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2007年1月27日 (土)

問題が多い労働契約法

「書くネタに困りませんか」と尋ねられる時がありますが、「そのようなことはありませんね」と自信満々(?)にお答えしています。特に最近は週一回の投稿ペースとなっているため、ブログで取り上げたい題材に事欠くことはありません。

例えば先週木曜日、休暇を取って自治労都本部の春闘討論集会に参加しました。労働基本権のあり方などを議論する場として行政改革推進本部の下に専門調査会が設置されています。その委員である岡部謙治自治労中央本部委員長から都本部への挨拶と合わせ、専門調査会の議論内容などの報告を受けました。

続いて情報誌「インサイダー」編集長の高野孟さんから「ユーラシアの世紀と日本の進路」と題した記念講演があり、午後には岩波新書「労働ダンピング」の著者である弁護士の中野麻美さんからもお話を伺う機会を得ました。

その夜は連合地区協議会の新春講演会兼旗開きもあり、中野から昭島まで移動し、地元選出の衆議院議員である民主党の長島昭久さんから最新の政治情勢などのお話を伺いました。質疑の時間、私から「民主党は連合との信頼関係があることを強みにして欲しい」と要望させていただきました。それに対し、長島さんはオランダのワッセナー合意の例などをあげながら、自民党の「3本の矢」に撃ち抜かれない旨の心強い立場を示していただきました。

特にその木曜日は密度の濃い一日となりましたが、それぞれの講演一つ一つがブログの記事本文で掘り下げたい興味深い内容でした。さらにその日、第166回通常国会が150日間の会期で始まりました。安倍首相は施政方針演説で憲法改正や教育再生を柱としていますが、野党側は「格差是正」を今国会での最重要課題に位置付けています。

また、今国会は「雇用国会」とも呼ばれるほど労働法制の見直し法案が目白押しです。最近の記事では「ホワイトカラーエグゼンプション」「労働ビッグバン」について取り上げてきました。その一連の流れから考え、今回は法案提出が予定されている「労働契約法」にスポットを当てることにしました。

現行の労働基準法による就業規則は労働者の合意がなくても意見聴取を行なえば、使用者が作成変更できるようになっています。しかし、賃下げなど労働者に不利な変更を制限する規定がなく、労働者が訴えて変更の有効性を争う裁判が相次いできました。

今国会へ提出される「労働契約法」とは採用から解雇まで、使用者と従業員の雇用ルールを定める新法となります。なお、賃金制度や勤務時間などの就業規則が労働者にとって不利な変更となる場合、「労働者との合意」を前提とするよう明記しています。

労働側に一定の配慮を示した一方、「不利益の程度」などに合理性が認められれば、合意なしに就業規則を変更できる例外も設けています。合理的かどうかの判断基準として、これまでの判例をもとに①労働者の受ける不利益の程度、②労働条件の変更の必要性、③変更後の内容の相当性、④労働組合などとの交渉状況の4点があげられています。

そのため、変更が合理的かどうかの実際の判断は、今後も個別の裁判に委ねられるものと見られています。つまり労働契約法の制定が、労使紛争の未然防止に役立つかどうかは不透明なままです。

以前から連合は増加する個別労働紛争の予防や解決を目的とし、民法の特別法として「労働契約法」の制定を求めてきました。しかし、使用者が一方的に作成変更できる就業規則を労働契約の成立や変更の中心手段とした点について、連合は拙速な結論だったと異議を唱えています。さらに「均等待遇」原則が盛り込まれず、就業形態が多様化する時代のルールとしても不充分であると訴えています。

ちなみにホワイトカラーエグゼンプションには諸手をあげて賛成していた経団連も「労基法制定当時とは異なり、労働者は必ずしも社会的弱者ではない。したがって、法律で労働者が専ら経済的弱者であるとの前提で、使用者のみに義務を課すことは妥当でない」とし、この法案には消極姿勢を示していました。その声を無視できず、結果として不利益変更の例外規定が設けられたのだろうと容易に想像できます。

実は当初の答申案では、労働組合の団体交渉権を組織率が一定割合以上の組合に限定することが検討されていました。しかし、最高裁も「例え一人しか組合員がいなくても使用者は等しく団体交渉の義務を負うこと」を認めているため、法案の段階で憲法違反のおそれがある内容は外されました。

しかしながら「少数派組合と交渉しても何も決まらず、時間の無駄で非効率」との声もあり、今後、このような乱暴な案が再浮上する可能性も消し切れません。特に「組合員の獲得に努力しなくても団体交渉権を入手できる現行システムこそ異常であり、結局のところ労働組合の弱体化を招く」と発言する学者がいることにも驚かされます。

その一方で昨年末、自民党は労働問題全般を議論する「雇用・生活調査会」を立ち上げました。その会議に出席した国会議員から「諮問会議の労働ビッグバンは儲け主義の財界の論理が強すぎる」と警戒する意見が相次いだようです。本来、財界寄りであるはずの自民党側がこのような批判を行なうほど、現在進んでいる労働法制見直しに数多くの欠陥がある証拠だと言えます。

矢継ぎ早に法案が示され、労働組合側が守勢であるような構図ですが、ホワイトカラーエグゼンプションの問題が示したとおり反撃する材料も事欠きません。この「雇用国会」での論戦を踏まえながら連合が先頭になって、労働組合の存在を広くアピールする絶好のチャンスだと見ている今日この頃です。

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コメント

人間の労働が“物件費”に組み込まれ、商品以上に買い叩かれる。本当にそのとおりです!
オランダの事例は以前調査したことがあります。今、田舎の街に求められているのはこれなんですが、高い壁が・・・

投稿: ニン麻呂 | 2007年1月29日 (月) 23時23分

ニン麻呂さん、コメントありがとうございます。
このようなテーマについて、もう少し次回以降の記事で踏み込んでみるつもりです。その際、経済財政諮問会議議員である国際基督教大学の八代尚宏教授の「非正規なりの雇用安定を」発言などを取り上げる予定です。

投稿: OTSU | 2007年1月30日 (火) 07時07分

 何時もなら多くのコメントが寄せれれるOTSUさんのブログに、この種のテーマになるとまったく反応がないというのはどういうことなんでしょう?

 公共サービスの市場化によって行政コストは確かに削減されてきています。優れた民間の技術・経営ノウハウの導入に負うところもあるかもしれませんが、単純な肉体労働の場合、そのほとんどは人件費の削減に拠るものです。
 これまで直営でやってきた事業が、民間に委ねられたとたんに一人当たりの人件費が半分以下、4分の1以下に低下することも珍しくありません。しかも、契約更新ごとに価格は下降していきます。

 先日、長い間一般廃棄物の収集運搬に携わる民間企業の経営者と話したときに、「15年間働いてもらった従業員に、一度も昇給させてあげられない。」ということを聞きました。   それで、「よく苦情がきませんね。」と答えると、「市との契約内容はすべて隠さず従業員には公表しています。燃料の高騰や車輌の維持費を考えれば、昇給は不可能だということ理解してもらっているから苦情はありません。しかし、それどころか契約更新ごとに価格は下がってきていますから、現状の給与すら維持できない状況にになっています。」ということでした。(これは創作話ではありません。取材を希望される方がいれば何時でも紹介します。)
 ところが、これまで幾度となく行政の無理な注文を聞いてきたその業者が、来年度の業務委託の競争入札に破れ、廃業することとなりました。(これも事実です。)現在保有している特殊車輌や従業員はとりあえず今年度一杯で行き場がなくなりますが、発注者側にそれらを補償する意思はまったくありません。新規契約者との雇用継続条件すらありませんので、これまで従事してきた中高年の人たちの受け皿は一切ありません。

 「仕事とは本質的に人権そのものである。」と、「労働ダンピング」の著者である弁護士の中野麻美さんが書かれていますが、私もそのとおりだと思っています。
 ここの「市職労」も、直営事業を民間委託・民営化に移行する計画が出た段階では、そのことを盛んに言い立てて反対しますが、一旦民間に移行すると全く無関心になってしまいます。

 それで、「公契約条例」などの話が出てくるのでしょうが、先行して条例制定をしている自治体の内容を見れば解るとおり、関連法令に違反がないから条例化が可能なのですから、発注者側がその気になれば、現行法令下での対応は十分できます。

 自治労のいう「人権」とは、自治体職員のみに限定された特殊な用語なのか!と毒づきたくなる毎日が続いています。

 今回のブログに対して異常にコメントが少ない理由もそのあたりにあるのでしょうか?

投稿: ニン麻呂 | 2007年2月 2日 (金) 10時44分

ニン麻呂さん、コメントありがとうございます。
今回、コメントが少ないことに深い理由はないものと思っています。その上で、私たち常勤労働者の公務員は、ニン麻呂さんの問題提起に正面から受けとめていく必要性を痛感しています。
また、新たに「公契約条例」の制定を待たず、できることが多い点もニン麻呂さんのご指摘により認識を深めています。今後、どう自分のところの自治体で実践できるか、真摯に検討していきます。

投稿: OTSU | 2007年2月 2日 (金) 12時57分

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