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2006年12月17日 (日)

改正教育基本法が成立

記者「今年一年を漢字一文字で表すと“命”が選ばれたそうですが、安倍総理ご自身の一年を漢字一文字で表した場合はいかがでしょうか?」

安倍「うーん…、“変化”ですね」

記者「(苦笑)一文字ですが…?」

安倍「うーん…、それでは“責任”ですかね」

テレビの報道番組で映し出されていた安倍首相へのインタビューの一コマでした。このような「天然」のパフォーマンスを持つ安倍首相は、教育基本法の改正を今国会の最重要課題と位置付けていました。

5月に投稿した記事「教育基本法と愛国心」で、私自身、この法改正の動きに違和感を抱いていました。特に最近、「学級崩壊やいじめ、未成年の凶悪犯罪の増加など、現行の教育基本法が不充分だから改正する」との声を耳にします。

果たして、本当にその通りなのでしょうか。基本法にそって個別法の改正や新設があり、具体的な施策が決まっていきます。しかし、現行基本法でも充分に懸案課題へ対処できたはずであり、効果的な対策をはかれていなかった言い訳と改正が必要だとする方便に使われた気がします。

現行基本法が個人・個性重視に偏りすぎているため、「公共の精神」や「規律」「道徳心」が軽視され、自己中心的な考え方が広まっていると一部で言われていました。この話も少しおかしく、「個」も「公」も大切であり、現行基本法が「公共の精神」を教えてはいけないと書いてある訳ではありません。

いろいろな方のブログを見る機会が増えていますが、教育基本法の改正問題に関しては賛否両論の記事に接しています。とにかく国民の中で、この改正に反対する根強い声が多数であることも事実です。

この改正教育基本法の問題に対しては、野党も足並をそろえ反対に回りました。残念ながら圧倒多数の議席を自公与党で占める国会勢力図の中で、野党の反対は「ごまめの歯ぎしり」にとどまり、一昨日、改正教育基本法が成立しました。

この改正によって、公共の精神の尊重を強調し、生涯学習や大学に関する条文が追加されました。教育目標に「我が国と郷土を愛する態度を養う」との表現で、「愛国心」も新たに盛り込まれました。一つ一つの文言自体、それほど過激な表現はなく、目くじら立てて反対する人たちを「サヨク」「プロ市民」などと揶揄する声も耳にしています。

それでも「国を愛せない」と言われる方がいても容認すべきものであり、価値観の善し悪しを法律で縛ることに抵抗感を拭い切れません。多様な価値観や考え方を認め合っていける社会が好ましく、「愛国心」を態度で示せない人が処罰されるような時代への逆行は絶対避けなければなりません。

改正反対の声を無視し、教育基本法のタウンミーティングで「やらせ」質問まで駆使し、世論を偽装し、強行することに今の安倍政権の大きな意図を感じ取ってしまいます。この法改正に続くのが「とんでもない法律、共謀罪」であり、改憲に直結する国民投票法案だと思っています。

振り返れば、小泉前首相最後の通常国会でも、改正教育基本法や共謀罪は重要法案と位置付けられていました。ただ郵政民営化のみに異常な執念をみせた小泉前首相にとって、それらの法案成立には関心が薄かったようでした。

それが岸元首相の血をひく安倍首相に代わり、改正教育基本法は「最」がつく重要法案となり、今回の改正に至りました。当然、これからも戦後政治の決別につながる最重要法案が目白押しに示されるのだろうと覚悟しています。

さらに振り返れば、昨年9月、郵政民営化法案が参議院で否決されたのにも関わらず、衆議院を解散し、その法案の是非を「国民投票」と称して総選挙が実施されました。「刺客」候補などメディア戦略が注目を浴び、小泉自民党が300議席近く獲得する歴史的な大勝となりました。

言うまでもなく、その総選挙で教育基本法の改正などの重要課題は争点化されていません。郵政民営化の是非に集約された「小泉劇場」の結果、このような巨大与党が誕生することになりました。しかしながら国の基本的な姿に直結する様々な法改正に対し、多くの国民が決して自民党へ「白紙委任」したつもりはないはずです。

最近、郵政民営化法案に反対し、その総選挙で「刺客」候補と戦った野田聖子代議士ら11人が自民党に復党しました。このこと一つ取っても、昨年9月の総選挙の理不尽さが思い起こされ、衆議院で自公与党が3分の2の勢力を占める構図の不当さを感じているところです。

最後に話は一変しますが、先週金曜夜、職場の忘年会がありました。2次会の席で、ある方と激しい議論を交わしてしまいました。声を荒げてしまう場面もあり、たいへん失礼致しました。忘年会で堅い話ばかりしていた訳ではありませんが、その後も遅くまで飲みながら語り合い、結果的には貴重な議論を交わせたものと思っています。

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コメント

お邪魔します。
教育基本法改正への賛否が「愛国心」への賛否に置き換えられている構図が大きな問題のように思います。
私は「愛国心」は基本的に全国民が持って然るべきと考えていますが,それを極めて基本的な法律で縛ることに危険な匂いを感じるので今回の改正には反対です。
「自分の国を愛するのは当然だろう」と言われて,「それはそうだな」と思う人たちの多くがその匂いを感じられれば,例え法改正が行われてもそれ以上変な方向へ向かうことは防げるのではと思うのですが,なかなか難しそうですね。
利己心ばかりの者達に愛国心を持つ人達が弄ばれるとしたら,絶対に許せないことだと思います。

投稿: WontBeLong | 2006年12月19日 (火) 00時29分

教育基本法から離れるのですが・・・

『愛国心』と『民族主義』、『国家主義』は異なるものと考えます。
サッカーや野球などスポーツの大会で自国を応援するのは当然に愛国心の現れでしょうし、誰もが自然に思い、行動するものです。
オリンピックで「日の丸」が揚がり、「君が代」が流されているのをみて、「やめろ!」という方が、なんか変!!!!!
しかし、いずれも「強要」されるはもっと嫌!
やはり、それぞれの「内なるもの」が自然と表現されるかたちですよ!
「やれ、こうしろ!ああしろ!これはいかん!」なんて、愚の骨頂と・・・・。
強制される愛国心なんて国民に定着するのか??某将軍様の国みたいですよ。

投稿: shima | 2006年12月19日 (火) 08時26分

WontBeLongさん、shimaさん、コメントありがとうございます。
アジア大会などで日本選手が健闘することに誇りを感じ、地元西東京代表の早実の甲子園大会優勝を喜び、私も少なからず属するエリアや組織に愛着を持つタイプだと思っています。そのようなシンプルな意味で日本という国が嫌いな訳ではなく、国際社会の中で尊敬される国になって欲しいものと願っています。
今回の法改正も「統治機構つまりその時の権力を愛せ」と強要するものではないとの説明も聞きます。しかし、それも現政権に対する信頼関係が薄い中で、将来にわたって担保されるのか疑問を抱いてしまいます。
このような問題意識から「愛国心」のような文言が法律となることに懸念を持ち続けています。

投稿: OTSU | 2006年12月19日 (火) 08時27分

管理人様、はじめまして。

私、以下のHPを運営しております、たけと申します。

 タイトル: 国家・地方公務員採用試験 問題集を完全網羅!
 URL : http://koumuin-text.com/

このHPは、国家公務員や地方公務員採用試験の受験対策に役立つ書籍の紹介や、受験情報などを提供することを主な目的にしています。

まだまだコンテンツも不十分で未熟なサイトであることから大変失礼かと思いましたが、弊サイトとの相互リンクをお願いいたしたくコメントをお送りしている次
第です。

なお、勝手ながら、貴サイトは、既に弊サイトのリンク集に掲載させていただいておりまして、掲載ページは下記のとおりです。

  http://koumuin-text.com/link/koumuin_b.html

お忙しいところお手を煩わしてしまい誠に申し訳ございませんが、ご了解いただけませんでしょうか? 何卒よろしくお願いいたします。

それでは、風邪などひかれませんよう、何卒ご自愛下さい。

投稿: たけ | 2006年12月19日 (火) 09時40分

たけさん、はじめまして。こちらこそ当ブログをリンクいただき、ありがとうございました。さっそく右サイドバーの相互リンクに加えさせていただきました。
このように幅広く大勢の方とつながっていける機会は、たいへん貴重なものだと感じています。どうぞ、これからもよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2006年12月19日 (火) 12時26分

はじめまして。
福岡県のとある市役所の職員です。
いつも、複雑な心境で拝見しております。

>現行基本法が個人・個性重視に偏りすぎているため、「公共の精神」や「規律」「道徳心」が軽視され、自己中心的な考え方が広まっていると一部で言われていました。この話も少しおかしく、「個」も「公」も大切であり、現行基本法が「公共の精神」を教えてはいけないと書いてある訳ではありません。

>それでも「国を愛せない」と言われる方がいても容認すべきものであり、価値観の善し悪しを法律で縛ることに抵抗感を拭い切れません。多様な価値観や考え方を認め合っていける社会が好ましく、「愛国心」を態度で示せない人が処罰されるような時代への逆行は絶対避けなければなりません。


旧教育基本法は「公共の精神」を教えてはいけないと書かれていた訳ではありません。しかし、教えなければならないと書かれていたわけでもありません。そのため、教育の場での扱いが薄くなったわけです。「個」も「公」も大切であるにもかかわらず、です。

さて、

「個人の尊重」が自由放任の教育につながったと考える者、
キリスト教的世界観に支えられている「個人の尊重」を普遍的概念と偽ることに違和感を感じる者
にとって、「個人の尊重」が善い価値観として法律の目的に掲げられていることに、抵抗感を拭い切れません。
ところが、この違和感・抵抗感をネット上で主張したところ、いわゆるリベラルを標榜する方に「ウヨク」「軍国主義の片棒を担ぐ者」と非難される・・・そんな経験は数知れずです。

「個人の尊重」も「道徳心」も価値観という点では同列。
価値観の強制がいけないという主張が正しいのなら、「個人の尊重」も教育基本法の中身から外すよう主張すべきです。


>改正反対の声を無視し、教育基本法のタウンミーティングで「やらせ」質問まで駆使し、世論を偽装し、強行することに今の安倍政権の大きな意図を感じ取ってしまいます。この法改正に続くのが「とんでもない法律、共謀罪」であり、改憲に直結する国民投票法案だと思っています。


私の市役所では、組合経由でよく署名の依頼が回ってきます。
勤務時間中に、です。
教育問題、人権問題、地方交付税の問題、民主党議員の応援など、署名の種類も様々です。
自分のほか、親族の名前まで書くよう求められます。
また、市主催の行事や組合が協賛する同和学習会・平和行進などで動員がかかることも少なくなく、そこに一般参加者という名目で参加することになります。
こういう署名の結果や集会の様子が新聞の地域欄に取り上げられることがあるのですが、世論の偽装となりませんか?

こういうことが日常的に周りで起きているせいか、タウンミーティングのやらせが発覚しても、怒りや憤りといったものを何ら感じませんでした。

関係ない自治体のOTSUさんに愚痴をこぼしてもしょうがありませんね
・・・反省ですorz

投稿: 末端の市職員 | 2006年12月19日 (火) 12時37分

末端の市職員さん、はじめまして。貴重な提起となるコメントありがとうございました。

多様な考え方を尊重し合うことが大事だと思っていながら、このようなテーマを取り上げると直情的な物言いが目立っているかも知れません。個人の責任によるブログですが、組合委員長の立場を明らかにし、組合活動を身近に感じてもらえるよう考えて続けています。

したがって、異なる考え方をお持ちの方と距離が広がるような記事内容では不本意なものとなります。幅広い考え方を意識しすぎて自分の主張が薄まらないよう注意しながらも、いろいろな方の心の片隅に共感を呼べるような記事内容へ工夫していこうと考えています。

末端の市職員さんのご指摘から少し外れたお答えで始まり恐縮です。タウンミーティングの問題は、確かに教育基本法改正に反対している方たちの声で埋まらないようにするため、「やらせ」質問が常態化した面があるようです。それでも様々な運動体が参加者を動員することは想定すべきものであり、だからと言って行政側が「やらせ」を演出することは絶対問題だと考えています。

さらに動員される労組組合員が必ずしも組織の方針と一致していない場合が多く、そのような動員者が占める集会なども「世論の偽装では」とのご指摘でした。仮に嫌で嫌で仕方ないのに半強制的に動員されているとしたら本当にその通りかも知れません。ただ多少言い訳気味ですが、組合という組織の方針を決めるのは構成員一人ひとりの意志であり、最低限、その意志を集約する機関手続きを経ているはずです。一方で「だから決まったルールに全員が粛々と従うべき」と言うのは乱暴な話だと思っています。

とにかく日頃から情報や問題意識を組合役員と組合員が共有化し、一丸となって諸課題に立ち向かっていけることが理想だと願っています。そのような一助になればと思い、このようなブログを続けてきているつもりです。

たいへん長い返信コメントとなってしまいましたが、ぜひ、これからもお気軽にご意見やご感想をよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2006年12月19日 (火) 22時41分

JBU賛同ありがとうございます。 一つ質問ですが・・・教育基本法「改正」法案とほぼ同時に成立した防衛省昇格法案についてはどのように考えているのでしょうか・・・。

投稿: JBU・日本ブロガー労働組合 | 2006年12月19日 (火) 23時42分

JBU・日本プロガー労働組合さん、おはようございます。前々回記事の冒頭で自分なりの感想を書き込みました。それをご紹介し、取り急ぎのお答えとさせていただきます。それではJBUの活動、頑張ってください。


防衛庁の省への昇格が確定的になりました。防衛庁長官が防衛大臣と呼ばれるようになり、内閣府の外局の長から主任の大臣となるため、法案などを直接提案できるようになります。また、この機会に自衛隊の海外活動が本来任務と位置付けられるようです。

ある意味で現状を追認する法改正であり、国民の関心は薄く、大きな反対運動も起こりませんでした。民主党も賛成票を投じていますが、なぜ、今まで防衛庁だったのか、そのこだわりが軽視されているようであり、個人的には残念な法改正だと思っています。

日本だけ平和であれば良い、非武装中立ならば戦争に巻き込まれないなどと考えている訳ではありません。それでも泥沼化したイラク戦争が示しているとおり、武力によって平和は築けない現実があります。だからこそ日本国憲法の平和主義にこだわり続け、防衛庁問題など一つ一つが「特殊な国」であることの証であり、そのことを誇りにすべきことだろうと考えていました。

投稿: OTSU | 2006年12月20日 (水) 07時24分

相互リンクの件、本当にありがとうございました。

それでは、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

P.S.
もしよろしければ、リンク先をトップページ(http://koumuin-text.com/)にしていただけるとうれしいです(もちろん、今のままでも構いません)。

投稿: たけ | 2006年12月20日 (水) 16時09分

たけさん、了解しました。
リンク先をトップページへ変更しました。こちらこそ、よろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2006年12月20日 (水) 22時36分

素晴らしいブログです。
自分なんかよりもしっかりした公務員がきちんとしたブログを作って、情報発信してるとは嬉しいです。
今後もちょこちょこ読ませていただきます。
「愛国心」も良いけど、国民の三大義務をきちんと身に付けさせて欲しいと思ってるインキチ徴税吏員でした。

投稿: Howling | 2006年12月21日 (木) 22時25分

Howlingさん、はじめまして。たいへん励みとなるコメントありがとうございます。
ぜひ、これからもご訪問いただき、お気軽にご意見ご感想をお寄せください。よろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2006年12月21日 (木) 22時55分

TBをありがとうございました。引っ越し後でしたので気づくのが遅れまして申しわけありません。
私の方もTBしておきました。

投稿: とむ丸 | 2006年12月22日 (金) 15時05分

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