プラマイゼロの人事院勧告
最近、このブログの更新ペースが週刊化してきました。実は先月上旬に母親が入院し、顔を出せる日は必ず病院へ行くようにしているため、パソコンへ向かえる時間が減っていました。緊急な入院だったため、その節は予定を急に変更させていただき、多くの方へご心配やご迷惑をおかけしました。幸い母親の容態は深刻なものではなく、現在、退院に向けてリハビリに励んでいるところです。
さて、頻繁に投稿する余裕があれば、広島と長崎への原爆投下など平和への思いを記事にするのが旬な時期だと言えます。一方で、労働組合の活動として平和問題などは後回しにすべきとのご意見もあります。そのことに対する私の考え方はバックナンバー「政治課題の難しさ」などで表してきました。
とは言え、週一ペースの間隔となっている現状の中、今回、このブログで取り上げるべきテーマとしては8月8日に示された人事院勧告を外せませんでした。労働基本権が制約されている公務員の賃金水準などについて、人事院が民間企業との格差を調査し、例年8月上旬に内閣と国会に対して勧告を行なっています。
人事院勧告は国家公務員に関するものですが、秋に示される都道府県や政令市人事委員会の勧告内容を左右します。さらに人事委員会を持たない圧倒多数の自治体職員の賃金へも大きな影響を及ぼします。
今年の人事院勧告は、月例給と特別給(年間一時金4.45月分)ともに民間賃金水準との格差がないとされ、プラスマイナスゼロ、据え置きの内容でした。今まで人事院は100人以上規模の民間企業を比較対象としていましたが、今回から50人以上の規模まで対象を広げました。
比較対象が従来通りだった場合、試算では月例給1.12%、一時金で0.05月分の引き上げ勧告となっていたようです。この間、公務員連絡会は比較対象企業規模を一方的に見直すことについて反対し、署名活動や人事院への申し入れを行なってきました。
「昔陸軍、今総評」との言葉があった頃、国民春闘が盛り上がり、労働組合の存在感が非常に高まっていた時代がありました。高度経済成長期と重なり、闘えば大きな成果が上げられた組合にとって順風満帆な時代だったと思われます。
そのような時期、1964年、太田薫総評議長と池田勇人首相との政労トップ会談が開かれました。その会談で、公務員賃金決定の社会的枠組みとして、同種・同等の原則に基づき比較対象企業規模を100人以上とすることについて確認しました。このように歴史的・制度的に確立してきた比較方式を組合側に充分な説明もなく、人事院は一方的な見直しを強行したことになります。
背景として「骨太の方針2006」の中で「経済成長に伴う民間賃金の上昇により増加が見込まれる公務員人件費について、人事院において比較対象企業規模を見直すことを要請するなど、さらなる改革を断行し、公務員人件費を削減する」と指摘されていました。つまり労働基本権制約の代償機関であり、中立機関であるべき人事院が政治的な圧力に屈した不当な構図だと批判せざるを得ません。
それでも公務員人件費に対する政治的な削減圧力が増している中、直前までマイナス勧告も予想されていました。それが何とかプラマイゼロ勧告にとどめられたのは、公務員組合側の運動の成果だったとも言われています。ある意味、人事院も政府と組合側の板ばさみで悩んでいたのかも知れません…?
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コメント
いろいろおっしゃっているようですが、自分達の給料を下げたくなければ岐阜の裏金問題のような問題をなくし、無駄使いを徹底的に排除するべきです。大体この問題を「プール金」などとごまかしている姿勢にも我慢がなりません。国民から見れば国家公務員だろうが県庁職員だろうが市職員だろうが皆同じ「公務員」です。そして公務員の不祥事が公務員の待遇を下げる社会的圧力になるのです。政治に屈したのではありません。あなたがた「公務員」の自業自得であり。国民大多数の要請です。私は民間の賃金平均の70%程度の給料でも御の字だと思いますが?あなた方の給料は国民の税金です。国民の意思は政治家の圧力とは違います。大いなる勘違いです。国民はこれからも公務員の人件費削減には大賛成するでしょう。
投稿: その前に | 2006年8月13日 (日) 23時48分
「その前に」さん、はじめまして。率直な批判コメント、真摯に受けとめさせていただきます。
前回記事で記したとおり岐阜県の問題は同じ公務員として非常に残念な事件であり、「他山の石」としないよう戒める機会としていかなければなりません。
人事院勧告の問題は示された結果への不満ではなく、定められたルールを一方的に破る不誠実さを取り上げさせていただきました。約束は守る、約束を変える時は両者の合意が必要、その基本的な信頼関係をないがしろにしたのが今回の人事院だったと考えています。
国民の皆さんの公務員を見る目が厳しくなっていることはご指摘のとおりであり、重々承知しています。その問題意識を強く持ったため、このブログを始めた経緯があります。この一年間、たいへん厳しいご意見を数多くの方からお寄せいただいてきました。そして、このブログを通して相互の意見交換を重ねることにより、少しずつお互いの立場への理解が進んだ時も少なくありませんでした。
このような趣旨でブログを開設していますので、今後も率直なご意見ご批判を正面から受けとめさせていただくつもりです。「その前に」さん、これからも気になった点など、ぜひ、コメントをよろしくお願いします。
投稿: OTSU | 2006年8月14日 (月) 07時16分
あなたが言われるように、「労働組合の存在感が非常に高まっていた時代」に、労働組合の果たした役割は確かに大きかったと思います。特に、組織率の低い地方にとっては、自治労などの「賃上げ闘争」によって、末端の未組織労働者の賃金アップに大きな影響があったことは評価します。
確かに、30年くらい前までの地方公務員の給与は、地方でもそう高いものではありませんでした。しかし、規制緩和・地方分権が進む中で、地方の自助努力だけではどうにもならない分野で地域間格差が生じてきています。(地域間競争のスタートラインにすら立てない社会基盤整備の遅れた地域もあることを忘れないでほしいのです。)
その結果、競争に負けた、あるいは競争に参加すらできない地方で、公務員の突出した高額の人件費が削減の対象になるのは当然のことでしょう。
公務員以外の地方に暮らす多くのものにとっては、現行の人事院、あるいは人事委員会のあり方そのもにも問題があると思います。法律の規定そのものが不備なのですから、不備な法律に現実を合わせることに問題があるのです。
それと、公務員の仕事の質と量の評価について、職員組合はほとんど触れませんが、一人当たりの生産量を民間企業と比べる必要があるのではないかと思っています。もちろん、仕事の目的自体が違いますから、すべてを単純比較することは不可能ですが、類似の事務処理能力や技術的知識・能力などの比較は可能です。おそらく、双方のアベレージには大きな違いが生じると思います。(一切天下りの役人を排除した第三者機関などを創設して、これは是非試みるべきでしょうね。)
投稿: ニン麻呂 | 2006年8月14日 (月) 14時19分
ニン麻呂さん、貴重な提起となるコメントありがとうございました。
地方での公務員賃金の水準問題について、昨年の人事院勧告で地域給という新たな制度が導入されました。それでも「高い」との声が強い実情なのかも知れませんが、とにかく都市部地方問わず住民から信頼される公務の遂行ぶりが求められているものと思っています。
私も官と民の優劣などの単純比較は難しいと考えています。類似の事務処理能力や技術的知識などの比較は確かに可能ですが、ニン麻呂さんは公務員が極端に劣る予想なのでしょうか。このような能力テストは民間でも公務員でも個人差は大きいはずですが、アベレージに大きな違いが生じるとは思えません。潜在能力が充分発揮できる組織かどうかの比較でしたら差がつくかも知れませんが…。
最後に過去の記事を引用し、労働組合の立場性を改めて訴えさせていただきます。
「自治体や会社がつぶれてしまったら元も子もないだろう」と言われる時がありますが、その論調に組合が乗ってしまうと働く側に安直なしわ寄せが行きがちです。
一方で、組合が自分の市の財政状況をまったく把握しないで労使交渉に臨むのも論外だと思っています。万が一、夕張市のように財政再建団体に追い込まれた場合、労使で自主的に交渉していく幅は吹き飛んでしまいます。何よりも市民の方々へ大きなしわ寄せが行く最悪な事態は全力で避けなくてはなりません。
とは言え、あくまでも立場性の違いから労使交渉と財政論議は、今後も切り分けていく原則に変わりはありません。その上で非常に悩ましい問題ですが、今こそメリハリやバランスをしっかり意識し、組合としての責任や役割を掘り下げていく局面だと考えています。
投稿: OTSU | 2006年8月14日 (月) 21時43分
少し言葉が足りませんでした。
ご指摘のように、民間でも公務員でも資質・能力の個人差は大きく、そのアベレージに大きな違いが生じることはないかと思います。
ただ、民間企業の場合、一般的にはその資質・能力に応じて報酬が支払われるのが普通ですが、公務員の場合はそのことは考慮されず、「給与利権」ともいえる既得権が発生していることに問題があるのです。
自治労は、常に安直な民間委託批判を行いますが、まったく同質の学校給食サービスを提供するのに、一食当たりの経費は、直営の場合だと民間委託の約2~3倍かかります。実働時間(年間約170日で1日の実働時間は最大6時間)の雇用経費が弁護士並みの公務員もいます。
少し論点がずれ始めているのを承知で続けますが、(ごめんなさい)首長が選挙公約などで、直営の給食施設や保育所などで、民営化あるいは民間への管理委託を強行した場合、その人件費は直営時の3分の1から4分の1ということも珍しくありません。
しかし、これに対して最近の自治労は、これによって職転を余儀なくされる組合員の処遇については、彼らに有利な条件を引き出すべく交渉を行いますが、新たに生じる低賃金の労働者に関してはまったく無関心なんですね。
ひと頃の自治労というのは、地域に働く人たちとともに福祉の向上をはかろうとする意思を感じることができましたが、最近はそういうものを感じません。(このあたりが旧社会党、社民党衰退の大きな原因でしょうね。)
まぁ、島根県の場合、自治労県本部から、使途不明金が4~5億円も生じ、しかもその全容解明が未だにされていないのですから、あなたのところとはまた違うのでしょうが、全般的に公務員としてのモラル(この場合職業意識)の低さを感じます。
最近は、有能な若い職員の組合離れや、退職が目立つようになりました。
皮肉なことに、最近公務員を目指す若い人に優秀なのが増えていますから、浅薄な理論を振り回す組合に闇雲に同調することができないのでしょう。これがここの現実です。
なんだか、変な方向に行ってしまい、申し訳ありません。今度から、コメントを入れる場合は、別途原稿を書いて、もう少しとりとめのあるものにしたいと思います。
投稿: ニン麻呂 | 2006年8月14日 (月) 23時50分
ニン麻呂さん、おはようございます。コメントでの意見交換は普段の会話と同じだと思っています。したがって、原稿などの手間をかけず、ぜひ、気になった点について、これからもお気軽にご投稿ください。
今の自治労運動のとらえ方など重要な投げかけをいただきました。毎朝、メールやコメントのチェックをしていますが、しっかりお答えしようと書き始めると遅刻しそうな重い内容です。そのため、私なりの考え方は改めて後日、記事本文で取り上げさせていただきます。申し訳ありません。
投稿: OTSU | 2006年8月15日 (火) 07時18分