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2006年11月19日 (日)

予想外に難航した賃金交渉

8月に投稿した記事「プラマイゼロの人事院勧告」で記しましたが、今年の国家公務員の賃金水準は据え置きとなります。私の市の職員賃金は、東京都人事委員会勧告を基本に改定されるのが通例となっています。

都人勧も国人勧と同様、官民比較方式を50人以上の企業規模まで調査対象を広げました。その結果、従来の方式(100人以上を対象)であれば、月例給が0.97%の引き上げだった試算がある中、0.31%の引き下げ勧告となりました。

自治労都本部傘下の三多摩の自治体組合は、先週木曜夜から金曜朝にかけて一斉に各市当局と交渉を集中し、賃金確定闘争の決着をめざしました。人事院が政治的な圧力に屈したと見られ、組合側の反対を押し切って強行した官民比較方式見直しの経緯に正直不満が残っています。

とは言え、不本意ながらも決まったルールには従わざるを得ないものと思っていました。つまり0.31%の賃金削減は粛々と受け入れるべきものであり、自治労都本部の方針も同様な判断でした。「変更したルールが納得いかないから従わない」とは言い切れない現実的な対応が求められるため、ますます一自治体組合だけでは解決できない課題に対する運動の重要性を思い起こす事例だったと言えます。

昨年8月の記事は「地域給導入とマイナス人勧」でした。公務員の総人件費削減を企図したルール変更として、地域給が導入されています。基本給を一律5%ほど切り下げ、その財源で3~18%の地域手当で地場賃金水準との調整をはかる制度導入でした。

最高18%の支給地域の東京23区のみ、かろうじて現行賃金水準を維持し、その他の地域は軒並み減収となったはずです。さらに基本給の切り下げは、退職手当や年金支給額にも直接響く公務員にとって手痛い改悪でした。

昨年、東京都をはじめ、都内の自治体すべて地域給を見送ってきました。今回、改めて都人勧は「基本給を0.9%引き下げ、地域手当を1%引き上げる」地域給導入の考え方を示しました。なお、23区と三多摩地区に勤務する職員を分けない勧告内容でした。

0.31%のマイナス都人勧を基本的に受け入れる賃金確定闘争でしたので、スンナリ早期決着できる見通しでした。自治労都本部は「都人勧に基づき地域給を導入し、月額給料を下げる場合、それに見合った地域手当の引き上げ」を欠かせない統一指標としていました。同一生活経済圏である都の水準と乖離しないためにも至極当然で、決して高くないハードルだと考えていました。

それにもかかわらず交渉が本格化する中、各市当局のかたくなな姿勢が目立ってきました。東京都から各市へ「都職員は23区と三多摩間で人事異動があるので、地域手当を一律に18%まで段階的に引き上げる。しかし、三多摩各市は都に追随せず、国基準の地域手当の率を採用すべきである」との通知が示されたことが大きかったようでした。

即時に自治労都本部は東京都に対し、この通知に対する申し入れを行ないました。今まで都側が三多摩各市へ何かと都準拠と言ってきたこととの整合性などを追及した結果、「都より手厚い手当額の見直しなどが前提であれば、地域給の取扱いも各市の判断に委ねる」との考え方を引き出しました。

この申し入れ行動は効果的であり、一市職労だけでは都側と会うこともできないため、貴重な都本部機能を発揮していただいたと思っています。この行動が功を奏し、山場とした木曜夜の段階で、大筋で決着する組合がいくつか出てきました。

私どもの組合も早い時間の解決をめざしましたが、最後の最後まで予想外に難航し、金曜朝6時50分から開いた団体交渉が妥結確認の場となりました。従来通り都人勧を基本としますが、地域給の導入は来年の賃金改定の課題に先送りすることができました。

官民比較の結果である0.31%の賃金削減は受け入れましたが、0.9%削減のみの不当な地域給導入は阻止した決着でした。私たち公務員をとりまく情勢は非常に厳しいものがあり、そのことは真摯に意識しなければなりません。しかし、組合員の期待感や生活実感を大切にした組合の責任や役割もたいへん重要です。

その意味で、今回の賃金闘争はメリハリを持てた決着だったと考えています。一方で、地域給の内容や経緯などが充分理解できていない場合、組合は何を争点とし、こだわっていたのか、組合員の皆さんにとって分かりづらかったかも知れません。速報的な組合ニュースでは充分伝え切れていなかった反省があります。

結局、一睡もしない徹夜体制での交渉が続いたことも、組合ニュースの紙面からは今一つ実感しにくかったはずです。交渉の結果、「1万円の賃上げを獲得!」など派手な見出しはなく、どれだけマイナスを阻止したか、それも説明を加えないと分かりづらい成果…。

改めて組合員の皆さんに対しては組合の交渉機能がなければ、単純計算で月額給料の0.9%分手取りが減っていたと宣伝させていただきます。一方で、公務員賃金を高いと思っている方は組合がなければ、もっと下げることができたものと憤られているかも知れません。

そのような思いの差を埋めるため、このブログを通して数多くの議論を重ねてきました。公務員やその組合に対する率直なご意見やご批判を直接聞けることは、たいへん貴重な機会だと受けとめています。その上で今後も、謙虚に耳を傾けながらも主張すべき点は主張する立場で記事投稿を続けていくつもりです。ちなみに次回は「人事院調査、公務員の年金は少ない」(仮題)を予定しています。

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コメント

OTUSさん、お疲れさまです。
賃金交渉の苦労は、どこも同じですね。
国は、昨年までは国公準拠といっていたのに今年は各都道府県人事委員会を準拠しろと言い出しました。
何がなにやら、いったい私たちの物差しはどこにあるのやら・・・????
また、私どもの自治体(地域)は産業基盤も弱く、県内でも財政状況の思わしくない状況でして、住民サービスを低下させないためにも労使ともに行財政改革に取り組んでいるような状況です。
そのような中での賃金交渉ですが、それなりに組合員の賃金水準は確保することができました。
私たちの単組では、先細りする交付税制度の中、人件費総枠の縮減は止めることはできないとの判断から、一人一人の配分を維持するため、全体のパイの数を削減することを選択しました。
要は「おひつのご飯の量が減っていくのだから、一人一人の茶碗につぐ量を減らすのか、一人一人の茶碗の量は変えずに茶碗の数を減らすのか?」
人の数を減らせば、当然に一人一人の業務量は増える・・・しかしそれは、業務のやり方や組織のあり方を工夫すればなんとかなるのではにかという希望的観測も含め、非常に厳しい選択ではありましたが、今の賃金水準を維持することにつながっています。
あとは、少ない要員で最大限の住民サービスを如何に提供していくか!
また、住民サービスの向上はもちろんのこと組合員のモチベーションをいかに維持し、高揚させていくか!
課題はまだまだ大きなままですが、誠実な仕事は必ずや地域住民の評価を得られると真摯に取り組みを進めています。
先輩の言葉で今でも心に刻み、いつも組合員に訴える言葉です。
「仕事は誠実に!要求は大胆に!行動は団結して!」
公務員に対する風当たりが強い今日ですが、きちんと仕事をしていれば、地域住民は必ず認めてくれるはずです。
時代は地方分権・地方自治。自治体間も自治体労組間も競争の時代です。
地域住民の高い評価を得、その対価としての賃金水準を確保できるようお互いにがんばりましょう!

投稿: shima | 2006年11月19日 (日) 20時28分

shimaさん、コメントありがとうございました。
私の市より財政状況が厳しいように見受けられる中、shimaさんを先頭にした組合の存在感の発揮ぶりが伝わってきます。
また、このような具体的な取り組みのコメントをいただけることも、たいへん貴重なことだと感謝しています。
ぜひ、これからもよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2006年11月20日 (月) 07時33分

 shimaさんのおっしゃるとおりです。

 きちんと仕事をしていれば、地域住民は必ず認めてくれるはずです。

 私のところもshimaさんのところと同様に、産業基盤が弱く、その上に中央官僚上がりの首長や幹部職員に自治体経営能力がなく、非常に厳しい財政状況となっています。
 それに加えて、少数派の議員がいくら改善提案を示しても、大所帯の「保守系会派」が全く動きませんから、議会全体として執行部にプレッシャーをかけるだけの監視・抑制機能は働いていません。

 その結果、今夏某経済誌が特集した「倒産危険度ランキング」では全国732市の内で34位という位置づけになっています。

 こうした状況下で、頼りになるのは個々の職員の能力しかない、というのが正直なところです。
 ただ、そういう職員があまりに少なく、先が非常に不安なのですが、彼らを中心に若い人材が育っていくことに期待するしかありません。

 どこも同じようなものでしょうが、一銭も払いたくない職員(むしろ銭を返せ!という感じの職員もいます^^)もいれば、倍額払っても惜しくないような職員もいます。

 役所の外側にいようと、内側にいようと、考えることは誰も同じなんでしょうが、「給与に見合った仕事をしてほしい」ですね^^

 なんのかんの言っても、結局は、公務員に頼らざるをえない仕組みなっているのですから、皆さんに期待せざるをえないのです!頑張ってください!

(議員のなかにも、報酬を支払いたくないのがたくさんいますから、大きなことは言えませんが・・・)

 

投稿: ニン麻呂 | 2006年11月20日 (月) 10時27分

ニン麻呂さん、コメントありがとうございます。
今日の夕刊で、夕張市の具体的な再建策の記事が載っていました。図書館や老人ホームなどの廃止、市民税や保育料などの引き上げ、年16万円の負担増となる家庭が出るなど、市民生活に多大な影響を及ぼす計画が住民に示されました。また、職員数を実質2年で半減、賃金3割カット、退職金は段階的に4分の1に減らされるなど、財政再建団体の辛さや厳しさが身にしみる記事でした。
夕張市を対岸の火事としない切実感を持って、改めて職員の労働条件と市民サービスの維持向上に向けたパランス感覚を組合も磨いていくべきだろうと思っています。

投稿: OTSU | 2006年11月20日 (月) 22時44分

 場違いとは思いますが現職公務員で組合の方にお尋ねしたいことがあり投稿させていただきます。
 今、各市役所でも民間経験者の採用を行っていると思いますが民間経験者の人が入庁して働き始めた後は、大卒職歴なしで入庁した人と比較して昇任試験の受験必要年数などが短縮されるなどの制度はあるのでしょうか?
 調べたところ東京都などは民間経験者の人は大卒職歴なしの人よりも短縮して昇任試験を受験できるらしいのですが市役所ではこのような例を見たことがありません。
 これは民間経験者だろうが職歴なしで入庁しただろうが公務員としてのスタートは同じという考え方から来ているのでしょうか?
 私も今後チャンスがあれば民間経験者の試験を受験しようと思っているのですがこの点が気になり、お答え頂ければと思いました。宜しくお願いいたします。

投稿: | 2006年11月20日 (月) 22時58分

2006/11/20 22:58:38 左記時間に投稿くださった方、はじめまして。コメントありがとうございました。
このブログの管理人ですが、私どもの役所も民間経験者採用を5年以上前から始めています。主任職の短期選考が最初の試験となりますが、特に社会人経験者の短縮措置はありません。ただし受験要件が全体的に緩やかなため、遅い入庁が大きなハンデとならない制度設計となっています。管理職候補者選考の受験資格も係長職経験3年以上としているため、本人の意欲しだいで先輩たちを追い越せる人事制度だと言えます。
最後に一つお願いがあります。コメント欄での意見交換をスムースに行なうため、ぜひ、次回以降もコメントをいただける場合は名前欄にハンドルネームの記入をよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2006年11月20日 (月) 23時26分

おはようございます。

私どものように職員が500名程度の小さな自治体では、社会人採用は行っていません。
採用自体もいわゆる初級職(高卒程度)の試験区分です。
受験資格として、年齢を30歳までとしております。
現実には、近年、一般職において高卒者の採用はほとんどなく、ほぼ大卒、しかも、新卒者より民間での就業経験を持つものの方が多いくらいです。
特別な優遇措置はありませんが、初任給の格付けにおいて、職務経歴は加算対象とされます。
現場でも、職務経験のある方が重宝されるのも事実ですし、年の功か?キャラが立った人が多いな!

投稿: shima | 2006年11月21日 (火) 08時24分

ハードな交渉お疲れ様です。
結構有名なのでご存知かもしれませんが、一読されると面白いです、これ。

勿凝学問53

国家公務員と新聞記者の仕事、どっちの方が高い報酬で報われるべきなんだろうか?
――人事院「民間企業の退職給付等の調査結果」はおもしろい――
2006 年11 月19

http://news.fbc.keio.ac.jp/~kenjoh/work/korunakare53.pdf

投稿: とおる | 2006年11月25日 (土) 00時35分

とおるさん、コメントありがとうございました。
ご紹介のあった「勿凝学問53」、さっそく目を通させていただきました。いろいろ参考になりそうな記事であり、「お気に入り」に登録し、じっくり読んでみようと思っています。
また、次回記事は人事院の年金調査の話であり、今夜投稿できる予定です。ぜひ、これからも何かお気付きの点がありましたらよろしくお願いします。

投稿: OTSU | 2006年11月25日 (土) 01時30分

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