ホワイトカラーエグゼンプション
特に安倍首相の粗探しをしている訳ではありませんが、またまた「?」マーク付きの発言が報道されました。今、話題となっているホワイトカラーエグゼンプションに関し、安倍首相は「残業をしないことは働きすぎの日本人が家庭で過ごす時間を取り戻し、少子化対策にもつながる」と述べたようです。
ホワイトカラーエグゼンプションの内容や騒がれている問題点を政府の最高責任者が把握していないような発言内容でした。知っていて煙に巻いたのか、それとも「育ちの良さ」から庶民の気持ちが実感できないため、本気で「残業がなくなる」法案だと思っているのでしょうか。
ところで前回記事「2007年、しなやかに猪突猛進」へ、本当に多くの方からコメントをいただきました。改めてありがとうございました。様々な切り口から貴重な提起をいただきましたが、その中で今回の記事では注目度が高まっているホワイトカラーエグゼンプションについて取り上げてみます。
今月25日から始まる通常国会への法案提出が予定されている日本版ホワイトカラーエグゼンプションとは、管理職の一歩手前の事務職(ホワイトカラー)のサラリーマンを労働基準法の労働時間規制から除外(エグゼンプション)する制度です。
対象者の条件として、労働時間の長さで成果を評価できない、重要な権限や責任を相当程度伴う地位にある、業務の手段や時間配分を経営側から具体的な指示を受けない、年収が相当程度高い(800万から900万円以上を想定)、以上の4項目が示されています。
企業が導入する場合、事前に労使で協議し、労働者側の同意を必要とします。この制度の対象とされた労働者は、1日8時間、週40時間の法定労働時間規制から外れ、自分の判断で出社退社時刻など日々の労働時間を調整できるようになります。その一方、残業手当は支給されず、仕事の成果で給料が決まることになります。
「頭脳労働では調子が上向いた時、集中的に働く方が効率的。集中して働き、時間に余裕がある時は休暇を取ったり、労働時間を短くできる」と日本経団連は新しい働き方の理想像を提言しています。安倍首相をレクチャーしている厚生労働省は「自分の仕事を片付ければ、後は自由。早く帰って子育てもできる。仕事と生活の調和がはかれる」とメリットを強調しています。
しかし、労働組合側はサービス残業を追認する「過労死促進法」と呼び、猛反発しています。週休2日に相当する年104日の休日確保を企業側に義務付けるようですが、裏を返せば年休や祝日分などは保障されず、261日間、どれだけ働かせても良いと企業側にお墨付きを与えるものだと言えます。
時間外勤務の場合、通常25%、休日出勤で35%の割増賃金を支払うことが労基法で定められています。今回の法改正に向け、経済界や厚生労働省がどのような美辞麗句で説明を加えたとしても人件費削減の便法であることは明らかです。残念なことに「国際的な競争力を高めるため」と言われ、労働者をコスト面からとらえる悪しき風潮が強まっています。
このブログを始めた頃の記事「なぜ、労使対等なのか?」の中で、「国家としても国民の多数を占める労働者が豊かにならなければ、社会や経済の健全な発展ができないことに気付きました」と記しました。要するに数多くある労働法制は決して権力側の「お情け」で与えられているものではありません。それにもかかわらず、最近の経営者側の姿勢、それを短絡的に代弁する自民党、本当に腹立たしく思います。
なお、エニグマさんから公務員にも適用されるかどうかのご質問がありました。次の国会へ提出される法案は労基法の改正を中心としたものであり、原則として公務員は労基法の対象外とされています。したがって、不明確な点も残っていますが、公務員には適用されない見方が強いようです。
しかしながら実際にホワイトカラーエグゼンプションが導入された場合、公務員も例外とせず、近いうちに必ず地方公務員法などが改正されるはずです。ホワイトカラーエグゼンプションを民間先行で導入する点について、公務員と民間労働者の足並を乱す意図まで感じ取るのは少し考えすぎでしょうか。
とにかく最近、安倍政権のお粗末さや迷走ぶりが際立ってきました。公明党の太田代表は早くから反対の意向を示し、自民党の中川幹事長と丹羽総務会長も「法案の提出見送り」の考え方を明らかにしました。一方、柳沢厚生労働相は依然提出に前向きなようであり、内閣と与党の連携の不充分さや統率のなさが浮き彫りになっています。
法案が白紙撤回されるのでしたら大歓迎ですが、サラリーマンの怒りの声にひるみ、「統一自治体選挙や参議院選挙が戦えない」とし、単なる先送りだとすれば冗談ではありません。不利になる争点を隠し、選挙が終わったら経済界の顔を立て、改めてホワイトカラーエグゼンプションの導入をめざすシナリオであれば、有権者を侮った姑息な話だと言わざるを得ません。
いずれにしても国民の中で多数を占める労働者が一枚岩になって、アメリカ的な発想の労働法制改悪の動きに歯止めをかけていく必要があります。そのためにも既存の労働組合が組合員や未組織労働者の声を適確につかみ、よりいっそう働く者の切実な思いを代弁していく役割が期待されているはずです。自分の所属する組合の中で、自治労の中で、連合地区協の中で、そのような視点を重視しながら改めて頑張っていこうと考えています。
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コメント
申し訳ありません。操作を誤ってTBを2回送ってしまいました。このコメントも含めて削除して頂いて結構です。
新年早々ご迷惑をお掛けします。
投稿: WontBeLong | 2007年1月 9日 (火) 03時19分
WontBeLongさん、コメントとTBありがとうございました。
TBの重複分は削除させていただきました。
記事を読ませていただきましたが、オンとオフの区別、本当に必要ですね。現行制度の管理職も残業代は出ませんが、一応オンとオフとなる出勤と退勤時間が定まっています。その点からも今回の法案への問題が際立っているように思えます。
それでは今年もよろしくお願いします。
投稿: OTSU | 2007年1月 9日 (火) 08時16分
「ホワイトカラー・・」なんて、カタカナ表記からして怪しい気がします。
そもそも、未払い残業(サービス残業)の問題が、きちんと総括されていない現状で、本当に理想の就業形態となりえるのか、大きな疑問があります。
さまざまな働き方があってもいいとは思いますが、日本の雇用環境、職場環境、社会環境を本当に検証しての法改正なのか?
開発研究業務などならまだ分かるのですが・・・???
投稿: shima | 2007年1月 9日 (火) 12時32分
shimaさん、コメントありがとうございます。
実は大事な点を記事本文でもらしていました。今回導入を予定している法案は年収を800万円以上と高めに設定していますが、経済界の当初の思惑は400万円位からの対象者を想定していました。労働者派遣法の時もそうでしたが、反発が予想される新たな法案を導入する際、意識的に対象者などを限定的にしているように見受けられます。
新たに導入する時は大きな注目を浴びますが、ひとたび通ってしまった後は対象者の拡大など比較的容易に変えられてしまいがちです。したがって、現時点で自分には関係ないと思われている方も、決して他人事ではない法案であることを訴えたかったのを本文で言い忘れました。
shimaさんのコメント返信を利用させていただき、たいへん失礼致しました。
投稿: OTSU | 2007年1月 9日 (火) 12時55分