民間委託提案の法的な懸念点
防衛庁の省への昇格が確定的になりました。防衛庁長官が防衛大臣と呼ばれるようになり、内閣府の外局の長から主任の大臣となるため、法案などを直接提案できるようになります。また、この機会に自衛隊の海外活動が本来任務と位置付けられるようです。
ある意味で現状を追認する法改正であり、国民の関心は薄く、大きな反対運動も起こりませんでした。民主党も賛成票を投じていますが、なぜ、今まで防衛庁だったのか、そのこだわりが軽視されているようであり、個人的には残念な法改正だと思っています。
日本だけ平和であれば良い、非武装中立ならば戦争に巻き込まれないなどと考えている訳ではありません。それでも泥沼化したイラク戦争が示しているとおり、武力によって平和は築けない現実があります。だからこそ日本国憲法の平和主義にこだわり続け、防衛庁問題など一つ一つが「特殊な国」であることの証であり、そのことを誇りにすべきことだろうと考えていました。
いつものことながら記事タイトルと異なる内容で始まり、たいへん恐縮です。さて、私どもの市役所の行革プランの中で、職員数を削減する手法として様々な業務の民間委託化が検討されています。これまでも数多くの提案が示され、労使協議を重ね、当該職場の組合員と連携をはかりながら一定の結論を出してきました。
民間委託化は問題が多いなどと決め付けることは、民間で働く皆さんに対して失礼なことだと自覚しています。仮に民間委託された場合、当該職員に及ぼす労働条件面や仕組みの変化による影響や問題点などを検証し、その是非を判断してきています。
今回の記事では、法的な側面から民間委託の問題を考えてみます。最近、いくつかのメーカー内での偽装請負がマスコミに取り上げられ、批判の矢面に立ちました。契約上は業務請負(業務委託)とされながらも、実質的には労働者派遣だった問題でした。
業務請負もしくは業務委託の契約だった場合、顧客側の社員が委託会社の社員に対して直接作業の指示を行なうことはできません。あらかじめ定められた仕様書に基づき、委託会社の社員は一定範囲内の仕事を行なうことになります。顧客側が委託会社の社員へ何か指示を与えたい場合、必ず委託会社の窓口となっている責任者を通さなければなりません。
顧客側と委託会社の社員が同じ場所で仕事を行なう際、このような制約があると臨機応変な対応がはかれず、いろいろ不都合が生じるはずです。しかし、この制約は弱い立場に置かれがちな労働者を守る大事なルールであり、「間接雇用」の制限・禁止を職業安定法や労働基準法で明確化してきました。
ちなみに1985年に制定された労働者派遣法は、偽装請負による労働力提供の広がりを前提とし、違法状態を放置するのではなく新たなルールの下で公認していこうとするものでした。この法律により、派遣された労働者は顧客側の上司などの指揮命令下に入れるようになりました。合わせて、派遣先の労働者との均衡に配慮するよう求められ、派遣労働者の待遇改善が進みました。
当初、労働者派遣をできる業務の範囲は非常に限定的でしたが、現在、その範囲は格段に広がっています。それでも派遣期間などの制約もあり、労働者派遣法を適用させず、業務請負や業務委託とするケースが少なくないようです。
当然、役所は法令遵守の徹底化をはからなければなりません。最近、市民課における転出転入などの異動処理入力業務の民間委託化提案が示されました。即座に様々な問題点を指摘していますが、今回記事で取り上げた法的な面での懸念点も強く訴えているところです。
| 固定リンク
コメント
今日も、私どもの地元新聞に「雇用切り替え自営扱い(バイトの残業代不払い)」との見出しで、東京のクレジットカード会員請負会社が提訴された事件が載っていました。
違法な雇用形態がかなり浸透していますね。
以前、あるお店でそこのご主人と個人商店のご主人と思しき方とで、安く従業員を雇用する方法がないか話しているのが耳に入りました。「委託(請負)契約を結べばいい・・」みたいな話をしていたのですが、もう、何年も前のことです。
地方の個人商店までが同様の手法をとっていることに驚きでした。
根は深いですね!
投稿: | 2006年12月 4日 (月) 08時25分
なんでもそうですが、完璧な制度ってないですね^^
入札制度など、様々な改善を行っても、わずかに不備なところを逆手に取られ、かえって「談合」を温存することになるケース、真面目な企業の経営努力を評価できないケースも出てきます。
民間委託も「民間委託化は問題が多いなどと決め付けることは、民間で働く皆さんに対して失礼なこと」という側面は確かにあるのですが、これも相手によりけりで、受託能力のない企業が受託すれば、やっぱり「問題が多い」のも事実です。
ただ、大都市周辺の自治体と違って、基幹産業が「公共事業」なんてところは、雇用問題もダイレクトに絡んできますから、入札制度の見直しも何かにつけて難しいですねぇ~^^;
また、民間委託の問題も、給与の官民格差があまりに大きく、公務員がいくら法的な面での懸念を盾に頑張っても、地域の世論がそれを許さない雰囲気が醸成されつつあります。
・・・悩みは尽きません^^;
投稿: ニン麻呂 | 2006年12月 4日 (月) 09時57分
朝の時間に投稿いただいた方、ニン麻呂さん、コメントありがとうございます。
ご紹介があった話などを聞くたび、働く人の立場を守るための大事な労働法制が年々軽視され始めている気がします。とりわけ小泉改革による規制緩和などが加速し、劣悪な労働環境を強いられている人が一気に増えたように感じています。
また、ニン麻呂さんのお話は本当にいろいろ考えさせられます。ご指摘のとおり法的な懸念点だけで委託提案は押し返せない現状を認識しています。組合がこだわっていくポイントとして、法令遵守を当然としながら業務執行面で支障は生じないか、市民サービスは低下しないか、様々な視点から問題提起していくつもりです。
ぜひ、これからも貴重なコメントをお待ちしています。なお、朝の時間に投稿いただいた方へお願いですが、できましたら名前欄にハンドルネームだけは記入くださるようよろしくご協力ください。
投稿: OTSU | 2006年12月 4日 (月) 21時10分
ごめんなさい!私です。
直後に出かけなければならず、慌てて書き込んでしまいました。
投稿: shima | 2006年12月 5日 (火) 08時14分
立場が弱い労働者という言葉は噴飯ものです。その実態は組織ゴロ、やくざと何ら変わるところはありません。まだ世間の目から隔離されているからこのような状態が温存されているのでしょう。官製談合もまた、労働組合OBの再就職先が民間をピンハネする組織への利益誘導を強要する手段の一つとして脅迫まがいの言動とともに実在しています。法令遵守など、彼らの概念にはないでしょう。しかし、民営化であろうが、労働派遣法であろうが何であろうが、いったん、こういう卑しく品性下劣で権利のみを主張する社会のダニのような労組組織、労働貴族、労働ゴロを駆除することができれば、真に能力あるまじめな人間には正当な身分保障と報酬と尊厳を獲得できる機会が広がると思います。
いまより、まともになることだけは、確実です。
投稿: 現業公務員管理職 | 2006年12月 9日 (土) 23時42分
お邪魔します。ご無沙汰してます。
業務の真の効率化や質の向上のための民間委託ならばいいですが,先に職員削減ありきの委託では,問題が生ずる可能性が大きそうですね。
今年の夏の埼玉の市営プールでの事故などを見ても,民間委託しても役所の監督責任は強く問われるのは明らかなので,委託したからといって役所の事務量が十分に減らせるかどうかも怪しいですし。
役所がやるのと民間委託するのとを公平に比較して後者が優れるので委託するのと,委託しても何とかなるから委託するのとの違いを市民がしっかり意識する必要があると思うのですが,難しそうですね。
投稿: WontBeLong | 2006年12月10日 (日) 01時32分
現業公務員管理職さん、おはようございます。
直接相対している労働組合に対し、かなり鬱積したものをお持ちなようでお気の毒に思います。
ただ労働組合の役割を現業公務員管理職さんのような言い方で一括りに評価されるのは非常に心外です。僭越ながら労働組合全体をそのように見ているとしたら少し勉強不足で、視野が狭くなっているのではないでしょうか。
それだけ日常的に逼迫した立場なのかも知れませんが、労働組合へのマイナスイメージを抑えて、改めて貴職の組合とも付き合っていただけないものでしょうか。そのようなレベルの組合ではない、と言われたら終わりですが…。
WontBeLongさん、おはようございます。お久しぶりです。とは言いながら「ド素人の政治・経済Q&Q」を更新のたびに拝見させていただき、WontBeLongさんの問題意識に常々共感しているところです。
今回のコメントも本当にご指摘通りだと思っています。基本的に採算を度外視できる直営サービスの方がきめ細かくできるはずです。それでもコストで比較され、民間委託を受け入れる場合、住民サービスへの影響面なども含めて労使協議の場で充分検証できればと考えています。
ぜひ、これからもお気付きの点がありましたらご意見やご指摘をよろしくお願いします。
投稿: OTSU | 2006年12月10日 (日) 10時43分
現業公務員管理職さんのコメントに対する私のお答えで、言葉足らずの点が気になり、改めて補足させていただきます。
ご指摘のような官製談合などに組合が関与し、法的な面で明らかに不正を行なっているようでしたら重大な問題です。当然、見過ごすべきものでは絶対有り得ません。もし事実だとするならば、早急に改めるべきであり、内部告発なども検討すべきだろうと思っています。
投稿: OTSU | 2006年12月10日 (日) 11時46分