人事院調査、公務員の年金は少ない
さわやかな秋の空気を感じた土曜日、連合地区協議会のクリーンキャンペーンに参加してきました。この行動の趣旨や位置付けなどは昨年の記事でお伝えしました。恒例行事として一定の評価を得ていますが、来年以降、企画そのものを一新することも直近の幹事会の中で検討対象となっていました。
さて、前回記事「予想外に難航した賃金交渉」の最後で、今回の内容を予告させていただきました。もともと前回記事は賃金交渉の報告と合わせ、人事院の年金調査の結果を取り上げるつもりでした。さすがに賃金確定闘争の課題は重いものがあり、書き込む内容も予想外(?)に多くなり、年金調査の話は先送りすることにしました。
徹夜交渉明けの朝、組合事務所に届けられた新聞記事中の一つの見出しが目に入りました。「人事院、公務員年金少ない」との見出しでした。11月16日に人事院は、民間企業のサラリーマンと国家公務員が生涯に受け取る上乗せ年金(退職金含む)額を比較した実態調査の報告書を塩崎官房長官へ提出しました。
厚生年金と共済年金の一元化後は公務員がサラリーマンよりも241万6千円(8.82%)少ない調査結果を示し、「民間との格差を埋める新年金制度が必要」と結論付けていました。さらに一元化前の現行制度でも公務員は民間より20万1千円少ない調査結果でした。
公務員の労働基本権制約の代償機能として、人事院は本来、中立の立場であることが求められています。その人事院は、昨年が地域給の導入、今年が官民比較方式の見直しと矢継ぎ早に「公務員の総人件費削減ありき」の制度変更を強行してきました。人事院側は主体的な判断によるものだと釈明しているようですが、政治的な圧力に「配慮」したことも確かだろうと思います。
したがって、今回の新聞記事で特に注目した点は、久しぶりに人事院の中立性を感じ取れたことでした。客観的な調査結果をありのままに報告する、ある意味で当たり前のことですが、このところの人事院の及び腰からすると今回に関しては毅然とした公表だったと見直したところでした。
その記事は調査結果の内容と合わせ、「一元化が目指す公務員の優遇の解消の流れに逆行する」「国家公務員に関する人事院の結果であり、人数の多い地方公務員に一律適用するのは問題がある」など批判的な声も掲載していました。あくまでも公務員の待遇は恵まれていて、財政再建に向けた事情から「総人件費削減ありき」の流れを壊したくない政府・与党におもねる大手新聞社の姿勢も垣間見た気がします。
すると翌朝の新聞記事には「政府・与党 調査に疑問」の見出しが踊っていました。年金の公務員優遇の存在を事実上否定した内容だったため、政府・与党から批判や疑問の声が噴出したようです。自民党の中川幹事長は「対象企業全体の約1割しか調べていない」など、人事院の調査結果を厳しく批判し、政府に対して追加調査やデータを要求する考えを示しました。
政府側の塩崎官房長官は「政府としてよく結果を分析、検討する必要がある」と述べ、柳沢厚生労働大臣は「一つの資料だけで何か(改革を)するということにならない」と調査結果を軽視する発言に終始しています。
政府は公務員の年金「優遇」の是正を主目的とした厚生・共済年金一元化関連法案を来年の通常国会へ提出する方針です。法案作成にあたり、政府は内閣から独立した人事院に調査を依頼することで「公平・公正な官民比較」を期待していたと新聞記事は結んでいました。
要するに意図していた結果が出なかったため、人事院は公平・公正な中立機関ではないと決め付けているようなものであり、政府・与党の理不尽な姿が浮き彫りになったと思っています。年金制度のあり方については多面的な議論が欠かせないはずですが、このような政治的な構図の中で厚生・共済年金一元化が進んでいくことに憤りを覚えます。
同じ給与ならば、同じ保険料、同じ年金給付額となるよう2010年を目途に共済年金が廃止され、公務員も厚生年金に加入させる政府・与党の方針が示されています。さらに公務員の保険料を民間サラリーマンよりも大きな幅で段階的に引き上げ、2018年には官民ともに18.3%に統一する計画です。
その発想の前提は「共済年金が存続する限り、公務員優遇は解消されない」とする決め付けでした。今回の人事院の調査結果は、その前提が大きな誤りだと認めざるを得ない重要なメッセージだったはずです。それにも関わらず、政府・与党は人事院に再調査を求めるどころか、調査結果そのものを無視したようです。
官民の差を埋める公務員向けの上乗せ年金制度について、厚生・共済年金一元化関連法案に盛り込まない方向で調整に入ったことが明らかになりました。既存の制度やルールを捻じ曲げようとも、「公務員は恵まれている、だから切り下げる」と言い続けたい硬直した姿勢だと批判せざるを得ません。
ちなみに調査対象は50人以上の企業規模だったようですが、昨年までの基本ルールは100人以上の企業規模が調査対象でした。その基準で考えれば、年金額の官民格差はもっと開いていたことになります。
最後に前回記事へのコメントとして、とおるさんから“勿凝学問53 国家公務員と新聞記者の仕事、どっちの方が高い報酬で報われるべきなんだろうか? ―人事院「民間企業の退職給付等の調査結果」はおもしろい― ”をご紹介いただきました。ぜひ、参考までにご覧になってください。
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