労働ビッグバンに対し、連合への期待
不払い残業の合法化と批判された「ホワイトカラーエグゼンプション」の導入は見送られることになりました。安倍首相は「国民の理解が得られていない」と述べ、今月25日から始まる通常国会へ提出する労基法改正案に盛りこむことを断念しました。
厚労省が率先して法案の提出に固執していましたが、「参議院選挙を戦えない」と考える与党の圧力に屈した結果でした。同じように日銀の利上げ見送りも自民党からの強烈な圧力を無視できなかったように見られています。
安倍首相は「政治的圧力はまったくない」と釈明していますが、自民党の「ダブル中川」幹事長と政調会長は「当然の判断だ」と誇らしげに発言しています。さらに「利上げで景気が悪化すれば、夏の参院選は逆風選挙になる」と神経をとがらしていた与党幹部の声もあり、ここでも参院選をどう乗り切るかという姑息な自民党の姿勢が目立っています。
加えて二つの問題で共通しているのは自民党とりわけ中川幹事長の存在感が増し、官邸サイドと与党との力関係が逆転している点です。小泉前首相の時は与党を軽視し、すべての政策判断を官邸主導で下していたように思えます。必然的に当時の自民党幹事長は「お飾り」的なものとなり、本人自ら「偉大なるイエスマン」と称した武部前幹事長などは象徴的な存在でした。
対照的に頼りなさが際立ってきた安倍首相の影の薄さや立て続けに発覚する現職閣僚らのスキャンダルによって、内閣支持率は急激に低下しています。しかしながら民主党側も事務所費問題や角田参議院副議長の献金問題が取り沙汰され、追及する拳の振り上げ方が今一つ鈍いようです。
さて、このような政治情勢の中、2007年の春闘を迎えます。格差是正やワーキングプアの問題などが注目され、労働ビッグバンと呼ばれるほど従来の働き方を大きく見直す動きが強まっています。労働ビッグバンとは政府の経済財政諮問会議で提言されている労働市場改革の呼称であり、労働力人口の確保や労働時間の裁量化などをめざしています。
その方針に沿ってホワイトカラーエグゼンプション導入の話が浮上するなど、労働ビッグバンは経済界の意向が色濃く反映しているものと見られています。要するに企業利益確保のため、低賃金労働者の確保を目的とした労働法制改悪だと言い切れます。
したがって、今こそ労働組合の存在感を発揮すべき局面であり、700万人近くの組合員を擁する連合の役割と責任は非常に重要です。ホワイトカラーエグゼンプションの導入に対し、連合は反対の立場を明らかにしながら強く批判する意見を発信していました。このような連合の働きが功を奏し、法案提出見送りの流れを作り出したことも確かです。
一方で、ホワイトカラーエグゼンプションの問題を取り上げたテレビやラジオの番組で「なぜ、もっと労働組合は反対しないのか」と言われた時がありました。「ピンチはチャンス」との言葉があるように連合の存在感を一気に高める絶好の機会だったかも知れません。連合として最善を尽くしたものと思いますが、結果的には国民全体へのアピールが今一つ不足していたことになります。
傍目八目の立場であるため、勝手な意見を述べていますが、決して連合の動きを批判している訳ではありません。この間、高木剛連合会長は積極的にマスコミのインタビューなどに応じているようです。特に日経ビジネスオンラインの中で「アメリカスタンダードは世界標準にあらず」との発言は非常に印象深く、日本の労働者を勇気付ける言葉となり得るはずです。
ホワイトカラーエグゼンプションの問題で浮き彫りになりましたが、何でもアメリカ型を志向している政治に多くの国民が疑念を抱き始めています。また、アメリカ資本が好むような社会経済に変えられていく構図に危機意識を持つ人も増えています。このような国民の思いを連合が着実につかみ、よりいっそう社会的影響力を発揮できるよう願っているからこそ、ハードルを高くした期待感を託しているつもりです。
蛇足となりますが、私どもの組合の先輩が連合本部の副事務局長を務めています。先日、久しぶりにゴルフを一緒に楽しみました。土砂降りの中でしたので、スコアは二の次となりましたが、合間の雑談でいろいろ興味深い話を聞くことができました。日夜奮闘している連合本部役員の苦労を改めて感じ取った貴重な機会となりました。
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コメント
ホワイトカラーエグゼンプションの見送りは、選挙対策としての問題の先送りであり、参院選が終われば、再浮上することは間違いないでしょう。参院選で自民党の議席を減らさなければ、意味がないと思うのですが、選挙民の多数を占める労働者の投票行動が気になるところです。
投稿: 道庁の☆になりたい | 2007年1月21日 (日) 04時51分
道庁の☆になりたいさん、コメントありがとうございました。
本当にその通りです。不利になりそうな争点を隠し、選挙が終わったら改めて法案を提出する自民党の意図は明らかです。
この発想は様々な意味で有権者をバカにしている話です。ご指摘のとおり特に労働者は、このような自民党の思惑を忘れず、貴重な一票を行使すべきものと思っています。
投稿: OTSU | 2007年1月21日 (日) 09時07分
お邪魔します。
具体的には書けないのですが,身近にあった出来事から,ちょっと感じたことがあります。
大した根拠ではないので,かなり穿った見方にはなりますが。
それは,連合などはホワイトカラーエグゼンプションに本気で反対していないのではないかということです。
サービス残業問題は落としどころの見えない問題で,ホワイトカラーエグゼンプションを受け入れれば,この問題に関する闘争を減らせるので,責任が減って楽になると考えているように見えなくもないように感じます。
疑心暗鬼に過ぎるでしょうか。
投稿: WontBeLong | 2007年1月21日 (日) 10時55分
WontBeLongさん、コメントありがとうございます。
記事本文で記したとおり連合は本気で今回、ホワイトカラーエグゼンプションの導入に反対していました。しかし、このようなご意見をいただくように国民へのアピールが不足していた点も確かに否めません。
また、ご紹介した高木連合会長へのインタビュー記事の見出しは「労働組合は物分りが良すぎた」とあり、経営者側主導で進む労働法制改革に「待った!」と示されています。ある意味で現状を追認しがちだった労使協調路線を脱皮し、たたかうべき時はたたかう姿勢を明らかにしています。
特に最近は非正規労働者や未組織労働者も含めた社会的な底上げを活動の大きな柱としています。今後、具体的な結果を出すことで内外の信頼を築いていくことが重要だと思っています。
投稿: OTSU | 2007年1月21日 (日) 11時25分
田舎へ行くと「ワーキング・プア」ばかりです。未組織労働者ばかりで、皆随分な使われ方をしていますが、辞めたって他に仕事もないし・・・というところですねぇ。
それに、経営者だって内情は火の車です。公共工事が激減して、さしもの鉄壁の談合体制も崩壊しつつあります。
今日、鳥取県の片山知事がコメントしていました。「落札率の極端な低下については検討すべき課題だが、談合防止とは別の議論だ!」という尤もらしい内容ですが、最近の田舎の建設業界を見ると、これだけ大きな額の入札で75%前後の落札が続くと、やっぱりこれではヤバいんじゃないか?・・・という思いはありますね。
で、結局ダンピングまがいの落札価格のシワ寄せは、下請けの現場労働者に来るんです。
さらに、直営事業の民間委託・民営化の入札をすれば、これもダンピングまがいが多く、ここで働く作業員の給与は、とても一家の生計を維持できるような額ではありません。
日本の労働者の組織率がどの程度か正確には知りませんが、多分15%未満程度ではないかと思います
田舎では、比較的恵まれた労働条件の人たちだけが組合員なんです。本当にその日の生計を立てるのが精一杯のような人たちを守るのものは何もありません。
で、結局、あまりにひどい元請との交渉をしたり、役所と掛け合うのは保守系議員、就職のお世話をするのも保守系議員ですからね、自民党が負けないはずですよ!
OTSUさんは、「このような国民の思いを連合が着実につかみ、よりいっそう社会的影響力を発揮できるよう願っているからこそ、ハードルを高くした期待感を託しているつもりです。」といわれていますが、少なくとも行政が作り出している田舎の「ワーキング・プア」を救済できないようだと、自民党の牙城は崩せないでしょうね^^;
まぁ、この国はどこかおかしいですから・・・特に私のところは・・・
投稿: ニン麻呂 | 2007年1月22日 (月) 23時06分
ニン麻呂さん、コメントありがとうございます。
ニン麻呂さんのブログ「地方議員の本音」も読ませていただいていますが、ご指摘の問題意識は非常に悩ましく痛感している点です。そのような問題を具体的に解決や改善がはかれないようでしたら、耳ざわりの良い言葉もすべてお題目となってしまいます。
労働組合やその一役員の力は微力ですが、出来るところ、めざせるところから努力していこうと思っています。これからもニン麻呂さんの問題提起を様々な意味での貴重な参考材料とさせていただきます。
投稿: OTSU | 2007年1月23日 (火) 06時59分
OTSUさんの言われるように、未組織労働者の救済ができない、しかも行政が発注する委託業務に携わる労働者すら救済できずに、いくら「働くものの権利」を主張しても単なるお題目に過ぎません。
自治労は、「公契約法」の制定に取り組んでいますが、この種の法律の制定を待たなくても、総合評価方式の導入などで、現実対応した評価基準を設定することによって、現行法令下でもある程度の対応は可能だと思っています。
私が首長ならやっていると思いますが、ここの首長も官僚上がりですから動きませんね。
それと、自治労本部がこの公契約法の制定に向けて運動を進めても、中央官庁と田舎の末端組織は足を引っ張っるのではないでしょうか。
多くの分野で「利権」が侵食されますからね・・・本当に悩ましいことです・・・
投稿: ニン麻呂 | 2007年1月24日 (水) 00時17分
ニン麻呂さん、コメントありがとうございます。
お題目とならないような組合運動に改めて頑張ります。具体的な行動を提起し、実践できるフットワークを鍛錬していきたいと思っています。
投稿: OTSU | 2007年1月24日 (水) 06時50分
なんだかすごくお久しぶりで申し訳ありません。
別に他意はなくて、ただ、私ごときがいろいろ意見を述べるには難しい部分が多いかなと思っただけですので…。
「ホワイトカラーエクゼンプション」というのも、確かに善きも悪しきもいろいろ考えべきなのでしょうが、今の私はそれ以前に、目の前にある仕事をこなして、職場の中の信頼を勝ち取らなければならない立場にあると思っているので、難しい問題は考えてはいられない、というのが正直な所なのです。
ところで、今回はむしろ「連合」について、OTSUさんの意見を聞きたい、と言うのがメインでして…。
OTSUさんはもちろん連合系の労働組合の幹部として、連合の役割に期待されている所が大だと思います。
しかし、連合が結成されたのがもう20年ほど前かと思いますが、その頃、労働組合のナショナルセンター再編の課程で、特に旧総評系の組合が連合を「右寄り」「財界との馴れ合い」と批判し(私がかつて勤務していた私鉄の組合もそうでした)、反連合のナショナルセンター(「全労連」「全労協」ですか)も結成されました。彼らは未だに連合に批判のまなざしを向けている訳ですが、OTSUさんは逆に彼らの存在や主張をどのように感じておられますでしょうか。
(一番最初の投稿で「自治労」対「自治労連」の対立についてもいつか取り上げて欲しいと書いたと思いますが、これも理由の一つです。)
また、このブログは公務員の各種の問題を議論するのがメインかと思いますが、連合は官・民双方が結集してできたナショナルセンターです。という事は、ひょっとしたら連合の内部で公務員改革を巡って官・民が確執なんて事態も起きているのでしょうか?民間企業の労働組合の人たちは公務員問題をどう考えているのか?その辺も知りたいと思っているのです。
私ですか?ナショナルセンターなんてどうでもいい、というのが正直な所です。労働組合は「労働者の雇用・労働条件・権利を維持・向上させる」ためにあるはずで、そこには右とか左とかなんて関係ないはずですから。そんな政治的な部分は組合員一人一人が自己責任で考えればいい事で、一握りの活動家連中の自己中心的な思想で善悪を選別されてはかなわないです。 また支離滅裂な文章になってしまったようですみませんでした。
投稿: 菊池 正人 | 2007年1月27日 (土) 01時02分
菊池正人さん、お久しぶりです。コメントありがとうございました。
私も労働組合の第一の使命は組合員の労働条件の維持向上だと思っています。その視点を出発点として、一定の政治社会的影響力を持つことも必要だと受けとめています。
したがって、特定のイデオロギーや党派への支持が最優先される組合運動は論外であり、そのように大半の組合役員は心がけているはずです。また、このことが組合員の皆さんから充分理解を得るためにも、日頃から丁寧な情報発信や意志疎通が非常に大事だと考えています。
連合に関する問いかけですが、働く者同士の共通課題を解決していくための貴重な存在になっているものと思っています。確かに産別間で個別方針の違いもありますが、大切なことは違いを際立たせ、対立していくのではなく、信頼関係を暖めていくことが重要だと考えています。
各論に関しては率直な議論を交わせる関係が大切であり、著しい格差社会をどう解消するのか、平和な社会をどう築くのか、同じ立場となり得る総論での結集が欠かせないはずです。
また、そのような信頼関係が連合内での公務員組合と民間組合との間で築けなければ、公務員組合の訴えは幅広い支持を得られないものと思っています。
たいへん重要な問いかけに対し、充分な答えではないかも知れませんが、お許しください。今後、このようなテーマについても機会がありましたら記事本文でも取り上げさせていただきます。
ちなみに菊池正人さんの以前の要望を忘れていません。今までに年金と自治労不祥事の問題は記事本文で取り上げました。もう一つの路線対立問題も、私自身は今回のコメントに記したとおり考えています。いずれにしても同様に機会がありましたら記事本文でも触れさせていただく予定です。
投稿: OTSU | 2007年1月27日 (土) 12時42分