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2007年2月12日 (月)

八代尚宏教授の発言 Part2

柳沢厚生労働大臣の辞任を求めて審議拒否を続けてきた野党が先週水曜、一週間ぶりに国会審議へ復帰しました。その日に開かれた衆院予算委員会は少子化問題に関する集中審議となり、当然、野党の各質問者は柳沢大臣の「女性は子どもを産む機械」発言の問題性を追及しました。

柳沢大臣の米つきバッタのように頭を下げる場面がテレビ映像で流れ、マスコミ報道からは予算委員会の質疑がその問題ばかりに費やしている印象を与えています。そのため、「野党は言葉尻をとらえた質問ばかり繰り返している」「もっと財政再建や外交問題など重要な議論をすべきなのに歳費の無駄使いである」との声も聞こえていました。

しかし、このような声が出るのは話題性重視のニュース作りに偏っている今のマスコミの責任だと感じています。野党の各質問者の持ち時間は1時間から2時間もあります。その持ち時間の中で、柳沢発言に言及するのは当然であり、逆に触れない方が不自然だと思います。

また、決して野党の質問が柳沢発言の問題ばかりに終始していた訳ではありません。便利な時代になっているため、テレビや新聞からの情報に頼らずともインターネットから様々な事実を知ることができます。参考までに国会審議は衆議院TVで質疑内容すべてを見聞することが可能となっています。

衆議院TVまで見なくてもインターネットを通し、野党のトップバッターだった民主党の枝野幸男議員の質問内容が話題になっていることを知りました。YouTubeによって、鋭い切り口で枝野議員が安倍首相や柳沢大臣らを追及している映像も見ることができます。また、枝野議員の質疑は有名な「きっこの日記」や「カナダde日本語」でも取り上げられていました。

枝野議員は行政指導を受けたキヤノンの偽装請負問題に触れた上で、御手洗富士夫キヤノン会長の参考人招致を要求しました。御手洗会長は日本経団連の会長であり、政府の経済財政諮問会議の民間議員も務めています。御手洗会長は経済財政諮問会議の場で、請負法制について「無理がありすぎる」などと現行制度の緩和を求めていました。

「自分の足元で違法行為をしているのに、違法行為が合法となるように何とかしてくださいと言うのは無茶苦茶だ」と予算委員会の中で枝野議員は批判しています。さらに「国際競争力を高めるため」と言いながら労働者の待遇を抑制し、その一方で、キヤノンの役員賞与を数年間で1億3千9百万円から2億2千万円まで引き上げている「モラルのなさ」を指摘しています。

このような人物が経済財政諮問会議の議員である点を枝野議員は安倍首相にただしましたが、質問のポイントを理解していないような意味不明瞭な答弁にとどまっています。いずれにしても経済財政諮問会議が提唱している「労働ビッグバン」は、御手洗会長の事例からも財界の論理が色濃く反映されていることは明らかだと思っています。

ちなみに経済財政諮問会議の民間議員はわずか4名です。御手洗会長の他、伊藤忠商事の丹羽宇一郎会長、東京大学大学院経済学研究科の伊藤隆敏教授、もう一人が前回記事で取り上げた八代尚宏教授です。したがって、ホワイトカラーエグゼンプション労働契約法の法案化など、八代教授の考え方が強く打ち出されていることは確かです。

前回記事へのコメントで八代教授に対して、hammer69_85さんから「御用学者そのもの」、WontBeLongさんからは「社会科学系学者にありがちな、自分の思いこみを正当化するためにあれこれと理屈をこねまわす人」との見方を伝えていただきました。一方で、ニン麻呂さんからは「労働組合に所属していない大多数の労働者の利益も含めた長期的に望ましい労働市場のあり方を考えていくべき」との八代教授の発言を支持したコメントも寄せられました。

確かに八代教授の発想を全面的に肯定していくのは大きな問題だと思っていますが、頭から否定できない大事な提起を含んでいるものと受けとめています。率直なところ「過労死は自己管理の問題」と発言した人材派遣会社ザ・アールの奥谷禮子社長とは同列に扱えない気がしています。なお、この奥谷発言も水曜の予算委員会で民主党の川内博史議員が取り上げ、改めて注目された問題でした。

「正規」と「非正規」労働者の関係性について、八代教授の問題意識を端的に整理してみます。人件費縮減を主眼に増やしてきた「非正規」労働者を全員「正規」の待遇に改めるのは非現実的、限られた経費の中で「均等待遇」原則を実現するためには「正規」の待遇を切り下げる必要性がある、と主張しています。

その手法を実行するためには労働組合の抵抗や既存の労働法制が障壁になっている、また、雇用の流動化によって多様な働き方の選択肢が広がることは労働者にとっても好ましいことである、との持論を常々展開しているようです。

1年ほど前、当ブログへのコメント欄で八代教授の著書「雇用改革の時代」をご紹介いただき、すぐ手に入れ目を通していました。最近、八代教授が注目を浴びるようになったため、探し出して手元に置きパラパラと頁をめくっています。1999年12月に発刊された著書ですが、八代教授の主張は現在に至るまで一貫している点がよく分かります。

雇用の規制緩和などの是非は置いた上で、日本的雇用慣行の分析などに関して感心した覚えがありました。企業が労働者の長期雇用を保障するのは温情ではなく、企業の教育訓練投資の成果である熟練労働者を重視したものであり、年功賃金と退職金制度は熟練労働者を企業に縛りつける仕組みであると述べていました。

八代教授は日本的雇用慣行の担ってきた役割を一定評価した上で、時代状況の変化からその見直しも必要であると訴えていました。要するに「雇用改革」であり、現在の政府の施策となっている「労働ビッグバン」につながっています。

例えば経済財政諮問会議の中で、八代教授は「派遣労働者の固定化防止のために派遣期間3年の制限が必要であると言うが、その企業でもっと働きたいと思う人が法律によってクビを切られることになる」と発言しています。この発言一つとっても短絡的に判断できるものではなく、頭から否定できない問題提起を含んでいるものと感じています。

賛否が分かれる八代教授の主張に対し、「非正規」労働者の待遇改善に向けた思いは共通する課題だと言い切れます。その上で、労働者側の原則的な要求は「非正規」をより「正規」の待遇に近づける方針であることが重要です。安易にその逆を容認する姿勢を見せた場合、一気に労働者全体の待遇が切り下げられる恐れもあるはずです。違法な「偽装請負」を放置しながらも、役員賞与が2億円を超すキヤノンの例が象徴的は話ではないでしょうか。

このテーマは様々な切り口があり、結論的なまとめは簡単にできません。雑ぱくな記事を長々と綴ってきましたが、最近、耳にした組合員の声を最後にご紹介します。私どもの市役所でも特殊勤務手当の見直しを進めていますが、ある保育士から「保育手当は廃止で結構だから臨時職員保育士の賃金を上げて」との声が印象深く残っています。

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コメント

このテーマは非常に重いですね。

結局、官民ともに勤務評価とか、人事考課とかいう話が出てくるのでしょうが、これがまた非常に重いのが解っているから、ここら辺の入り口のあたりで皆ウロウロしてるんでしょう。

私は、できることからやりましょう!って言っているだけなんですけどね・・・

投稿: ニン麻呂 | 2007年2月17日 (土) 12時04分

ニン麻呂さん、コメントありがとうございます。
「できることからやりましょう!」、本当にその通りだと思います。
ちなみにアクセス件数は増加傾向をたどっていますが、コメントしづらいテーマだったのか、極端にコメント欄が寂しくなりました。
次回記事は「非正規」にこだわりながらも、少し(?)切り口を変えた内容で投稿する予定です。

投稿: OTSU | 2007年2月17日 (土) 12時33分

八代、経営者側にばかりつくな、バカタレ。政権交代したらお前は干しあがるぞ。

投稿: | 2009年8月 1日 (土) 18時15分

2009年8月1日(土)18時15分に投稿くださった方、ご訪問ありがとうございます。

再びコメントされる機会がある場合、できれば名前欄(ハンドルネーム)はご記入くださるようお願いします。

投稿: OTSU | 2009年8月 1日 (土) 21時26分

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