加速していまして、島根県全体ですが、今年度上期だけで528人と過去最高の数字となっています。
 島根県東部はまだ民間需要もありますが、益田市のある西部のように公共事業に依存してきた地域にとって打撃は大きいものがあります。
 かといって、特に開発可能な地域資源があるわけでもなく、それらに対応できるセイフティネットの構築は極めて困難です。

 島根県の人口一人当たりの公共事業投資額は多分まだ日本一だと思いますが、それでも下水道普及率は全国平均69.3%に対して34.2%と、全国で44位というところですし、東西に長い島根県を縦断する高規格道路すら未整備のままです。
 要するに、基盤整備の出発がどのくらい低いレベルから始まったか、ということです。
 もちろん、こういう地域は島根県の小都市だけではないと思いますが、「地方」といえば、せいぜい「横須賀」くらいしかイメージできない人の改革によって、どのくらい地方の小都市がダメージを受けているかを考えていただきたいのです。

 地域振興どころか、地域の現状維持すら既に困難な状況下で、昨年の暮れに財政の「非常事態宣言」をした益田市のラスパイレス指数はいまだに09.7という高い水準を維持しています。
 それで、新たに直営事業の民家委託、民営化が検討されていますが、それには猛反対をするのが自治です。
 しかし、既に委託した事業の契約金額を更新のたびに引き下げることについては何も言いません。

 なにしろ、市長自らが「委託先の従業者の給与が、一家の生計を維持できる額ではないことは承知している、」と議会で発言しているのですが、これに抗議の声をあげた「人権団体」はありません!共産党、社民党の議員も何も言いませんでした!
 直営堅持を街頭で訴え続ける共産党の議員、組合が支援して議会に送り込んできた、職員上がり3人の社民党系の議員も何も言いません。何時も「人権擁護」を振りかざすいくつかの団体も沈黙したままです!

 委託先の従業員の人件費の平均額は、すべて直営時の公務員の人件費の3分の1以下!それが、最近の契約では限りなく4分の1近づいてきています!

 これが地方の小都市の実態です!

 「労働組合に所属していない大多数の労働者の利益も含めた長期的に望ましい労働市場のあり方を考えていくべき」時にきているのではないでしょうか。

 それとも、最後には「勤務評価」とか「人事考課」とかの導入を国が制度化するまで待たなければならないんでしょうか?(だけど、これは本当に難しい課題ですよ・・・)

 

投稿: ニン麻呂 | 2007年2月11日 (日) 00時46分

 すみません。確認する前に送信してしまいましたので、誤字脱字がかなりありますので訂正します。

 65歳以上の人口が全体の30を超えている → 30%を超えている

 ラスパイレス指数はいまだに09.7 → 98.3

 以上訂正です。

 それから、OTSUさんのブログをリンクしたいのですが、うまくいきません。なんだか形式が違うからとかなんとかで拒否されます。近い内に詳しい人に聞いて対処したいと思っています。申し訳ありません。
 

 

投稿: ニン麻呂 | 2007年2月11日 (日) 00時57分

ニン麻呂さん、コメントありがとうございました。

小泉前首相の進めた改革によって、地域間格差の問題が非常に深刻化していることを改めて感じさせていただきました。個人間の著しい「勝ち組」「負け組」の問題と同様、政治の方向性に対して軌道修正が求められているものと思っています。

以前にもご指摘があった自治労の姿勢ですが、委託労働者の劣悪な待遇などに対して問題意識が薄い訳ではありません。この春闘期、全国一斉に各自治体当局へ公共民間労働者の待遇改善を訴えた要求書を提出します。また、現在の自治労は地方公務員のみの組合ではなく、数多くの公共民間の組合が加入しています。

いずれにしても記事本文でも改めて取り上げるべき重要な提起だと考えていますが、取り急ぎ釈明させていただきました。

最後にリンクのご検討も、ありがとうございます。

投稿: OTSU | 2007年2月11日 (日) 07時34分

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