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2007年2月17日 (土)

「非正規」職員から参議院へ

企業利益のうち人件費に回される割合を示す「労働分配率」は、1997年度に66.0%だったのが2005年度には59.8%まで落ち込んでいます。「いざなぎ」景気超えが実感できない大きな理由として、このような賃金抑制による個人消費の伸び悩みなどがあげられています。

2007年春闘はトヨタ自動車労組が昨年より500円上積みした1500円の実質的なベースアップを要求するなど、労働者への配分増を強く訴える組合が増えています。それに対する経営側は「業界一律の賃上げはあり得ない」「設備投資が優先」と抗弁し、例年以上に激しい労使の攻防が見込まれています。

春闘が本格化する一方、この時期に連合本部の高木剛会長と古賀伸明事務局長は東京を離れ、精力的に各県の地方連合会を回っています。今年7月22日の参議院議員選挙に向け、連合は民主党の小沢一郎代表の1人区全国行脚に協力することを合意しています。29ある改選数1の選挙区のうち25の選挙区入りに際し、連合側から必ず高木会長か古賀事務局長が同行する予定です。

前原誠司前代表は「脱労組依存」を掲げましたが、小沢代表は昨年4月の就任後から連合との関係修復に努めています。この小沢代表の1人区行脚に連合会長らが同行することにより、民主党と連合との緊密な支持協力関係を各県の連合組合員へアピールする狙いがあるようです。

この取り組みに対して、民主党内から「労組べったりのイメージがつくと無党派層が逃げるのではないか」と批判する声が上がっています。どのような組織にも執行部の方針と異なる意見や考え方を持つ人たちがいるのは当然であり、そのことを認め合った上で真摯な議論を交わしていけることが健全な組織の姿だと思っています。

しかし、自分たちが選んだリーダーの足を引っ張る批判意見は、できる限りマスコミなど外部に漏れないよう注意する必要があります。その意味で、今の安倍内閣のタガの緩み方は非常にお粗末であり、ぜひ、民主党はそのことを反面教師として学んでいただきたいものです。

とは言え、民主党議員からそのような声が出る背景も見過ごせません。つまり連合との関係をネガティブな「しがらみ」ととらえ、労組を重視する小沢代表の姿勢に不満を持つ議員が多いことは確かです。労組と距離を置こうとする民主党議員は、労組の声イコール特定の利益集団の声とみなし、その声を聞きすぎると無党派層が離れていくものと見ているようです。

また、連合の組合員数は約700万人ですが、3年前の参議院比例選での連合組織内候補の得票は173万票にとどまりました。加えて労組の推定組織率は2006年に18.6%となり、31年連続で低下しています。このように労働組合の社会的影響力は年々弱まっているため、あまり労組に頼ってもプラスではないと考えているようです。

残念ながら否めない現状もありますが、それでも労働者の数が国民の約半数を占めていることに変わりありません。したがって、率直な労働者の声を政治へ反映する重要性は今も昔も変わらないはずです。そのように考えれば、民主党は労働組合と緊密なパイプを持っている貴重さを堂々と宣伝材料にすべきだろうと思っています。

同時に労組側はきめ細かい日常活動を通し、組合員から「政治方針」への信頼を高めながら結束していくことが重要です。さらに組合員以外の未組織労働者や「非正規」労働者の声も代弁できる運動をめざし、その声も合わせて政治の場へ届けることが既存労組の責務だと考えています。

そのような情勢や問題意識を踏まえ、労働組合の代表を直接国会の場へ送り出す意義ははかり知れません。この7月の参議院選挙に向けては、民主党比例代表区に連合組織内候補として8名が擁立される見込みです。そのうちの一人が自治労のあいはらくみこさんです。

あいはらさんは札幌市役所の元国民年金員で、非常勤職員いわゆる「非正規」職員でした。小柄な体からあふれ出る持ち前のバイタリティーで、あいはらさんは非常勤職員の待遇改善に向けた運動を牽引してきました。その間、札幌市役所や北海道本部の役員を経験し、2003年9月から自治労本部の組織局次長を務めています。

参議院選の組織内候補の話が出た時、たいへん悩まれたとお聞きしましたが、今は元気に全国を飛び回られています。夕張市をはじめ疲弊した地方の実情、国主導で進められた市町村合併による弊害、様々な面で圧迫されている自治体職場の実態など、あいはらさんの産地直送ブログから「何とかしなければ」の熱い思いが伝わってきます。

あいはらさんの主張の第一は「すべての労働者に公正労働基準の確立」です。「非正規」職員だったあいはらさんの訴えだからこそ、より切実で重みのある言葉となっています。何としても国会の場で、あいはらさんの声を直接、安倍首相(退任していなければ…?)に聞かせる時が来ることを願っています。

かつては産別労組幹部が政治家へ転身することが多かったようですが、組織内候補の選び方も様変わりしたように感じています。各組合がキャリアや年齢などを問わず、資質や適性を重視し、国政にとっても有用な人材を送り出そうとしています。とりわけ「非正規」労働者の待遇改善も運動の大きな柱としている自治労は、その決意の表れとして、あいはらくみこさんを組織内候補へ擁立したものと受けとめています。

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コメント

お邪魔します。
国民の半数が労働者,おそらくは無党派層の率も高いと思われます。
それなのに,労組と近づくことが無党派層離れにつながる可能性があるということは,ずいぶん皮肉なことだなと思います。
その中で,あいはらさんのような方の声が,労働者の意識向上にもつながれば,とても良いことだと思います。
そういう意味で,「自治労の回し者」のように無党派層に取られないよう,あいはらさんにはうまくやって頂きたいなと思います。

投稿: WontBeLong | 2007年2月17日 (土) 23時43分

WontBeLongさん、さっそくコメントありがとうございます。
あいはらさんが自治労だけの声を代弁する候補ではなく、「非正規」労働者をはじめ、働く者全体の代表と期待されるよう一自治労組合員の立場から呼びかけていくつもりです。
その意味で、たいへん励みとなるコメントをいただき心強く感じています。ありがとうございました。

投稿: OTSU | 2007年2月18日 (日) 07時47分

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070218-00000009-mai-pol
いつもお世話になっています。
大変な記事を見つけたので是非OTHUさんにも意見を仰ぎたいと思いまして、コメントします。
今回の表題と関係ないことですみませんが、とても普通なら考えられないことですが、実際私もこのようなケースを見たことがあるので、お知らせしたくて書かせていただきました。

投稿: fufunyan | 2007年2月18日 (日) 13時57分

fufunyanさん、貴重な情報ありがとうございました。
さっそくご紹介くださったURLのニュース記事と合わせ、fufunyanさんのブログも読ませていただきました。
本来、どのような傷病でも休職制度の範囲内で、復帰をめざせるのが当たり前だと思っていました。したがって、退職を強要していた事例があったことに正直驚いています。
私の認識不足だったのかも知れませんが、自治労組合間の情報としても聞いたことがありませんでした。組合がない、もしくは組合のチェック機能が充分働かない公務職場では珍しくない事例だったのでしょうか。
また、弱者の立場を尊重した人事院の判断は大きく評価できます。余談ですが、年金調査などでも毅然とした態度を貫いて欲しかったところですが…。

投稿: OTSU | 2007年2月18日 (日) 19時26分

OTSU様、いつも拝見しながら初めてコメントさせていただきます。
わたしも一地方公務員であり、一単組の役員をやらせていただいています。

今年の参議院選挙は、民間労働者、公務労働者を問わず、「労働者」総体としていまの国政に対する審判を下す重要な選挙であると認識しています。

とかく自治労、あるいは民主党は「公務労働者」のためのものという認識があるように思いますが、記事にあるようにそれをいかに払拭するか、マスコミの「はやり文句」に踊らされない主張をいかに幅広く各層に訴えることができるかが問われているものと思っています。

そういう意味では、「揚げ足取り」に終始するのではなく、すべての労働階級に対して理解を得られる政策を打ち出せるかが問われているのだと思います。

わたしも自治労の一末端単組の役員として「あいくみ」の当選に向け尽力したいところですが、いかんせん知名度が低いのは否めませんので、その弱点をどう克服するのかが問われているのだと思います。

非情に雑駁なコメントで申し訳ないのですが、いまの情勢が良いとは思わない一労働者として、この選挙に取り組みたいと思っています。

今後ともこのサイトを通しての活発な議論、そして広く一般労働者への発信の場として発展されることを期待しています。

投稿: | 2007年2月22日 (木) 00時47分

山さん、はじめまして。コメントありがとうございました。
本当にその通りだと思います。記事本文でも記したとおり組合員以外の労働者へもアピールできる運動が求められている大事な局面です。また、その点を踏まえて統一自治体選挙や参議院選挙に臨む必要もあります。
あいはらんさんの当選に向けては、とにかく地道に自治労組合員の皆さんへ呼びかける以外ないものと思っています。その上で、「非正規」出身やその政策を組合員以外の皆さんにも広げていく取り組みが重要です。
お互い単組役員、いろいろ厳しい情勢ですが、前向きに頑張っていきましょう。これからもよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2007年2月22日 (木) 07時03分

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