« 「既得権」にもメリハリが必要 | トップページ | 耐震偽装事件の巨悪は… »

2006年1月16日 (月)

映画にもなった「県庁の星」

このブログの題材になればと思い、少し前に「県庁の星」という本を読みました。その「県庁の星」が映画化され、今年2月25日に公開される予定です。おもしろく読めた本でしたが、「踊る大捜査線」や「ホワイトアウト」のような派手さはない舞台設定でしたので、織田裕二・主演で映画化されるとは意外でした。

いつものことですが、このブログは映画の紹介や書評が目的ではありませんので、一公務員の立場から印象に残った点を中心に書き込みます。この本から「公務員はこうあるべきだ」とストレートな主張はありませんでしたが、民間と対比した公務員の姿をパロディ化した作品だと感じました。

県の職員人事交流研修として、民間企業へ一年間派遣される6名の中の一人が主人公でした。主人公は2万9千人の県庁職員の中から選ばれた31歳のエリート青年の設定で、プライドが高い「典型的なお役人」として描かれていました。

物語の冒頭は県庁のオフィスで、派遣前に後輩へ仕事を引き継ぐ主人公。「前向きに検討しますは、何もしないと同じだから」「書類がまともに書けない業者の認可など待たせておけばいい」「稟議書の順番一つ間違うと印をもらえないから」と、小説だからこそ誇張されたパロディ…?

自分で「典型的なお役人」と書きましたが、上記のような発言を堂々とする公務員は今や化石に近いものと信じていますが…。作者の桂望実さんや多くの市民の皆さんから見た公務員は、このようなイメージなのだろうと冒頭から思い返した一場面でした。

主人公が派遣されたのは従業員数72名(そのうち多数はパート)のスーパーマーケットです。派遣当初、組織図や業務マニュアルがないことに驚いたり、スーパーの従業員を見下した態度をとったり、倉庫仕事に対して「もっと僕を有効に使ったほうがいい」など不平不満をもらし、浮きまくる主人公の姿が滑稽なものとして描かれていました。

空回りしていた主人公も、そのスーパーで懸命に悪戦苦闘していきながら、最後は他の従業員の人たちの中へ溶け込めたエンディングを迎えます。実際に売り上げを伸ばすためには、机上の理論だけでは通じないことを身をもって学び、主人公は一年間の研修を終えて県庁に戻っていきました。そして、最後に主人公は「魂を洗われて、新鮮な空気を入れてもらった」と振り返っています。

大雑把なストーリーは以上のとおりですが、「県庁の星」は完全なフィクションなのか、現実にそったセミドキュメントなのか、見方が分かれるかも知れません。現実の公務員の立場からすると物語を盛り上げるため、極端に誇張されていると思いたいところですが…。

その上で、このブログで続いている「公務員」論議の参考材料として、いくつか考えてみました。この物語の舞台であるスーパーマーケット、つまり民間企業は利益を出すことが最大の目的であり、かつ従業員共通の目的です。そこでは確かに結果がすべてと言えます。

一方で、公務員の仕事は言うまでもなく、利益が目的ではありません。一つ一つの仕事すべてが法律や条例規則に縛られています。そのため、答えや結果を出すためには「過程」が重視されます。その「過程」において、対象者によって対応を変えてはいけない、「公平」「公正」さが求められることになります。

その「民」と「官」の違いが過剰に際立ってしまうと、「形」ばかりこだわって、「実」のある仕事をしていない公務員像が出来上がるのかも知れません。さらに公務員は頻繁に人事異動があるため、担当者によって運用が変わらないようマニュアルが重視され、前例踏襲主義が強く押し出される場合があります。

以上の点について、公務員の仕事すべてがそうであるとか、「官」と「民」の役割や性格の違いもあるため、必ずしも否定的に見ることは乱暴だと考えています。が、公務員側の仕事の進め方について、変えるべき点が明らかにあるのならば、大胆に変える発想の転換も必要だと思っています。

最後に余談ですが、「県庁の星」から昨年末の「紅白歌合戦」に話を飛ばしてみます。ご存知のとおりNHKは視聴率回復のため、司会にみのもんたさんを起用しました。結果、視聴率は微増。しかし、みのさん自身、不完全燃焼ともらし、自分を充分活かし切ってもらえなかったと評していました。

年明けの「紅白歌合戦」舞台裏ドキュメントの番組が、精密なタイムスケジュールと完全な台本が出来上がっていたことを伝えていました。そのため、司会のみのさんもアドリブが入れづらく、お笑いタレントなどの話は一切台本通りで、乾いた笑いしか取れなかった訳がよく分かりました。

要するに「官」とみなせるNHKは、結果を求めながら「形」に強くこだわり、番組の成功イコール「緻密なマニュアル通りの進行である」と考えていたようでした。ちなみに舞台裏ドキュメントは、それらの点について一切問題意識を持たない単なる「舞台裏」の紹介だったことも付け加えておきます。

あまり長い記事は控えようと思いながら、「県庁の星」と「紅白歌合戦」を強引にコラボした長文を書かせていただきました。本当に雑談的な話でしたが、「官」と「民」を考えていくための一つの素材となれば幸です。

|

« 「既得権」にもメリハリが必要 | トップページ | 耐震偽装事件の巨悪は… »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 映画にもなった「県庁の星」:

» 額に汗。 [お金持ちになりたいひとへ]
本日の衝撃的なニュースはライブドアの家宅捜索でしょう。実際、ライブドアオートなど、いわゆる実業に手を出し始めたところで、ライブドアの中にある事情が見え隠れしていたことも事実です。 私の友人が10年ほど前に起こした、某インターネット系の会社も昨年ライブドアに買収されましたが、その手法は必ずしも納得のいくものではなかったそうです。 堀江社長には私も何度かお会いしたことはありますが、「�... [続きを読む]

受信: 2006年1月17日 (火) 00時22分

» 県庁の星 [たにぐちまさひろWEBLOG]
“昨日初めて冷めた弁当を食べてみました。”(野村) “見てんじゃねえよ。何つったんてんだよ!早く手、洗・つ・て!”(浜岡) 織田裕二&柴咲コウ主演の“県庁の星”を観てきました。 民間派遣研修として、地元のスーパー“満天堂”へ派遣された野村は、鼻持ちならないエリート臭から、派遣先で完全に浮いている。教育係のパート店員二宮にも見放され、お客様からの苦情も絶えないことから、売り場から見えない場所へと、弁当を作る厨房へ配属。しかし、ここでも、手洗いの貼り紙の「手を洗て」に“っ”が抜けてるなど細... [続きを読む]

受信: 2006年3月 4日 (土) 15時32分

» 「県庁の星」見てきました。 [よしなしごと]
 今回は県庁の星。ホワイトアウトでは、テロリスト相手に奮闘し、踊る大捜査線では、警察官僚や犯人達と戦う、あの織田裕二が三流スーパーのパートの柴咲コウに「お前の将来なんか知るかっ!」と怒られて、たじたじになってしまう、あの映画です。今までの作品と違ってちょっと弱っちい(?)織田裕二も楽しみです。... [続きを読む]

受信: 2006年3月 5日 (日) 18時13分

» 「県庁の星」 [Authentic=ホンモノ?]
封切られたばかりの話題の映画を見てきました。なお、ボクは原作本は読んでいません。 織田裕二は色々な役が出来るいい役者になったなあ、というのが一番の感想ですね。 県庁職員が「民間交流」と称する研修に出ることになり、織田裕二が演じる主人公はスーパーに行くことになります。そこは行政指導を受けたり売り上げが減ったりしている閉店間際という感じのスーパーなのだが(以下略) この展開、伊丹十三監督の「スーパーの女」を思い出してしまいました。 オフィシャルページのアドレスがkaikakuです... [続きを読む]

受信: 2006年3月 6日 (月) 11時11分

« 「既得権」にもメリハリが必要 | トップページ | 耐震偽装事件の巨悪は… »